09 ステータスの確認には行きません
「ハァッ!」
委員長の蛇腹剣が魔物の首を切り裂いていく。既に9階層にきているが、委員長の攻撃は蛇腹剣のみだ。確か委員長の職業は魔術師だったはずなんだけど、この迷宮にはいって一度も魔法を使っている姿を見ていない。
「やぁぁ!」
秋人も順調に魔物を倒している。ゴブリンを1人で倒したので自信がついたのかもしれない。他のメンバーも順調に魔物を倒し、みんな戦うことに慣れてきたのだろう。
通路を歩いていくと10階層に下りる階段が見えた。
「あの階段を下りると10階層にたどり着くが、10階層からはトラップが仕掛けられているので十分に注意が必要だ。10階層だからと気を抜くと即死系トラップに引っかかり死ぬことになるぞ!」
「「「はい!」」」
僕のほうをジッと見ながら言ってたよね、副団長? 僕に対して言うのが流行っているのだろうか?
やはり定番の落とし穴がイベントルートかな? おそらくイベント開始は初日だと思うけど、さすがに10階層で危険なトラップはないだろうし、明日以降にイベントが進む可能性もあるよね。
10階層に着くと空気が変わった気がした。少しピリピリした感じがする。
集合地点は11階層への階段前だ。そういえば10階層にはボス部屋なんかはないのだろうか?僕の考えを読んだのか、副団長が答えを教えてくれた。
「迷宮によるが、最下層に合わせて守護者部屋というものがある。守護者部屋の中には強力な守護者がいて、そいつを倒さなければその次の階層には進むことができない。守護者部屋は最下層が20階層なら5階層ごとに、最下層が50階層なら10階層ごとある。この迷宮は現在20階層と40階層に守護者部屋が確認されており、おそらく最下層は100階層ではないかと噂されている」
なるほど、この迷宮はまだ攻略されてない迷宮なんだね。ますますイベントに相応しい迷宮だね。むふふ。
「そこの壁を見てみろ。他とは違う色をしている箇所があるだろ。そういうのに触るとトラップが発動する。このあたりの階層はトラップのスイッチが分かりやすいが、トラップそのものは決して軽くはないので注意しろ!」
やはり目が合う。押さないよ、絶対押さないよ。
スイッチに対し看破を使用すると、反対側の壁から槍衾がとびだすイメージが見えた。
確かに油断してたら死ぬね……。
◇
集合場所に到着すると既に他のグループも到着していた。
「第3グループ、全員揃っているか?」
「はい、全員無事到着致しました」
報告が終わり僕達のグループも休憩に入ることとなった。
クラスメイト達はだいぶ浮かれており、お互いどんな魔物を倒したとかレベルがいくら上がったと自慢げに話しているのが見える。
この休憩後は全員で戻る予定だが、一部の生徒がまだ潜りたいとごねているそうだ。どうやら訓練と比べてレベルの上がりが早いらしく、鑑定の水晶の前ではレベルアップを喜び合っている。同じグループだったメンバーも確認に行ってるようだ。
僕のレベルは訓練最終日にこっそり確認したら3しかなかったから、今調べにいくとサボりがばれるので見にいけない。
◇
休憩もそろそろ終わりかという時間に、冒険者達が必死の形相で階段を駆け上がってきた。
「魔物が、魔物が溢れてきている、早く逃げろー!」
「スタンピートだ、魔物の群れが押し寄せてきてるぞ」
「逃げろ、もうすぐそこまで来ているぞ!」
「な、スタンピートだと!? 全員立て。直ぐに出発するぞ。副団長は皆を先導しろ、俺と騎士5人は殿だ!」
「「「は!」」」
「なにスタンピートって?」
「魔物の群れが溢れてくることだろ」
「ええ、それってまずいんじゃないの?」
「団長がいるから大丈夫だろ」
冒険者の慌てようを見て驚いたものも多いが、ここまでそんなに苦労せず来れたので、皆の危機感は薄い。
「今からは私が先導する、全員ついて来い」
「「「はい」」」
何人かは迎撃に参加しようと最後尾に行くが、恐怖からか真っ先に逃げ出そうとするものもいる。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴォー
迷宮が大きな音を立て激しく揺れる。何人か倒れている。罠の発動はなくホッとする。
大きな怪我人もおらず、無事のようだ。
9階層の階段に向かい走ったが、その場所には大きな穴が開いていて階段はどこにもなかった。
「チッよりにもよってこのタイミングで迷宮の進化だと!?」
「迷宮の進化とは何です? 進化があるともう9階層には戻れないのですか?」
委員長が冷静に副団長に尋ねた。さすが委員長、やはりぶれないなー。
「迷宮の進化とは迷宮が新たに生まれ変わることを言う。進化が起こると階層が増え、通路が変わり、魔物も変わってくる。9階層への階段はおそらく別の場所にできたはずだ」
「では9階層の階段を探しましょう」
「そうだな、ありがとう。少し動揺していたようだ」
「いえ、頼りにしてます」
ズシン、ズシン、ズシン…
なんかあの穴から嫌な予感がする。ヤバイのが下からあの穴に近づいているのを感じる。
「全員ここから離れろ!何かくるぞ!」
穴から壁が出てきたのかと勘違いするほど大きな黒い鬼が跳んで出てきた。跳んだ拍子に天井に頭をぶつけ、ゴンッと大きな音を鳴らしただけで皆恐怖で固まっている。
「まさかブラックオーガだと!? 40階層の守護者がなぜこんな階層に……」
ブラックオーガにとってこの階層の天井は低いらしく、首を横に曲げてこちらを眺めている。
そしてニヤリと獰猛に笑うと、
「ウオオオオオーーーーーーーーーーーーーーーー!!」
大きく雄たけびを上げた。
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