124話 砂漠竜
手分けして使えそうなブレタン戦車を回収。
それと破壊されてはいるが、各パーツなら使えそうな戦車も部品取り用に引っ張ってきた。
回収にはスポンジ戦車とゴブリン中隊が使っていた、牽引トラクターやトラックを使って、なんとかオアシスまで牽引してこれた。
もちろんゴブリン捕虜を総動員してだ。
なるべく振動がしないように気を付けたつもりだが、遠く離れているにも関わらず砂漠竜に感知されたらしい。
ゆっくりとだがこっちへ向かって近づいてくる。
あの速度ならば逃げた方がよかったのかもと、少し後悔するが今更遅い。
逃げたとしてもどうせ気が付かれて追いつめられるんだから、防衛陣地で戦えるこっちの方が有利だ……と自分に言い聞かせる。
回収してきた戦車は直ぐにゴブリン捕虜に修理させようと思ったんだが、時間があまりない。
とりあえず戦車砲が撃てるように最低限の応急修理をした。
それで結局走れる戦車は、ブレタン戦車が1両にスポンジ戦車を合わせた合計2両だけだった。
それも走れるとは言っても牽引してきたブレタン戦車は、時速5㎞ほどしか出せないときた。
修理する時間がないのだ。
まあ走れないよりはましだけど。
それ以外に自力走行は無理だが、砲塔の旋回ができて戦車砲が使える車両が2両ある。
キャタピラの修理する時間があればこの2両も十分な戦力になったんだがな。
これで火力として47㎜戦車砲が3門、戦力に加わったことになる。
戦車を牽引するのにゴブリン捕虜を使ったんだが、それを見る限りでは捕虜に戦車を任せてもいける気がする。
いや、やらせるしか選択肢はないか。
基本的にゴブリン兵だけで操作してもらう事にするが、燃料は少量だけにして水も少量しか持たせない。
これで遠くへは逃げられないだろう。
砲弾も徹甲弾も最低限の数量だけ持たせて、多くの弾薬は持たせない方針をとった。
ここまで対策をして、それでもゴブリン捕虜に反撃されたらしょうがない。
もう一回痛い目を見てもらおう。
ゴブリン指揮官がこっちの手中にあるから、多分反乱は起こさないと思う。
ゴブリン種族は指揮官には意外と従うのだ。
動けないブレタン戦車2両は、75㎜野砲と迫撃砲の陣地の両側に配置。
動けるブレタン戦車は早々に前に出てもらった。
一番後ろにスポンジ戦車を配置して、ブレタン戦車を後ろから狙えるようにした。
裏切ったらいつでも撃てるような配置という訳だ。
陣形が整ったところでナミをゴブリン語の翻訳として間に挟んで、ゴブリン達と無線でやりとりしたんだが、その伝達方法に問題が発生した。
まず1つ目は、命令が通るまでに時間が掛かること。
俺→ナミ→ゴブリン指揮官→ゴブリン兵となるのだ。
そして2つ目は、俺が言いたい事がちゃんと末端のゴブリン兵まで伝わらないこと。
まるで伝言ゲームだった。
そして3つ目がゴブリン製の無線機の性能が悪いことだ。
ノイズが酷く、無線範囲も狭いのだ。
だからと言って今更ゴタゴタ言ってももう遅い。
巨大魔獣は目の前まで迫っている。
これでやるしかない。
そんなことしてる間に砂漠竜は速度を増し始めた。
残念だが俺の仕掛けた罠は通ってくれないみたいだ。
俺の仕掛けた罠の真横を通っていやがる。
砂漠竜は4つ足の巨大トカゲなのだが、突然蛇のように蛇行しながら動き出した。
しかもさらに速度がまして物凄い速さだ。
距離にして1000くらいどろう。
砂漠竜の全長は30mってところか。
しかし、でかすぎるだろ!
「ぜ、全砲門、撃てっ」
スポンジ戦車の37㎜砲と75㎜砲が発射された。
ギリギリまで引き付けて撃つつもりだったんだが、あまりに巨大でたまらず発射の合図を出してしまった。
スポンジ戦車に少し遅れて75㎜野砲や82㎜迫撃砲、そしてブレタン戦車の47㎜砲も盛大に撃ち始めた。
結構な速度で動いてるので普通ならそう簡単には命中しないのだが、今回は標的がでかい。
ゴブリンの操作する武器でも思った以上に命中している。
といっても元々のゴブリン捕虜に対する期待のハードルが低いから、たまに命中しても「なかなかやるな」と思ってしまう。
10発撃って1発当たればもうけものくらいの気持ちだ。
スポンジ戦車の37㎜砲は初弾から命中した。
だが跳ね返されたようには見えないのだが、効いているようにも見えない。
75㎜砲も初弾から命中したのだが、こちらは背中に命中したのを確認し効果が見えた。
命中した途端に砂漠竜が首を仰け反らせて咆哮をあげ、明らかに痛がったのだ。
しかし走る速度は全然変わらない。
ブレタン戦車の47㎜砲も、スポンジ戦車の37㎜砲と効果はあんまり変わらない様に見える。
つまり効いていないんじゃないだろうか。
75㎜野砲はどうかというと、かなりきわどい至近弾を1発浴びせただけで、命中というような有効弾は1発もない。
82㎜迫撃砲に関しては動く標的には無理があったようだ。
やばいな、このままではオアシスに突入されちまう。
「ナミ、足だ。前足に狙いを定めるように伝えてくれ」
仕留めるというよりは、足止めを狙った攻撃に切り替える。
こういった場合では、ミウよりもタクの方が使える。
ミウは命中の魔法を使えば必中だが命中場所は選べず、タクは必中ではないけど細かい箇所を選んで狙える。
だから俺が足を狙うように指示したんだが、タクの照準力の方がミウを上回った。
タクは37㎜砲をガンガン前足に命中させてくれるのだ。
ミウは命中魔法を使わない射撃をするのだが、75㎜砲は地面の砂を巻き散らすだけで全然命中しない。
たまに当たっても足ではなくて胴体だ。
ミウは普通に胴体を狙ってもらおう。
その方が当たる。
距離500くらいまで近づいて来た辺りから、砂漠竜の動きが急に鈍り出した。
左の前足を引き擦り始めているのだ。
ゴブリン捕虜はさすがに距離500まで接近されるとビビってしまっているらしく、数匹が逃走しようとするのだが、足首がロープで縛られているからそれは無理だ。
小隊長クラスのゴブリンに引っ掴まって、無理やり戦闘に戻されている。
「ナミ、聞こえるか。動きが鈍ってきたぞ。もうちょっとだ。左前足を負傷させたみたいだ。もっと左前足に撃ち込むように言ってくれ」
『了解です。少しゴブリン指揮官に圧力を掛けます。以上』
圧力ってなんだよ。
いや、聞かなかったことにしよう。
数秒後、目の前まで来た砂漠竜が向きを変えた。
やった、逃げ始めたぞ!
あ、そっちは……
砂漠竜が進路を変えてしばらく進んだところで、盛大に爆発が巻き起こった。
砂漠竜が俺が仕掛けた迫撃砲の地雷原に入り込んだのだ。
それも負傷している左前足ではなく、右前足で罠を踏み抜いたみたいだな。
爆発とともに砂漠竜は右前足の指が数本吹き飛んでしまい、4つに割れた口を天に向かって大きく広げると、長い雄たけびを上げた。
しかし息絶えた訳ではない。
まだ歩こうと前足を前に出すのだが、両足ともに負傷してしまっているため上手く踏ん張ることが出来ない。
片足を1歩前へ出した途端に上半身を支えることが出来ずに、顎を地面に打ち据えて砂が舞う。
「よっしっ。これで勝ったも同然だ。頭に75㎜徹甲弾をぶち込むぞ」
砂漠竜の頭を狙える場所へとスポンジ戦車を走らせた始めた途端、どこから飛んできたのか、砂漠竜の上半身へと多数の砲弾が降り注いだのだった。
題名変更ラッシュは終了のようです。
しばらくはこの題名でいきますが、もしかしてまたタイトル変更なんてこともあるかもしれません。
まだ未定ということで。
次回もどうぞよろしくお願いします!




