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僕が主人公じゃないの!?  作者: 阿兼 加門
第2章 メイドと執事と盗賊と
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08 10秒? いや5秒で


 迷宮3日目


「おはよう」


 アレッサが元気に挨拶してくる。昨夜も夜の見張りをしようとしていたので、僕と委員長がするからと言って無理やり布団にぶち込んだ。

 もちろん2人とも夜の見張りなどせず、ぐっすり眠っていたが。


「おはよー、昨夜はちゃんと寝たようだね」


「うむ、休めるときに休むのは冒険者として当然の事だからな」


「まぁ間違ってはいないかな」


 説得力はないけど。


「それで今日はどこまで進む予定なのだ?」


 昨日は22階層まで進むことができたから、できれば32階層まで行きたいところだけど。


「目標は32階層。でもできたら33階層かな」


「30階層越えとはベテラン冒険者並みだな、しかし急ぎすぎではないか?」


 前回は3日目で50階層にたどり着いたことを考えると、かなりスローペースなんだけどね。


「迷宮に潜るのが今回は5日だけだからね、でも無理をしないペースで行ってるつもりだけど、無理そうなら言ってね」


「5日? 我はもっと長く潜っていても良いぞ」


 攻略するならともかく、あまり長く潜ることに意味は無いんだよね。それよりも迷宮だけでなく、いろんな依頼を受けてギルドランクを上げるほうが楽しそうだし。


「駄目、今回は5日だけ。今回の迷宮は経験を積むためと、チームワークのためだからね。もっと長期間潜るのは攻略を目指す迷宮だけだよ」


「なるほど、経験の大切さは我も今回のことで理解した。だがチームワークを考えるなら、昨夜の夜の見張りは我らも参加すべきだったのではないか?」


 それは一理あるな、でも僕達も夜の見張りなんてしていないんだよね。


「この迷宮にいる間は僕と委員長に任せておけばいいよ。迷宮を出た後、出国の旅に出るから、そのときからやることになるよ」


 僕もやらないといけないよね? できるかな……。


「今の我らはまだ半人前と言いたい訳だな。いいだろう、50階層まで行って実力を示してやろうではないか!」


 アレッサって普段はお馬鹿だけど、実は意外と真面目なんだよね、僕と違って……。


「じゃあ今日33階層まで行けばたぶん、5日で50階層まで行けるよ」


「クククッ、我に任せておくがいい。必ずや33階層まで行ってみせようぞ!」


 こうやって馬鹿なこと言ってるから真面目に見えなくなるけど……。


「ずいぶんと気合が入っているわね」


 委員長がやってきた。


「アレッサが5日で50階層目指すそうだよ」


「そう、でも無理はしないでね。おそらく26階層から魔物が強くなるでしょうし、冒険者も少なくなるから魔物との遭遇率が上がるわよ」


 確かに魔物の強さに関してはよく分からなかったけど、遭遇率は増えてたよね。


「遭遇率が増えるとアレッサの魔法回数も増えるから、魔力管理はしっかりしないといけないね」


「そうね、おそらく50階層に行くにはアレッサの魔法が鍵になるわよね」


「う、うむ。ま、任せておくが良い……」


 ちょっと緊張している。プレッシャーに弱いのかも。


「じゃあ準備もできたから行くわよ!」


「「おー!」」

「お、おー」


 ◇


 アレッサの気合により順調に進み25階層に下りると、大勢の冒険者がいた。守護者の扉が無いことは聞いていたので驚かなかったが、この人の多さには驚いた。


「人が多いね、屋台まであるんだけど……」


 攻略してからそんなに経っていないのにもう商売を始めているなんて……。

 しかしいったい何の屋台なんだろ? やっぱり場所的に魔物料理かな?


「驚きよね、休憩所になってるみたいね。ここには魔物が現れないから拠点にはちょうどいいのかもしれないわ」


 委員長も驚いている。僕も委員長も前回はここに守護者を倒しにきた時のイメージがあるから、そのギャップに驚いているのだろう。


「あ! バッド焼きがあります! 美味しそうです!」


 やっぱり魔物か、しかもバッド。


「た、食べてもいいけど少しだけね」


 委員長も引きつつお金を渡している。アレッサは平気そうだが、食べるつもりはないようだ。


「ちょっと行ってきます!」


 マノンがお金を片手に走って行く。ちなみにバッド焼きは1つ800エル、かなり強気なイベント会場価格だ。それでも何人か並んでいるのは、迷宮では美味しいものが食べられないからかもしれない。


「ここで食堂を開けば大儲けできそうだよね。秋人を連れてくれば食材には困らないだろうし」


「あなたもテレポートすれば食材には困らないじゃない」


「秋人を連れてくれば、もれなく天沢も付いて来るじゃない」


 そしたら天沢が料理担当だね。


「天沢さんをテレビの通販商品のおまけみたいに扱うんじゃないわよ」


 でも100パー付いて来るよ。


「天沢は料理もできるしウエイトレスもできるから凄いんだぞ!」


 しかも治療もできるから病院もできる。


「ただいま戻りました!」


 マノンがバッド片手に戻ってきた。串に刺さっているそれを美味しそうに食べている。地球でも国によれば食べているところもあるけど、日本は食べる習慣がないからちょっと抵抗あるよね。


「なあ、あんたらはこれから下の階層に行くのか? せっかくだから俺達のパーティーと一緒に行かないか?」


 なんかナンパみたいなのが来たね。5人組のパーティーみたいだけど、正直いらないよね。

 僕が行こうとすると、委員長が先に出た。


「ごめんなさい、私たちは早く行きたいから知らないパーティーと一緒に行くつもりはないの」


 おお、委員長がちゃんと断っている。


「いいだろ? 俺達が守ってやるからさー」


「守る? あなた達が? うちには守ることに関して天才がいるの、だから必要ないわ!」


 天才? それって僕のことだよね。委員長は僕のことをそういう風に思っていてくれてたんだね。


「いやいや、俺達のほうがもっと凄いぜ。夜も守ってやるからさー」


「あなた達がもっと凄い? 冗談は顔だけにしておきなさい」


 うわ、委員長が喧嘩を売り始めた。


「おいおい、ちょっと可愛いからって調子に乗ってんじゃねえぞ!」

「てめぇは、今日から俺らのおもちゃにしてやるよ!」


 そしてキレるナンパ野郎達。委員長が5人に囲まれる。

 その様子にアレッサとマノンが武器を持って突っ込もうとする。


「わわわ、我らもカレンに加勢しに行くぞ」

「私もいきます!」


「いや必要ないから、むしろ委員長の戦いをしっかり見ておくといいよ」


「え? いや相手は5人もいるのだぞ。カレンがいくら強いと言ってもこの階層で戦っている冒険者5人相手に勝てるわけが無いだろ」


 その言葉を聞いたナンパ野郎達がニヤケ始める。


「今、謝るなら許してやってもいいぜ。ただし俺らのテントでお詫びに色々やってもらうけどな」


「大丈夫、この階層程度の実力しかないのなら相手にならないよ。そいつらが10人いても委員長にとっては数のうちには入らないから」


 僕が自信満々に言うと、ナンパ野郎達の顔が強張る。


「謝る? 喧嘩を売っているのが分からないほどのお馬鹿さんなのかしら?」


 委員長が挑発するが、ナンパ野郎達は動こうとしない。委員長の余裕の態度が、本気かブラフかを考えているのだろう。


「委員長、僕ならこの5人は10秒あれば倒せるけど、時間掛かりそうかなー? そろそろ次の階層に行きたいんだけど」


 僕の言葉にナンパ野郎達がギョッとする。


「なら私は5秒で終わらすわ、それであなたがタイムを計ってくれるのかしら?」


「いいよ、じゃあカウント始めるからゼロで始めてね。もちろん委員長は殺さないように手加減しなよ、周りの人達は本気でやったほうがいいよ」


「もちろんよ、じゃあカウント始めて頂戴!」


 僕達の会話を聞いて、ナンパ野郎達はかなり動揺している。でも騒ぎを聞いた他の冒険者達が集まってきて様子を見ているため、逃げることもできない。


「じゃあ数えるよ。ごー、よん、さん、にー、いち、ぜろ!」


 ゼロの声と同時に委員長は剣を抜く。相手もおよび腰ながらも武器を構えるが、既に気持ちが守りに入っているため、前に出ない。

 委員長が蛇腹剣を鞭タイプに変えると跳んで囲みから脱出すると5人纏めて蛇腹剣で縛り上げてしまう。


「サンダーボール!」


 最後に魔法をぶつけるとちょうど5秒で仕留めた。

 周りからも歓声が上がり、注目を浴びた委員長が恥ずかしそうにしている。


「おいおい、まじで5秒で5人倒したぞ!」

「誰だよあれ? どこのパーティーだ?」

「あの剣なんだよ? 伸びて絡まったぞ!?」

「最後に魔法を使っていたけど詠唱してなかったよな?」


 アレッサとマノンもポカンとしている。


「ね、必要なかったでしょ。委員長は強いからね」


「うそ……、あんなに強かったの? 蛇腹剣にも驚いたけれど魔法の詠唱破棄まで使うなんて、まるで英雄ですわ……」


「す、凄いです! カレンは魔法も使えたのですね!」


 2人とも勘違いしているけど、委員長は魔法が本業です……。

 アレッサとマノンの委員長を見る目が、憧れの人を見るように変わっている。

 委員長が戻ってきた。


「さ、早く次の階層にいくわよ!」


 多くの冒険者達に注目されているのがはずかしいのか、急いでここを出ようとする。


「まさかここまで大事になるとは思わなかったね」


「まったくよ、さっさと倒して終わりだと思っていたのにいろんな人に囲まれ始めて困ったわよ」


 本当に困った顔をしている。善意で近づいてくる人を無下にはできない性格だからね。


「凄かったです! ピョンって跳ねてヒュッとしてバリバリッて!」


 擬音だらけで伝わってこない。


「カレンは魔法も使えたのですね! しかも詠唱破棄だなんて!」


 こっちはかなり興奮している。


「ほらほら、2人とも行くよ。2人も委員長みたいになりたいのなら一緒に頑張って強くなればいいんだよ」


「「はい!」」


 委員長も恥ずかしそうに、でもちょっと嬉しそうな顔をしている。


お読み頂きありがとうございます。


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