110話 オアシスからの攻撃
俺達の乗るモデル3戦車から右に10mほど離れたところに砲弾は着弾した。
「な、なんだ? 砲撃? ど、どういうことだよ」
俺が思わす声に出した同時に第2射が俺達の戦車の右5~6mの所に着弾した。
すると無線でコボルトのナミから連絡が入る。
「オアシスにゴブリンの臭い多数!」
くそ、オアシスがゴブリンに占拠されてるようだ。
ゴブリンめ、こんな暑いところにまで出るか、どこにでも湧いて出てくるなこいつらは。
「エミリー、10時方向へ全速。75㎜と37㎜は両方とも榴弾装填。砲塔はオアシス中央に向けて」
車体の向きは10時方向なのに砲塔は12時方向を向けられる。
いやあ、これだよこれ。
砲塔がある戦車なら当たり前なんだけど、今までが自走砲だったからこの状況にちょっと感動する。
しかし75㎜砲は砲塔ではなくて車体右側に装備されているから、射界が狭くてオアシス中央部へは向けられそうにない。
それでもオアシスの左端にならなんとか射界が届きそうだ。
砲塔のハッチから顔を出して双眼鏡で観察していると、発射炎が幾つか見える。
発射炎からして火砲類は3門と予想。
中央と左右の端っこにそれぞれ1門ずつの配置らしい。
爆発の規模からいって75㎜野砲ってところか。
「75㎜砲はオアシス左端の岩のたもとの火点を通常照準。距離2500.姿が見えないから威嚇射撃のつもりで当たらなくてもいいぞ。37㎜砲は中央の発射炎の辺りを狙え。37㎜砲にしてはちょっと遠いが届けばそれでいい」
俺が車内無線で伝達すると直ぐに返答が返ってくる。
「75㎜装填よし」
「37㎜装填OK」
「75㎜照準、いつでもいいです」
「37㎜砲もいつでも撃てます」
この戦車、車内が広くて声が届かないかと心配していたが、しっかり車内無線なんていう高級な装備がついていたのだ。
これは便利。
その間にもゴブリンからの砲弾が次々にモデル3戦車の近くに着弾し、砂塵を舞い上げていく。
この距離で撃ってくるとは戦い慣れしてないな、ここのゴブリンは
引き付けて一斉攻撃っていう作戦を取られたらやばかった。
コボルトのナミ達の輸送トラックはというと、砂丘の窪みに隠れて停車している。
おかげで俺達が完全に集中砲火だがそれはそれで良かった。
補給物資満載のトラックをやられたら終わりだからな。
「75㎜砲発射、続いて37㎜砲も撃て!」
発射煙を残して75㎜砲弾が発射され、その次に少量の発射煙を残留させて37㎜砲弾が発射された。
75㎜m砲は砲身が短く初速が遅い。
ゆっくりとした速度で砂漠の空を砲弾が飛んでいく。
その点37㎜砲は初速が早いため、通常ならば真っすぐに目標まで飛んでいくのだが、今回は有効射程距離よりも遠いところが標的だ。
山なりに砲弾は飛んでいくが、それでも75㎜砲よりも早く着弾した。
75㎜砲弾は標的の発射炎には命中しなかったが、そのすぐ近くの大きな岩には命中した。
弾種は榴弾だったので、大岩に命中と同時に爆発して大量の破片を周囲に撒き散らす。
だけど敵への被害はオアシスの草木で確認できないが、一定間隔で射撃していた砲のリズムが一瞬狂った事から、確実に近くに潜んでいることは予想できた。
37㎜砲弾は残念ながら標的に指示した火点よりも、数十メートル手前に着弾した。
「タク、外したぞ。奥へあともう30ってところだ」
すると悔しそうに砲手のタクがつぶやく。
「ああ、負けた。ケイ、すまん」
どうやら75㎜砲チームと競っているらしい。
競い合えば成長も早いって言うし、それは良い傾向なのかもね。
しかしミウの射撃能力もだいぶ向上してきたよな。
「次も榴弾装填、急げ」
各装填手から装填完了の連絡が聞こえたころ、大きな爆発と共に車体が大きく揺れた。
女性陣から小さな「きゃっ」という悲鳴が、男共からは「うわっ」という声が漏れる。
「くそ、車体右側後方に敵砲弾着弾――」
俺は砲塔ハッチから身体を乗り出しながら車体側面の様子を見る。
「――大丈夫だ。焦げ跡が付いているみたいだけど、ここから見た感じだと被害はない。しかし発砲炎が見えなかったんだよな。何処から撃ってやがる」
俺は双眼鏡で念入りにオアシスを観察する。
するとまたしても発砲炎が確認できないまま敵砲弾が着弾。
しかし今度は数十メートルも後方に着弾した。
なんだ、迫撃砲じゃねえか。
砲弾は上空から降ってきた感じだったからだ。
驚かせやがって。
ということはさっきのはまぐれか。
迫撃砲を使って1両しかいない戦車を狙うとはかなり素人だな。
「敵は迫撃砲も持っているみたいだけど、まず潰すのは野砲からだ。このまま突っ込むぞ。ただ野砲以外にも気を付けろよ。接近したら速射砲を撃ってくるなんてこともあるからな。最初に一番左にある大岩のとこにある野砲を潰す」
どうやら中央と右側にあった野砲の射界からは逃れたようで、売ってこなくなった。
これならいける!
「エミリー、進路変更。オアシスへ吶喊!」
「へへへ、がってん、待ってましたっ」
がってんってなんんだよ。
エミリーが嬉しそうに返答した。
大岩の近くに陣取っている野砲の着弾の精度が、近づけば近づくほど良くなっていく。
このまま近づいたらちょっとまずいかな。
まぐれでも当たったらただじゃ済まないからな。
「全砲門、目標大岩の火点、距離1500。撃ったら10時方向へ進路変更。オアシスの後ろへ回り込む」
俺の指示にエミリーだけが「えええ、吶喊~~」とか言ってるけど、そこはお約束で放って置く。
「照準よし」の連絡がきたところで75㎜と37㎜の砲弾を一斉発射命令を出す。
「撃て!」
同時に撃つと車体への衝撃も凄いな。
車体が激しく振動し、車内には砲煙の臭いが立ちこめる。
75㎜砲弾と37㎜砲弾は大岩近くの火点と思われる個所へ着弾した。
「命中、続けて榴弾をお見舞いする。次弾装填」
命中といっても敵の火砲が見えているわけではないので、大まかな範囲での命中だ。
榴弾発射なので近くに着弾すれば、野砲を取り扱う生身のゴブリンへの爆風と破片での被害が期待できる。
あわよくば恐怖でゴブリンが逃げてくれたらラッキーだ。
それにその言葉の意味は乗員のモチベーションにも影響する事から、ここは『命中』と言って問題ないだろう。
その後、速度を落としながら2~3発叩き込んだら大岩の火点は沈黙した。
後方へ回ると敵の4輪駆動車がちょうど発進していくところだった。
「砲塔機銃、あの4輪車を狙え。逃がすなよっ」
タクが自信ありげに砲塔を回転させながら答える。
「了解、機関銃射撃なら任せて下さいよ~」
37㎜砲と同軸に7.62㎜の機関銃が装備されている。
その機関銃は37㎜砲手であるタクが取り扱う武器だ。
走り出した4輪車両はゴブリン将校が2匹乗っているらしい。
砂塵を巻き上げて走って行く4輪車の後方から、機関銃の銃弾がそれを追いかける様に着弾していく。
逃げる4輪車両の後部から前部のボンネットへと、機関銃弾が駆け上がるように着弾した。
すると一瞬でボンネットから火の手が上がり、砂丘から転げ落ちるようにしながら4輪車両は爆発炎上した。
「ナイス・ショット!」
俺は思わず賛辞の声を上げると、タクが拳を握りしめて喜びを表す。
続いてオアシスに目を移すと、チカチカとしきりに小さな発射炎が見える。
ライフル銃や機関銃の射撃が始まったらしい。
この距離で戦車に向かって撃ってくるとは弾薬の無駄遣いだよ。
「エミリー、お待たせ。オアシスに向かって全速前進!」
「お兄ちゃん、今度こそ本当よね。嘘ついたら怒るからねっ」
戦闘中なんだから嘘とかそういう言い方やめて。
エミリーは嬉しそうにオアシスへと車体を向ける。
あ、これって蹂躙するつもりだろ。
その時モデル3戦車のエンジンは、聞いたこともないような唸り音を発するのだった。
誤字脱字報告、並びにブックマに評価有難うございます。




