126話 破壊兵器イケメン
大急ぎで出発の準備をして、次の日の夜明け前にはオアシスを出発した。
ゴブリン捕虜の食料には仕留めた砂漠竜の肉をトラックに詰め込んだ。
俺達“ドランキーラビッツ”は俺を含めて人間が4人、獣人が1人、妹が1人の8人のはずなんだが、現在はそれに加えて70匹ほどのゴブリン捕虜がいる。
そしてゴブリンから鹵獲したトラックが3台に75㎜野砲にそれを牽引している装甲トラクターが1両、そして戦車が3両、将校用だったらしい乗用車が1両。
そして俺達の戦車とナミ達のトラック。
さらに同行する軍人さん4人のトラック。
つまりは結構な規模の隊列となっているのだ。
それも、ほとんどの車両がゴブリン捕虜が運転しているという無茶な隊列だ。
敵の部隊に襲われたら終わり確定だ。
ハマンの街までは飛ばせば夜には到着できるらしいのだが、飛ばすことが出来ない現状。
というのも、オアシス出発に際して大急ぎでゴブリンから鹵獲したブレタン戦車の修理をしたんだが、確かに応急処置とはいえ3両ともまともに走れるようにはなりましたよ。
だがである。
元々のブレタン戦車の性能が悪いのだ。
加えて応急修理というレベルでは、砂漠での速度など期待してはいけなかった。
無理すれば一時的には速度を出せるのだが、直ぐにエンジンに限界が来て速度を緩めるほかなくなるのだ。
全く困ったものである。
この隊列の足を引っ張る元凶なのだ。
とは言っても戦車は戦車である。
売ればそこそこの金になるのだ。
前にボロボロ状態だったけど、鹵獲したブレタン戦車を売った時は、ゴブリンの装備品なんかも合わせた金額だったが、確か6万シルバだったはずだ。
仮にブレタン戦車が1両5万としてもだ、3両もあれば15万シルバにはなる。
それに加えてゴブリン捕虜が70匹もいる。
仮に1匹800としても5万6千シルバになる。
合わせて20万シルバを超える。
さらにドン!
オアシス奪還の謝礼に砂漠竜の心臓!!
もうウハウハじゃないですか~。
これはソーヤとタクを誘ってハマンの街のネオン街へ繰り出すかな。
だが、その考えがちょっとだけ甘かった。
砂漠を進行中に捕虜のゴブリンが徐々に脱落していくのだ。
もともと病気や怪我で弱っている個体もいたため、その弱っている者から徐々に消えていった。
結局、ハマンの街へ到着する頃には40匹ほどの数にまで減っていた。
ハマンの街は大都市に分類されるほど大きな街であり、俺も昔に親父に連れられてきたことがあるのだが、俺が幼かった頃ということもあってか記憶が曖昧ではある。
覚えている事はというと、奴隷同士を剣や素手で戦わせる闘技場があったということだ。
街へ到着すると同行していた軍人が直ぐに駐留軍の本部へ来てくれという。
到着したのはもうすっかり日も暮れてからで、俺としては直ぐにでも宿を探したり捕虜のゴブリンを何とかしたいのだが、本部への報告が先だと強面の軍人さんが譲ろうとしない。
ここで俺は軍隊に逆らうのも得策ではないと判断して、しょうがなく俺とエミリーだけが報告へ行くことになった。
他のメンバーは生き残った40匹ほどのゴブリンの最低限の治療と宿泊場所の確保と、戦車や車両類の整備工場を探してもらっている。
俺達の宿はこの時間で見つかればラッキーだが、見つからなければ最悪ゴブリン捕虜と同様に、トラックの荷台で夜を明かす事は覚悟しておくことにする。
俺とエミリーは軍人さん4人に連れられて、街中を彼らのトラックに揺られて行くのだが、以前この街へ来た時とはかなりの様変わりをしている。
歩いている種族が多種多様なのである。
隷属の首輪をつけているゴブリンやオークにコボルト、加えて獣人や人間の奴隷までいる。
軍人さん曰く――
「戦車用の闘技場を新しく造ってからそれが大人気になってな。それで戦車に乗せる奴隷が沢山入ってくるようになったんだよ。良かったら見ていってみたらどうだ。上手く当てれば大儲けできるぞ。腕に自信があるなら自ら出場するってのもいいぞ。俺達軍人は出場できねえが、ハンターなら出ても問題ないからな」
――だと。
どうやら賭けの対象になっているようだ。
まあ、見るくらいの余裕はあるだろうから見ていくか。
出場はなあ、面白そうだけど見世物はどうかなあと。
その前にエミリーが反対しそうだしな。
トラックから街並みを眺めていると、確かに奴隷商館や武器屋に戦車工房などが目立つ。
戦車の種類も非常に多く、中には珍しい戦車や改造しすぎて原型が判らないものまで多数を見かける。
エミリーがトラックに揺られながらウトウトしている時にも、俺は目をギラギラさせながらそれらを見入っていた。
軍人さんに「着いたぞ!」と言われてやっと我に返る。
そこは軍の駐屯地というよりもこじんまりとした施設といった感じで、街中に全く違和感さえなくあった。
2階建ての小さなビルと整備工場らしい建物、そして少し広い駐車場があるだけで、周りを囲む塀さえない。
どう見ても街の大きさにそぐわない規模なのである。
すると俺の様子に気が付いたのか、軍人さんが説明をし始めた。
「小さくてびっくりしたか、坊主。確かにこのハマンの街にしては小さな本部だけどな。でもこれ以外に同じくらいの規模の支部が3か所ある。それでもこの街の守備隊としては貧弱ともいえる。しかしな、いざという時はこの街には剣闘士がいるだろ。戦車に乗れる剣闘士たちがな。だからこの規模の守備隊でも十分なんだよ、坊主」
話は解ったんだが坊主、坊主って少し癇に障るんだが。
俺は「ふ~ん」と軽く視線を空に流し、エミリーの手を引っ張ってトラックを降りた。
俺の精一杯の反抗である。
次に軍人さんはエミリーに狙いを付けてきやがった。
まったく、放って置いてほしんだけど。
「なあ、エミリーさんって言ったかな。うまい店を知ってんだけどこの後どうだい?」
って、こら!
ナンパじゃねえか!
兄貴のいる前で堂々と妹をナンパするとはこいつ、身の程を教えてやろうか!!
「あのう、僕の妹のエミリーはこの後に大事な用事がありまして……すいません」
へっ、はっきりと俺の“い・も・う・と”って言ってやったぜ。
するとナンパを仕掛けてきた軍人さんの表情がゆがむ。
「ちっ、面倒くせえなあ」
やばい、俺に睨みを効かせてきやがったじゃねえの。
そこへ非常に良いタイミングで士官が来てくれた。
それを見たうるさい軍人さんは慌てて敬礼して口を閉じた。
だが、しかしである。
現れた士官というのが20代前半位で金髪をたなびかせ、笑顔から白い歯がきらりと光るさわやかな好青年。
はっきりいってイケメンである。
「お疲れだったな。君達がケン君とエミリーさんだね。だいたいの話は聞いているよ。私はアーク大尉でここの副官をしている。といっても副官というのは名ばかりで、実際は雑用係だがな」
街に近づいたところでトラックから無線連絡がいっていたようで、ある程度の情報は知らせてあるようだ。
「はい、僕がケンと言います。こっちが妹のエミリーです」
続いてエミリーが話し出す。
「わ、私がエミリーです。よ、よろしくお願いします、アーク大尉様……」
おい、エミリー!
なにがアーク大尉、様だよ、様はいらねえだろっ。
それに何で顔が赤いんだよっ。
「あの~、あまり時間が無いんで手早く話を終わらせたいんですけど。それから念のためにもう一度だけ言っておきますけど、エミリーは俺の“い・も・う・と”です」
こうなったらさっさとここを立ち去るに限るな。
ここに長く居たら危険な気がする。
最悪ここは爆破した方がいいかもしれないな。
そうだな、捕虜のゴブリンに武器を持たせてここで大暴れさせて、その隙に――
「ああ、そうだな。時間はあまりとらせないよ。ここじゃなんだから建物の中へ来てくれるかい」
さらりと受け流すあたりこいつ、ますます危険人物である。
やはりイケメンは人類の敵だな。
滅びてしまえばいいのに。
建物内の部屋へと案内されてテーブルを挟んでお互いに席に着いた。
こっちは俺とエミリー、テーブルの向こう側には先ほどのアーク大尉ともう1人、曹長の階級を付けたインテリ眼鏡系の軍人がいる。
見た感じでは後方のデスクワーク任務、主計ってところか。
こっちの眼鏡君は好感が持てるな。
「さて、まずは詳しい経緯を聞かせてもらえるかな、お二人さん?」
この大尉の言葉で始まった話し合いなのだが、事の成り行きの説明が結構時間を喰ってしまい、話が終わったのは夜9時くらいだった。
といっても話を遅らせた一番の原因はエミリーなんだが。
そこからやっと謝礼の話になってさらに1時間だ。
ただ、何しにオアシスに来たのかと聞かれたのをごまかすのが大変だったな。
まあ、ハンター協会と軍は仲が悪いから、協会を通した依頼内容なんで言えませんで押し通したんだが。
一応ミカエさんの依頼には触れない様にした。
それで何とか解放された。
もう夜の10時だ。
待ち合わせの場所のハンター協会のハマン事務所に行くと、眠そうな目をこすりながら待っている仲間達がいた。
だが、ゴブリン捕虜の数が少ない。
16匹しかいないんですけど?
それに持って来たゴブリン製の車両の数も少ない?
どゆこと?
出ましたよ。
新しいワード「戦車の闘技場」が。
さてどういった展開になるのでしょうか。
ちりばめられた沢山の伏線が全然解決してないって?
はい、そうですね。
そんな事は放って置いて目先に集中しましょう。
作者は気が変わりやすいのですw
ということで次回もよろしくお願いします。




