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学生の本分

紫紅美の誕生日から数日が過ぎた。



そろそろ梅雨に差しかかるからか、天候がここ最近優れない。ずっとくずついたままだ。そんな陰鬱な気分になる天気の日の午後、最後の授業にて



「ーーとなる訳だ。あー、それから担任から連絡はいってると思うが、2週間後に中間テストがある。範囲はここまでになるから、しっかり勉強しておけー」



授業の解説の後に、ハゲの石角が無慈悲な一言を言い放った。







「ふ、ふふ……。私にかかれば中間テストなんて、夕飯前ですよ」



「一日終わりかけてるじゃない」



「こんな陰鬱の天気に拍車をかけるがごとく中間テストとは……実に面白い」



「中間テストのくそ野郎ぉぉ!!」



ハゲの石角の授業が終わるなり、騒ぎ始めるクラスメートたち。



「やれやれ。あんなに騒ぐなんて、みんな子供だなあ」



「啓。お前余裕そうだな」



平常を保っている数少ないメンバーの一人かつ、GBK(逆に不気味な啓)が近づいてきたので声をかける。



「まあね。僕にかかれば数学なんて、お茶の子さいさいさ」



「他はどうなんだ?」



「愚問だね。他の教科なんて、ひとえに風の前の塵に同じさ」



「どっから古文でてきた。しかも今日習ったやつだろ、それ」



にしても中間テストね。……さて、どうしようか。



自慢じゃないが、俺は国語以外からっきしダメである。いっそ、諦めようか。期末じゃないなら、夏休みに大きな影響はないだろうし。



「雅文くんは、テスト大丈夫なのか?」



ひょこっと紫紅美が俺の顔を覗き込んでくる。なんか、可愛らしいな。



「国語は大丈夫だな」



「他はどうなのだ?」



「一夜漬けになるだろうなあ。やる気も起きないし」



「そうか……ふむ」



俺の答えに、紫紅美は少しの間考え込み、やがて言った。



「なら、私の家で勉強会をしないか?」



「勉強会か。……まあ、しようか」



多分、一人じゃあまりやる気起きないだろうし。たまには人とやるのも悪くない。



「うむ。雅文くんなら快諾してくれると思っていたぞ」



「僕も参加させてもらうよ、美穂ちゃん。僕の知識の片鱗を、君に授けてあげるよ」



「いらん。あ、寒菜も誘うが、構わないか?」



「別に構わないぞ」



「僕としてはむしろウェルカムだね。寒菜ちゃんと愛の勉強会……。素晴らしいじゃないか!」



「貴様は来るな」



いつも通り、啓が紫紅美に散々嫌われている。啓も、もう少しマトモになれないものだろうか。



かくして放課後。寒菜も含め全員で紫紅美の家に向かう。



「紫紅美の家って、どんな感じなんだ?」



道すがら、何の気なしに紫紅美に問いかける。



「およよ。気になっちゃう感じ?今から行くのにせっかちだね~、雅文くん?」



「お前は黙れ、啓」



「私の家か?ごくごく普通だと思っているが……寒菜はどう思う?」



恐らく行った事があるんであろう寒菜に、紫紅美が賛同を求める。



「……普通、だよ。……美穂のお母さん、優しい人……」



「美穂ちゅあんの母上かあ。きっと綺麗な方なんだろうなあ……」



寒菜の言葉で、啓が妄想の世界へと一気にトリップした。コイツの脳内では、紫紅美の母親は相当美化されているに違いない。



「どうしよう。とつてもなく始末したくなってきているんだが」



身震いしながら、紫紅美が軽蔑の視線を啓へと向ける。



「もし万が一にでも身に危険を感じたら、遠慮なく殺ってもらって構わない。それが世のため人のためだ」



「随分な言い草だねぇ、雅文くん。僕は紳士だよ?そんな危険を感じさせるような事、する訳ないじゃないか」



「紳士という名の変態だろうが」



「Yes,フェミニフト!No,デンジャラス!」



「意味が分からん」



「雅文くん、着いたぞ」



少し先導する形で歩いていた紫紅美と寒菜が足を止める。その真横には、落ち着いた佇まいの一軒家があった。古風な訳でもなく、最新鋭という訳でもなく、本当にごくごく普通の家だ。



「いい雰囲気の家だね。美穂ちゃんにピッタリ!」



「貴様に褒められてもなんとも思わん」



「おやおや~?じゃあ雅文に褒められたら嬉しいのかな~?」



「なっ!」



顔を赤くし、チラッと俺を見る紫紅美。……啓、このヤロウ。てめぇのせいで妙な空気になってんじゃねえか。



俺が何か言わないと壊れそうもない空気に観念し、一言を振り絞った。



「……いい家だな」



「そっ、そうだろう!?さあ、入ろうか!」



明らかに声が裏返った紫紅美は、そそくさと先陣を切り、玄関のドアの鍵を開け始める。



「いやはや。なんとも純粋な娘っこよのう。大事にするんじゃぞ、雅文よ」



「もはや誰だよ、お前」



急なキャラ変更を敢行する啓に冷ややかなツッコミを入れつつ、紫紅美の手招きに応じて家へと上がらせてもらう。



「「おじゃまします」」



「……おじゃまします」



憎らしい事に、啓と挨拶のタイミングが被った。くそっ、ワンテンポ遅れて挨拶すれば良かった。



「うむ。あがってくれ」



落ち着きを取り戻したのか、手際よく来客用のスリッパを並べていく紫紅美。



「美穂ちゅあん。麗しの母君はいらっしゃらないのかい?」



「………………」



遂に、啓に対し完全無視を決め込んだ紫紅美。全く啓を見ようともしない。



「ふっ……。照れてるんだね」



「そのポジティブさはもはや尊敬の域だな。紫紅美、ご家族はいらっしゃらないのか?」



「今はみんな出かけているようだな」



俺の問いかけに答えながら、あちこちへと視線を飛ばす紫紅美。



「誰もいない……。はっ。すまない、雅文!おらぁ、とんでもないことをしちまった!せっかく美穂ちゅあんと甘々な時間を過ごせるチャンスを……!」



「貴様はいい加減、その呼び方を直せ。つまみ出すぞ」



鬼のような形相で啓を睨み付ける紫紅美。



「分かったよ。そんな怖い顔しないで。可愛い顔が台無しだぞっ」



「…………」



「し、紫紅美っ。部屋へ案内してくれ。なっ?」



人をイライラさせる振る舞いをする啓に、紫紅美が業を煮やしかけてたので慌てて割って入る。



「……雅文くんの言うとおりだな。よし、案内しよう」



怒りはどうにか収まったようで、案内を再開する紫紅美。



「ふぅ。感謝しろよ、啓」



「一応、感謝しとくよ。雅文」



一応、という言葉に引っ掛かりを感じるも、まあ聞かなかったことにし、紫紅美の案内のもと、紫紅美の部屋らしき部屋に入った。



「少し散らかっているが……まあ、適当に座っててくれ」



そう言う紫紅美の部屋は、散らかっている箇所を探すのが困難なほどに片付いていた。



質素だが、どこか上品さのあるベッドに、学校の教科書をきれいに並べた本棚。機能的に整理された机と育ちの良さが窺い知れる。……この部屋を見て、暴走族総長の部屋とは思えないな。どういう経緯を経て暴走族に入ったのか気になる。



「……美穂の部屋、久しぶり……」



「なかなか機会もなかったしな。そういう意味でも、今日勉強会をしたのは良かったかもな」



「おお……!これが美穂ちゃんの部屋のかほり……!くんかくんか」



「雅文くん。コイツをぶっ飛ばしても構わないだろうか」



笑顔で顔を引きつらせたまま尋ねてくる紫紅美に対し、俺にしては珍しい笑顔でこう返した。



「いいんじゃないか?ここは汚れるからお薦めしないが」



「爽やかな笑顔で僕をボコるボコらないの会話をしないでもらえるかな!?」



珍しく啓がツッコんだ。なんだ、ポジションチェンジか?



「お前はツッコミじゃないんだからツッコむな。あと、ボコらない、なんて話はしてない。ボコる方向で話を進めてるんだ」



「より一層酷い気がするんだけどなぁ!?」



「とりあえず、あとでソイツはぶっ飛ばすとしよう。それでは、勉強会を始めようか」



啓のツッコミもおざなりに、紫紅美が教科書やノートを机の上に広げ始める。



「ふっ。これが人気者の性、か……。恋のキューピッドは、人知れずして傷つくものさ。英雄と語られる人々の、知られざる苦労のように……」



「いい加減キャラを固定しろよ」



ツッコミなのかキザなのかハッキリしない啓に言うも効果はなく、みんなが広げ始めたので、俺も倣うように教科書やノートを広げる。



「ときに雅文くん。苦手科目はあるか?私は国語の古文・漢文が苦手なのだが」



「俺は主に数学だな。逆に国語は得意だぞ」



「おおっ!それは助かる!なら、お互いに教え合おう!」



紫紅美、古文・漢文苦手だったのか。意外な。何でも完璧なイメージがあったが……所詮はイメージか。



「ところで寒菜ちゃん。苦手なところはあるかい?僕は英語がダメダメだよ~」



「……わたし、英語得意。……理科、ダメ」



「理科か。ふむ。……美穂ちゃん、任せてもいいかい?」



「元より、貴様に寒菜を任せる気はない。貴様は隅っこで一人、勉強してればいいのだ」



これでもかと毒づく紫紅美に対し、啓は、



「主人公とは、逆境の中でこそ輝くというもの。闇の中にあってこそ、光はより強く光輝く。つまり、より光輝け、ということだね美穂ちゃん!分かったよ!」



いつも通り無駄にキザでポジティブだった。



「大切にされてるな、寒菜」



「……えへへ」



これだけガードが固かったら、寒菜が啓の毒牙にかかることはなさそうだな。……寒菜が完全に啓に惚れなければ、だが。そして今、若干危ないラインに立ってる気がする。



その後、本当に隅っこに行こうとする啓を止め(紫紅美も説得し)、それぞれ勉強を開始した。



「……雅文くん。この古語はどういう意味なのだ?」



「ん?あー、これか。先公が一回しか言ってないんだが、これはこっちの意味でだなーー」



「寒菜ちゃ~ん。この英文法なんだけど~」



「……これは、先週習ったものの応用で……」



そうして30分ほど勉強した頃だろうか。啓の集中力が切れたのは。



「あ~、疲れたよ~」



「まだ30分くらいしか経ってないぞ、啓」



「放っておけ、雅文くん。構うだけ時間のムダーー」



「あっ、美穂ちゃんの卒アル見ーっけ」



「そこに直れ貴様ぁぁ!!晒し首にしてくれる!」



「落ち着け紫紅美。どうどう」



「だ、だって雅文くん!だって!」



涙目で俺に必死に訴えかける紫紅美。まあ、言わんとする事は分かるが。



「落ち着けって。いくら啓でも、人ん家に上がり込んで、勝手に卒アル見るようなマネする訳……」



「雅文……。啓、見てる……よ?」



「紫紅美、開放」



一度啓はじっくり絞られた方がいいな、うん。



しばらく啓の体内から様々な音が発生していた(紫紅美が発生させていた)が、10分ほどして止むと同時に、啓がピクリとも動かなくなった。ざまあ。



「バカは放っておいて勉強の続きしようぜ」



「がふっ。ま、雅文よ……。お前は美穂ちゃんの中学時代を……気にならないというのか……?」



「まだ息があったか。今すぐ楽にしてやる」



「……美穂。とどめはダメ……」



啓を滅殺しようとする紫紅美を、寒菜が止める。さすがに自分の前で人が死ぬのはイヤか。



「あのな、啓。紫紅美嫌がってんだろうが。人が嫌がる中、自分の知的好奇心を満たそうとは思わねえよ」



「雅文くん……!」



「紫紅美。感動してもらってる所悪いが、無意識に啓の頭を踏みつけるな」



「おっと」



俺に言われて、さして驚いた様子も見せずに啓から離れる紫紅美。……もしかして、無意識下じゃなかったか?



「……でも、雅文。……ちょっとは興味ある……?」



寒菜が、紫紅美の卒アルを手に取りながら尋ねる。……そう聞かれたらなあ。



「あるかないかで言ったらあるな。紫紅美の中学時代知らないし」



「……だって、美穂」



「な、なんでそこで私に振るのだ、寒菜!?」



「……美穂、お互いの事知るなら……卒業アルバムは最適、だよ……?」



「うっ……」



核心を突かれたように黙り込む紫紅美。そんな紫紅美に、優しく寒菜は語りかけた。



「勇気出して。ね……?雅文……興味持ってくれてるんだから……」



「いや、あのな寒菜。俺は本人がイヤならそこまで無理に見たくは」



「……分かった。……雅文くん。少々、いやかなり恥ずかしいのだが、その、見てくれ……」



どうやら俺の言葉は二人には届かなかったらしい。もう既に見せる気でいる二人に、俺は先程の言葉を繰り返す度胸はなく。まあ、本人がいいならと紫紅美が差し出す卒アルを受け取り、中を開いた。



学校の校歌やら、校長やらの偉い人からの送辞が書かれたページを飛ばし、卒業生の紹介ページへ。まず1組からだな。



「紫紅美、何組だ?」



「あ、えっとだな……み、見つけて、ほしい……」



私を探して、的なのをお望みらしい。まあ別に構わないが。



「お、寒菜2組か」



「うん……。美穂と初めて別々のクラスになった……」



「へー。……て、待て。お前ら幼なじみとか言ってたよな。いつからの付き合いだ?」



「幼稚園に入園してからだな」



「……中学3年生のとき以外、ずっと一緒……」



「なにそのプチミラクル」



紫紅美と寒菜のプチ奇跡に素直に驚きながらもページをめくっていく。4組まで見たがなさそ……ん?



「え、これ?いや、でも……」



「見つけたかっ?」



「……紫紅美、一つ聞きたい。お前、ショートだったか?」



「うむ、そうだぞ」



「……じゃあコレだな」



4組の中の一人を指差す。ショートで大人しめな女子。今の若干勝ち気そうな印象はないが、目元や雰囲気が紫紅美のそれと同じだ。



「さすが雅文くん!当たりなのだ!」



どうやらちゃんと見つけられたらしい。良かった。もし間違えてたら、また泣かれてたかもしれないからな。



「この時の紫紅美、少し大人しい印象を受けるな。あくまで今よりも、という感じだが」



「……雅文。この時の美穂が……一番凄かった」



「へっ?」



「か、寒菜!あの話はーー!」



「……お互いの事、知っていくなら……いつかは話さなきゃ、だよ……?」



「で、でも……嫌われるかも」



「……美穂の好きな人、そんなに簡単に嫌いにならないよ……。ね、雅文……?」



「まあ、よっぽどの事でない限り嫌わねえよ。ばあちゃんにケガさせたとか、じいちゃんをカツアゲしたとか」



「そ、そんな非人道的なことする訳あるまい!」



「なら話してみろって。そういう質が悪いのじゃない限り、嫌わねえから」



「……私も、当時は若かったんだ」



「今も若いがな」



俺のツッコミもおざなりに、紫紅美は話を続ける。



「私が所属している暴走族の支配域を広げたいという野心が強くてな。その……この頃が一番やんちゃしていたんだ」



「……追及するようで悪いが、例えば?」



「隣の矢茶中のトップをしめたり、過激なことをする先輩をつるし上げたり、あと……」



「もういい。大体分かった。要はちょっと、不良っぽいことしてたんだな」



紫紅美の武勇伝が続きそうだったので途中で止める。なんだろう、嫌わないが怖くなりそうだ。



「まあ……まとめてしまえばそうなるな」



「……凄かったんだよ、美穂。美穂のお陰で、私たちの中学……荒れてたけど、まとまったの」



「そっからか。面倒見の良さは」



「……まとめるつもりなんてなかったんだ。気づけば担ぎ上げられていて、あれよあれよという間に……」



紫紅美が遠い目をする。



「お前、色々あったんだな」



「……嫌わないか?」



「むしろすげえと思った。まあ、あまり誉められたことではないかもしれんが、良い方にまとめてたんなら、良いんじゃないか?終わりよければ全て良し、なんて諺もあるんだし」



「…………」



絶対嫌われる、とでも思っていたのか、拍子抜けしたような表情をする紫紅美。



「……ね?美穂、いい事したんだから……。雅文、嫌わないよ」



「そして僕もねっ!」



「生きてたのか」



「生死に驚かれるとは夢にも思っていなかったよ、雅文」



「いや、さっきからまったく会話に入ってこなかったから」



「意識が飛んでただけさ~」



「そうか。……永遠に飛んでれば良かったのに」



「聞こえてるよ、雅文っ!?」



ギャーギャーと復活するなり騒ぎたてる啓。MUK(まったくもってウザい啓)だな、ホント。



「……ふふっ」



何がそんなに面白いのか、紫紅美が満面の笑顔になった。



「……私は幸せ者だな。……さて、勉強を再開しようか!」



「僕はもう少し卒アルを見てるよ~。あ、この子、隣のクラスの前宮さんだ。ちっちゃくて可愛いんだよね~」



笑顔だった紫紅美が、一瞬にして般若の顔になったあの瞬間を、俺はこの先忘れないだろう。





「じゃあな、紫紅美。また明日」



「……学校でね~」



「うむ。すまないな、雅文くん。寒菜を任せてしまって」



「……うん。まあ、お前の謝罪はそっちになるよな」



俺の肩には、ぐったりして動かなくなった啓。というのも、卒アル鑑賞をしてニヤけていた啓にキレた紫紅美がフルボッコにしたという単純にして明確な原因な訳だが。



「ソイツに対しての謝罪はないが、背負わせてしまう事になって申し訳ない、雅文くん」



「まあ、自業自得だから構わないさ。コイツに関しては。俺の方も気にすんな」



「……夜道に置いていくか?」



「そんな持ちすぎた荷物を置く、みたいなノリで言われてもな。ま、とりあえず帰るわ」



「……おやすみ」



「うむ。二人とも、またなのだ!」



陽気に手を振る紫紅美に別れを告げ、帰宅の途に着く。



「……今日、楽しかった」



無表情だが、それでも楽しげに言う寒菜。少し分かりづらいが、そう言うのなら楽しかったのだろう。



「俺は楽しかったってーか疲れたな……」



勉強もだが、なんか全般的に。



「……雅文。歳?」



「これから青春を謳歌していく男子高校生になんてことを」



「ーーっ!!」



声を出さないように笑いを堪える寒菜。前にもこんなことあったような……寒菜、不意のツッコミに弱いのか?



「っと。寒菜、ここか?」



「うん、そ、そう……っ!お、送ってくれて、ありがとう……!」



「寒菜。家に入ったら平常心取り戻しておけよ。でないと家族から白い目でみられるからな。外は真っ暗なのに」



「…………」



面白くなかったようで、いつもの無表情に戻る寒菜。寒菜のツボが分からん。



「……じゃ、また明日ね」



「おう、またな」



寒菜とも別れ、今度は啓の家へと向かう。



ったく、何が悲しくて男を担がなきゃならんのだか。



「女の子なら背負いたかったのかい?まったく、雅文はスケベだな」



「……」



「ドゥフッ!!?」



耳元で聞こえた不愉快な声に呼応して、反射で肘打ちを啓に喰らわせた。すまん、もう限界。



一発でノびたコイツを啓の家まで運び、放置する事にした。コイツだから風邪は引かんな、うん。



「……青春、か。今年はそれっぽい事はできるんですかね」



先ほど口をついて出たフレーズがふと呼び起こされ、誰ともなしに呟き、すっかり暗くなった道を歩いて、家へと向かった。

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