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誤解は解けたので

朝。なんの変わりもなく、普通に登校する。



「でねー……あ、見てあの人」



「うわ、昨日会長泣かせた最低な人じゃん。目合わせないでいよ」



……今日、雨降ってたっけな。やけに前がボヤけて見える。



「よっ、階木町史上、最低の男の烙印を押された雅文くん。気分はどうだい?」



SBK(そろそろぶっ飛ばしたい啓)がチャラチャラと声をかけてくる。



「……啓。一つ、いいか」



「んぁ?」



「俺は泣かせていない。紫紅美が泣いたんだ」



「それ、同じだろ。まあ、言いたいことは分かるがな。美穂ちゃん、涙脆いとこあるし、大方お前がなんか言ったのに感動して泣いたんだろ?」



「ああ。……知り合いからで構わない。誤解を解いてきてくれないか。このままじゃ、この町に俺の居場所がなくなる」



「あー、雅文くん。人にお願いするときには、それ相応の態度ってものがあるんじゃないのかね?」



「……お、お願いします」



が、我慢だ、俺。誤解を解くのが優先だ。この憎らしいバカを殴るのは後だ。



「んー、まあよかろう。考えておいてやる。せいぜい感謝するんだな」



完全に天狗になっているバカには、いつか正義の制裁をせねばなるまい。



あちらこちらから浴びせられる軽蔑の視線に耐えきり、教室に入る。



「……おは」



「女の敵!」



「最っ低!」



「家に帰れー!」



扉を開けるなり、女子たちからの罵詈雑言が降りかかる。……本当に帰ろうかな。



心が折れかけている俺の近くに、寒菜がてくてくとやって来る。そして、俺とクラスメートたちを交互に見た後、首を傾げる。みんな、どうしたの?と言いたそうだ。



「ああ……ちょっと、誤解がな」



「……」



自分を指さして口をパクパクさせて何かを訴える。口の動きを察するに、「私に何かできることある?」って聞いてるのか?



「……寒菜。俺はなにもしていない。それだけ信じてくれれば充分だ」



女子からの罵詈雑言に爆笑している啓と、素直に頷いてくれた寒菜から離れ、席に着く。隣の席を見やるが、紫紅美の姿はまだなかった。……アイツさえ来てくれれば、最低限クラスメートたちからの誤解は解けるのに。今日に限って珍しく遅ーー



ガラッ



「すぅ~~……鳴神、出てこ~~い!!ウチと決闘だぁ~~っ!!」



ああ、波乱はまだ終わらないのね。不幸は連鎖するというが、本当なんだな。トラブルを加速させそうな奴が、鼓膜を突き破りそうな声量で殴りこみに来た。



「…………」



殴りこみにきた奴と目を合わせないようにして、無言を貫く。知らない知らない。俺、鳴神なんて奴知らない。



そんな現実逃避もむなしく、赤髪ツインテは俺を見つけ、ずかずかと俺の前までやって来た。



「姉御泣かすなって、ウチ言ったすよね?その約束してから何日っすか!?バカなんすか?バカなんすよね!とりあえず、校舎裏来いやぁ!!」



「……ダメ元で言う。俺の話をーー」



「校舎裏来いやぁ!!」



もうヤダ。この人。



困り果てているところに、慌てて教室に入り込んでくる姿が。



「玲奈!ようやく見つけた!!」



俺にとって、この騒動の根本的な原因であり救世主。紫紅美が肩で息をしながら駆け寄ってきた。



「あ、姉御!……いくら姉御の頼みでも、ウチたちはこの男を許せないっす!姉御を泣かせる奴なんざ、この世に一片の肉片も残しちゃダメっす!」



「話を聞け!私は彼に泣かされたわけではなくてだなーーーー!」



懇々と、ツインテに丁寧に説明する紫紅美。騒ぐツインテに対抗するためか自然と声は大きく、教室内に紫紅美の説明が響き渡り、説明が終わるころには、鋭かったクラスメートたちの視線が和らいでいた。



「ごめんな、鳴神。勘違いだったみたいだわ」



「ご、ごめんねっ、鳴神くん!私の早とちりでーー!」



数名がご丁寧にも謝罪に来てくれる。……うん、折れそうだった俺のメンタルは回復のサイクルに入ったようだ。



「残念。もう少し楽しみたかったんだがな」



楽しんでいたらしいバカ1名(啓)は、いつか本気でぶっ飛ばす。



「でもま、誤解が解けたようでよかったっすなぁ。雅文きゅん?」



「待ってろ。いつか本気でぶっ飛ばしてやるから」



「そりゃ勘弁。あの子も誤解解けたんだし、万事解決だろ?そんなカリカリすんなって」



「町の連中や他のクラスの誤解はまだ解けてねぇんだよ」



「大変だな、雅文」



「他人事だと思いやがって……!」



「ちょっと、いいっすか?」



啓を未だかつてないほどに憎たらしく睨んでいると、ツインテ女子が声をかけてきた。さっきまでの威勢のいい声が嘘のように、しおらしい声で。



「なんだ?」



「その……悪かったっす。責め立てて。ウチの勘違いだったみたいっす」



「誤解が解けたなら何よりだ。若干の反省はしてほしいが、あまり深く反省するな。重いからな」



「は、反省はするっす!……そのうち」



そのうちかい。



「ただ迷惑かけたことには変わりないっす。だからウチにできることなら何でもするっす!」



「何でも、ねぇ」



ちょっと考えてた事あるし、コイツに頼るか?いやでも、寒菜に頼ったほうがいいような。でも、寒菜は人前苦手だし。うーん……。



少し考えに耽っていると、KMK(かなりむかつき始めた啓)が肩を叩いて、耳元で一言こう言う。



「何でも、か。雅文……やらしいこと考えてんな?お前も男だなあ」



「紫紅美。コイツ血祭りにあげてくれないか?そうしたらスッキリするんだが」



「雅文くんがそう言うのならばそうしよう。日頃の鬱憤を晴らせるいい機会にもなるし」



「雅文。お前……分かってんなぁ!」



罰を与えようとしてる本人に喜ばれたが、まあ多少スッキリするし、コイツはこれでいいだろう。あとは……。



「じゃ、ツインテ女子」



「玲奈っす!久場 玲奈!」



「んじゃ久場。放課後、ちょいと買い物に付き合ってくれ」



「……そんなんでいいんすか?」



「ああ。まあ、お前には今日、集会があるなら休んでもらわないといけないが」



「そんぐらいならお安い御用っすよ」



「じゃあ、よろしく頼むわ」



放課後に校門前で落ち合う約束をし、ツインテ女子もとい久場はその場を後にした。



程よく啓をボコった紫紅美にも事情を説明すると、「雅文くんが言うのなら」と許可をもらった。……こんなに信頼されてると、ちょっと嬉しいな。



そういう訳で、放課後。ツインテと合流し、街中へ。



「……今更なんすけど」



「なんだ?」



ちょっとバツが悪そうに、ツインテ女子が会話の糸口を切る。



「ウチは……姉御の彼氏(仮)と二人っきりで歩いてるっつー状況っすよね」



「まだ友人だ。そこん所間違えるな」



「なんつーか、その、罪悪感が消えないんすが」



「あくまで買い物だ!そんなに気負うな!」



「というかそもそも、ウチたちはどこへ向かってるんすか?」



「……本当に今更だな。まあ、言ってなかった俺も悪いんだが」



今言われて初めて、説明してなかったことに気付く俺も大概だな。



「人づてに、紫紅美の誕生日が近いことを聞いてな。友人として、何か気の利いた物を贈ろうと思っているんだが、紫紅美が何を貰って喜ぶかイマイチ分からなくてな。それで、紫紅美と交流のあるお前に選ぶのを手伝ってもらおうと思ったわけだ」



「姉御ならアンタから貰えれば何でも嬉しいんじゃないっすか?」



「いや、少しでも喜んで貰いたいだろ。というより、その答えはザックリし過ぎだろ」



「少しでも、っすか……やっぱりアンタ、姉御に色目使って」



「ねぇから。なんでそうなる」



若干、あらぬ疑いの目を向けられながら、プレゼントを選ぶ定番中の定番。駅前のデカいデパートに着いた。ここ、「デパン」は各都市に店舗を展開させていて、品ぞろえの豊富さは他の追随を許さないほどである。



「広いとこっすね。こっから選ぶんすか?」



「まあな。ってか、来たことぐらいあるだろ?」



「ないっすね。噂程度に存在は聞いてるっすけど」



「マジか」



え、ここってそんなに有名じゃないのか?



「ま、選ぶならとっとと行くっす。手始めにどっから攻めるっすか?」



「攻めるって、喧嘩に行くわけじゃないんだぞ。……本屋とか」



「…………」



「おい、なんだその、”その選択肢だけはありえないっすよ”みたいな目は」



「アンタ、エスパーっすか!?ウチの考えドンピシャで当てるなんて!」



「ホントに思ってたのかよ!!」



「とりあえず改めて言わせてもらうっすけど、その選択肢だけはあり得ないっす!どこに誕生日に本を買ってもらって喜ぶ女子高生がいるんすか!?」



「……探せば、まあ」



「アンタ、ダメっすね。ウチが姉御が喜ぶであろう場所へ案内するっす……家電売り場へ!」



「その選択肢もあり得ねぇよ!なに、紫紅美、引っ越しでもすんの!?」



「嫁入り道具っすよ」



「気が早いにも程があるわ!渡された紫紅美もポカーンとなるわ!」



「じゃあどこ行くっすか?」



「……。…………服売り場、行ってみるか」



ツインテ女子に追及され、頭をフル回転させて答えを出した。するとツインテ女子はふむ、と少し考えた後に高飛車な声色で言った。



「いいんじゃないスか?さすがウチの姉御に惚れられた男っすね。やればできるじゃないっすか!」



「んじゃ行こう。俺はファッションに疎いから、その手のはお前に委ねるとは思うが」



高飛車な物言いを流し、ツインテ女子に答えると、ツインテは無い胸を張り、自信満々に言った。



「任せてくださいっす!最近のふぁっしょんは抑えてるっすから!」



……なんだ。そこはかとなく不安が押し寄せるんだが。



若干の懸念事項を残しつつ、婦人服売り場に向かった。







「は~~い。こちら今年おすすめのカラーを前面に出した商品となっておりま~す。ぜひご試着くださ~い」



売り場近くに来ると、若い女性店員の誘い文句が耳に飛び込んでくる。



まあ、別にそこは問題じゃないんだ。問題は……、



「……!……!」



来るなり挙動不審に首を動かすこのツインテだ。気のせいか、ツインテ部分が縮みあがってる気すらする。



「おい」



「はいっ!?なに用っすか!?」



明らかに動揺してるのが声から伝わる。



「お前、緊張してんのか?」



「なっ、ななな何バカなこと言ってるっすか?将来、姉御の右腕になるウチが、きんちょーなんてするわけーー」



「いらっしゃいませー。こちらご試着しますかー?今、お安くなっておりまーす」



「っ!!」



店員の不意の乱入に驚き、俺の陰に隠れるツインテ。返事をなかなかしないので、やむなく俺が答える。



「あ、結構です。自分たちで、ちょっと色々見たいんで」



「そうですかー……。何かありましたらお呼びくださいねー」



ペコリと頭を下げ、離れていく店員。



「おい、お前やっぱ緊張してんだろ」



「わ、悪いっすか!ウチ、あんまりこーいう所来ないんすよ!悪いっすか!」



「悪いとは言ってねぇよ。何でキレてんだよ」



涙目でうー、と睨むツインテ。普段より可愛げがあるな。あくまで普段より、だが。



「と、とにかく、とっとと選ぶっすよ!時間も限られてるっすし!」



「その通りなんだが……お前、早くこの場から離れたいだけだろ」



「黙るっす、そこ。ほら、とっとと姉御のイカした服を選ぶっすよ。あ、ウチから離れたらその頭蓋骨を粉砕するんで、そのつもりで」



「自然な流れで脅すな」



地味にメンドい……着いてきてもらっといてなんだが、コイツを連れてくるのは失策だったか。まあいい。ここまで来たら、毒を食らわば皿まで、だ。コイツの言う通り、さっさと選ぼう。



「おっ、これなんてどうっすか?」



ツインテが選んだのは、いわゆるスケバンが好んで着るような前開きで黒のロングジャケット。ファーとかも着いていない。



「もうちょっとさ、こう……時代を考えろ」



「ウチらの流行といえばコレっすよ!」



「いつの時代を歩んでんだ、お前は。なんつーか、こう、街中を歩く人が着るようなやつをだな」



「こういうのっすか?」



ツインテが選んできたのは、さっきと違ってマトモな服だった。……背中に「夜露死苦」の文字がなければ。



「分かった。俺が見繕うから、お前はそれを着ろ。参考にするから」



結論。コイツはファッションにおいて戦力にならない。早々に見限り、ぶつくさ文句を言うツインテをガン無視して、服を選び始める。



「--ほら、選んできたから、着替えろ」



「ったく、分かったすよ。強情っすね。……なんか、ミニスカが多い気がするっすけど、こういうのが好きなんすか?」



「早く着ろ。そして違うと否定する」



若干早口になったが、図星を突かれた訳じゃない。



ツインテが試着室に入ってから5分ほど経った頃、カーテンが開かれた。



「……どうっすか」



若干照れているような声色で尋ねるツインテ。最初の服はシンプルに、半袖の白Tシャツと白のミニスカだ。



「んー、なんつーか……思ってたより地味だな。今度はこっち着てみてくれ」



「分かったっす」



服を受け取り、再び試着室に引っ込むツインテ。程なくして、慌てたような声が。



「ちょっ!これ露出しすぎじゃないっすか!?」



「今どきはこーいうもんだ。妹もこの手の着るし」



「最近の若いもんは恐ろしいっすね!」



「お前も若いもんに含まれてるってこと、忘れんな」



「うー……。着るんすよね?」



「別に上から当ててみるだけでも構わんぞ」



「……いや、着るっす!洋服ごときに引けないっす!」



「お前は何と戦ってるんだ」



俺の突っ込みは聞こえなかったのか、ツインテが服を着替える音が聞こえてくる。……少し離れるか。今更だが。



そのまま数分が過ぎ、カーテンが開かれ、ツインテが出てきた。



「き、着たっすよ……。どう、っすか……?」



消え入りそうな声で、スカートの裾を握るツインテ。……うん。



「ツインテ」



「な、なんっすか?どこかおかしいっすか?」



「いや、おかしくはないんだが、この服はお前には似合わないな。貧相な体がハッキリしーー!」



ツインテの助走付きのストレートパンチが、見事に俺の顔面に埋まった。そのまま無様に吹き飛ぶ俺。



「今の、俗に言うせくはらってやつっすよね?殴っていいっすか?いいっすよね?……表出ろごらぁっ!!」



仰向けに情けなく倒れる俺の前で仁王立ちするツインテ。……まあ、とりあえず。



「ツインテ。悪いことは言わない。離れろ」



「逃げるつもりっすかぁ?そうは問屋が卸さないっすよぉ?」



完全に目が据わっているツインテ。大層ご立腹なようだ。……しょうがない。ありのままを話そう。言ったらさっきの顔面パンチよりも強烈なのをもらうかもしれんが、コイツのためにも言わねばなるまい。



「あのな、ツインテ。……見えてる」



「はぁ?見えてるって何がっす……か……?」



ツインテの言葉が尻すぼみになる。自分の現状に気が付いたようで、徐々に顔を赤く染めていく。



コイツは足を広げて仁王立ちしている。穿いているのはミニスカ。で、俺はそのほぼ真下に仰向けになっている。……これだけの情報があれば、もう分かるだろう。ツインテの見てはいけないものを見てしまったことが。



「~~~~っっ!!死ねぇぇぇーー!!」



その言葉が最後。俺の意識はしばらくブラックアウトした。








「なあ、ツインテ」



「なんっすか、変態」



買い物が終わり、河原の土手を歩く俺たち。だがツインテは俺の呼びかけに対し、親の仇でも見るような射る視線で俺を睨む。さっきの出来事があってからずっとこうだ。果てにはありがたくない称号まで拝借している。



「俺は変態じゃない。いいから話をーー」



「なんっすか、ド変態」



「……分かった、変態でいい。いいから話をーーっ!」



「?どうしたんすか、変態って、どこ行くんすか!?」



ツインテの戸惑いの言葉に耳を貸すことなく、ただひたすらに川へと走る。--俺の視線の先には、溺れている子供がいた。



「くそっ!」



走る勢いに身を任せ、そのままのスピードで川へと飛び込む。冷たい感覚と、水面にぶつかった衝撃が同時に体を走る。が、そんなことはどうだってよかった。



うろ覚えのクロールを駆使して、子供のもとへと向かう。もう少し、もう少し……っ!届いた!



「おい、大丈夫」



「た、たすっ、たすけっ!」



「おわっ!!」



俺の手が届くなり、子供が必死に俺にしがみつく。ちょっ……危ないって……!



「し、しに、しにたくなーーっ!」



ガンッと鈍い音がしたかと思うと、子供の声とともに、しがみつく力がなくなった。



原因はすぐに分かった。何を思ったか、こんな所まで着いてきたツインテのきつい一発に、子供があえなく気絶したのだ。



「おまっ、何して!?」



「いいからとっとと引き上げるっすよ!!助けるんっすよね!」



「……ああ!」



ツインテと二人がかりで子供を引き上げる。ひとりでいけるかと思ったが、服が水を吸い込んでるせいもあり、結局ツインテの力を借りた。



「はぁっ、はぁっ……ツインテお前、何してんだ!?見ろ、完全にノびてんじゃねぇか!」



「礼よりも先にそっちっすか!?仕方ないじゃないっすか!ガキに暴れられたら助けられるもんも助けられないっすよ!」



「うっ……。まあ、確かにそうなんだが、けどやりすぎだろ」



「物事に加減したら中途半端に終わるかもしれないっす。やるなら全力でやらないと」



「全力で殴ったのか!?……はぁ。じゃあ、しばらくは目を覚まさないな」



河原の土手で寝転がる。幼いころに身近だった土や草の匂いが俺の嗅覚をくすぐる。



「……ツインテ。助かった。ありがとう」



「最初っからそう言えばいいんすよ。……ちょっといいっすか?」



「なんだ?」



「なんであんな無茶したんすか?」



「あー、子供助けたことか?それ言うならお前もだろ」



「ウチはアンタに付き合っただけっすよ。ウチ一人だったら助けようとしたとしても、川に飛び込むなんてバカな真似はしないっす」



「……そういうもんか?」



「一般的にはそうっすよ。ウチが一般論語るのも妙な気はするっすが」



「確かに」



「ぶん殴っていいっすか?」



「お前が言い出したよな!?」



暴論をぶつけるツインテに突っ込む。が、そんなツッコミにツインテはさほど興味がないようで。



「で、なんでっすか?」



先ほどの問いを再び繰り返す。……なんでって言われてもなぁ。



「……体が勝手に動いた、というしかないんだが」



「……予想以上のアホらしい答えっすね」



「アホで悪かったな。仕方ないだろ、そういうタチなんだから」



物心ついた時にはすでに、こういう損する性格だった気がする。なんか危なそうだな、と思う前に体が勝手に動いて……余計なお世話だと、何度言われたことか。



「……けど」



俺を呆れたように見つめていたツインテは、急に穏やかな声になり言葉を発した。



「ウチは嫌いじゃないっす。そういうアホらしいの」



「……そーかい」



「あっ、い、一応念のために言っておくっすけど、告白とか、そーいうんじゃないっすからね!」



「言われんでも分かってるわ」



こんなの告白と受け止めてたらキリがないっつーの。



「うん……?」



ツインテと喧騒をしていたからか、男の子が目を覚ました。



「おっ、目ぇ覚ましたっすか?」



「……お姉ちゃんたちが助けてくれたの?」



自分が助かったのが信じられない様子で、男の子はびしょ濡れの俺たちに問いかける。



「助けたのはアイツっすよ。ウチはちょっと手助けしただけっす」



「いや、助けたのお前だろ。ほぼ」



「アンタが動かなかったら、ウチも動かなかったっす。この子を助けたのは、アンタの行動力っす」



「……やめてくれ。なんか照れる」



「あんな大胆に行動しといてよく言えたっすね!」



「お兄ちゃん、お姉ちゃん。ありがとう!」



「「……おう」」



無邪気な少年のお礼に、ぶっきらぼうに俺たちはそう返した。






「どこも悪くないか?」



「うん、大丈夫だよっ」



「どっか悪くなったら、すぐ病院行くっすよー」



「わかったー!」



十数分ほど落ち着かせた後、少年は元気に俺たちから離れて行った。溺れたってのに……子供の体力って無限大だな。



「さて、帰るか」



「待つっす」



ツインテがジトッと何かを言いたげな目で俺を見上げる。



「なんだ?」



「話っすよ、話!さっきなんか言いかけてたじゃないっすか」



「……よく覚えてるな」



正直忘れてた。言いかけてた本人が。



「ウチは記憶力いいんス。で、何っすか?」



気になるような視線で見てくるツインテ。……うん。



「何でもねぇよ。帰ろうぜ」



「待つっす!あんだけ言ったってことは何か重要な話のはずっすよ!」



「なんでもねぇって」



「言うっす!言わないと気になって寝れないっす!あと、なんでさっきから笑ってるっすか!?」



ツインテが騒ぐ。が、俺の要件は済んだ、というか片付いたんで。



「ほら、急がねぇと暗くなんぞ」



「んな事はどうだっていいんス!だから、話とやらをーーーー!!」



怒り心頭になりつつあるツインテを宥めつつ、ごまかしながら帰宅の途についた。









ちなみに後日談になるが、紫紅美に誕生日プレゼントを渡すと、すごい喜ばれた後に、



「雅文くんは、こういうミニスカが好きなのだな。うむ、参考にしよう」



紫紅美にまでミニスカ好きの烙印を押されてしまった。



違う、絶対領域なんかに興味はーーーー!!

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