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徹甲弾装填完了、照準OK、妹よし!  作者: 犬尾剣聖


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112/282

112話 砂漠の飛蝗

いつもよりもちょい長めです。





 大岩近くの敵野砲の陣地へ突入すると、生きた敵ゴブリン兵はすでに逃走していて誰もいないようだ。

 エミリーは野砲を蹂躙して潰すと、その場で1回転して周囲を見回す。


 敵ゴブリンがいないのを確認すると、今度はオアシス中央へと進み始める。

 中央にあった野砲を潰しに行くのだろう。


 俺は砲塔ハッチから顔を出して双眼鏡でブレタン戦車がどうなったかを確認すると、すべてのハッチが開けっ放しになっていて放置状態だ。

 どうやら生き残ったゴブリン戦車兵は逃げたようだ。

 ん、でも待てよ。

 逃げる?

 不思議に思って何気なくタクに問いを吹っ掛けてみた。


「なあタク、ゴブリン兵が逃げ出すのはいいんだけどさ、この砂漠に囲まれたオアシスでどこに逃げるんだと思う?」


「確かにそうですけど、このオアシス以外に逃げるとこないですよね。ってこと味方の陣地ですかね。近くに逃げ込めるような建物があるんじゃないですか」


「建物か。確かにあってもおかしくないよね。一応ナミに無線で聞いてみようか。何か知ってるかもしれない」


 早速無線でナミにこのオアシスの知っている情報を聞いてみたところ、オアシス中央に唯一の建物があるはずだという返事だった。

 建物はそこにしかなく、水源もその近くだという。

 各種設備もそこにしかないらしい。


 それなら中央を占拠できれば水源はこっちのもの。

 そうなれば残りのゴブリン共も降伏してくるだろう。


「よし、中央の水源と建物を占拠するぞ」


 俺達はオアシス中央部へと進んでいく。


 中央の建物は直ぐに見えてきた。

 白いレンガ造りの2階建ての建物だ。

 監視塔らしきものもあるのだが、その塔は破壊されていて機能していないようだ。

 ゴブリンが占拠する前まではちゃんと機能していたんだろうな。

 壊されてからそれほど時間は経っていない様に見える。


 その建物から銃撃が始まった。


「おわっと、建物にゴブリン多数」


 スポンジ戦車の砲塔に銃撃を喰らい、俺は慌てて砲塔内へと首を引っ込めた。

 機関銃の弾丸が戦車砲塔を叩く音がうるさい。


 建物の近くに水源があるって言ってたな。

 そしたらあまり破壊力のある砲撃はまずいかもしれん。

 37㎜の散弾と機関銃で攻めるか。


「水源があるから穏便にゴブリンを排除する。37㎜の散弾と機関銃でいく――えっと、エミリー?」


 やはりというか、エミリーは俺の話など聞く気がないようだ。

 

 スポンジ戦車は速度を緩めずに建物へと真っすぐに突っ込む体制だ。

 

 スポンジ戦車の前方固定機関銃が、建物の中央にある窓へと集中的に弾丸を浴びせていく。

 徐々に外壁が削られて四角かった窓が丸くなっていく。


 車体にカンカンと撃ち込まれる弾丸の音が今や行進曲にすら感じる。

 それに交じって対戦車ライフルらしき銃弾も時折撃ち込まれて、機関銃弾とは違った音を奏でて臨場感を高める。


 野砲を発見した。

 その砲身は砂漠の砲を向いていて、こちらには直ぐに撃てない体制だ。

 これならいける。


 スポンジ戦車は機関銃弾で脆くなった壁へ正面からと突入した。

 

 凄い衝撃と車体上面に外壁やらが崩れ落ちてくる音が聞こえる。

 このまま身動き取れなくなるとか勘弁なんだが。

 

 スポンジ戦車は建物を破壊しながらそのまま建物の反対側に抜けて停止した。


 するとスポンジ戦車のエンジンのアイドリング音だけがオアシスに響く。

 白い建物からはパラパラと小さな瓦礫が崩れ落ち、今にもすべてが崩れ落ちそうな雰囲気だ。

 

 それよりも、この辺りってこんなに静かだったのか。


 一瞬の間をおいて再びスポンジ戦車は走り出す。


 走り出すと同時に建物が一気に倒壊して辺りに粉塵を巻き散らした。


「あ~あ。やっちまったよ。屋根付きの寝床もこれでなしだな」


 俺が漏らした言葉に誰もが同意するように無言で頷いていた。


 すると突然スポンジ戦車のエンジンが止まった。


 みんなの視線がエミリーへと集中する。


 すると操縦席でエミリーは組んだ両手を伸ばしながら背筋を伸ばし、同時に大あくびをかました。


「ふあぁ、燃料切れ……私もお腹空いた」


 申し合わせたように一斉に大コケする面々。


 いやいや、燃料切れはまずいな。

 まだオアシスの反対側の野砲陣地が残ってるんだよ。

 しかしこうなったらしょうがない。


「よし、エミリーとケイはここで警戒にあたってくれ。それと輸送トラックを呼んでくれ。他のメンバーはこの辺りに燃料がないか偵察だ。ついでに水源も確認ね。敵がまだうろついてる可能性もあるから注意してな。よし、いくぞ」


 ミウとソーヤの2人、俺とタクの2人でそれぞれチームを組んで探索に出た。

 探索と言ってもそれほど広い範囲ではない。

 周囲20~30mほどだ。

 エミリーにはコボルトの2人に無線を入れてこの場所に誘導してもらう。

 コボルトの2人もいつまでも砂漠の中では辛いだろう。




 探索開始して間もなく、水源は直ぐに見つかった。

 

 壊れた建物から少し離れたところに井戸があった。

 確認したところそれほど水量はないが生きている井戸だ。


 燃料貯蔵のタンクも発見した。

 発見に時間が掛かったのは、倒壊した建物の横の地下に燃料タンクがあったからだ。


 タンクに入っている燃料もそれほど多くはなかったのだが、輸送トラックに積んである燃料を使わなくてもよさそうなのは助かる。


 水も燃料も確保できたし、あとは残るゴブリンを追っ払ってしまえばいいだけだな。

 よし、少し落ち着いたことだし歩いて偵察に行くか。


「タク、ソーヤ、ケイ、偵察に行くから準備して」


 3人にも少し経験を積ませないとと思って声を掛けると、結構やる気十分な表情で返事が返ってくる。

 ただし、それはタクとソーヤの2人だけだ。


「ケイ? もしかして偵察行くの嫌なのか。ケイも冒険者になりたくてなったんだろ。偵察くらい慣れておいた方がいいぞ」


 俺の言葉にケイが仕方なさそうに偵察の準備を始める。

 タクがこっそり教えてくれたんだが、ケイは偵察が嫌というのではなく、単に日陰で休みたかったらしい。

 本当は水浴びでもして体を洗いたいらしいがそれもできず、せめて髪の毛くらいは洗う代わりにオイルで整えたいらしい。

 そこはやはり女の子なんだな。


 そこでしょうがなくケイ待ちの休憩となり、その間にケイは入念に髪の毛に俺達の知らないオイルを塗りたくっている。

 20分ほどの休憩で俺達は偵察に出た。

 

 距離的には敵の野砲までは100mほどしかない。

 ただし草木が結構な量で視界を遮っている。

 高い木になると10m弱ほどの高さがる。

 この砂漠のど真ん中では異常な光景だ。


 草木が生えていれば魔物も生存している。

 といってもこの狭い区画なわけで、魔物もせいぜい10㎝程の小さい種類しかいない。

 しかしそれでも魔物は魔物である。

 人を見れば襲ってくる。


 少し歩く都度にケイの悲鳴が響き渡る。

 はっきり言ってうざい。

 それに俺達の現在位置を事細かに敵へ教えているようなものだ。

 お忍びで行く隠密偵察の意味が全くない。


 今までは虫系魔物を嫌がってなかったはずなんだが、なぜ今更そこまで怖がるんだよ。

 そう思っていたら、「見たことない虫系魔物だから慣れてない」っていう理由らしいとタクが教えてくれた。

 ああ、くそ面倒臭いったらありゃしない。

 

 そしてケイがバッタ系魔物に悲鳴を上げたその時だった。


 敵がいる方向から機関銃掃射を喰らったのだ。


「伏せろ、伏せろ。敵に見つかったぞ!」


 ケイはバッタを頭に載せたままその場に伏せる。


「誰か、助けて……頭にバッタさんがぁあああ」


 赤と緑の斑模様まだらもようという気味悪い色合いの魔物バッタが、ケイの頭の上に鎮座したまま微動だにしない。

 そのバッタ、この種類にしては異常な大きさの20㎝だ。


 ケイの頭に留まっている姿を見ると、ちょっと珍しい帽子のように見えなくもない。


 しょうがなく、近くにいたソーヤがバッタに銃を向けるのだが、それをケイが「やめてよ、怖い怖い」と銃を向けるなと言うし。

 それならばと今度はタクがナイフを取り出してライフル銃に着剣して、銃剣で以ってバッタを薙ぎ払おうとすると、やはりケイは「何するのよ、私も死んじゃうじゃないの!」と怒り出す始末。


 いい加減、俺も腹が立ってきたのでケイはいない事にして、匍匐ほふくしながら迂回する。


 ソーヤとタクもどうでもよくなったらしく、ケイから離れていく。


 するとケイ。


「何、どうゆこと? え、え、バッタさんはどうするのよ? ねえ、ねえ、おかしくない? 私を置いてっちゃうの?」


 そのケイの言葉が耳に入っているのだが、敢えて無視して先へと進む俺達3人。

 するとケイがさらに騒ぎ出す。


「どーして置いて行くの~~! どーしてそんなにー意地悪するのよ~~!」


 もはやスピーカー状態だな。


 次第に銃弾がケイに集中し始める。


 するとケイの頭の上のバッタがまるでケイの戯言たわごとに合わせる様に「ギチギチッ、ギチギチッ」と鳴き始めた。


 驚いたのはケイだ。


 悲鳴を上げながら立ち上がると、あろうことか敵陣方面へと走り出した。


 ケイが走りだすとバッタの鳴き声がさらに大きなものへと変わっていく。


「いっやぁ~~、やめて、やめて、やめて~~、ごめんなさい~~い~~」


「ギッチギッチ、ギチギチギチギチッ!」


 そのバッタの声に呼応したのか、ケイの声に呼応したのか判らないが、オアシス周辺にいる同じ種類のバッタが羽を広げて飛び始め、ケイに集まり出した。


 その数はあっという間に数百の群れへと変貌し、ケイの周囲を囲うようにして飛び回る。


 もはやその群れを率いているのはケイにしか見えなかった。


 それを見たタクがつぶやく。


「ケイ、すげえ……むしの女王だ」


 ケイはというと、バッタの群れに襲われると思ったのか必死に逃げる、逃げる。

 その方向がたまたまゴブリンの野砲陣地方面だったにすぎない。


「ああ、くそ。本当に面倒な奴だよな。しょうがない、バッタ――いや、ケイを掩護するぞ」

 

 この状況でケイを放って置くことはできなくなった。

 ケイが一人、いや群れで突撃するのを掩護するように、俺達はゴブリンへと銃を撃ち始めた。


 ケイがゴブリン陣地へと近づくと、どうしたことか遮蔽物しゃへいぶつに身を隠していたゴブリン兵が突如として逃げ出し始めた。

 それはもう一斉にだ。

 ゴブリン兵はバッタを恐れているのだろうか、それともケイを恐れているのだろうか。


 奥に野砲陣地があるらしく、そちらの陣地へと撤退したという感じだろうが、俺達には「撤退」という言葉よりも「逃走」の言葉の方がしっくりきた。


 ケイはバッタの群れを引き連れたままゴブリンがいなくなった塹壕ざんごうへと飛び込んで、その中でうずくまった。

 するとケイの頭に留まっていたバッタが羽を広げて飛び立った。

 バッタの群れを引き連れて、ゴブリンの後を追うように。


 

 


 





 第2次大戦中にM3中戦車のリベット構造は、被弾したときに車内にリベットの破片が飛散する事故があったらしく、後に鋳造車体が設計されたそうです(111話でのエピソードの補足です)。


 今回砂漠の話でバッタを登場させるにあたって、砂漠にバッタはいるのかと思い検索したら、何種類かヒットしたので魔物として心置きなくバッタを登場させました。

 

 実はそこそこ裏を取りながら執筆してるんですよ。

 まあ、最終的に「異世界だから」って言ってしまえばそれまでなんですけどね。





 ということで次回もよろしくお願いします。

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