130話 対戦相手
またもや長めです。
3千文字くらいのつもりがいつも4千文字に……
まずはゴブリンの戦利品である将校用スタッフカーの運転をケイに任せて、俺は後部座席で優雅にハマンの街並みでも見物かな。
なんせ俺は小隊規模のクランの隊長なんだからな。
運転手付きの将校用の車に乗れるなんて俺すげえな――
「ケンちゃん、もうちょっとスピード上げられないの?」
――なんて思っていた過去の俺を罵倒したい。
「これでも精一杯なんだよ。整備だしてないから調子悪いんだよ」
はい、運転手はわたくしめでございます。
屁理屈でケイ様に勝てるわけなかったでございます。
泣けてくる。
さてと、まずは砂漠竜の心臓と勲章の鑑定、そしてゴブリンの認識票で賞金首かどうか調べないと。
ケイがいるから、ハンター事務所で買い取って貰うよりも外の店でさばいた方が高く売れるんだが、認識表だけハンター事務所とか面倒臭いんでまとめて済ます。
もちろんハンター事務所でね。
結果、心臓は2万シルバ!
賞金首はなしだけど認識票は千シルバで引き取ってくれた。
勲章は3千シルバだったが、これは売らずに記念に自分の胸に付けておいた。
5千シルバだったら売ってたかもしれないかな。
そういえばゴブリンの角の回収とか面倒臭くてやらなくなったな。
あれ、俺達ちょっと裕福なハンターになってきたかな。
次は闘技場事務所へ行って手続きをしてから、俺達の出る試合のレギュレーションと対戦相手の情報を貰わないと。
それが終わってからお楽しみの戦車の受け取りだ。
闘技場の事務所へ行くと思ってたよりもこじんまりとしたビル2階の一室。
1階の隅の部屋はチケットの販売窓口をやっているらしい。
俺達に対応してくれたのは20代前半くらいで、赤髪ショートカットの人間の女性だ。
見た目はちょっとヤンキーっぽくてうるさそうな感じなのだが、実際に話すと普通であった。
そこでマッチメーカーと出場する闘士の登録だ。
ここでゴブリンの名前が引っかかった。
『タンク一等兵』が何人もいたからだ。
慌てて『1号車砲手G』というように車両番号と役職とゴブリンの頭文字のGを付け加えて、それを名前として登録した。
やっぱり“面倒臭いから”というのは良くなかったと反省。
そして俺達の初戦の対戦相手だ。
シマダ一家という組織に所属する戦士で、総勢20人ほどが在籍登録している中堅どころ。
マッチメーカーはシマダという人間だそうだ。
そこに所属する“狂犬”というチームが対戦相手だ。
それを聞いてふと、気にかかる言葉が。
俺は直ぐに赤毛のねえちゃんに質問だ。
「あの、戦車チームって言いましたよね」
「そうよ。戦車チームよ。それが何か?」
「チームってことは複数の戦車が相手ってことですか」
「レギュレーション内なら何両でも構わないわね。だから1両の場合もあるし、4両の場合もあるわよ」
事務所の人は何を当たり前の事を聞くんだって顔をしているんだが、俺はてっきり一対一の対戦かと思ってたんだけど、まさか複数同士の戦いとは思わなかった。
「すいません、あまり戦車闘技に詳しくないんですよ。ハンター稼業なんで実戦経験はあるんですけど。すいませんが詳しく教えてもらっていいですかね」
俺が全くの新人だとわかると、赤毛のねえちゃんは結構丁寧に教えてくれた。
人を見た目で判断してはいけませんね。
まずはレギュレーションについてだが、1個小隊4両の計算で、試合ごとに何個小隊以内と決められる。
以内とあるように、それ以下の数両でも構わない。
それから戦車の種類として軽戦車、中戦車、重戦車の3種類に分類し、装甲車や非装甲車両は軽戦車扱い。
例えばレギュレーション内容は『2個中戦車小隊以下』や、『1個軽戦車小隊及び2個中戦車小隊以下』というようになる。
それ以外にイレギュラーマッチというのもあって、例えば恐ろしいことに歩兵が出場する場合や魔獣が相手の場合などで、それは特別ルールがあったりする。
これらのレギュレーションは、マッチメーカー同士の話し合いというか駆け引きで決まるようだ。
つまり、マッチメーカーの手腕で勝敗にも影響が出るということだ。
闘技場は何種類かあり、丘陵平原地帯や市街地に森林地帯など街から少し離れた場所に設置してあるらしい。
もちろんすべて観客席があって観ることが可能だが、時々死者も出るそうだ。
一応安全な場所に座席は設けられているのだが、たま~に流れ弾が観客席に飛び込むとか。
いいのかよって思うんだが、ここではそれが日常的な出来事らしい。
闘券と言われる競馬のようなチケットの販売があることから、多額の金が動く場所。
金に眼がくらんだ観客にとって、試合中に銃弾が飛び込んで隣の人が死のうがそれは他人事であって、問題なのは自分が買ったチケットの行く末なのだ。
ルールとしては試合中に対戦相手が死んでしまっても罪にはならないが、ファイトマネーに影響するという。
観客に死傷者が出ても同様。
この差し引かれる金額がでかいため、止めの一撃などやる者はほとんどいないそうだ。
だいたい止めの一撃をする前に無線で戦闘不能判定が出されるので、審判に逆らってまで対戦相手を死に追いやる奴もそうはいない。
各種ポーションも完備しているので闘士の死者は少ないらしい。
それは養成所やマッチメーカーが苦労して育ててきたり、高い金額を払って買ってきた奴隷闘士を、簡単に死なせるのは損失が大きいからである。
出来るだけ長く戦わせて元をとらなくちゃ損をしてしまうという訳だ。
ただし、戦車が買えないような奴が歩兵枠で出場したりするのだが、この場合、歩兵は簡単に直ぐ死ぬそうだ……。
その歩兵というのは、極刑の犯罪者だったり闘士に向かないような奴隷がやらされる役なんだとか。
それで今回の場合は『1個小隊、中戦車以下』というマッチで、ごく一般的なレギュレーションで開催闘技場は丘陵平原地帯だ。
開催する闘技場は下見しておこうっと。
対戦相手の情報を赤毛姉ちゃんに聞いてみると、狂犬チームは汚い手を平気で使ってくる奴らで、全員がコボルトで占められたチームらしい。
戦車は95号式軽戦車や97号式中戦車に1号式中戦車、それに3号式中戦車や1号式7糎半自走砲も所持しているようだ。
しかし、気を付けなければいけないのが改造だ。
結構な頻度で改造車両が出てくるから気を付けた方が良いと忠告してくれた。
どんな種類の車両が出るかは解らず、試合当日の車両検査の時になって初めて見ることが出来る。
細かいルールもあるがそれはルールブックを読めと言われて渡された。
そっとページを開いてみた。
難しい字が多すぎる!
一度開いたページを瞬時に閉じるとケイに即スルーパス。
その後も少し話を聞いてから手続きを完了して闘技場の事務所を後にした。
さて、お楽しみの戦車の受領である。
軍の補給基地があるといっていた場所へと到着してみると、そこは補給基地というよりもジャンク屋、もしくは廃車置き場といった様子だった。
外から見てみると、今にも崩れそうなガラクタの山が幾つもそびえ立っている。
なんか嫌な予感がするんだが。
俺は軍の横流し品と聞いてたからてっきり、納品されたばかりの新車に近い戦車を貰えると思ってたんだが違うのか。
シーマン戦車じゃないのか。
補給基地は一応鉄柵で囲まれていて盗まれないようにはしているんだが、俺が思うに“誰がこんなガラクタ置き場に盗みに入るんだよ”と言いたい。
入り口にいる番兵に話を通すと、身分証も確認せずに「あの倉庫へ行け」と言われる。
薄汚い倉庫に入いって行くと、中では何人かの整備兵っぽい人達が、戦車を修理しているのが目に入った。
意外とまじめにやっているようだな。
修理している整備兵の1人が俺とケイの方を見ると、掛けている眼鏡を直しながら声を掛けてきた。
年のころは60歳後半くらいだろうか、階級章を見ると少尉となっている。
ここの隊長っぽいな。
髪の毛は真っ白なロン毛なんだが頭の天辺が丸く剥げており、その禿部分に入れ墨が彫ってある。
スパナが立体的に描かれた入れ墨だ。
やばい、吹きそうなんだがっ。
そのスパナがしゃべりかけてきた。
「何か用か、坊主に嬢ちゃん。なんかの部品が欲しいのか?」
なんとか笑いは堪えて平然と答える。
「そ、そ、そうじゃないんです。えっと、す、すいません。ふふ…勝手に入ってきちゃいまして。くくく…俺達は軍の報酬として戦車を受け取る予定できたんですけど。聞いてません…うくく…かね?」
すると眼鏡の上から覗き込むようにして俺達2人をジロジロと眺めると、「ふっ」と軽く笑いを漏らしてからしゃべり出した。
「ああ、聞いとるよ。しかしな、まさかこんな子供達とは驚きだな。まあいい、こっちへ来い」
いやいやいや、まさかこんなスパナ頭とはこっちが驚きだよっ。
スパナ頭のおっさんはとことこと倉庫の裏の方へと歩き出す。
俺達はその後をついて行くのだが、ケイがスパナの頭を指さして満面の笑みを浮かべながら小声でしゃべりかける。
「ねえ、ねえ、あのスパナって不治の病か何かなのかな……私……耐えられそうにないんですけど……くくくっ」
やめてくれ、戦車がもらえなくなるだろ!
倉庫裏手の戦車の墓場のような廃車置き場へ着くと、スパナ少尉は言った。
「どっちか選べ」
するとケイが堪らず口を滑らせる。
「スパナ……あ」
ケイが慌てて両手で口をふさぐ。
バカがっ、口に出す奴があるかっ!
ってゆうか、何を言おうとしたらスパナって言葉が出てくるんだよっ。
その瞬間ちょっと嫌な表情を見せたスパナヘッドだが、「決まったら声を掛けろ」と言い残して倉庫へ戻って行った。
俺は堪えていた笑撃を一気に吐き出した。
「ぶはっっ! ひ~~~危なかった!!」
これもすべてケイのせいだ。
そのケイもスパナ禿がいなくなった途端に腹を抱えてゲラゲラ笑い出す始末。
こいつ全然反省の色がないな。
さて、俺達の目の前にある戦車、それは2両だ。
「ケイ、どっちにするか」
「う~ん、どっちもボロいよね。ちゃんと走るのかなあ、心配なんですけど」
あのボロボロだったスポンジ戦車も走ったんだから、きっと大丈夫だろうと思うんだが……。
今、俺達の目の前にくず鉄のように置かれた戦車というのは、3型突撃砲と1号式7糎半自走砲の2両であった。
戦車受領までギリギリたどり着きましたが、ちょっと文章が長くなってしまいました。
さて、主人公に選択を迫られているのは、3号突撃砲と一式砲戦車ホニⅠの2択です。
さあ、どっちにするのか!?
何、そんなのわかってるよって?
さあて、どうなのかなあ (;^_^A
ということで次回もどうぞよろしくお願いします。




