表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
徹甲弾装填完了、照準OK、妹よし!  作者: 犬尾剣聖


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

129/282

129話 マッチメーカー






 ロジャー大尉と別室での話し合いというか交渉に入った。

 俺は「んん、いいと思うよ」と「そうだね、任せる」の2つの言葉しか使わなかった。

 というか、それしか答えようがなかったのだ。

 なんか難しい話の後にいちいちケイが、良いか悪いか尋ねてくるもんだから返答しない訳にはいかない。

 それでこういう返事しか俺には逃げ道がなかったということだ。

 俺の脳みそではとてもついていける内容ではなかったという事ですか。

 悲しい。

 戦車や銃の性能とかならいくらでも返答できるんだけどな。


 30分ほどで交渉は終えて今度は金庫の中に入っていた書類を見ながらケイが説明を始める。

 これに1時間あまりかかることになった。


 気が付くと俺は椅子に座ったまま、90度近く上半身を傾けたまま居眠りをしていたようだ。

 ハッとして目が覚めると、大量のよだれが床に溜まっているではないか。

 慌てて何もなかったようにつくろうのだが、個室にはロジャー大尉とケイの3人しかいない。

 当たり前だが完全に気が付かれていたらしい。

 ケイがサナダ虫の糞を見るような目を俺に向けながら言った。


「ケン隊長、いつまで寝てるのよ。話し合いは終わったから起きてよね。それとさっさとそのよだれを拭いてよっ、恥ずかしい!」

 

 少しは気を利かせて見なかったフリとかできないのかよ。

 恥ずかしいのは俺の方だし!


 それで、俺が居眠りしている間にすべては終わっていたのだった。

 おかげで話し合いの内容などこれっぽっちも理解していない。


 俺は訳が分からないまま挨拶あいさつも適当に、ケイの後を追うようにしてビルを後にした。


 帰りの道中にケイから事の成り行きの説明を受ける。

 まずはあの兎人とびと達のブッシュマンという部隊は一応は軍隊なのだが、人間属でいうところの軍隊とは少し意味合いが違う。

 元々彼らの国は貧乏国なので、部隊を維持する為の費用はすべて国から下りる訳ではなく、部隊ごとに自ら稼いで部隊の運営費用に当てなくてはいけないという。

 その為、指揮系統も普段はバラバラらしく、有事の時になってやっと1本化の指揮系統になるんだそうだ。

 それであの汚いビルの4階で何をやっていたかというと、情報屋、武器の闇取引、傭兵、そして戦車闘技や剣闘士のマッチメーカーに養成所などの事務所だったのだ。

 かなりグレーゾーンな仕事にも手を出しているらしく、結構稼いでいるというが敵も多く、目立たない様に運営しているんだそうだ。

 もちろん他国勢力内での活動となるんでお忍びというわけだ。


 ハマンの街は人間勢力圏内とはいえ、隣接りんせつする勢力圏がコボルトに獣人族に兎人とびとと、かなり政治的にも異質な場所でもあるが、そのおかげで上手く均衡きんこうが保たれているともいえる場所であった。


 そういった街というのは彼らのようなグレーゾーンの仕事がしやすい場所であり、彼らは他国の種族ということで変なしがらみもないため、こういった仕事にはうってつけなのである。

 それで今回の裏情報ともいえるホクブ兵器産業の秘密文書に関わったという訳だ。

 その情報をまさかホクブ兵器産業に買い取らせるのかと思ったら、そうじゃなくて新聞社に売って紙面上で公開するそうだ。

 もちろん情報の入手は彼らの会社である。

 ちなみに表向きの会社名は『キャロット』だそうだ。

 

 そんなことして彼らに何の得があるんだろうか。

 残念ながらその疑問に対する答えは得られていない。

 なぜなら、ケイが聞かなかったからだ。


「ケイ、そこは肝心なところだぞ。何で聞いておかないんだよ~」


 俺の言葉にケイは冷たい表情で言った。


「よだれ垂らしてたくせに」


「ぐぐぐ……」


「それから、報酬は今度の戦車闘技の参加枠と、マッチメーカーの籍よ」


「はあ、何それ。たったそれだけか。安い報酬だな」


「それが戦車闘技に参加するには関係者の推薦が必要なんだってさ。参加希望する戦車乗りが多くて中々参加は難しいみたいよ。私達みたいな戦車乗りハンターが沢山いるからね。普通はマッチメーカーに金を払うか、養成所に入るかしないと出場はできないんだって。だからマッチメーカーの在籍枠をくれたのよ。ついでに倉庫も貸してくれるって」


「そうなのか、まあよくわからんけどな。それでマッチメーカーの枠ってなんだ?」


「剣闘士や戦闘士を取り仕切る人の事よ。闘技はすべてマッチメーカーを通して闘技場管理に届け出を出して試合を組むのよ」


「ふ~ん、なんとなくわかったけどさ、それって誰がやるんだよ」


「安心して、私がやるから。伊達に1等級の商業許可証を持ってないんだからね」


 まあ、それは認めよう。

 そして少しだけ間をおいてからケイが再び話を続ける。


「でもね、私達って兵員輸送車1両からハンターを始めたのよね。最初はハンターの事なんか何にもわからなくてね。それがケン隊長のクランに入れてもらって、戦車エースの称号までもらって有名になって。それで戦車が4両の中堅部隊にまで成長したのよね。ほ、本当にケンちゃんには感謝してるのよ……べ、別に変な意味じゃないからね」


 おや?

 何この感じ。

 ツンデレって言うやつじゃねえのか、もしかして。

 それに何『ケンちゃん』だと?


 いや、いや、ここで勘違いしちゃいけない。

 ここで騙されたら以前にみつがされた、お姉ちゃんの付きの飲み屋の二の舞だ。


 そういえばケイの持ってる1等級の商業許可証って、ほとんどの人が受からない試験があるってタク言ってたよな。

 ケイが受けた試験では1000人受けて受かったのはケイ入れて2人だったらしい。

 すげえな、ケイ。


 1等級ってできない商売がないってくらい特別なものらしい。

 そういえばタクとソーヤがケイの事を「いつも学校では成績トップだった」って言ってたよな。

 恐ろしい女だ。

 気を付けようっと。


 まあ、マッチメーカーの仕事をこのハマンという大都市で得られたのは大きいと思う。

 上手くいけば、俺は椅子に座ってるだけで金が入るな。

 ふはははは。




 皆の所に戻るとやることもなくダラダラしてやがる。

 街からは少し離れている場所だが、かえってそれが目立つ。

 商売人の車や旅人がジロジロと見ている。

 みっともないな。


 まずはゴブリン戦闘士を整列させる。


 いちいちナミを通して命令しなくちゃいけないのが面倒だな。

 隷属れいぞくの首輪のおかげでしっかり整列はするのだが、やはり動きが緩慢かんまんというかダレている感じだ。

 やはりゴブリンはゴブリンだ。

 戦車兵は『紅蓮戦車隊』とかいう精鋭部隊の元隊員のはずなんだが、こんなもんなのかな。

 夕方に預けている戦車の修理と整備が終わっているはずなので、それまでは基礎訓練でもさせようか。

 訓練はナミに任せて俺はケイ手続きを終わらせに行かなくては。


 そうだ、思い出した。

 ゴブリンの戦車兵から勲章みたいなのと、珍しく認識票を持っていたから戦利品として貰ってきたんだよな。

 人族の言葉をしゃべったゴブリンだ。

 ちょっとゴブリン戦闘士達に聞いてみよう。


 ナミを通してゴブリンに質問する。

 すると彼らの元戦車隊の隊長らしく、ゴブリンの間では有名な兵士であり、英雄角勲章というものを授章したんだそうだ。

 人間の戦車を多数破壊したんだと。

 言い気分はしないが、やっぱりそうなんだ。

 勲章か、売ればお金になるかな。

 それと認識票持って行けば討伐褒賞もらえるな。

 お尋ね者リストに載っていればいいんだけどな。

 ナミとかゴブリンに詳しいから知ってないかな。


 あれ、そういえばナミとポトの仕事は終わったんだよな。

 戻らなくてもいいんだろうか。

 金庫を届ける為の道案内の仕事だったのに、帰らずに残ってくれているんだよな。

 ここで戻られるのはきついんだが。


「あのさ、ナミとポト。仕事はこれで終わりなんだけどやっぱり戻るんだよね?」


 するとナミとポトはしばらくコボルト語で話合った後、ナミが俺に向かって口を開いた。


「ポトは戻るって言ってますが、あの、私は出来れば一緒に働きたいんですけど……」


 ナミは残ってくれるのか。

 これで通訳の心配はしなくて済んだ。

 ポトは残念だな。

 

「もちろんだよ。むしろぜひ俺達のクランに入って欲しいんだけど」


 もちろんメンバー全員一致での賛成でもある。


「よかった。それでは私もクランの一員ということでよろしくお願いします」


「ポトは今までありがとう。おかげで砂漠を迷わず渡れたよ」


「ワン、ワオン」


 残念ながらポトはすでにコボルトのクランに入っているそうだ。

 ここでポトは戻ることになったので、稼いだお金の一部をお礼に渡してお別れとなった。

 振り返りもせずに彼女らの乗って来たトラックで行ってしまった。

 涙の別れを少し期待したんだが、実にあっけらかんとした別れとなった。


 泣けよっ!




 さて、俺はケイと一緒にマッチメーカーについての申請や手続きをするのと、軍の報酬を受け取りに行くのとついでに、勲章がどれくらいの価値があるか見てもらいに行く。

 俺とケイ以外は留守番だ。

 それとお尋ね者かもしれないゴブリンの認識票だ。

 それと忘れてはいけない、砂漠竜の心臓を売らないと。


 さて出発という段階になって、当たり前のようにエミリーが一緒に行こうとする。

 話を聞くと、難しい手続きとかあるから心配らしい。

 

 それを言われると辛い。

 だけどすべてケイの確認をしてもらいながらだから大丈夫だろう。

 しかしそれよりもエミリーが心配しているのは、軍からのオアシスに関しての報酬だ。


 軍のイケメンとの話し合いの時点では報奨金はもらえなかったのだ。

 理由は簡単で、現在ゴブリンやオークと戦争中であり現金での資金に余裕がないからだ。

 それであのイケメン将校が提案したのが軍の戦車を横流し――譲りましょうと言う話だ。

 それはもう喜んでその提案を受けました。

 その戦車を受け取りに補給地へ行くのだ。

 しかしまた俺が変な趣味で戦車を選びそうだというのがエミリーの心配だ。


 いや待てと。

 変な趣味はエミリーだと思うぞ。


 だからそこは、エミリーの手にちょっと大きめの飴ちゃんを握らせる。

 すると。


「フン、何よお兄ちゃん。今回だけだからねっ」


 飴ちゃんで撃沈かよ!


 しかし今回だけだと? 

 あまいなエミリーよ、飴ちゃんはまだ一杯あるのだよ。










GWに入ってから毎日のようにブックマークが少しづつ増えてます。

ありがとうござます。


やはり皆さんステイホームだからでしょうかね。




次回は新しい戦車の受け取りの予定です。

さてどんな戦車が出てくるでしょうか。







それでは次回もよろしくお願いします。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ