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生き残った二人

「……はぁ」


 なんとか、俺は千佳を背負ったままで家の前まで戻ってくることができた。

 それにしても……疲れた。

 無論、理解の範疇を超えた異常事態もそうだが、何より、女の子一人を背負って家まで歩いてきたってこと自体がそうとう疲れることだった。

 俺は家の扉のノブに手をかける。


「……ん?」


 その時、血の気がひいてしまった。

 開いているのだ。

 それまで血の気が引くどころか、命の危険さえも感じる状況に置かれていたというのにおかしな話である。


「おいおい……まじかよ」


 俺はとりあえず千佳を背負ったままそぉっと扉を開けてみた。

 家の中はシーンと静まり返っている。


「……だ、誰かいるのか?」


 返事はない。

 もっとも、泥棒が入っていたとしたら、返事などあるわけもないのだが。


「……よし。行こう」


 俺はそのままリビングへと一歩ずつ進んでいく。

 どうか、ただ単に鍵の閉め忘れであってくれ、と心の中で願いながら。

 そして、リビングをそぉっと覗き込む。


「……へ?」

「ああ。お帰りなさい」


 リビングにいて俺ににっこりと笑いかけてくる女の子。


「あ……アリシア」


 そこにいたのは、黒いドレスをまとったアリシアだった。


「お疲れ様。どうやら、無事だったみたいね」

「え……あ、まぁ……え? ちょ、ちょっと待って」

「ん? 何かしら?」

「その……何? 知ってたの? 俺と千佳が襲われているって」

「ええ。まぁ、知っていたわね」


 俺の質問にアリシアはあっさりと答えた。

 俺はあまりの態度に思わず何も続きが言えなくなってしまう。


「さぁ、とにかく、千佳ちゃんを着替えさせて寝室で寝かせなきゃね。そんな血なまぐさいままでいさせるなんてかわいそうだわ」


 そう言われて、俺は先ほどのことを思い出す。

 血にまみれ、恍惚とした笑みを浮かべていた千佳。

 あれは……


「慎治君?」

「え? あ、何?」

「千佳ちゃん。背中からおろしてあげて」

「あ……ああ」


 アリシアにそう言われて我に返った俺は、千佳を背中からおろした。


「あらあら……こんなに血塗れで……一度お風呂に入った方がいいわね」

「え? ふ、風呂?」

「ええ。慎治君が入れてあげる?」

「え? あ、い、いや、俺は……」


 俺の態度を見てアリシアはいらずらっぽく笑った。

 まったく……そんなことを言っている場合ではないのである。


「冗談よ。ほら、千佳ちゃん。起きて」

「……う、うぅ……」


 アリシアが呼びかけると、苦しそうな声を出して千佳が目を覚ました。


「あ……千佳」

「お風呂。一人で行ってきなさいね」


 アリシアがそういうと、まるで催眠術にでもかかったかのように、千佳はそのまま風呂へと向かって行った。


「これでよし。後は勝手にベッドでぐっすり眠るでしょうね」

「え? あ、そ、そうなんだ……」


 すると、アリシアは俺の方に視線を移してきた。

 鋭い宵闇のような黒い瞳が、まっすぐに俺をとらえる。


「さて、じゃあ、生き残った慎治君に感想を聞かせてもらおうかしら」

「え? か、感想?」


 とまどう俺に、アリシアはさらに視線を厳しくして俺を見る。


「ええ。あの子の本性……罪人を倒すためだけに作られた、化け物っていう本性を見ての感想をね」

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