104話 取引
大変遅くなりました。
ハーフトラックに到着してみると、いつの間にかに消えていた6輪装甲車が止まっており、そのそばにはリュー隊長が地面に座っていた。
その脇には6輪装甲車の乗員らしき3名が銃を構えてリュー隊長を見張っている。
彼らがリュー隊長との取引話を聞いて彼を連れてきて、その話をエミリー達に持ち掛けたようだ。
見張られているリュー隊長はというと、呑気にタバコを吹かしてくつろいでいやがる。
俺達の姿を見てエミリーが俺に駆け寄ってくる。
「お兄ちゃん、ごめんなさい。勝手に取引しちゃったの。でもね、損な話じゃないから」
何を言ってるんだよ、取引ってなんだよ。
俺は怪しげにリュー隊長を見ながら言った。
「取引って、そこのリュー隊長とか?」
「うん、そうだよ」
さすがにイラっとして俺は声を荒げる。
「おい、エミリー。俺達はそいつに騙されてこういう状況に陥ったんだぞ。今更なにが取引だよっ」
俺はエミリーを押しのけてリュー隊長に銃を向ける。
するとリュー隊長が手の平を俺にかざして口を開いた。
「まあ、落ち着け。撃ちたければそれでもいいが、まずは話を聞いてからでも遅くはないだろ。それくらいの時間はあっちの6型戦車が稼いでくれるよ」
悔しいがその言葉に納得して俺は銃を下げる。
6型重戦車がいれば大部隊でなければオークの進撃も持ちこたえられる。
すると一息入れてからリュー隊長が話し出す。
「そうだな。端的に言えば俺達は金が目的じゃなかったんだ。もっといえば金は全部お前らに渡してもよかったんだよ」
「どういうことだ」
「俺達の目的はギルドが保管していたある書類だ」
「ある書類?」
「ああ、書類だ。だがな、それははっきりとは言えないんだが……」
俺は再び銃を向ける。
「わかった、わかった、言うけどな。かなり極秘な内容だからな。現段階であまり他に広めてほしくない内容だってことを理解してくれ。えっとだな、その書類ってのはな“ホクブ産業隠蔽工作”に関する書類だよ」
その言葉に真っ先に反応したのはホクブ産業の社長令嬢のケイだ。
リュー隊長を鋭い眼つきで睨みつける。
そんなことを知ってか知らすか解らないが、リュー隊長は横目でチラッとだけケイを見ると話を続ける。
「あの事件当時はほとんどのハンターがミカエ側の人間だったからな。誰もがアベンジャーズっていうか、ミカエに力を貸したんだ。それでホクブ産業の隠蔽に関する情報を集めまくったんだ。だけど調べている間に情報を集めているハンターが段々と消え始めたんだよ」
「消えたってどういうことだよ」
「言葉の通り連絡も何も取れなくなったんだよ。最初の1人目は魔物とかに襲われたんだろうと思ったんだけどね。2人目、3人目となってくるともうこれは人為的な事なんだろうって思うだろ。ホクブ産業の殺し屋が狙っているんだろうってな。その頃になってくると、アベンジャーズに賞金が掛かって他のハンター達にまで狙われるようになってきてね。それで調べた情報や証拠を安全な場所に隠そうってことになって、その場所に選んだのがカイセシアの街のハンター事務所の貸金庫なんだよ」
いや、おかしいだろ。
カイセシアにあるハンター事務所みたいな小さな支部だと、貸金庫なんて普通の金庫であって、破ろうと思えば直ぐに破られちまうだろうに。
そんな大事な物をしまっておくなら、もっと堅強な術式金庫のある大きな街の支部に預けるはずだろ。
「待ってくれよ。そんな大事な物をなんでそんな小さな支部に預けたんだよ」
リュー隊長はニヤリとしながら話す。
「敵もまさかそんな地方のゆるい金庫に、そんな重要な書類があるとは思わないだろ。それにその当時はハンター協会内の上層部に、ホクブ産業の内通者がいるらしいという疑いもあったからな。だから念を入れての策だよ。しかしまさかオークが攻め込んで来てカイセシアの支部を占領されるとは思わなかったからな。それは完全に誤算だったってことだ」
「まあ、それは解ったけどその書類は見つかったのかよ?」
「探している時間もなかったからな、とりあえず輸送トラックに積んであった箱を全部奪ってきたんだけどな。派手に散らばっちまったからなあ」
ああ、俺達の命中弾で散らばったキラキラのことね。
「書類だったら散らばったじゃ済まないんじゃないか。燃えちまってると思うぞ」
「いや、一応小さな術式金庫にしまってるから、それから出されていなければ燃えないはずだ。ただしオークがその金庫を開けられずに手提げ金庫のまま輸送しているという前提のもとでだがな」
それを聞いて俺は思い出した。
「小さな金庫ってあの手提げ金庫のことか!」
俺の言葉にミウが手に提げていた金庫を顔の位置まで持ち上げて言った。
「この手下げ〇ンコの事ですか」
一瞬でその場が氷付いた……
カギはリュー隊長が持っていて、この場でその手提げ金庫は開かれた。
中にはリュー隊長の言った通り、ホクブ産業に関する不正の証拠種類が多数入っていた。
書類内容を確認したケイは相当ショックだったようで、涙を堪えて下を向いたまま黙り込んでしまった。
書類を確認した俺はリュー隊長に向き直り質問する。
「リュー隊長、話は解りましたけどそれだったら最初から教えてくれればよかったじゃないですか」
「そんなことできるか。君らが賞金ほしさに俺達をホクブ産業側に売ることだってあり得るんだぞ。むしろ最近のハンター達の状況だとその可能性の方が高いからな」
確かにそうか。
そう言われると言い返せないな。
「まあそうなんですけどね。でもミカエさんって俺達ハンターの憧れの人なんですよ。最近じゃあ“黒い襲撃者”なんて言われてますけどね。相談してくれれば少しは考えたのに」
そこまで言って思い出す。
しまった、ケイが仲間にいたからやっぱりそれは無理だったか。
リュー隊長はなおも言い訳する。
「でもな、よく考えてみろよ。ミカエは一度、賞金稼ぎのハンター達に捕まったんだぞ。だから今じゃハンターさえも信じられないんだよ」
ん、なんかおかしい言い回しだよな。
ミカエは捕まって監獄に入っているはずだけど、今の言い方だと、いつもミカエさんと話しているような口ぶりだな。
俺がその疑問を投げかけようとするとリュー隊長か先に口を開く。
「ああ、そうだ。取引内容なんだがな、金はそっちに全部やるけど書類は貰うって取引だ。だから金はやる。好きなだけ拾ってくれ。そろそろミカエが泥濘から脱出してこちらに向かってくるころだ。俺はそれに乗ってここから消える」
今、ミカエって言ったよね。
6輪装甲車の乗員たちも驚いている。
「もしかしてあの6型重戦車にミカエさんが乗っているんですか!」
「ああ、変装してるからわからなかっただろ。あまり車外にも出てこなかったしな」
「でもミカエさんって捕まったんじゃなかったでしたっけ」
「そうだが、我々が護送途中に奪回したんだよ。保安事務所は公にしてないけどな。ははは」
そういうことか。
全然知らなかったよ。
そんな事を話しているうちに6型重戦車がこちらに向かってくる。
その6型重戦車からハーフトラックの無線に連絡が入る。
『こちら6型、新手が現れた。数が多すぎるから撤退するぞ。急げ』
見れば6型重戦車の遥か後方にいくつものライトの光が見える。
ざっと15両以上の車両の列だ。
これは確かにやばいな。
あの数はさすがに無理だ。
って、金貨はどうするよっ!
拾っている暇がねえじゃねえかよっ!
「お兄ちゃん、早く乗って!!」
エミリーが俺の襟首を引っ張るんだが、俺の足は金貨へ向かっている。
「待ってくれ、エミリー。金貨はどうするんだよ。このままだと大赤字だぞ」
「何言ってるのよ。死ぬよりもいいでしょ。お兄ちゃん死んだら私一人で借金返すことになるんだよ。そんなの無理に決まってるでしょ。早く、早く」
エミリー、その言い方はお兄ちゃん傷つくぞ。
俺は泣く泣くハーフトラックに乗り込むのだった。
ちょっと時間が開きましたがなんとか投稿です。
しかし不定期投稿はしばらく続きそうです。
次回もよろしくお願いします。




