決意と覚悟
「……え? ど、どういうこと?」
「だから、見たんでしょう? アナタは。化け物と化して、圧倒的な力で奴らを粉砕する千佳ちゃんを」
確かに、見た。
そして、俺は確実に恐怖していた。
白い髪で、真っ赤な血を浴びて嬉しそうにほほ笑む千佳に。
「……まぁ、見たね」
「そう。で、どう思った?」
「……正直、きつかった」
アリシアは何も言わずに俺を見ていた。
「……私達にできることがあるとすれば、アナタの記憶を再び消して、今度はもっと遠い場所で暮らしてもらうことになるわね」
「え? ど、どういうこと?」
「アナタを今度こそ、奴らが気付かないようなところでひっそりと暮らさせるってことよ。絶対に気づかれないって保障はないけど」
「あ、ああ……そういうこと」
アリシアは疲れ切ったような顔で俺を見ると、再び椅子に腰かけ、俺のことを見つめてきた。
「で、どうするの? アナタの好きにしていいわ」
俺は、考えた。
確かに、安全かどうか知らないが、このとんでもない日常から脱却するには、アリシアが今言った提案にのることも間違ってはいないと思われる。
ふと、俺は首筋を触ってみる。
この首筋に、千佳が噛みついてきたのだ。
それは、まるで現実とは思えなかった。
しかし、あの時感じた感覚。
きっと、日常では感じられないような、激烈な感覚が、俺を襲ってきたのだ。
無論、それが楽しかったとはいえない。
だが、俺は自分自身でも、もう「日常」には戻れないと、どことなく考えているのだ。
「……アリシア。聞きたいことがある」
「ええ。何かしら?」
「千佳が、俺に噛みついてきたんだ。そして、血を吸った。あれは、あいつが化け物みたいになったことと関係あるのか?」
俺が訊ねると、アリシアはそのことか、というようにうなずいた。
「……ええ。そうね。アナタの血が、あの子の覚醒のきっかけになっているのは確かよ」
「え? あ……そうなんだ」
「そう。私がアナタのご先祖様の血を吸ったことがあるの。おそらくだけれど、その時私からアナタのご先祖様に流れ込んだ力が、今もアナタの血の中に残っているのでしょうね。だからこそ、あの子がアナタの血を吸うことで、あの子は覚醒することができるわけ」
「じゃあ……俺がいないと千佳は化け物にならないのか?」
「……まぁ、そういうことになるわね」
アリシアは険しい顔でそう言った。
俺は思わず笑ってしまった。
「何か、おかしかった?」
「だって、それじゃあ、俺がいないと千佳は戦えないじゃないか。どっちにしても、俺がいなくなったら――」
「その時は、私とイルマが全力でアナタと千佳を守るわ」
アリシアの顔は真剣だった。
それは、たとえ自分が勝てないとわかっていても、今日、俺と千佳を狙ってきた奴らと刺し違える覚悟さえ感じさせるものだった。
ここで、ようやく理解できた。
俺はとんでもなく大きな物事の中に、巻き込まれているのだということを。
そして、何より俺は、その大きな物事を、そのまま放りせるような立場にはいないのだということを。
「……いや、大丈夫だ。アリシア」
「え? どういうこと?」
「……とりあえず、俺は千佳と一緒にいるよ。俺としても、まだ会ってほとんど時間経ってないけど、どうにも、あいつのことは放っておけないんでね」
俺がそういうと、アリシアは安心したようで、優しく俺に微笑みかけた。
「そうよね。シャルルの子孫だもの。きっとそう言うと思ったわ」




