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徹甲弾装填完了、照準OK、妹よし!  作者: 犬尾剣聖


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108話 スポンジ戦車

お待たせです。


短いです……






 依頼の話もそこそこに聞き流し、俺達はいてもたってもいられずにモデル3戦車へと走っていった。


 そして建物の外に止めてあったモデル3戦車の目の前に立つ。


 俺を含めて全員が息を飲んで黙ったまま動かない。

 それは感動して言葉が出ないとかそういう雰囲気とはまるで違い、眉間にしわを寄せているか首を傾げている。

 敢えて言葉に発するならば「はぁあ?」と言いたそうだ。


 そのすべてが凍り付いたよう雰囲気を撃ち破るべく俺は口を開いた。


「ポンコツじゃねえかっ!」


 ミウがある部分を指をさしてつぶやく。


「こ、これってぎの跡、ですよね……」


 砲弾で被害を受けた装甲板を修繕するための非常に簡素なやり方、それがぎだ。


 ケイが腕を組んで不貞腐ふてくされたようにつぶやく。


「このスポンジケーキの化け物、カビが生えてるじゃないの」


 砂漠仕様でデザートイエロー色してるこの戦車、だからってスポンジケーキは言いすぎだろ。

 それとカビじゃなくてさびだからね。


 そんな言われようのモデル3戦車だが、エミリーが必死に言いつくろおうとする。


「みんな、よく見てよ。天井があるよ。雨が降ってきても濡れないんだよ!」


 すると皆からは。


「「「「おお、確かに」」」」


 確かに今までの戦車はすべて屋根が無いオープントップだったからな。

 雨が降ると布を被せなくちゃいけなくて面倒臭かったな。


 なもエミリーの言葉は続く。


「それによ、あれ見える。砲塔が付いてるのよ。真っすぐに走りながら横の敵を撃てるのよ。凄くない?」


「「「「おお、凄い」」」」


 37㎜砲を装備した砲塔があるからな。

 これも今までの自走砲にはないパーツだ。


 エミリーの演説はまだ続く。


「横の敵を撃ちながら前にいる敵にも大砲を撃てるんだよ。今までそんなことが出来た戦車乗ったことある?」


「「「「そうだ、そうだ」」」」


 車体の右側に直接75㎜砲が搭載されている。

 もちろん砲塔のように回らない。


 もはやエミリーの独断場である。


「よくよく見たら可愛いスポンジケーキみたいでしょ?」


「「「「確かに、言われてみれば……そんな気もしないではない……?」」」」


 最早、催眠商法じゃね!?


「モ、モデル3戦車に乗りたいかぁ?!」


「「「「の、乗りたいぞぉぉぉ!!」」」」


「よおし、みんな乗り込めぇぇぇぇ」


「「「「おおおおお」」」」


 はいはい、いいよいいよ。

 もうこのモデル3はスポンジ戦車で決定ってことね。

 可愛い妹のエミリーが推し戦車って言うんだからしょうがない。

 それに砂漠を渡るにはこの戦車を選ぶ他に手はないし。

 でも返品はダメだよお。


 そこからは大急ぎで整備してもらい、砲塔も大きい造りである鋳造型のグラン仕様に取り換えてもらう。

 これで無線機は砲塔内に収まった形となり、狭かった砲塔内部も少し広がった。


 それから一緒に同行するコボルトだが、人間の言葉をしゃべれて道案内が出来るという条件を出したら、勝手に2匹のコボルトが派遣されてきた。

 どうやら道案内が出来るコボルトは少ないらしく、人間の言葉を話せる個体も限られているということだった。


 俺達の前に現れた2匹のコボルトは胸元の膨らみを見る限り雌のようだ。

 よくよく見るとまつ毛も雄よりも長い気がする。

 なによりモフモフが半端ねえ。

 ミウよりも全然モフモフだ。


 そのうちの1匹がしゃべり出す。


「私は通訳のナミといいます。人間に育てられましたので人間の言葉がわかります。それとこっちが案内役のポトと言います」


 通訳と道案内が別々だったのか。

 これまた面倒だな。


 俺達6人もそれぞれが自己紹介をした後、ナミとポトに戦車は扱えるか聞いてみたところ、扱えるが砂漠地帯での戦車内は勘弁してくれということだった。

 灼熱の戦車内は耐えられないと。


 暑さに弱いコボルトだからそれもしょうがないか。


 ならばハーフトラックを運転してもらおうと思っていたら、思った以上に輸送物資が多く、ハーフトラックでは積み切れない。

 しょうがないので4輪駆動の大型トラックで燃料や水や食料などの物資を運ぶことにして、ハーフトラックは整備点検も兼ねてここに置いていくことにした。


 そんなこんなで準備は着々と進み、俺達はコボルトの街を出発することになった。


 出発の直前にもう一度ケイとちゃんと話をしないといけないと思い、エミリー同席の元で3人だけでの話し合いの場をもうけた。

 話の内容はやはりこれから届けようとする書類についてだ。

 この書類を届けるということは、ホクブ産業の悪事を公にする為の手伝いをするということだ。

 それはケイの実家の今後の営業に大きく関わることになる。

 ホクブ産業の商品が売れなくなるだろうし、被害者からは多額の賠償金を支払うように言われたり、最悪会社が倒産することになるかもしれない。

 それを解ったうえでこの依頼を引き受けていいのかということだ。


「どうなんだ、ケイ。このままでいいのか?」


 するとしばらくうつむいて黙っていたのだが、すっくと顔をあげると鋭いまなざしで俺に向かって言った。


「大丈夫よ、たった今覚悟を決めたから。もうあの一族がどうなろうと関係ない。私は一流のハンターになるだけよ」


 するとエミリー。


「暴露した仲間の1人にケイがいた事が家族にバレるかもしれないのよ。それでもいいのね」


 するとケイは大きく頷く。


「オッケイ、ケイの決心は解ったよ。しかし、凄いな。そこまで覚悟してるとはね。見直したよ」


 これでケイの問題は解決した。


 さて、それでは出発だ!



 モデル3改/グラン戦車、愛称“スポンジ戦車”は遂に出発した。

 その後ろを荷物満載の輸送トラックが進む。


 俺は砲塔の車長ハッチに腰を掛けながら後ろを走る輸送トラックを眺める。

 そういえば、この人数であそこまで荷物が多くなるのか?

 そんなことを考えながらも、まずは砂漠を目指すのだった。








設定資料:


セメトン戦車


装甲:14~50㎜

速度:31.8㎞

武装:短砲身75㎜砲


 ゴブリン製の戦車である。


 ゴブリン製の戦車の中でも強力な部類に入る75㎜砲は、ゴブリン達にとっては頼もしい戦車砲であった。

人間からしたら低初速で威力不足なこの砲も、ゴブリン達にとってはこの戦車砲に頼るしかない場面が多くあり、人気の的であった。

 ゴブリン戦車特有である、懸架装置の性能が低いので乗り心地も良くない。

 こういった理由から人間にはあまり人気がなく、市場にもそれほど出回らない。














 ということで次回もよろしくお願いします。




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