10話 依頼
新しいキャラ登場です。
しばらくしてから適当な仕事依頼を見つけたのか、エミリーが俺の姿を見つけて戻って来る。
「ふ~、遅かったな。やっと見つかったか」
なにげなく言った俺の言葉にエミリーが少し睨んでから答える。
「何もしないで待ってるだけのお兄ちゃんが、何偉そうな事言ってるのよ」
そうだった。戦車の事ばかり考えていて早くも忘れていた。
俺が言い訳を考えてモゴモゴしていると、エミリーが俺の目の前で依頼用紙をヒラヒラさせる。
「見つけたわよ、お仕事」
俺は恐る恐るその用紙を手に取って内容を確認する。
一応中身に目を通してからエミリーに用紙を返す。
「ああ、わかった。この仕事を引き受けよう。で、結局どんな仕事なんだ??」
俺の言葉にエミリーが呆れた表情で返答する。
「やっぱり全然理解してないのね。お兄ちゃんさあ、少しは開いた時間に文字の勉強とかした方が良いよ?」
「ああ、気が向いたらな」
「そういっていつもはぐらかすよね。まあいいけど。それじゃあお仕事行こうか」
エミリーと違って俺は勉強は得意ではない。
11歳で親父のハンター稼業の手伝いをするようになってからは、学校へはほとんど行ってない。
だから最低限の文字は理解できるけど難しい言い回しや言葉は解らない。
まあ、学校へ行っても授業中は寝てばかりだったんだが。
「ああ、そうだな。で、その依頼でいくらになるんだよ。えっと、護衛の仕事なんだよな」
「夕方までの護衛で昼食付、それで2人で1,200シルバよ。バスで移動するけど交通費は依頼者もち。弾薬などの経費は自腹だけどね」
「まあ、可もなく不可もないか。経費が全額自腹ってのが気にかかるけどね」
「選んでいられる立場でもないでしょ。時間が無いから少し急いでよね、お兄ちゃん」
緊急の依頼だったらしく、エミリーは早足でバス停へと向かう。
護衛の契約だったハンターが別の護衛時に行方不明になってしまい、その穴の補填の為の緊急依頼だったようだ。
ブッキングってやつかな。
仕事は完了してから次の仕事を入れましょうってことだな。
行方不明のハンターってきっと死んだんだろうね。
護衛の最中の行方不明は死亡に他ならない。
バス停に到着すると乗客が列をなして並んでいる光景が目に入る。
その列のすぐそばで、列にも並ばずにたたずんでいる1人の女の子がいた。
待ち合わせで人を待っている様子だ。
近くまで行ってよくよく見ると獣耳があり、フサフサの尻尾が生えている。
エミリーが口を開く。
「きっとあの子が依頼の子よ」
そう言ってエミリーが小走りで近づいていく。
走り出したエミリーに獣耳の女の子が気が付く。
俺も慌てて走り出して、獣耳の女の子の前で止まったエミリーの横に立つ。
俺が追いついたことを横目で確認したエミリーが口を開く。
「あなたが依頼者のミウ・アベイね」
すると獣耳の女の子が笑顔でしゃべりだす。
「はい、ミウ・アベイといいます。私が依頼を出しました。今日は一日お願いします」
そう言って深々とお辞儀をした。
茶色の髪の毛に茶色の獣耳がひょっこり出ている。同じく尻尾も茶色だ。
エミリーより少し背が低く、エミリーと同い年か年下じゃないだろうか。姿勢正しく立つのだが、獣耳と尻尾が忙しなく動く。
俺達と同じハンターっぽい恰好で、背中にはバックパック以外にも恐らく武器と思われる大きな荷物を背負っている。
ライフル銃にしてはちょいと短いな。
エミリーと俺も簡単な自己紹介をしてバスに乗り込む。
バスは隣町のカイセシア行きだが、途中下車するらしい。
まもなくしてバスはほぼ満席となり、時間よりも早くに走り出した。これ以上の乗客は乗れないと判断したからだ。
バスの時刻表なんてあてにならないというのは常識だ。
30分のずれは当たり前で、ひどいときには1時間もずれる。
バスといってもかなり重武装が施されたバスである。
いわゆる武装バスというものだ。
薄くはあるけど部分的に装甲も施されていて、簡単な爆風くらいなら防ぐことが出来る。
前後の屋根に機関銃座が付いており、専門の乗組員が常に銃座でにらみを利かしている。
大型魔獣用にはエッグ弾と呼ばれる卵型の榴弾を発射する、携帯型の榴弾発射機を積んでいる。
ER‐100、通称『エッグ砲』とか『エッグランチャー』と呼ばれている。
実際に魔獣に撃ったのを見たことはないけど結構強力な武器らしく、当たれば1発で大型魔獣を倒せると宣伝されている。
少なくても武器屋の壁に貼ってあるポスターにはそう書かれていた。
どうやらその製造業者が宣伝もかねて、大量に武装バス会社に流したようだ。
乗客の前でそれを使用すれば良い宣伝になるからね。
俺はその宣伝方法を聞いた時には『頭良いなあ!』とかなり驚嘆したものだ。
俺には商売の才能もないみたいだな。
武装バスが走り出して30分ほどして俺達3人は、ロックヘッドという狩場で途中下車した。
ここは人気のない狩場で降りたのは俺達だけだ。
簡単な非難壕と非常用の電話ボックスがあるだけの場所。
無人のバス停だ。
近隣にはある種の魔獣の狩場があるだけの場所。
下車すると3人はその狩場へと歩き出す。
ミウと名乗った獣人の女の子は14歳、エミリーと同じ年齢だ。
ハンター登録もしておりランクは5等級でやはりエミリーと同じ。
この狩場で角ウサギを狩るそうだ。
さすがに1人での魔獣狩、それも女性となると危険が伴う為に護衛を依頼したそうだ。
護衛の依頼の条件にも女性ハンターを含むというのが記載されていたみたいだし。
ハンター業界では女性もたくさんいるんだけど、荒くれ者の男性が多いこの業界では、結構な確率で危険な目にあっている女性も多いと聞く。
そういった事情を考えると『女性ハンターを含む』という条件は納得がいく。
狩場近くまで来ると、ミウは肩に重そうに担いでいたライフルらしい荷物を地面に下ろす。
そして中から使い込まれた感じの水平2連のショットガンを取り出した。
よくバーテンがカウンターの下に護衛用に隠している、少しだけ銃身が短く切り詰められた散弾銃だ。
え、これがメイン武器なんだ?
狩りにはいいけど戦闘には不向きな武器だからだ。
散弾銃はちょっと大きい魔獣がでたら役に立たない。
しかしそれは口にはだしませんよ。
人には色々と事情ってもんがあるのだ。
こうして角ウサギの狩が始まると同時に、俺達の比較的安全な護衛任務も始まる。
しかし簡単で安全な護衛と思われた任務だったのだが、この後この3人しかいないこのロックヘッドという地で、死闘を繰り広げることとなる。
明日も投稿します。
よろしくお願いします。




