125話 さらばオアシス
砲弾が降り注いだといっても10発程度だ。
とはいっても、その一斉射だけで砂漠竜の頭部が爆砕してしまった。
つまりほとんどの砲撃が頭部に命中したということだ。
砂漠竜の息の根が止まると同時に射撃は終了したのだが、突然の目の前での砂漠竜頭部の破壊に驚きを隠せない俺達。
「え、何? 今の何、お兄ちゃん?」
「エミリー、とりあえず停車してくれ、停車だ」
エミリーの様子からしてエミリーの放った魔法ではないようだ。
そもそもエミリーがそんな凶悪な魔法を使えるはずもない。
俺は慌てて砲塔ハッチから顔を覗かせて辺りを確認する。
真っ先に見たのはゴブリン捕虜達の方向なのだが、捕虜達でさえ驚いている様子だ。
そもそもゴブリン捕虜にそんな技量があるはずがない。
だから彼らではない、やったのは別の何かだ。
そこへ無線の連絡が入った。
ナミからだ。
『ウサギの臭いがします……かなりの数です』
オアシスにいるナミの方へ眼をやると、風下の方向をしきりに指さしている。
双眼鏡でその方向を見ると、複数の車両部隊が見えた。
その部隊は人参のイラストの軍旗を高々と掲げている。
「まじかよ、兎人の部隊じゃねえか」
風下から近づいて来たのと砂漠竜と戦闘中だったこともあり、射撃されるまで誰も気が付かなかったようだ。
俺が驚いているとナミが再び無線で訴えてくる。
『ケン隊長、どのように対応いたしますか?』
返答に困るじゃねえかよ。
別に兎人は敵対勢力ではないけど友好勢力でもないし。
コボルトが犬であるように、兎人とはウサギの亜人なのだ。
数は少なく勢力的にも弱小に入るから、人間からしたらあまり眼中に無い種族である。
しかし今の状況的には加勢してくれたというか、掩護してくれたというか。
これは無視できない状況だな。
おかげで砂漠竜は息の根を止められたのだが、考え方を変えると獲物を横から奪われた感じもするんだが。
う~ん、どっちだ?
「ナミ、一応戦闘態勢は整えておけ。でも俺の合図があるまでは撃つなよ」
『了解しました。75㎜野砲の向きを変えるんで、少し時間をください。以上』
ナミとのやり取りが終わると、見知らぬ回線から無線連絡が入ってきた。
『こちら兎人の部隊で“ブッシュマン”を指揮するロジャー大尉だ。そちらの所属を問う』
やっぱり兎さんの部隊なんだな。
まあ、次から次へとこのオアシスは新しいのが現れるよなあ。
「こちらは人族のハンター協会所属、クラン名“ドランキーラビッツ”及びその協力者のコボルト。我々が現在この地を占領している。俺は隊長のケンだ。どうぞ」
獣人は一応人族の部類に入る。
まあ、細かい事はいいか。
『人族の部隊――いやハンターか。中々良いクラン名をしているな。ふむ、了解した。そちらのオアシスへの進入を許可されたし。部隊を休めたい』
どうやら友好的らしい。
ってゆうか、俺達がここの支配権を主張しても問題ないらしい。
少しほっとしたんだが、こちらの戦力を知った途端に攻撃とかないだろうな。
それにゴブリンの捕虜が大量だしな。
ゴブリン捕虜に加えてウサギさんの監視までしてられないよな。
オアシスに向かい入れたら急に反旗を翻したとかシャレにならんぞ。
そういえばコボルトとウサギは大丈夫なんだろうか。
犬の目の前にウサギを置いても大丈夫だったっけ?
それよりもあの数のウサギさんをオアシスに入れたら、水の量がやばくなるんじゃないだろうか。
兎人のブッシュマン隊は戦車5両に装甲車2両、トラック6台というちょっとした戦力の部隊だ。
100匹近くはいるんじゃないだろうか。
いや、ウサギの単位は羽だから100羽か。
100羽分の水を提供したら水がなくなってしまうんじゃないだろうか。
心配だ。
しかしウサギさんの部隊は大量の水を持っていた。
砂漠に入る前にすでの大量に補給していたそうだ。
オアシスで水なんて補給したら、ワイン並みの値段を吹っ掛けられる場合があるからだそうだ。
だから砂漠に入る前にできるだけ水や燃料は補給しておくのが鉄則だそうだ。
そこでウサギ軍の隊長のロジャー大尉が入場料金を聞いてきた。
え?
オアシスって入場料金をとるんだ。
俺は慌ててナミに聞こうとしたらケイが横からしゃしゃり出てきた。
「ケン隊長、そういうのは任せて頂戴」
その一言でケイは勝手に値段交渉を始めてしまった。
だが結果としてそれは正解でした。
ケイがうまく話をまとめてくれたおかげで、オアシス滞在費用という名の臨時収入を得られた。
しかも仕留めた砂漠竜の所有権も俺達で良いそうだ。
ナミが言うには砂漠竜の心臓は薬になるから結構な金額で売れるそうだ。
ケイ、ファインプレーだ!
しかしここのオアシスは水が少ない、宿泊施設もない、あるのは草木が生えた区画だけである。
それでよく金をとれたかとケイに聞いたら、オアシスの草を食べる事を許可したんだと。
ただし、限られた区画内だけという条件を付けたそうだ。
ウサギ族は菜食主義である。
生の葉っぱが大好物なんだそうだが、生きた植物を長時間この高温の中で輸送するのは難しく、砂漠移動では特にそれが一番の問題になるという。
だから雑草といえども彼ら種族にはごちそうなんだとか。
美味しそうに雑草を食べるウサギさん達。
なんか可愛らしい。
それらを根こそぎ食べてしまう訳でなく、次にまた生えてこれるように少しだけ残すのがルールらしく、それがすべてのウサギさん兵士に徹底されているところがまた凄い。
そして翌日の夜明け前には部隊を率いてさっさと出て行った。
昨夜までにぎわっていたオアシスが一気に物静かになる。
ゴブリン捕虜のしゃべり声だけが聞こえる。
そこへまたしても無線が入る。
今度はどんな種族がお出ましなんだとと思って俺が無線に出ると、相手は人間の軍隊だった。
このオアシスの守備隊の交代要員だそうだ。
どうやら定期的に守備隊を入れ替えているらしい。
こうしてやっと俺達はこのオアシスを抜け出すことが出来ることになった。
ここでまたもやケイの登場である。
今度は俺が頼んで出てきてもらったのだ。
もちろんこの俺達が占領しているオアシスをどうするかの交渉である。
別に所有権を行使したいわけではなく、ゴブリンから奪い取ったという事を説明した上で、謝礼金を出せよという話である。
ストレートに言ってみれば、「俺達が奪ったこのオアシスを幾らで買い取ってくれるんだ?」って話だ。
しかしさすがに返答に困ったようで、今いる彼らの指揮官では決定権がないから少し待てと言われた。
とりあえずオアシスは彼らに受け渡す。
その上で指揮官は書いた手紙を俺に渡して言った。
「この手紙をハマンの街の指揮官に渡せ。謝礼に関してはその指揮官と交渉してくれ」
おお、それは都合が良いな。
すっかり忘れかけていたけど、俺達の目的地もハマンの街だし。
そこからはとんとん拍子で話は進み、翌日の朝に俺達はオアシスを出発することになった。
その時に伝令として6輪トラックに乗った兵士4名が俺達に同行するという。
オアシスの現状を伝えるためと守備隊の追加要請の為なんだろうと思う。
それと俺達の説明もついでにってところか。
俺達はやっとの事で、このオアシスを出発できるようだ。
やっとオアシスから離れます。
次回はたぶんハマンの街での話になる予定。
それ以降はちょっと変わった趣向でのストーリー展開の予定。
まだ1文字も書いていませんので予定はあくまでも予定です。
ということで次回もよろしくお願いいたします。




