彼女との邂逅
「……おい」
気付かれないことを祈る暇もなく、先程少女がいた方角から声が聞こえてきた。
「いるんだろう? 出て来い」
何も返事をしないほうがいい……のだろうか? いや、しかし、かといってあまり返事をしないと却って相手の機嫌を損ねることになるのでは――
「三秒以内に出て来い。出てきたら命だけは助けてやる。逃げたら、殺す」
殺す、という言葉に俺は思わず飛び上がった。
「わ、わかった! ここだ! ここにいる!」
俺はそのまま思い切り立ち上がった。
街灯の灯に照らされた少女は、先ほど黒い犬と戦っていたときと同じように鋭い目つきで俺を見た。
「なんだ、お前は」
「え、えっと……あ、あはは……お、俺は通りすがりのもので……べ、別に何も見てないよ? だ、だから、帰っていいかな?」
俺がたどたどしくそう返事をすると、少女は大きく溜息をついた。
「見られたのか……まったく。私としたことが下手をうってしまったな……」
そういって少女は俺の方に近付いてくる。自然と、俺の視線は少女の手にしている銀色のナイフに行ってしまう。
ナイフには血の一滴もついていない。では、先ほどまで戦っていた黒い犬は一体なんだったのだろう。
「おい」
「ひっ……な、何?」
少女は俺の目の先にナイフを突きつけてきた。思わず俺は情けなく悲鳴を上げる。
少女はその鋭い視線で俺をじっと見ていた。まるで狼が今から食い殺す獲物を品定めしているように。
そんな風に怖がらせるくらいなら一気にやってほしいものだ。
俺は死を覚悟した。どう見たって目の前の少女の視線は俺を殺す気満々だったからである。
「……ん、お前……」
「……え? な、何?」
少女はなぜか不思議そうな顔で俺を見ていた。なんだろう……何か俺を見て気付くことでもあったのだろうか?
すると、なぜか少女はそれまでキツイ目つきで俺を見ていたと言うのに、ふいに優しい目つきで俺を見た。
「……なんだ。お前だったのか」
「……え? な、何が?」
少女は、それまで俺に向かって突きつけていたナイフを俺の目の前から下げる。
「ふっ……何を言っているんだ、ラインハルト。相棒の顔を忘れたのか?」
「へ……ら……ラインハルト……?」