化け物
俺とアリシアはテーブルをはさんで向かい合って座った。
「ああ。そうそう。悪かったわね。勝手に家の中に入ったりしていて」
「え? ああ……えっと、どうやって?」
「そりゃあ、魔法を使ったに決まっているじゃない」
「え? ああ……」
そういえばそんなことを言っていたな、魔法が使えるって。
「そう。そんなことぐらいしかできないぐらいに、私の魔法の力は弱いのよ」
「え? そ、そうなの?」
「ええ。後は、人間の時のあの子でさえ倒せるような弱い使い魔を出して、あの子を見張っている。それぐらいしかできないのよね」
自嘲気味にアリシアはそう笑った。
魔法云々のことよりも、アリシアの「人間の時の」という言葉が気になった。
「……で、なんで千佳が化け物なんだ?」
「だから、それが私の魔法が弱いのがその原因よ」
「え? ど、どういうこと?」
「だから、あの子は私が作ったの。私に目覚めた魔法のすべてを注ぎ込んでね。言わなかった?」
言われてみればそんなことは言っていたような気がするが……
「その……千佳があんな風になっていたのは、そのせいっていこと?」
「そうよ。まぁ、我ながら無責任なことをしたとは思うけどね」
「なんで、そんなことしたわけ?」
すると、アリシアは悲しそうな顔をして俺を見る。そして、小さくため息をついた。
「私は自身が不老不死であることを知っている。だけど、すでに若くはないことは知っているわ。ふふっ。おかしな言い方かもしれないけど、なんというか……気持ちが若くないのよ。つまり、きっと、私は奴らと戦っても負けてしまうと思うの」
「そ、そうなの?」
「ええ。だから、私は思った。だったら『奴らと戦える私』をもう一人作ればいいんだ、って」
アリシアは俺から視線を反らして、先を続ける。
「もちろん、君も守ることができる私を作るということも考えに含めていたわ。イルマや私ではできないことをできるように、私は千佳ちゃんを作ったのよ」
「そ、そうか……」
「ええ。だから、慎治君。千佳ちゃんは、アナタを守るために生まれてきたって言っても過言ではないわけね」
そう言われるとなんだかものすごく恥ずかしくなってきてしまった。
実際、アリシアもいたずらっぽい表情で俺のことを見ている。
「もっとも、あんな風になっちゃったのは想定がいだったけどね」
「え? あんな風?」
「ええ。ナイフを持って街に繰り出しちゃうような子になっちゃうとは……この世界にはあの子にとって刺激の強すぎるものが多かったのね」
「あ、あはは……」
アリシアの言葉に、俺は思い当たる節を頭の中で次々と思い浮かべていた。
「で、まぁ、一つアナタにどうしても聞きたいことがあったから、私はここに来たのよ」
「聞きたいこと? 何?」
すると、アリシアは立ち上がって俺の目をまっすぐに見てくる。
まるでそのままのみこまれてしまいそうな真っ黒な瞳を見て、思わず俺はゴクリと唾を飲み込んだ。
「アナタは、あの千佳ちゃんが化け物だと知っても一緒にいられるのかしら?」




