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徹甲弾装填完了、照準OK、妹よし!  作者: 犬尾剣聖


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105/282

105話 兄妹って何?






 俺はハーフトラックの中で考えていた。


 すでに手提げ金庫はリュー隊長に渡してしまっている。

 つまり取引は成立しているということなんだが、肝心の金貨が俺達の手元にはほとんどなく、大部分が道路に散らばったままである。

 ミウと俺が拾い集めた金貨が何枚かあるだけというわけだ。

 やはりそれだと物足りない。

 こちとら丸太Ⅱをやられているんだ。

 このままだと大赤字じゃねえか。


 6輪装甲車のハンター達はどうしても諦めきれないようで敵戦車が迫る中、金貨目指して突進していきやがった。

 偵察装甲車だからすばしっこいだろうけど、金貨を拾っていられるほど余裕はないと思うのだが。


 俺もできる事なら金貨目掛けて突進したいよ。


 リュー隊長はといえば、6型重戦車の後部に他の4型戦車の乗員と一緒に乗り込んで、さっさと暗闇へと消えて行った。

 その時、6型重戦車のハッチから1人の女性が上半身を乗り出してこちらに手を振っているのが見えた。


「あれが有名なミカエさんだよな? なんか、神々しく見える」


 俺がぼそりとつぶやいた言葉に、他の誰もが黙って頷いた。


 月明かりに照らされたその姿は美しいという言葉では言い表せない、敢えて表現するならば神秘的な妖精を見るようだった。


 6型重戦車が見えなくなったところでエミリーがポロリとつぶやく。


「お母さんに似てた……」


 いやいや、確かに美人だったとは思うけどさ、あそこまでではなかっただろ。

 血は繋がってはいないけど俺の母さんでもあるわけで、再婚して直ぐに死んじゃったからそれほど思い出も多くないけどさ、いくらなんでもそれは言い過ぎだって事くらいは解るからな。

 ま、それは口には出しませんけどね。


 さて、俺達もこのまま味方陣地内へと戻るべきなのかな。

 

 悩んでいると後方で爆発音と金属がよじれるような音が聞こえてきた。


 見ると6輪装甲車が砲撃で吹っ飛ぶのが目に飛び込んできた。

 車体に砲弾が直撃なようで、見事にひしゃげてしまっている。


 俺がその様子を見て驚いているとエミリーが俺のすぐ横に来て、耳元でボソリとつぶやく。


「ね、行かなくて良かったでしょ、お兄ちゃん。そうね、プリンで許してあげるから」


 俺はその言葉を黙ってやり過ごすのだった。




 安全な場所へと道を探りながら味方陣地へと進んでいくと、かなり前方であるが黒い6型重戦車が変なところで曲がって行くのが見えた。


 先に行ったはずの6型重戦車に追いついてしまったらしい。

 ミカエさんの6型戦車に間違いないな。

 リュー隊長達が車体後部に乗ってるのがその証拠だ。


 しかし変なところで曲がるんだな。


 俺達のハーフトラックが6型戦車が曲がったところまで追いついたんだが、曲がるような脇道がない。

 曲がって進める場所というと一か所しかないのだが、そこは川が流れている場所だ。

 6型重戦車が通るとしたらこの川しかないのだが、その川の先はブッシュで隠れてしまっていて奥まで見えない。


 それ以外の場所は大きな岩や太い木々が密集していて、戦車が通れるような隙間がない。


 まさかあのブッシュの中を入って行ったのか?

 いや、そしたらブッシュが戦車に押し潰されて跡が残るしな。


「ソーヤ、ここで停止してくれ。ちょっと偵察してくるんでここで待機」


 そう言ってその川の少し手前で停車させ、ハーフトラックから颯爽さっそうと俺は飛び降りる。

 するとお約束が発動。

 足を車体側面に引っかけて顔面から川の中へ突入する俺。


 一瞬の沈黙の後、顔での逆立ち状態から盛大に水しぶきを上げて背中から倒れると、一同が大爆笑の5重奏へと突入した。

 中でも妹であるはずのエミリーの笑い声が一際目立つは気のせいだろうか。


 俺はその笑い声を背中に浴びながら、黙ってブッシュの中へと続く川を探索する。

 幸いにも川の水で涙はバレていない。


「ねえ、ねえ、見て。お兄ちゃん泣いてる~~っ」


 ぶっ飛ばすっ!!!


 っていうかエミリー、おまえも泣いてんじゃねえか。

 泣くほど可笑しいか!

 

 と、俺の怒りが爆発する寸前だった。

 気が付いてしまった。


 ――あっ、この草木って偽装だ。


 ブッシュへと続く川かと思っていたら、それは偽装用に巧妙に作られた目隠しのフタだったのだ。

 俺はそれに気が付いてそのフタをどかしてみると、重戦車でも通れる川の流れる道路を発見した。


「みんな、これ見て。抜け道だよ。6型戦車はここを通って行ったんだよ。きっと味方陣地へと続く隠し道路だよ」


 俺の発言に一同は我に返り、帰れるという嬉しさに爆笑顔から普通の笑顔に変わる。

 ただ、エミリーだけは立ち直るのに時間が掛かりそうだ。

 いまだに腹を抱えて俺を指さして涙を流しながら笑っていやがる。


 後から来るオーク軍にバレない様にしっかりと偽装のフタをした後、ハーフトラックで隠し道路を奥へと進んでいく。


「しかしさ、よくこんな抜け道作ったよな。確かに便利かもしれないけど、ここまで手の込んだ道路作る意味が俺にはわからん」


 俺の言葉にミウが答える。


「ケンさん。この道路の作り方って獣系の亜人のやり方に似てる気がします」


「獣系って獣人のことか?」


「はい、獣人もそうですけどこれは獣道けものみちの色が濃い作り方ですから、もっと獣が濃い亜人の可能性が高いです。そうですね、例えばコボルトとかですかね」


「ん、コボルトか。ってことはミカエさん達が作ったのとは違うのか?」


 しばらく進むと道路が川の流れから離れて陸地へと上がる。


「う~ん、人間が作った感じじゃないんですよ。人間が作るともっと丁寧というか」


 獣人のミウが言うと説得力があるんだよな。


 でもそうだとしたらミカエさん達がここを知っていて、しかもこの抜け道を使ってることに疑問が出てくるんだけどね。

 まあ街に帰れれば別にどうでもいいか。


 俺は面倒臭い疑問はこの際捨てて、このまま先を進んでいった。

 今はなによりも無事に街まで帰ることを優先したい。


 そして先が見えない大きな曲がり角を曲がると突如、目の前に丸太で出来たバリケードが現れた。


「止まれ、停止、停止~っ!」


 なんとかバリケードにはぶつからずに止まることが出来たのだが、止まった途端に周囲から出て来た何者かの集団に取り囲まれてしまった。


 その集団とは2足歩行する犬達、コボルトだった。

 







不定期投稿ですが次回もよろしくお願いします。

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