第1話
ブラック童話なので、元のグリム童話『ラプンツェル』のようなさわやかさはないかもしれません。その点、ご留意いただけますよう、よろしくお願いします。
ラプンツェラ・ラッシェラ
昔、エスカルド王国のブライエンバッハ王の治世の時代、王室に可愛い双子の女の子が誕生いたしました。けれども王が王妃の寝室で元気なふたりの子の誕生を喜んだのも束の間、すぐに双子の娘たちは引き離され、ひとりは王家に誕生した正式な子として、いまひとりは西のはずれにある魔女の森へと捨てられることになりました。
古来より、王家に双子が生まれるのは不吉なことの起きる前兆、そのしるしであるとの言い伝えがございまして、後から生まれたほうの子を――取り上げた乳母か産婆か侍医が、産後間もなく顔に濡れた布を被せて殺すということになっておりました。この方法は王と愛妾との間に生まれた望まれぬ子に対しても普通に行われていたのですが、流石にこの時ばかりは王妃の乳母も王宮づきの侍医も、また城下町のほうから特別に呼ばれていた産婆も、この可愛らしい王さまの娘を生まれなかった者とするのを嫌がりました。何故といって、曲がりなりにも王家のお子ですし、何よりこの可愛らしい女の子の様子といったら――まるで天使のようなのです。
「こんな可愛い子を窒息死させるだなんて、悪魔でもなきゃできますまいよ。なんにしてもわたしは悪魔なんぞに魂を売るつもりはありませんね」
城下町で評判の熟練の産婆は、口止め料にと積まれた金貨に目もくれず、すぐにさっさと自分の家へ帰ってしまいました。王妃さまの乳母はといえば、上の女の子の面倒を見るのにかかりきりでしたし、途方に暮れた老侍医は可愛い下の女の子を抱えてこっそり王城を出ました。
どうしてもこの天使のような可愛い子を殺すには忍びませんでしたし、かといってこっそり自分の子として育てるようなわけにもいきません。老侍医は馬車の中で「可哀想に、可哀想に」と何度も呟きながらも、結局その子を西にある魔女の森へ捨てることにしたのでした。魔女の森などと申しましても、かつてそのような女性がその森に住んでいたと言い伝えられているだけで、今現在そこに魔女が住み着いているというわけではありません。またその森は迷いの森とも呼ばれていて、あまり奥まで踏みこむと生きては帰ってこられないということでも有名でした。
ですからこの年老いた王宮づきの侍医は、森のほんの入口に差しかかったところで御者に止まるよう命じ、天使のように愛らしいその子を、「どうか恨まないでおくれ」と言って紫色のおくるみごとその場所に捨てたのでした。
鬱蒼と黒い杉の樹が連なるその下にその赤ん坊が捨てられた夜、天空には美しい満月が輝いていました。耳を澄ますとどこかからオオカミが遠吠えをしているのが聞こえてきます。かと思うと、森の奥――深い闇の彼方から、一匹の大きな山犬が現れて可哀想な捨て子のことを口にくわえてゆきました。
その生後間もない赤ん坊は泣きもしませんでしたし、むしろ楽しそうにキャッキャッと笑っております。山犬は自分の寝床にその子を連れ帰りますと、ぺろぺろと舌でなめて自分のお乳を吸わせるように致しました。実をいうと彼女はつい先日、きのこ狩りにきていた人間たちに自分の小さな子供たちを殺されたばかりだったのです。
山犬はその人間の赤子を、まるで我が子のように可愛がり、その子が三歳になるまでよく世話をして育てたのですが、またしても悪魔のような人間が――彼女とその愛らしい女の子との間を引き裂いたのでした。
大工のアンブローシェ・ラプンツェラはよく晴れ渡ったその日、彼の可愛がっている愛豚のトン吉を連れて、西の魔女の森へトリュフ狩りにやってきていました。この丸々とよく肥えた豚のトン吉にはある特殊能力があって、すぐにトリュフがどこにあるかを発見できる、非常に優れた鼻を持っていたのでした。
「へへへ。今日もひとつ頼むぜ、トンちゃんよ」
アンブローシェは豚の首から綱を外すと、鉄砲を肩にかけて彼のあとを追い、次から次へとトリュフを発見しては、したり顔をして籠の中にそれを入れていきました。彼自身もトリュフは大の好物でしたし、何より城下町の店では高く買いとってくれますので、彼はそのお金で明日、王立競馬場である馬に賭けるつもりでおりました。
「もし明日、ドリス伯爵のバートレット号が一位になったらトリプル・クラウンだなあ。デューク男爵のオルブライト号もなかなか速いんだが、やはりドリス伯爵の敵ではあるまい」
この競馬狂で酒飲みで自分の妻には日常的に暴力を振るっている駄目親父は、籠いっぱいになるまでトリュフを集めると、愛豚のトン吉を連れてそろそろ帰ろうとしました。そしてトン吉がしきりに茂みに隠れた穴蔵にブヒブヒ鼻を突っこんでいるのを見て、これで最後にしようと思ったのですが――なんと!驚いたことにそこには、金の巻き毛のなんとも愛らしい様子の女の子が眠っているではありませんか!
「……こりゃあ、おそらく捨て子だな」
アンブローシェは見て見ぬふりをしてその場を立ち去ろうとしたのですが、その子が薔薇色の頬をしてあんまり可愛らしいので――ちょっと触ってみたくなったその時でした。茂みの奥のほうからガサガサッと何かが近づいてくる気配がしますと、トン吉がブヒヒヒッと叫び声を上げたのです。
「この野郎!よくもトン吉を!」
トン吉は首に食らいついた灰色の山犬をなんとか振りほどこうとしましたが、山犬は一度離れると今度はトン吉の後ろ足に噛みつきました。足に怪我をさせて動けなくさせようとしているのです。たまらなくなったアンブローシェは鉄砲で山犬を撃ち殺そうとしました。
――ズダアアン!
あたりに銃声が鳴り響くと、そばの樹々の梢でおしゃべりしていた鳥たちはみな、一斉に飛び去りました。森に捨てられて本当なら死ぬはずだった子供もまた目を覚まして、穴蔵からのそのそ出てきました。山犬は心臓を撃ち抜かれ、だらりと赤い舌を垂らして死んでいます。アンブローシェという男は決して良い人間とはいえませんでしたが、それでも血を流している山犬の死体を子供の目から隠すくらいの分別は持ち合わせていましたから、彼女を抱きかかえると後ろ足を引きずるトン吉とともに、家路に着くことにしたのでした。
アンブローシェと家内のミッシェルの間には子供がおりませんでしたので、ふたりはこの山犬に育てられた可哀想な女の子を引きとることにしました。何より子供ができて喜んだのはミッシェルで、彼女は昔から女の赤ちゃんが生まれたらつけようと思っていた名前――ラプンツェラという名前を彼女につけました。
ミッシェルはいくら血の繋がりはないとはいえ、この子のお陰でもしかしたら、亭主のアンブローシェも変わってくれるかもしれないと望みを持っていました。アンブローシェは大工としての腕前はなかなかだったのですが、途方もない大酒飲みでギャンブルに目がなく、その上とても短気でしたから、酒場でポーカーに負けては喧嘩をして帰ってくるというのを、懲りずに何百回となく繰り返していました。しかもそれだけではなく、自分のむしゃくしゃする気持ちを妻に暴力を振るっては解消しているという、最低の男の標本みたいな人間でした。
さらに、もっと悪いことには、アンブローシェは自分が西の魔女の森で拾ってきた娘――ラプンツェラの胸が膨らみ、彼女が初潮を迎える頃になりますと、この血の繋がらぬ娘に対して性的な暴力を加えるようになりました。
ラプンツェラは小さな頃から美しく、そのせいかどうかアンブローシェは彼女にだけは手を上げたことさえなかったのですが、妻に対しては相変わらずでした。ところが、義理の娘と性的関係を持っているという後ろめたさのためか、彼は妻の目を盗んでラプンツェラと寝るようになってからは、ミッシェルに暴力を振るわなくなりました。それどころか、酒を飲む量も自然と減り、毎日真面目に大工仕事に励んでは酒場にさえ寄らず、真っすぐ家へ帰ってくるようになったのです。
ラプンツェラは小さな頃から耳が聞こえませんでしたので、当然ながら話すこともできませんでした。城下町には彼女のような人のための聾唖学校がありましたが、ラッシェラ夫妻の間にはそこに養女を通わせるほどの金銭的余裕はありませんでしたので、娘を手元に置いて養育し、村の小さな学校にさえ通わせなかったのでした。
ミッシェルは特別、ラプンツェラが口を聞けないからといって残念がったりはしませんでした。ラプンツェラは小さな頃から素直で、親の言うことを聞く良い娘でしたし、彼女の耳に口汚い夫婦の罵り言葉の応酬が聞こえなかったというのも、ある意味では喜ばしいことだったかもしれません。それでももちろんラプンツェラには、ふたりの夫婦仲が最悪に近いくらい悪いということだけは、いつもひしひしと肌で感じていたのですが。
ラプンツェラは料理も裁縫もとても上手でしたし、自分にできることで義理の母のためになることならばなんでも手伝いました。井戸の水汲みやら野菜畑の手入れ、ドレスの仕立てや家の掃除、風呂を焚くことなど、なんでもです。ミッシェルは夫に暴力を振るわれるやるせなさをラプンツェラをいじめることで解消しようとするような人間ではありませんでしたし、常に愛情あふるる心優しき養母とまではいきませんでしたが、それでも彼女のラプンツェラに施した躾はきちんといき届いた立派なもので、ラプンツェラのほうでもミッシェルのことをとても慕っていました。
ああ、それなのにそれなのに、あの駄目親父のアンブローシェは、せっかくのこの母娘の絆を引き裂いて、二度とは元に戻らなくさせてしまったのです。
ある時、村の婦人会の寄り合いからミッシェルが戻ってみると、「あー」とか「うう」という呻き声のような、なんともいえない娘の声が、彼女の部屋のほうから聞こえてきました。ミッシェルはラプンツェラが時々、そんなふうに意味不明の言葉を呟くのを知っていましたので、特に気にも留めなかったのですが――ベッドがギシギシと揺れる音に続いて、「ああ、ラプンツェラ。おまえの体は最高だよ」と飲んだくれのろくでなし亭主がしわがれ声で言っているのが聞こえると、もはや冷静ではいられませんでした。
あとになってからミッシェルは、何故この時すぐにドアを開けてふたりをまごつかせてやらなかったかと後悔するのですが、彼女はあまりのことにショックを受け、家を飛びだしていくことしかできなかったのでした。そして菜園のレタス畑のところまで走っていき、そこに蹲って大声で泣き喚いたのでした。
このことは、ミッシェルにとってはひどい裏切り行為でした。もちろん彼女にはすべてわかっていたのです――ラプンツェラは決して自分の夫を誘惑するような娘ではありませんから、あのろくでなし亭主がいやらしい指を養女に伸ばしたのであろうことは容易に想像がつきました。
実はミッシェルは孤児で、引きとられた先の養父に性的な関係を強要されたという経験があったので、可哀想なラプンツェラの気持ちがどんなものか、よくわかっていたのです。ミッシェルの養母もまた、いつの頃からかそのことに気づいてはいたのですが、彼女は見て見ぬふりをし――ミッシェルにつらく当たっては、自分の傷ついた気持ちの代価を絞りとろうとしたのでした。
ミッシェルはこれまで、自分がそうした境遇にあったがゆえにこそ、ラプンツェラのことをいじめもせず可愛がってきたのです。でももう流石にミッシェルにも自信がありませんでした。
その晩、ミッシェルは早速とばかりラプンツェラのことをつまらないことで叱ってしまいましたし、そのことをアンブローシェが諌めてきた時には彼に対して殺意を覚えたほどでした。
(一体誰のために、わたしがこんな――こんな……)
ミッシェルは小さな頃から感情を抑制することに慣れていましたから、この時もすぐ冷静になり、自分はおそらく今ひどく醜い顔をしているだろうと客観的に考えました。そして夜寝る前に鏡の前で、年老いた自分の姿を眺めると、若々しく美しいラプンツェラと比べていることに気づき、ひとつのある大きな決意をしたのでした。
それは、ラプンツェラを城下町にある仕立屋で住みこみのお針子として働かせるということでした。ミッシェルは夫のアンブローシェに一言も相談することなくひとりでそのことを決め、次の日娘に町へいく支度をさせると、仕立屋のウィンスレットの店の扉をくぐったのでした。
そこでミッシェルは、娘がとても気立てのいい子であることや、ラプンツェラがこれまでに作ったドレスや刺繍などを見せて、口は聞けないけれどもその分真面目に熱心に働くだろうということを店主に必死で訴えました。
実をいうと店主のレオノール・ウィンスレットは、ちょっともったいぶった振りをしてみたというだけで、ラプンツェラが店のドアをくぐった時から彼女を雇うことに決めていたのでした。彼は店の窓に張りだされていた求人広告をすぐに剥がし、
「よろしい。それでは早速今日から働いていただこう」
そう尊大な調子でミッシェルに告げました。
「給金は一日二十ドーラ。休日は毎週日曜日だけ。妻のルリアの家事を手伝ってくれるなら、下宿料はただにしよう」
「本当ですか!?」
ミッシェルはミスター=ウィンスレットのあまりの気前のよさに、思わず娘のラプンツェラのことを抱きしめました。この時代、コックの見習いになるにせよパン屋でパン職人の弟子になるにせよ、あるいは大工になるにしても工房で働くにしても――住みこみの下っ端というのは、給金から下宿代やら食事代が差し引かれてしまうと、手元にはほとんどお金が残らないのが普通でした。だからミッシェルは娘が一生懸命働きさえすれば、少しずつ自分のために貯えていけるだろうことを知ってとても喜んだのでした。
「さあさ、ラプンツェラ。これでおまえも立派に一人前になれるよ。おまえももう十六なんだし、これからは自分ひとりで生きていくってことを考えなきゃ」
十三年もともに暮らし、夫の暴力で惨めな気持ちに打ちのめされる時も、ラプンツェラはミッシェルの心の支えでした。それなのに今、一生手元に置いておきたいとずっと思っていた可愛い娘を自分の手で手放そうとしている……そう思うとミッシェルは瞳に涙が滲みましたが、布を型どおりにハサミで裁断する時みたいに、最後にはすべてをきっぱりと諦めたのでした。
ラプンツェラは耳が聴こえませんので、まだよく事情は飲みこめませんでしたが、それでもミッシェルの灰色の瞳の中に涙が滲んでいるのを見て――自分がこれからは家を離れて暮らさなければいけないこと、そしておそらくはこの店で働かなくてはいけないだろうことを直感したのでした。
「ママ!」
ラプンツェラは自分が唯一しゃべれる言葉を最後に叫びましたが、お母さんのミッシェルはもう、後ろを振り返ることさえせずに、町の大通りの向こうへと消えてしまったあとでした。
「大丈夫だよ。僕がついてる」
ウィンスレットは泣きながら窓の外を眺めているラプンツェラの肩を抱くと、彼女のうなじの匂いをかぎながらそう言いました。そうなのです――彼はもう早速この時から、この口の聞けぬ純粋無垢な美しい娘を手ごめにしようと考えていたのでした。
レオノールは二階の客室のひとつにラプンツェラの荷物を運びこむと、台所仕事をしていた奥さんのルリア・ウィンスレットに新しい住みこみのお針子を紹介しました。そして彼女はすぐに非常に不機嫌になったのでした――何故って、前に住みこみで働いていたお針子は、彼女の亭主と出来ていたことが原因でこの家を追いだされたのです。それなのにまた、性懲りもなく……ルリアはそう思いました。でも、ラプンツェラが容姿はこの上もなく美しいけれども、口を聞けないことを知って彼女はいたく同情し、すぐになんでもラプンツェラによくしてやるようになりました。
このふたりはとてもよく気が合いましたし、毎日共同作業で繕い物をする呼吸もぴったり合い、他に何人かいるお針子の中でもラプンツェラの縫い物の腕前はピカ一だとルリアは思うようになりました。そこで店主のウィンスレット氏は、普段は自分か妻がやっている仕事――お客さまの寸法をはかって型をとったりする仕事――までラプンツェラに教えるようになったのでした。
そうして一月が過ぎ、二月が過ぎ、レオノールはラプンツェラに手をだすのをとうとう断念することにしました。自分の妻と住みこみの使用人が毎日楽しそうに縫い物をしたり、台所仕事をしたりしているのを見ると、とてもその間に自分が割りこむ余地はないと感じたからでした。でもそのかわり、彼の目はいつもラプンツェラのことを追っており、仕事の合間合間に自分と彼女が寝ているところを想像しては、禁欲的な喜びに打ち震えていたのです。
(……こんな恋があっても、いいのかもしれない)
次第に、この四十過ぎの洒落男はそんなふうに考えるようにさえなりました。そして何かの拍子にラプンツェラの肩に触れたり、手をとって物を教えたりしては、精神的な姦淫を犯していたのでした。
確かにこれは――肉体関係がない以上、浮気とは言えないかもしれません。でも妻のルリアは敏感にそのことに気づいておりましたので、内心では(目の前で自分の亭主が他の女といちゃいちゃするよりよほど始末が悪い)と、そんなふうに感じていたのでした。そして彼女自身、だんだんにラプンツェラに親切にするのが難しくなっていったのです。
ルリアはラプンツェラより二十も年上でしたので、当然ながら肌の色艶も彼女よりは劣っていますし、もともと太めなので腰などはほっそりしたラプンツェラの二倍はあろうかというふうに思われました。しかもあの天然の巻き毛――ルリアはラプンツェラの自然にカールした美しい金の髪を見るにつけ、やがて嫉妬に身を焼き焦がすようになりました。何故って、彼女の髪は赤毛に近い褐色で、ルリアは昔からラプンツェラのような金の巻き毛に死ぬほど憧れ続けてきたからなのでした。
そして、嫉妬に狂いながらもラプンツェラの自分のことを信じきった、純粋無垢な笑顔に抵抗できないルリアが最後にとった行動は――雇い主の妻としても、また彼女の唯一の友達としても、非常に恥ずべき行いだったと指摘せざるをえません。
ラプンツェラが口を聞けないのをいいことに、ルリアは夫とラプンツェラの双方をうまく騙し、彼女を娼館に売ってしまったのでした。娼館『インマゼールの館』を経営するマルテ・インマゼールは、色町界隈では知らぬ者のない、結構なやり手婆でした。ルリアは何も知らないラプンツェラのことをマルテの元へ連れていき、驚くほどの金額を受けとると、すぐにそそくさとインマゼールの館をあとにしました。
「ほっほっほっ。これはまた結構なべっぴんさんだねえ。ちょっと服を脱いで裸になってごらん」
マルテが指を鳴らすと、深紅のビロードの緞子の裏側から自分の出番を待っていた娼婦がふたり、姿を現しました。彼女たちが自分のよそゆきの服を脱がせようとするのを見てラプンツェラは抵抗しましたが、ただの一枚しかないモスリンのよそゆきを駄目にしたくなかったので、最後は黙って言うなりになってしまいました。
「ほっほっほっ。まだ十六歳というわりに、なかなかいい体をしてるじゃないかえ。ねえ、おまえたちもそう思うだろう?」
マルテがリボンやレース飾りのついた黒の扇で顔を煽ぎながらそう言うと、脇にいた娘たちはふたりとも、しぶしぶながら彼女の言葉を認めました。
「そうね、ママ」
「やっぱり、若い子には負けるわね」
などと、溜息を着きつつ。
化粧をみっちりして髪型も衣装もめかしこんだ三人の商売女たちの雌的な視線の前に投げだされて、ラプンツェラは顔を赤らめました。木綿の下履きだけになったラプンツェラは髪や手で胸を隠そうとしましたが、マルテは彼女の腕をぐいと引っぱり、長い髪もすべて後ろへやってしまいました。そしてラプンツェラのことを大鏡の前に立たさせると、両手で胸をつかんだり乳首をつまんだり、その上に舌を這わせたりということをしました。
ラプンツェラは最初恥かしそうに顔を背けていただけでしたが、マルテが下履きまで脱がせようとしたので、流石にその時には抵抗いたしました。でもいつの間にやら後ろに、ラシーヌとイレーヌという名の娼婦がいて、ラプンツェラの体を抑えつけていました。そしてこの三人は深紅の緞子の裏側にある真鍮のベッドで、代わるがわるラプンツェラの肉体を弄び、男に抱かれるのがどんなことかというのを官能的な技を尽くして教えこんだのでした。