109話 猛烈砂漠
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砂漠へと向かいながら戦車内を改めて確認する。
俺達は砲塔の旋回具合や37㎜砲の仰角具合に75㎜砲の射界を調べつつ、エミリーは乗り心地を試すかのようにモデル3/グラン戦車の操縦に没頭している。
75㎜砲の装填手にはソーヤ、砲手にはミウ。
そして37㎜砲の装填手にはケイ、砲手にはタクを配置した。
俺は車長兼無線手だ。
グラン仕様の鋳造砲塔に変更してしまったため、戦車長用の機関銃塔がなくなってしまったのは残念だが、窮屈だった砲塔内に余裕ができたことは嬉しい。
砂漠に入る直前に小さな街があるのだが、そこで最後の燃料補給と水補給をしてから砂漠へと突入予定だ。
砂漠は1日半も走れば横断出来る距離で、途中には中立地帯のオアシスもあるので安心だ。
だけど燃料や水、そして食糧はもしもの場合を考えて一応余裕をもって輸送トラックには積み込んである。
というかあの荷物の量は俺の考えている物資量よりも多く積んでるっぽいな。
エミリー達に荷物の選別を任せたのがいけなかったかも。
それに俺が自ら最終チェックをしなかったのもまずかったかな。
まあ、いまさらだけど。
走り続ける事3時間でロックシティーという小さな街に着いた。
ここが砂漠への入り口となる場所だ。
最終補給ポイントというだけあって、小さい街ながらも結構な賑わいを見せている。
街中へは車両乗り入れ禁止らしく、すべての車両は街の外に止めるというルールのようだ。
駐車係のガキンチョ多数が客の取り合いであっちこっちと動きまわっている。
ここでケチって金を払わずに駐車すれば、荷物が無くなったり乗り物自体が消えてしまったりするんだろうなあ。
ここはきっちり金を払おう。
しかし相場の5倍近くの値段をふんだくられた。
街中を歩いてみると、この街の物価がそもそもバカ高い。
よく考えたらそうか。
この街が砂漠へ行く最後の街なら高くても買わざるを得ないし、やっと砂漠から抜け出した直後だったら多少高い食事や飲み物も買ってしまうんだろうな。
見ていると、砂漠から帰って来たばかりの者は誰もが飲み屋で高いビールを旨そうに飲んでいるし、この街独特の商売なのか『シャワー屋』というのも大繁盛している。
もちろん今の俺達では腰が引けてしまうほどの値段である。
これだとこの街での補給は大変な金額になっちまう。
いや待てよ。
そういえば俺達の輸送トラックって荷物で山盛りだったよな。
もしかしてそれを見越して物資を余分に積んできたのか!?
食事をする場所を探しながら俺はエミリーに聞いてみた。
「なあ、エミリー。トラックの荷物が山盛りだったんだけどさ、何を積んできたんだよ」
するとエミリーがあっちに聞いてとケイを指さす。
すると指さされたケイが平然と言い放った。
「コボルトの街でラムネが売ってたんで買い占めて、後はホットドックの材料よ」
なんと!
また商売やる気か!
って、自分たちの分の物資じゃねえし!
ちなみにラムネは炭酸飲料だ。
「あのうですね、それをどこで売り捌きやがるのでございましょうか?」
「え、この街に決まってるでしょ。高く売れるはずよ」
お、恐ろしい奴。
さすが商売人というべきか。
この街が物価高い事しってやがったのか。
「え? そんな事知ってるわけないでしょ。ここ来たの初めてだもん」
これがケイに聞いた答えだ。
知っていたんじゃなくて予想してたということだ。
完全に商売人じゃねえか。
俺達は食事をした後、早速即席の露店を開業した。
そこでホットドックとラムネを抱き合わせのセット価格で販売したところ、通常価格の5倍とバカ高い値段設定にしたにも関わらず、それはあっという間に完売してしまった。
高額な食事が売れる場所で、わざわざ露店で売るような庶民的な食べ物を販売する店が他になかったのだ。
瓶の炭酸飲料は結構売っていたんだが、ラムネはコボルト圏ではメジャーな飲み物らしいが、この街では珍しかったらしい。
しかし、ラムネは生ぬるくても売れたんだが、栓を開けると噴き出してそれが大うけだった。
完全に俺達の1人勝ちだ。
完売まで1時間と掛からなかった……
そして出発の時が来た。
エミリーの計算だと特にこの街で補充しなくても物資は足りる予定だそうだ。
ただし、燃料は予想してたよりもモデル3戦車の燃費が良かったらしく、到着した街で余った燃料を高く売れるかもしれない言っていた。
エミリーまでケイに影響されてきたか。
多少の利益も得たところで俺達は遂に、砂漠地帯へと足を踏み入れていく。
ちなみにエミリーのスイッチが入るようになった原因がコボルトなんだが、それについて何気なくエミリーに聞いてみたが、「何の事?」っていう答えが返ってきたので、その話はなかったことにした。
というか、恐ろしすぎてそれ以上聞けなかったのだ。
まあ、忘れているならばそれでいい。
砂漠に突入した時点では、俺達全員がなんとかなる的な考えだった事は間違いない。
しかし、2時間ほど走ったところで誰もが死にそうな表情になる。
今がその時だ。
特に暑さに弱いコボルト2匹よりも砂漠が初体験の俺達の方が酷い有様だ。
トラックに乗っているコボルトの2匹は、常に舌を風になびかせてヒラヒラさせているが、それほど苦しそうな表情はしていないように見える。
だが、俺達はというと、エミリーは解けそうな表情でほとんど前を見ていないし、他のメンバーの男は皆パンツ1丁という姿で、表情はすでに逝ってしまっている。
ミウはコボルトほどではないが暑さに弱いと言われる獣人だ。
目を白黒させながら舌を出して「はっは」という息遣いが聞こえてくる。
ケイに関しては一番酷い。
もはやその表情は人のモノではなく、ずっと「死ぬ、死ぬ、死ぬ」と言い続けて止まない。
別に水の飲む量を制限しているわけではないので、単に暑さに慣れていないということだ。
案内人がいなかったら、砂漠の中を俺達だけで方角を把握しながら進むなんて芸当は、到底出来なかっただろう。
そもそもこいつらは根性が足りない。
俺も人の事は言えないが、もうちょっと体裁を整えろと言いたい。
だいたい、女性陣はもう少し女を意識してほしいんだが。
砂漠最後の街ロックシティーを昼過ぎに出発し、夕方近くになってやっと今日の宿泊予定地のオアシス地帯が見えてきた。
砂漠のど真ん中にも関わらず、水源があるためこの地域だけ草木が生えている。
何もない砂漠地帯に急に緑があふれる場所が出現するのだ。
違和感が半端ない。
ただ、暑さに死にそうなメンバーにとってはそれが楽園に見える。
とろけて死にそうだったメンバー達が急に目を覚ます。
「やった、水浴びしたい……」
「ソフトクリーム食べたいです……」
「冷えた炭酸が飲みてえ……」
「やっと文明が見えてきた……」
「死ぬ寸前、死ぬ寸前、死ぬ寸前……」
それぞれが勝手なことを言い始めた時だった。
その楽園から砲弾が飛んできたのだった。
設定資料:
モデル3/グラン改:
主人公が搭乗する戦車
乗員:6人
装甲:13~51㎜
速度:39㎞
車体武装:75㎜砲、連装機関銃
砲塔武装:37㎜砲、機関銃
車体はモデル3で砲塔がモデル3のグラン仕様。
砂漠地帯仕様に砂塵フィルターや砂塵フェンダー、追加燃料タンクなどを装備。
車高が3mを超えるほどの高さがあり、戦場では目立って標的になりやすいなどの悪評が多い。
しかし逆にその高さからか車内は比較的広く、乗員の居心地は悪くないようだ。
また視察口が多く、車内からの視認に関しては良好であり、敵を発見しやすいと言われている。
しかしながらハンターからは37㎜砲の砲塔よりも「75㎜砲の砲塔」が欲しいと言われ、あまり人気のない戦車となっている。
元ネタの戦車は、ww2時期の戦車であるM3リーとM3グラントです。
どんな形の戦車か知りたい人は検索してみてください。
以上!
次回もよろしくお願いします。




