119話 新兵訓練
ちょい長です。
捕虜にしたゴブリン10匹を地上に出して1か所に集めるのだが、ゴブリン達はキョロキョロしている。
何かを探しているようだ。
ナミにゴブリンの様子が変じゃないかと聞いてみると、そっと小さな声で返ってきた言葉が――
「多分ゴブリンの将校を探しているんだと思います。私はゴブリンの将校だと名乗って降伏を命令したんでそのせいかと」
――姿が見えないからとゴブリン将校を名乗るとは、ナミ恐るべし!
それよりもナミのゴブリン語ってそこまでネイティブな発音なのかよ。
ゴブリン捕虜達にバレる前にと思って、とっととロープで縛って動けない様にした。
ナミによるとわざわざ声色を変えてゴブリンの雄っぽくしたそうだ。
そんなこともできるんかい。
さて、それよりもこいつらをどうするかだ。
ますは聞きたいことがあるんだよね。
「ナミ、こいつらに尋問して欲しい事があるんだけど頼めるか」
「はい、構いませんけど。何を聞けばいいんでしょうか」
「こいつらがここに来る前にいた人族がどうなったかだ」
ゴブリンがこのオアシスに侵攻する前には、ここに人間の守備隊と簡易宿泊所を管理する人達がいたはずなのだ。
「確かにそうですね。それでは早速聞いてみましょうか」
俺が言ったことを訳しながら尋問をするかと思ったんだが、あれよという間にナミが勝手に尋問を進めだした。
その内容はゴブリン語なので理解できないのだが、先ほどの降伏勧告したときの声とは明らかに違う。
むしろ今の方がドスが効いている話し方に感じるんだが。
それで尋問なんだけど1匹づつ別室でというのではなく、他のゴブリンにも見える様に尋問をしている。
1匹目が酷い目に合っているのを見れば、2匹目は恐怖してすぐにしゃべるだろうという考えらしいのだが、1匹目からあっさり質問に答えまくっていた。
捕虜になった時の対処など全く教えてもらってないかのように、聞いてもないことまでペラペラとしゃべっているらしい。
ナミも拍子抜けだったようで、ゴブリンに質問しながらも呆れ顔を俺に向けてくる。
尋問の結果わかった事は、まずはここにいたゴブリンの守備隊は予備部隊だったようで、緊急招集されたような2戦級の部隊らしい。。
ただし、戦車部隊だけは違ったようだ。
ここにいた2両の戦車は、このオアシスを占領するときに攻撃参加した戦車部隊の内の2両で、精鋭部隊ということだ。
ゴブリン軍の中でも有名な、『紅蓮戦車隊』という腕の立つ戦車兵ばかりを集めた部隊だという。
どうりで手強かったわけだ。
勝利はしたんだけど、戦車の性能の差で勝った気もするし。
そういえばここを守っていた人間側の守備隊はどうしたんだろう。
それをゴブリンに聞いたところ、悪ぶりもせず普通に答えた。
それをナミが言いにくそうに訳した。
「全滅させて砂漠に埋めたと言っています……」
今更だが、なんて奴らだ。
弱くてもやはりゴブリンに変わりないんだな。
となるとここを俺達が出ていくと無人地帯となってしまうわけか。
待てよ、ここって無線が届かない場所だから定期的にパトロールが来るはずだよな。
いや、待て、ゴブリンが占領したってことは、奴らのパトロール部隊も定期的に来るってことだよな。
それを聞きださないといけないよな。
「ナミ、ゴブリンの定期パトロールはいつ来るか聞いてくれるか」
その結果、2日後らしいということを聞き出せたのだが、ナミ曰く、ゴブリンの時間約束はいい加減らしい。
だから本当に2日後に来るかどうかは怪しいとのこと。
遅れることもあれば早まることもあるという。
人間側のパトロールがいつ来るか知ることができればいいのだが、それを知るためには壊した建物の瓦礫の中からその資料を掘り起こさないといけない。
もしくは生き残りが入ればいいのだがそれは無理な話だ。
これはゴブリンのパトロールが来る前にここを出発するしかないな。
俺が即決でここを出発しようとしたのだが、ナミの言葉で俺の気持ちが揺らぐ。
「ケン隊長、本当にいいんですか。このオアシスを軍に引き渡せば謝礼金が貰えます。ハンター協会に渡しても報奨金が貰えますよ」
そうか、ゴブリンが占領していた地を俺らが奪い取った形にになるのか。
それで報奨金が貰えるのか。
「えっとナミ、幾らくらい貰えるのかな?」
ナミが少し考えながら答える。
「そうですね、はっきりとした金額は判断できませんが、この辺りにはオアシスがあまりないですからねえ……100万シルバってところじゃないですかね。あくまでも予想ですからね。参考までにお願いします」
なんと100万シルバ!
スポンジ戦車よりもっと良い戦車が買える!!
反対にエミリーは「借金が減らせるよ」とかいってるが、人数の8人で分けたら大した金額じゃない。
むしろ、メンバーの“ドランキーラビッツ”のクラン専用戦車の購入と考えれば、新しい強力な戦車が買えるということで、報奨金を分割しないで有効に活用できるんだが。
でも今はそれを議論してる場合でもないか。
でもな、ゴブリン軍がここを狙って本格的な部隊を派遣してきたらきついぞ。
なんせこっちは8人しかいないし、武器と弾薬もあることはあるが、このオアシスを長期間守り切るだけの量には程遠い。
それに水の量だ。
井戸が枯れかかっている。
持って来た水を入れてもそう長くは持たない。
捕虜のゴブリンにも最低限の水は与えなきゃいけないだろうし。
最悪、ゴブリン捕虜に水を与えないということも考えたんだが、恐らく俺達には水を欲しがる者にそれを与えないなんてことは出来そうにない。
それがゴブリンだとしてもだ。
出来るとしたらコボルトの2人くらいだと思う。
味方パトロールがゴブリンよりも先に来てくれればいいのだが、そうとは限らない。
これは全員で会議をして今後どうするのか決めるしかないか。
そして会議で決まったことは、2日後のゴブリンのパトロールが来てから撤退ということになった。
ゴブリンのパトロールが来ても直ぐに本隊はこない。
本隊を呼びに行っている間に俺達は撤退するという作戦だ。
どうせゴブリンのパトロールなんて4輪駆動ジープが2台くらいだろうから、敵戦力的には問題ないし逃げるのも容易いはずだ。
そして反対に、ゴブリンのパトロールが来る前に、人間側のパトロールが来れば俺達の勝利という訳だ。
そもそも俺達の装備する無線の届く場所まで来たのなら、すぐに無線連絡で緊急事態を教えられるのだ。
そうなればすぐに援軍を呼んでもらえるはずだ。
つまり今回の作戦はすぐに諦めて撤退はせずに、ギリギリまで人間軍が来るのを待つという他力本願な作戦といわけだ。
水の量もそれくらいなら問題ない。
というよりも足らせる。
上手くいけば戦闘しなくてお金が手に入る。
そういえばここにいた、人間の守備隊が持っていた武器や弾薬はどうしたんだろうか。
あれば規格が同じなので俺達の武器の弾薬で利用できるんだが。
ナミを通してゴブリンに聞いてみたところ、埋めたという答えが返ってきた。
早速その場所をゴブリン捕虜に掘らせたところ、使えそうなものはほとんどなかった。
でも人間の規格のものだったので、弾薬に関しては使えるものが結構ある。
手榴弾、にライフル銃が少し、そして結構な量の機関銃弾はスポンジ戦車の機銃にも使えてありがたかった。
対戦車砲用の57㎜や75㎜の砲弾もたくさんあったのだが、肝心の対戦車砲が完全に破壊されていて使い物にならなかったのが残念だ。
ちなみに75㎜対戦車砲弾は、スポンジ戦車の75㎜砲には長すぎて薬室にはいりませんでした。
しかし、これだけの砲弾があるのに使わないのはもったいないよなあ。
それに82㎜迫撃砲弾も腐るほどあるのに、迫撃砲自体はゴブリンが使っていた1門しかないときた。
砲弾がもったいないよな。
まてよ、良い方法を思いついたぞ。
そんな事をしているとあっという間に陽は暮れてしまい、砂漠のオアシスで初めての野営をすることになった。
ゴブリン捕虜は再び地下室に閉じ込めれば問題ない。
順番に歩哨を立てて眠りにつくのだが、と~ってもに寒い。
話はあらかじめ聞いていたのだが、その想像を遥かに超えるくらい寒いのだ。
昼と夜との寒暖の激しすぎる。
昼間は40度を超える暑さで、戦車の車体に直接触れると火傷するくらい熱い。
しかし夜になると、場合によっては水が氷るほどの温度にまで下がることもあるほどの厳しい温度差だ。
温度差40度って!
この寒暖差に身体が着いていけず、翌朝には体調不良となった。
だからといって休んでいられるほど余裕はない。
いつゴブリンパトロールがくるかわからないからね。
もちろん寒さの厳しい時間である早朝は、コボルトの2人に歩哨をお願いした。
彼女らは暑さに弱いが寒さには強い種族だからだ。
陽が昇ると一気に気温は上昇する。
夜は寒くて寝られないのに、今度は暑くて眠れなくなるのだ。
そうなると毛布にくるまっていられなくなり、誰もが起きだしてくる。
そして早朝から陣地づくりに励むことになる。
最低限の防備は固めておきたいからね。
でも絶対的な人数が少ない。
そこで俺は考えましたよ。
ゴブリン捕虜をうまく使えないかってね。
それで今、それの練習中だ。
ゴブリン捕虜10匹には足首にロープを結んで全員繋がった状態だ。
1匹だけでは逃げられない。
その状態で75㎜野砲と82㎜迫撃砲を操作させようというのだ。
もちろんゴブリン捕虜の後ろからは、ナミが命令を出しながらポトが機関銃で狙っている。
そもそもゴブリン捕虜が逃げる場所などない。
周りは砂漠でここがこの辺りで唯一のオアシスなのだ。
最初は抵抗していたゴブリン捕虜も、目の前に水ちらつかせたら従順に従うようになった。
『お前ら糞虫を今から鍛えなおす。私の命令は絶対だ、わかったか、そこの糞芋虫!』
『はい、わかりました』
『違う、誰に向かって言ってるか! 返事の前後には“サー”を付けろ、糞芋虫が!』
『サー、イエス、サー!』
これらの言葉はあくまでも想像ですが、こんなブートキャンプなように俺には見えました。
ナミさん、怖いです……
それでも戦力が十分という状況ではないので、オアシス中央に戦力を集中することにして、現在壊れてしまった防御陣地を修復中である。
もちろん武器の操作練習に加えてゴブリン捕虜の肉体仕事だ。
そして次の日の昼すぎだったと思う。
砂漠の遠くに砂埃を舞い上げながら近づいてくる部隊を発見した。
少しでも閲覧数を上げようかと、題名を変えました。
それでもまだこれはという題名が思いつかないので、まだまだ変更の可能性はあります。
すいませんがそこのところも含めて、今後ともよろしくお願いします。




