13話 ポーション
空が青い。
白い雲がゆっくりと流れていく。
なんか心が落ち着く気がする。
どうやら仰向けで寝ているみたいだ。
ただ、ちょっと背中がごつごつしていて痛いな。
俺は地面の上で寝ているのか。
ん、俺、気を失っていた?
そこで俺は記憶がよみがえる。
胸から矢が突き出ていたことを。
俺はハッとして胸に刺さった矢を手で探る。
矢はない。
胸に違和感はあるけど痛みはほとんどない。
治癒ポーション?
いや、俺もエミリーもそんな高価な品など持っていない。
それじゃあなんで?
どうなったんだ?
確か気を失う寸前で銃声がしたような。
「あ、お兄ちゃんが気が付いたみたい!」
エミリーが駆け寄って来る。
俺は上体を起こして周りの様子を伺う。
ここはロックヘッドの広場だ。
俺が意識を失った場所じゃねえか?
ここにいて大丈夫なのか。
奴らの仲間が近くにいて、騒ぎを聞いて集まって来る可能性もあるんだぞ。
「あの、ケンさん。傷の具合はどうでしょうか」
そう言ったのはミウだ。
続いてエミリーが俺の横に来て言った。
「ミウちゃんは治癒ポーション持っていたんだよ。すごいよね!」
ミウが俺を助けてくれたのか。
「ミウ、助かったよ。ありがとうな。ポーション代は払うよ」
するとミウが尻尾をフリフリと回しながら照れて様子で答える。
「い、いえ、これくらい。こちらこそ危険な事に引きづり込んですいません。ポーション代は私が作った物ですから代金はいりません。今回の依頼の必要軽費とお考え下さい」
「ポーション作れるんだ、すっげえな。とりあえず、ありがとう。大きい貸しが出来たね。そういえば俺に矢を放ったゴブリンリーダーはどうなったんだ?」
エミリーが答える。
「あ、それ、ミウちゃんがいつの間にか突撃しててね、ショットガンで倒してくれたんだよ」
エミリーが指をさす方向に目を向けると、そこにはショットガンで穴だらけになったゴブリンリーダーが横たわっている。
そのすぐ側にはゴブリン達から回収した戦利品の数々が山積みされている。
「手際が良いな。もう回収作業すんだのかよ」
エミリーが嬉しそうに言う。
「今回の戦利品はまずまずよ。魔獣の毛皮を8枚と素材を何点かゲットしたわよ」
「おお、ミウ、良かったな。これで雇い主としても赤字にはならないだろ」
「あ、ありがとうございます。これで借金の返済が――あ、すいません。こっちの話です」
今、借金て言ったよな。
「えっと、今借金て言ったよね?」
「あ、いえ。気になさらずに……」
「実はね、俺達も借金があるんだよ。その返済のために毎月苦労してるんだけど。俺達と同じ境遇ってことだね」
「そうなんですね。でも私の借金額は凄いんですよ」
「いやあ、俺達も結構凄いぜ。2人で80万シルバだぞ。利息だけで毎月1万シルバなんだけどそれ以上ってことはないよな?」
ミウはうな垂れながらぼそりと言葉を告げる。
「1人で100万シルバです……利息は毎月1万5千シルバです」
俺は絶句した。
言葉を返せない。
言葉に詰まり、エミリーに助けを求める視線を送る。
するとエミリーが口を開く。
「ミウはいつも1人で行動してるのよね?」
「はい、そうです」
「私達とチームを組まない?」
「え? でも私借金があるんで取り立て屋さんとかもよく来ますよ」
「それは私達も同じよ。だから同じ境遇の者同士でチームを組めば心の負担も減るし、狩りなんかも効率よく稼げると思うんだけど」
「いいんですか、本当に私がチームに加わってもいいんですか。装備も貧弱だし戦闘経験も今日が初めてですし、きっとふたりの足を引っ張ります」
「っていう事はOKということよね。それじゃあ、はい」
エミリーが片手を突き出した。
「あ……そ、それじゃあお願いします」
ミウは照れながらもその手を握った。
「チーム加入歓迎するね。これからよろしくね。ほら、お兄ちゃんも!」
いきなり振られて戸惑う俺。
2人の握手する手の上に俺も右手を乗せる。
「ミウ、これからよろしく頼む――でだ。何てチームなんだこれ?」
そう、今までチームなんか言葉を口に出したこともない。
チームって何!
それよりも、いつの間にかにミウがそのチームとかに加わってるし。
俺への相談はなしかよ。
ま、いいんだけどね。
戦闘以外での主導権は完全にエミリーに握られてるな。
エミリーは明るく笑顔で歩き出す。
「そうね。チーム名は帰ってからゆっくりと考えようか。そろそろバスが来る時間だし急いで」
俺達は足早にその場を立ち去るのだった。
バスの到着は遅れる事1時間。
相変わらず時刻表の意味がない。
しかし満席で乗車拒否はされずに済んだことの方が喜ばしい。
最悪の時はバスが来ない場合もある。
盗賊に襲われたとか魔獣が出たから迂回路を通ったとか、理由は色々だ。
とりあえず俺達3人はバスに乗ることが出来た。
バスの中で俺はふと思ったんだけど、俺の胸の傷って重傷レベルだったはず。未だに若干の痛みと違和感があるんだが、それでもここまで治癒させるポーションって結構な高ランクポーションじゃないのか。
それを自分で作ったというミウって実はすげえ薬師なのかも。
それを聞こうとミウに目を向けるのだが、どうやら夢の中のようだ。
しょうがない、街に着いたら聞こう。などと考えていたんだがすっかりそんなことは忘れてしまったまま、バスはアシリアの街へ到着した。
エミリーとミウはハンター協会へ依頼達成とゴブリン討伐の手続きをしに。俺は少し早いかもしれないけど戦車の受け取りと、今回のゴブリンの戦利品の換金に行く事になった。
俺は1人ほくそ笑みながら早足で買い取り所のモリ商店へ向かうのだった。
今行くぞ、俺の戦車よ!
次回ついに装甲牽引車から自走砲にランクアップした『戦車』が登場します。
第14話「ホーンラビット」
明日の夜、投稿予定です。