宵闇の少女
ラインハルトって……誰?
俺はわけもわからずただ呆然とすることしかできなかった。
俺の反応が悪いのが不満だったのか、怪訝そうな顔で少女は俺を見て来た。
「なんだ? ラインハルト……だよな?」
「え? あ……あ、あはは! そ、そうそう! ごめん、ラインハルトだよ!」
俺がそういうと少女は安心したようだった。
ここは、とにかく話を合わせておいた方がよさそうだ。俺は、ラインハルトということで少女に対応することにした。
「なんだ。やっぱりラインハルトじゃないか。まったく。とぼけるのは止してくれ」
「あ、あはは……え、えっと……で、君の名前は……なんだっけ?」
俺がそう訊ねると、目を丸くして女の子は俺を見る。
「ラインハルト……私の名前を忘れてしまったのか?」
「え、あ……あ、あはは……まぁ、その……なんというか……」
なんとかごまかそうとしているが……さすがに厳しいか?
少女は悲しそうな目で俺を見ている。そして、肩を落として大きく溜息をついた。
「……そうか。ヤツの攻撃によるものだな。まったく……」
「え? ヤツ? ヤツって……」
「それはもちろん、あのにっくきアイツに決まっているだろう? まさか、それも忘れてしまったのか?」
「え、あ……も、申し訳ないんだけど……」
少女はさらに悲しそうな顔で俺を見る。話を合わせようにもあまりにもその話が彼女の独自の世界すぎて俺が理解できない。
あれだろうか? いわゆる……中二病って奴?
なんというか、恥ずかしいことだとは思うけど……今目の前で起きたことを考えて見ると、あながち、ただの中二病の痛い子ってわけでもなさそうな気もする。
犬、燃えてたし……
しかし、まぁ、とにかく俺はどうにか逃げ出したいが、どうにも逃げられる状況でもないようだった。
「ちょっと、千佳ちゃん」
そんな折、背後から声が聞こえてきた。
「誰だ!?」
ナイフ少女は周囲を見回し、ナイフを構える。
「誰って……私よ」
現れたのはまたしても、少女だった。
しかし、不思議なことに、目の前のナイフ少女とかなり似た見た目である。
違う点といえば、まるで中世の貴族が着るような黒いドレスを着ている。
そして、少女と同じように長く美しい髪に、宵闇のような黒い瞳。ナイフ少女と違い、どことなく妖しい雰囲気の少女だった。