11話 魔獣の狩場
狩場の奥の方へ目指してミウが歩いて行く。
木は少なくほとんどが岩場で、足元がおぼつかない。
そんな足場に苦戦しながらも俺とエミリーは、辺りの警戒をしながらついて行く
実はこのロックヘッドは不人気な狩場として有名だ。
昔のロックヘッドの狩場はというと、色々と弱い魔獣が生息していて、初心者ハンターの人気の練習の狩場になってたって聞く。
それが今じゃ魔獣を狩りつくされてしまい、殆ど魔獣を見かけることがなくなった。
そうなるとハンターは寄り付かない。
それが証拠に、幾ら歩いても誰にも出会わない。
魔獣の痕跡さえ見当たらない。
本当にこんな場所で角ウサギが狩れるのか?
その前に護衛の俺達っていらなくね?
少し疑問を考える様になったところで、ロックヘッドの地名にもなった大きな人の頭に似た形の岩が見えてくる。
周囲1.5mほどで高さは3mはあるだろうか。
すると先頭を歩くミウが急に姿勢を低くする。
俺もそれにつられて姿勢を低くする。
エミリーが「へ?」という顔をしているので、強引に頭を押さえて姿勢を低くする。その上で黙って前方を指さす。
「お兄ちゃん、何するの――」
文句を言いかけたエミリーも、俺の指さす方向に視線向けて慌てて身を低くする。
ミウは姿勢を姿勢を低くしたままじっとその場を動かない。
俺は双眼鏡を取り出してロックヘッドの周辺を観察する。
まず目に映るのはロックヘッドの岩の上に腰を下ろすクロスボウを持ったゴブリンが1匹。
その周囲には6匹のゴブリン達が座ったりして休んでいる雰囲気だ。
岩の上のゴブリンは見張りっぽいな。
ゴブリンの装備はどれも共通していて、クロスボウと腰の小剣だ。
銃を持っている個体は確認できないが、拳銃くらいは持っているかもしれない。
俺は2人を側に来るように手招きし、今見た状況を小声で伝える。
「ミウ、エミリー、聞いてくれ。今双眼鏡で確認したんだけど、ゴブリンの集団がいる。全部で確認できただけで7匹。クロスボウを装備してる。岩の上の奴はたぶん見張り役だ。さて、それでだ。ミウ、どうするつもりだ?」
雇い主はミウだ。
一応彼女の意見を聞かないといけないい。
ゴブリンを襲うと言われたら反対するつもりだけど、まあこの装備でそれはないだろう。恐らくまずはこの場を離れて、ゴブリンが寄り付かない街道の近くに場所を移す判断をするんじゃないか。
街道沿いは人属の乗り物が通るからゴブリンは近づかない。あ、盗賊の類は別だけどな。
そのかわり狩場としては辛い。
金になる魔獣も近づかないからね。
そう思っていると、ミウが凄く悩んでいる様子。
そして出した答え。
「奇襲を仕掛けますが手伝ってもらえますか?」
「「は?」」
俺とエミリーは同時に驚きの声を漏らした。
エミリーも引き返すと思ったんだろう。
驚きの表情のままミウを見つめている。
ゴブリン7匹くらいならなんとかできそうな気もするけどさ、近くにまだ仲間がいる可能性もあるしね。
それにもしもの場合を考えるとね、逃げ道が俺達は無いんだよ?
だってバスでここまで来たんだよ?
逃げようにもバスが来るまで待つしかない。
色々と言いたいことがあったんだけど、俺が意見を言う前にミウが言葉を続ける。
「ごめんなさい。私どうしてもお金が必要なの。でもこんな装備しかないから……でも射撃には自信があるの。足手まといにはならないから、お願い。一緒に戦って!」
呆気にとられました。
でもなんとなく理解した。
射撃が得意っていうくらいだから稼ぐにはハンター稼業が手っ取り早い。
でもお金が無いからまともな装備が買えない。
それでもお金が必要なので、大した装備でなくても稼ぎにいかなくてはいけない。
しかし装備が貧弱だと護衛の仕事も中々ありつけない。
それで手っ取り早く狩場に出かける。
腕さえあれば護衛を雇っても黒字にもっていける。
エミリーが困った様子で俺を見る。
俺は返答に悩む。
3対7の戦いだ。
奇襲に成功すれば最初の攻撃で半数のゴブリンだって倒せる。
上手くそのまま混乱に陥ってくれれば全滅も可能だ。
だって相手はゴブリンだからな。
「わかったよ、ミウ。ゴブリン共を蹴散らそう。金に困ってるのは俺達も同じだしな」
ミウの表情がパッと笑顔で答える。
「ありがとうございます。それじゃあ早速突撃しますか?」
まて、何を言ってるのこの子は?
「えっと、そうだな。まずは見つからない様に出来るだけ接近する。それで遮蔽物がある安全な場所を確保する。エミリーとミウはそこで陣取ってくれ。俺はさらに接近して手榴弾を投げ込むから、それを合図に攻撃開始ね。エミリーは真っ先に魔法で見張り役のゴブリンを倒してくれ。それと深追いはしないこと。安全第一ね。いくら敵がゴブリンといっても絶対に油断はしないこと。いいね」
ミウがちょっと面食らってる感じだ。
戦闘慣れしてないみたいだな。
ミウが少し恥ずかしそうにしゃべり出す。
「あの、私、狩猟の経験はあるんですが、ゴブリンみたいな人の恰好をした魔獣との戦闘は経験がなくて……」
やはりそういうことね。
「ああ、大丈夫。少し離れたところからそのショットガンで援護してくれればいいから。近接戦闘は俺がこの短機関銃でやるから安心してくれ」
「護衛で雇ったのにこんなことまでしてもらっちゃって、本当にすいません」
申し訳なさそうなミウをエミリーがウインクしながらフォローする。
「いいのよ。その代り戦利品はあなたの物でもいいけど、倒したゴブリンの討伐報奨金は私達が貰うわよ」
「はい! 問題ありません」
それぞれが武器と弾薬のチェックをする。
俺は短機関銃のマガジンチェックと手榴弾の準備。
ミウは水平2連のショットガンに対魔獣用弾を装填する。
エミリーは――何もしない。
ただ、見てるだけだ。
エミリーも一応拳銃は持たしているけどあまり使いたがらない。
魔法が使えるからな。
「よし、2人とも準備はいいな。ショータイムだ」
こうして覚悟を決めた俺達はゴブリンが休憩する場所へと接近するのだった。
明日も次話投稿予定です。
よろしくお願いします。




