契約成立
「……で、どう? 変化あった?」
エリックは、液体を飲み込んだ少女に恐る恐る訊ねてみる。
少女は自分でもよくわかっていないようで、エリックの顔を見返して不思議そうに見つめる。
「わからないです。あんまり変わっていないような……」
「う~ん、そうか。その……食欲がわいてきたりしない?」
「え? 食欲、ですか?」
「うん。どう?」
「いえ、別にお腹は減っていませんけれど……」
そう言われてしまい、エリックは拍子抜けしてしまった。
どうにも失敗してしまったらしい。
こうなってしまうと、厄介である。
エリック自身は、あまりこの世界の人間とは関わるなという命令を受けているのだ。
「残念だ……実に、残念だよ」
だから、エリックが次にやることは決まっていた。
「え? どういうことですか?」
「ん? ああ。約束は守るよ。君を日常から解放してあげよう……君の死を以て」
そういってエリックは本を取り出すと、それを開く。
「ああ、しかも、一発で当たりをひいてしまったよ」
その言葉とともに本が妖しく輝く。
そして、次の瞬間には、少女の目の前に大きな蛇がとぐろを巻いて現れたのだ。
「ど……どういうことですか?」
「そりゃあ、君。君は失敗してしまったんだ。だから、処分する、それだけの話さ」
「そんな……」
「俺だって辛いんだよ? でもねぇ、君の体に何も変化がないっていうんじゃ、君をこの蛇に丸飲みにしてもらうしかないわけなんだ。わかってちょうだいね」
すると、少女は悲しむどころか、ニヤリとほほ笑んだ。
そして、先ほど、元の場所に戻しておいた刀を手にとって、それを鞘から抜き出した。
「な、何?」
「そういうことでしたら……私が、この蛇を退治したらどう思います?」
「え? そりゃあ、まぁ、君にも変化があったって思うけど――」
エリックがそう言い終わらないうちだった。
少女は一瞬にして、刀を振り下ろす。
すると、次の瞬間には、蛇の頭部はボトリと道場の床の上に落ちたのだった。
「どうですか?」
「え? あ……うん。成功、だね」
蛇を切ったことにより、赤い返り血を浴びた少女は、妖しく笑った。
そして、嬉しそうに、刀の歯先についた血を見つめる。
「ふふっ……この血は、美味しそうに見えますね」
そういって妖艶にペロリと刃先についた血を嘗めた。
エリックは確信した。
新しい「暴食」が誕生したのだと。
「あ。そうだ。俺の名前はエリック・シュナイダーっていうんだけど、君の名前は?」
自身と同じ罪人になったことを確認したうえで、エリックは改めて少女に名前を訊ねた。
少女は優しく微笑んでエリックを見る。
「私は、大河内朔夜です」
「サクヤ、ね。わかった。じゃあ、サクヤ、よろしくね」
「はい。エリックさん」
こうして、再び「強欲」は新たな相棒としての「暴食」を得たのであった。




