102話 金貨拾い
俺達が乗るハーフトラックが森へと逃げ込むのだが、6型重戦車は追ってこない。
いや、追ってこれなかった。
初めは俺達を追従しようと道から外れて走行したんだが、地面が軟弱すぎてまともに走れなかったのだ。
早い話、6型重戦車は重量がありすぎて地面の方が陥没してしまい、前へ進めなくなり立ち往生してしまった。
急いで後進して道に戻ろうとしたのだがそれもできず、車体の向きを変えようとしたり車体を回転させたりと、必死にそこから脱出しようともがいている。
しかしその行動はさらに車体を軟弱地へとはまていってしまう。
一方、動力部を破壊されて動けなくなった4型戦車はというと、ハッチが開いて中から乗員が出て来た。
2名は修理を試みるらしいが、後の2名は地面に散らばった金貨を拾うようだ。
リュー隊長らしき人は砲塔から頭だけ出して周囲を警戒している。
ちょっとだけ偉そうにと思ってカチンときた。
「タク、4型戦車の乗員が外に出て来た。擲弾筒を頼む」
お仕置きだ。
俺がタクに攻撃を指示すると、一言「了解」と言って擲弾筒をぶっ放した。
擲弾は4型戦車の車体前面に命中して周囲に破片を散らす。
おしい!
残念ながらリュー隊長には被害がないみたいだ。
4型戦車の乗員にはたいして被害を与えられなかったようだが、大慌てで車内へと追い返したからある意味これで攻撃は成功だ。
つづいて6型重戦車の乗員が車外へと出てくると、キャタピラの下に近くの石を突っ込み始めた。
この軟弱地から脱出しようとしているのだ。
でもそうはさせない。
「エミリー、射撃練習しようぜ」
俺はオーク製のライフル銃をエミリーに投げて渡す。
するとエミリーは慌ててライフル銃を受け取り、驚いた顔で俺を見る。
「お兄ちゃん、本気? 私じゃ当たるわけないよ」
「大丈夫、当たらなくても“俺達が狙っているぞ”って伝わればいいんだから」
「え、そんなんでいいの?」
「いいから、さっさと撃とう」
エミリーは首を傾げながらライフル銃を構える。
タクは不満げに擲弾筒を撫でている。
どうやら次も撃ちたかったようだ。
エミリーが早速ライフル銃を撃ったのだが、予想通り銃弾は乗員には当たらず6型重戦車の車体に命中して、『カン』と軽い金属音を響かせて弾かれた。
だが効果てきめんでそのたった1発で乗員は戦車内へと引っ込んだ。
最初に擲弾筒での攻撃が効いているのだ。
擲弾筒の攻撃を恐れて引っ込んだんだろう。
その後すぐに6型戦車の砲塔が回り始めるのだが、俺達がどこから撃っているのかわからないらしく、無駄に砲塔が回転するだけで反撃して来ない。
4型戦車も砲塔は回せるらしいが、やはり無駄に回転するだけだった。
これで敵を釘付けにはできたけど、あの宙を舞ったキラキラをどうにか拾い集めたい。
金貨だったら少なくても1,000シルバ小金貨、大金貨ならば10,000シルバのどちらかだ。
放っておくにはもったいない。
俺はみんなに提案する。
「なあ、皆いいか。あそこには金貨が散らばっている。だけど裏切り者も散らばっている。そこで決死隊を募る。俺の他にもう一人だ。あそこへ金貨を拾いに行く志願者はいないか」
「はいっ!!」
真っ先に手を挙げたのはミウだ。
まあ、予想通りというか。
一番金に困ってるからな。
「よし、それじゃあ俺とミウとで夢を拾いに行ってくる。残ったものは掩護してくれ。だけど居場所がバレたら砲撃を喰らうからそこは要注意だぞ。機関銃とか連続で撃ったらすぐ居場所がバレるからな。長連射は禁物だし、撃ったらすぐに移動しろ。でも1時間したらこの位置にいて俺達を回収してくれ。何か質問は?」
こうして俺とミウの2人で暗闇に乗じて夢を拾いに向かった。
意外と見つからないな。
結構な距離まで来たけど全く見つからない。
4型戦車のハッチから顔をだして警戒はしてるけど、次の行動に出ないのだろうか。
このまま夜明けを待つつもりか。
なんか呑気すぎる。
と思ったら離れたところに人影を2つミウが発見した。
戦車の乗員だ。
俺達みたいに金貨拾いをしているのか、地面をしきりに探っている。
考えることは一緒だな。
でも放って置くのも厄介だな。
「ミウ、命中魔法で狙撃できるか」
すると少し悩んでからミウは答えた。
「この暗さだと少し難しいですけどやってみます」
ミウが狙いを定めて引き金を引くと発射音が森に響き、続いて人間の悲鳴が木霊する。
この暗闇の中でも命中させたのだ。
どこに当たったのかまでは確認できないけど苦しそうな声が聞こえ、しばらくしてから再び森に静寂が訪れた。
こと切れたのか、もしくはヒールポーションを使ったのかのどちらかだろう。
ただ、1人がもうひとりを抱える様にして戦車に戻るのが見えた。
よし、とりあえずエミリー達はこれで大丈夫だろう。
「ミウ、うまくいったみたいだね。それでは金貨を拾いますかね」
早速地面を探り始めるのだが、明かりをつけられない中での探しものは結構大変で、
広範囲に広まった小さなコインなどそう簡単に見つかる物でもない。
しかしミウは違った。
「あ、ありました。だ、大金貨ですよっ」
ミウが大金貨を見つけてそれを俺に見せるのだが、大きな声を出すこともできず、必死に声を押し殺している。
その後もミウは次々に金貨を見つけていくのだが、俺はなかなか見つけられない。
しばらくして、やっと俺も見つけられるようになってきたところで、何かがこちらへ近づいてくるのが見えた。
ライトの数をみると車両が4両。
走行音からみてキャタピラを使った乗り物、戦車だろう。
オーク陣営側から迫ってくる。
忘れていたがここはオーク陣営の真っただ中だった。
これは退却しなければならないじゃねえか。
くっそお、目の前に大量の金貨がバラまかれているってのに。
「ミウ、一旦隠れてやり過ごすぞ。戦闘が起こったら一気に逃げ切るからな」
オーク軍がこのまま道を進めば俺達を通り越して4型戦車、そして6型重戦車とかち合うことになる。
そうなれば戦闘は必須だ。
その混乱に乗じて森の中へ逃げ込む作戦だ。
リュー隊長達もオーク戦車に気が付いたらしく、戦車の砲塔を向かってくるライトの方向へと向ける。
夜間戦闘は接近戦になるため6型重戦車にとってはやりたくないはずだ。
敵の戦車砲が6型戦車の装甲を撃ち抜けない遠距離からでも、6型戦車の88㎜砲は敵の装甲を撃ち抜いてしまうから、近距離での危険な戦闘などする必要がない。
だが今の状況ではそんな有利な戦闘など出来るはずもなく、動けない車体で敵戦車を待ち受けなければいけないのだ。
おかでげで俺達は標的にならずに済むんだが。
木が邪魔をして射線が通らないんだろうか、まだ戦闘は起こらない。
かなり近い距離なんだけどな。
俺とミウは徐々に遠ざかりながらも何度も後ろを振り返って状況を確認する。
すると敵戦車のライトに照らされて、一瞬だけ道の端に転がっている小さな手提げ金庫みたいなものが目に入った。
ほんの一瞬のことなんでそれが本当に手提げ金庫なのかは定かではない。
だけど俺にはそれが小さな手提げ金庫に見えたのだからしょうがない。
気が付いたら俺の足は金庫へと向かっていたのだった。
次話投稿は明後日の予定です。
よろしくお願いします。




