16 出ちゃった
本日2話投稿します。
2話目は18時。
迷宮3日目
「そういえば、この迷宮の進化前の攻略階層は何階層までだったの?」
「たしか44階層までだったはずよ」
「40階層の守護者を倒して以降の迷宮の難易度が一気に上がったという話を聞きました」
「んーじゃあ進化後は次の守護者の階層が50階層だろうから、それを超えると難しくなるのか……」
「おそらくそうよね」
「でも私達なら行けると思います」
そうだよね、今まで特に苦戦してないし。
「じゃあ今日は50階層目指すとしますか」
「まあ頑張れば行けるわね」
初日は26階層まで進み、2日目は38階層まで。魔物が強くなってきているのでペースが落ちてきてはいるけど、行けないこともないはず。といっても2人もかなり魔物を倒しているので、レベルは既に僕を超えているはずだ。
2人の戦いを見ていると、戦い方が巧くなっているのが分かる。レベルだけでなく、技術も上がっているのだろう。
40階層に入ると1組のパーティーを見かけた。たしか守護者の部屋の前にいたパーティーの1つだ。リーダーらしき男がこちらに気づくとニヤニヤした顔で近づいてくる。
僕と委員長は警戒をし、天沢を庇う位置に立つ。
「よう、あんたらもここまできたのか、良かったら俺達と一緒に進まないか? そっちは3人だし色々大変だろ? お互いメリットがあると思うんだがどうだ?」
迷宮内で知り合いでもない相手に声をかけるとか、胡散臭いとしか言いようがないよね。
「遠慮しておくよ。知らない人について行ってはいけませんって教えられているのでね」
「そう言うなよ、迷宮内では助け合いの精神が大切なんだぜ」
助け合いね、そういう都合のいい言葉を吐いてくるやつは信用できないんだよね。
「それは相手が信用できる場合ですよね。親切の押し売りをしようとする相手は信用しないようにしてるので」
相手の顔に苛立ちが見えてくる。
「おいおいそれは俺達が信用できないって言うのかよ」
目に怒りが篭り始め、本性が現れてくる。
「初対面の人間を信用するほど馬鹿ではないよ」
「てめぇ、人が優しくすりゃあつけあがりやがって!」
いったいいつ優しくしたんだよ。
相手が腰の剣に手をかけた瞬間、相手の顔面を蹴り飛ばす。
「ふぎゃー!」
蹴られた男が5メートルほど吹き飛び転がっていく。その様子を見ていた仲間達が驚きつつも武器を手にする。
委員長や天沢も武器を相手に向け一色触発の空気になる。
しかし委員長や天沢に人との実戦経験などあるはずもなく、かなり動揺しているのが分かる。
2人に下がるように言い、僕が1人で前に出る。威圧を最大まで発揮し、笑顔でゆっくりと連中に近づく。
「ねぇ、もしかして僕と殺し合いをしたいの? それならそう言ってよ、ちゃんと相手をしてあげるからさ。もちろん全員殺すけど……いいよねぇ」
「「「ひ、ひぃー」」」
威圧に恐れを成したのか連中の戦意は失われる。
腰を抜かす者、武器を落とす者、立ち尽くす者などいるが誰も逃げ出さないし、襲ってもこないのでちょっと困る。
「2人とも、いこっか」
2人が首を縦に何度も振ってるけど、2人には威圧かけてないよね…。くすん。
連中から離れて少し経つけど、2人とも無言だ。やっぱり威圧が2人にも向いてたのかも……。
「……あの、さっきはありがとう」
「……ん?」
「……私はレベルも上がって、魔物にも苦戦することなく倒せるようになったわ、だから強くなったつもりでいたの」
いや、委員長は十分強いと思うけどね。
「でも、男の人6人に囲まれたときどうすればいいか分からなかったわ。あの人達が武器を手にしてきたときは私も戦わないとって思ったのだけど、相手に大怪我させるかもしれない、最悪殺してしまうかもしれないと考えてしまって怖くなったの」
……それは普通のことだと思う。
「結局あなたが前に出て威圧と脅しで切り抜けてホッとしたけど、同時に私は何をやっているんだろって思ったわ……」
「そもそも対人戦闘なんてしたことないんだし仕方ないよ」
「いいえ、訓練で騎士と何度か戦っているわ。でも実戦では足が竦み前に出なかったの……」
そういう訓練もしてたんだ、でも訓練だと模擬剣だしね。
「じゃあ今回の教訓を生かして次から頑張ればいいよ。あとパーティーメンバーはやっぱり増やしたほうがいいのかもね。10代が3人だとどうしても舐められるし」
「そうね、信用できそうな人なら検討しましょう」
どっかに都合よく2、3人組のパーティーとかいないかなぁ?
◇
目標の50階層まで行くと、25階層と同じような構造だった。やはり守護者部屋があるのだろう。門の色は白く、いつでも入れるはずだが、門の前には1組のパーティーが休んでいる。先ほどの経験からか、2人ともすぐさま警戒の態勢をとる。
「おぅ、三騎士じゃねえか、ちょっと見ねぇうちに一端の冒険者みたいな面になってきたじゃねえか」
あ、断罪だ。ここまできてるってことはかなりの実力者なのかな。
「断罪は休憩中? 守護者とは戦わないの?」
「話し合いの最中でな、このまま守護者を倒して先に進むか、それともここで引き返すかを相談してるんだよ。守護者もどんなやつか分からねえし、倒してもその先が面倒なのは進化前から知ってるからなぁ」
なるほど、僕達もちゃんと話し合ったほうがいいのかもね。前回のこともあるし。
「ちなみに進化前の40階層の守護者ってどんなのだったの?」
「おいおい、知らずにきてんのか。以前の守護者はブラックオーガだよ」
そういえばそんなこと副団長が言ってたね、あまりにもあっけなかったから記憶に残ってなかったよ……。
「ふーん、でも断罪なら大丈夫じゃないの?」
「ブラックオーガならなんとかなるんだがな、進化したならもっと強い魔物が出てくるって話だ」
「何が出るか分からないから慎重になってるわけか」
「まあな、一度入ると倒すか全滅かのどちらかだからな、失敗はできないさ」
「断罪が経験した守護者の中で、一番厄介だった相手は?」
「ゴブリンだな、ゴブリンが50匹が襲い掛かってきたやつだ」
「ゴブリン?」
ゴブリンってあのゴブリンだよね、強い相手ではないよね。50匹は多いけど、悩むほどの相手とも思えないけど…。
「ああ、ゴブリン共が連携して襲ってくるんだ。しかもゴブリンアーチャーやゴブリンメイジが遠距離からちまちま撃ってきやがる。そいつらを倒そうとすると、やたらと硬いゴブリンナイトに阻まれ、手間取ると囲まれて後衛が狙われる。纏めているゴブリンジェネラルもそこそこ強かったな」
数で攻めてくるのか。確かに天沢が狙われると戦い辛いかも。それに僕達は1対多数の戦闘経験がないんだよね。
「色々教えてくれてありがと。僕達も対策を考えるよ」
「おう、引き返すってのも間違いではないからな」
断罪のリーダーは仲間との話し合いに戻っていく。
引き返すか、まだそれを考えるつもりはないけどね。
「では第1回、守護者対策会議を始めます。議題はゴブリン50匹をどう倒すか」
「どうしてゴブリン50匹? ブラックオーガの可能性のほうが高いと思うのだけれど」
「僕達の場合、相手が1体だった場合は力押しでなんとかなるからね。問題は相手の数が多い場合の戦い方を持ってないことだよ」
「それなら障壁で私達を囲い、一箇所だけ魔物が入れる場所を作るのはどうでしょうか?」
「いいわね、それなら1匹ずつ戦えるわ。どんなに数が多くてもなんとかなりそうね」
「はい、遠距離からの攻撃も入口だけ気をつければいいので安全に戦えます」
……あれ?もう答え出ちゃった。
お読み頂きありがとうございます。