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1.転移は突然に

主人公のコンセプトはナチュラルクズ野郎です。


お楽しみください。


目の前には雄大な景色が広がっている。

草原は青々とした下草が広がり、風が吹き抜けていく様は自然の美しさを感じさせる。実に気持ちのいい風景だ。








だが、ちょっと待ってほしい。

ここで問題なのは、家の玄関を開けたらこの景色だったということだ。何時から我が家の玄関はどこでもドアになってしまったのだろうか?どうやら壊れているようだがネコ型ロボットはやってこないのかな?


…………いかん、意識が妙なところに行ってしまっていたようだ。

現実逃避したいのは山々だが、とにかく現状を認識しよう。現実を見つめるのだ俺よ。(くじ)けるんじゃあない。


俺の名前は佐藤千尋(さとうちひろ)、年齢は24、性別は男。

記憶もしっかりとある。友人の名前が思い出せなかったり、親の顔が思い出せなかったりすることもない。

身体の方も特に異常は見られない。……服装が上下スウェットなこと以外は問題ない。

持ち物は、財布しかない。近所のコンビニに行くだけのつもりだったからな。せめてスマホを持っておくべきだったか。


まずは、通ってきた玄関を振り向いて確認する。

何もない。知ってた。くそったれめ。


ふー、落ち着け。俺は冷静だ。これでもオタクの端くれ、この現象について薄々察しがついてはいる。

これはあれか?アレを試さなきゃいけないのかな?この年齢でやるのは正直つらい。いろんな覚悟がいる。


……………………よし、やるか。


「ステータス・オープン!!」


叫んだと同時に、半透明のモニターのようなものが表示された。



  名前 佐藤千尋

  レベル 1

  MP  9/9


  ギフト  時魔法Lv.1

       言語理解


  スキル  算術Lv.5

       異質知識Lv.3



「うおほぉおおおお!!?」


―――マジで出た。いや、出てしまった。


「…………これ、異世界転移だ。」


ここまで来たら認めざるを得ない。

どうあがいてもこんなの今の技術じゃ不可能だ。もし可能でも、そんな壮大な技術を俺に使う理由が無い。半透明に浮かんで表示されるウィンドウとか、本当にできたらスマホよりよほど便利だろうな。


とにかくステータスを確認しよう。画面をタッチしたら説明とか出てくれないかな?

……おっ、いけた!


ステータスに表示された説明をまとめるとこんな感じだ。


 レベル :魂の容量

 MP  :魔力容量

 ギフト :神より賜りし技能

 スキル :身に着けた技能の証明

 算術  :数学的知識・技能

 異質知識:この世界に未だ存在しないはずの知識


なんとなく色々わかったような気がする。気がするんだが……、一つ言わせてくれ。


「説明が少ないんだよ!!!」


説明がザックリし過ぎでしょ!?これじゃ説明じゃなくてフレーバーテキストじゃないですか!!?


そして、ギフトの能力についてだ。コイツからは厄介ごとの気配がビンビンする。

まあ、言語理解はいい。名前から大体わかる。

気になるのは時魔法についてだ。説明書きは出なかったが、その代わりに別のものが開けた。


―――そして、ヤバいこともわかった。



  名前 佐藤千尋

  レベル 1

  MP  9/9


  ギフト  時魔法Lv.1

        ∟タイム・ストップ

       言語理解


  スキル  算術Lv.5

       異質知識Lv.3



お分かりいただけただろうか?

たぶんこの『タイム・ストップ』が時魔法とやらで使える魔法なのだと思う。

そんで更にタイム・ストップをタップすると説明が出てきたのだ。



  名前 佐藤千尋

  レベル 1

  MP  9/9


  ギフト  時魔法Lv.1

        ∟タイム・ストップ・・・世界の時間を停止させる。1秒につき1MP

       言語理解


  スキル  算術Lv.5

       異質知識Lv.3



お分かりいただけただろうか?(白目)

えっ?なんでレベル1の魔法でこれがでるんですか?これ、確実に時魔法の奥義とかそういう感じの奴なのでは?


様々な疑問がよぎるが、一つだけわかる事がある。

おそらく、俺はチート野郎だというコトだ。

こういった異世界転移系で苦労することが多いチートなしパターンではないらしい。


この事実に俺は思わずホッと安堵の息を吐いた。

この魔法さえあればおおよそどんな戦いになってもあっさり負けることはないだろう。

今はMPの関係上わずか9秒しか時間を止められないが、戦闘においてならそれでも十分に強力だと思う。

それに、今は9秒だがレベルが上がればどんどんと時間を停止させる時間が伸びていくのだ。

これはいずれ世界を支配する能力に違いない。DI○様もそう言ってた。



ん?……戦闘?



ふと気づく、ここはどんな場所だったかというコトに。

周囲を見渡してみる。きれいな草原が広がっている。右手側の遠くには森が広がっている。……遮蔽物はほぼない。人工物もまた、無い。道も、無い。


森の方から鳥っぽいものが飛び立っていく。鳴き声はなんというか「ギェア!ギェア!」って感じだ。

つまり―――



ココ、異世界。魔物、いる(かも)。俺、武器無い。



これはマズイ!!

早急に人のいるところに逃げなければいけない。


といってもどこに向かえば人がいるのかわからない。なので、魔物に襲われないように行動することを第一にしよう。

とりあえず、今選択すべきなのは、森に入るかこのまま草原を進むかだ。


森に入れば遮蔽物が多く、木の上とかも安全かもしれない。運が良ければ魔物や凶暴な動物に見つからずに進めるだろう。ただし、陰から奇襲されたら詰む。気配を察知するとか無理だし。

草原を進めば、見晴らしがいいため物陰から襲われる心配はない。遠くまで見えるというコトは街が見つかるのも早くなるかも?魔物からも見つかりやすいというコトになるけれど。


悩む。マジで命がかかった選択肢だ。……異世界って優しくないなぁ。


「決めた。行くなら草原だな。」


物語なんかでは主人公は森を行くことが多い。森には食料があるかもしれないし、水場もあるかもしれない。更に言うなら、弱い魔物を倒してレベルアップもしちゃうかもしれない。


…………いや、絶対無理。

まず、森歩きとかした事ないし。食料になるものとか知らないし。戦うのも無理。逃げる一択です。


というわけで草原をゆくことにした。

かなり後ろ向きな思考だが、まあ何とかなるだろう。何とかなるよね?なってください。



========



しばらく草原を歩く。

玄関を出るときにスニーカーを履いていたのは幸運だった。サンダルを選ばなかったあの時の俺、グッジョブ。


そして、街に着くまでの間に今後の自分の行動について指針を立てておくとしよう。

まずはどのくらい秘密にして置くか?ということからだろう。

俺のチートはこういっちゃなんだが犯罪行為に向いている。スリに万引き、強盗とやり放題だ。

つまり、他人にばれると恐れられる。というか、危険だから殺すと言われるかもしれない。それか飼い殺しかな?


結論。チートは絶対に秘密。


異世界人についてはどうだろうか?

これは別にばれたからって危険だと思われるかはわからない。

しかし、説明が面倒くさい。現代人と違って異世界の概念から説明するのはとても面倒くさい。

常識知らずなのは田舎の出身だからってことにしとくか?


結論。とりあえず田舎者ってことにしとく


しかし先ほどから歩けど歩けど何もない。延々草原である。

いい加減景色に変化が無いと、草原の事キライになっちゃう。


そうやって色々と考えながら草原にある丘を越えると、ようやく待ち望んだものが現れた。


「道だ……。」


そして、更に


「街だーー!!」


丘の下には道が、そしてその先には大きな町が見えていた。


高い壁に囲まれ、門があり、ザ・異世界の街という感じだ。


とにかく急いで街へと向かう。何時まで門があいているのか知らない、しかし夕方か夜になったら流石に閉めるだろう。歩いているうちにもうすぐ夕方という時間帯に入っているが、せっかくここまで来て街を締め出されるのは勘弁してほしい。


駆け足で門へと向かうと、衛兵っぽいオッチャンに出迎えられた。


「どうした?走ってきていたが、何かあったのか?」


どうやら、走ってきていたので街道で何か異常があったのかと思ったようだ。

走ってきて乱れた息を整えてから、なんでもない、急がないと閉まると思ったと返答する。


「なんだ、騒がせやがって。そういう時は大人しく締め出されてろ。紛らわしいことをするな。」


何故か知らんが、めちゃくちゃ辛辣である。つらい。


「あはは、すいません。それで街に入れてもらえますか?」


だが、社会人を舐めるな。怒られることなど慣れておるわ。

ここは、愛想笑いで切り抜ける。早く入れてくれ。


「わかった、わかった。入門税は半銀貨一枚だ。」

「……え?」


what's?入門税?こちとら天下無敵の無一文なんですが?



―――背に腹は代えられんな



「どうした?金が無いのか?」

「いえ、これで足りますか?」


俺は財布から銀色の丸い硬貨を取り出した。


「うん?銀貨一枚だな。これがおつりだ。」

「ありがとうございます。」


そう言うと、衛兵のオッチャンは平たくて四角い銀色の硬貨を9枚差し出してきた。

おそらくこれが半銀貨なのだろう。


「それでは、通ってよし。」

「どーも、どーも」


会釈をしながら門を通り抜ける。

門が見えなくなった辺りで、脇道に入る。


「ぷはぁー。」


緊張で乱れっぱなしだった呼吸を治める。

かなりヤバかったが何とか門を通ることができたぜ。


やったことは簡単だ。

時魔法の『タイム・ストップ』を使って衛兵のオッチャンの財布からお金をいただいたのだ。

どれが半銀貨なのか分らなかったので、とにかく銀色の硬貨を選んでみたが何とかなったようだ。


え?スリは犯罪?

ははは、ご冗談を。バレなければ犯罪じゃないのだよワトソン君。

正直な話、他人を気遣うほどの余裕などない。我が身が第一である。


それはともかくとして、改めてステータスを確認する。



  名前 佐藤千尋

  レベル 1

  MP  0/9


  ギフト  時魔法Lv.1

       言語理解


  スキル  算術Lv.5

       異質知識Lv.3



時魔法を使用したため、MP切れになったようだ。

体調が悪くなったり、気分が悪くなったりしたりという様子はない。どうやら、MP切れは何かこれといった症状が出るわけではないようだ。

割と助かる。魔法を使用するたびに気分が悪くなるとかじゃ無くてよかった。


今回、時魔法の『タイム・ストップ』を使用してみたことでいくつかの事がわかった。


・自分以外の時間は完全に停止している。

・物が見えなくなったりすることはない

・俺が触れたものには干渉できる


まず、説明文にもあったが、本当に自分以外の全ての時間が止まっていた。

空中に落ち葉が固定されているのを見ればいやでも信じざるを得ない。


そして、ありとあらゆるものが固定されているのだが、俺が触れるときちんと動かせた。手を離せば再び空間に固定されたようになってしまうが、おそらく時間停止中に攻撃することさえ可能だろう。


最後に、「空気が止まったなら動けないし、光が止まったなら目が見えないし、音が止まったら何も聞こえないじゃん」という意見がある。うん、俺もそう思う。

だが何とかなった。理由は知らん。できるものはできる。それでいいじゃないか。


さて、いつまでもこうしてはいられない。

早速だが今日の宿を探さなければ。


大通りに出て宿を探すと思ったよりもあっさりと発見できた。

どうやら『言語理解』のおかげで看板の文字もしっかりと理解できる様だ。

意味不明な記号の羅列にしか見えないのに、それがどういう意味なのか理解できる。という不思議な感覚に陥りながら宿屋に入る。


宿屋のカウンターには不機嫌そうなオッサンが座っていた。


「ん、客か?」

「ああ、一晩頼む」

「5,000マルクだ」


でた、通貨の単位。


「半銀貨で何枚だ?」

「……ああ、5枚だよ」


明らかに「そんな計算もできねえのかよ」って顔で見られたな。

だが、ここは我慢だ。田舎者のバカのフリをして疑問に思われないようにしよう。


「おお!ありがとう!!はい、これ!」

「毎度あり、鍵はこれな。場所は2階の一番奥だ間違えるなよ。」

「わかりました!どうもー!」


愛想が悪いのはマイナスだが、必要最低限しかしゃべらないのは助かる。この宿は当たりだな。


部屋に入り、すぐさま鍵を閉める。

現代日本のモノとは比べ物にならないくらい粗末なベッドに腰を下ろす。


「はぁ~」


思わずため息が漏れる。


今日一日でいろいろなことが起き過ぎた。

本来なら魔法をつかえたことに喜ぶとか、街でチラッと見かけたケモミミの人間について驚いたりとかするところなんだが、そんな元気さえもうない。


実際に異世界に転移するとこうも現実が厳しいとは……。

チートとか全然役に立たんし……。スリにしか使ってねえ。


とにかく今日はもう寝よう。

色々、先送りにするとヤバい気もするが、明日の俺が頑張ってくれると信じている。


ベッドに倒れ込むと、疲労のせいか、まるで電源が落ちたかのように眠りについた。

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