退屈な会話
そんなやり取りがあった後、俺と康人は方向が同じ帰り道を一緒に歩いていた。
「……って言ったけどよぉ。実際何があるんだろうな?」
不意に、俺と並んで歩いていた康人は聞いてきた。
「はぁ? 何が?」
「だから夏休みだよ。何があるのかな?」
あまりにも馬鹿げた発言に、俺も何も言えなくなってしまった。
「……あるんだろ? 何かが」
「いや、そうだろうけどさ……慎治は何があったらいいと思う?」
「何って……さぁな。別にどうせ何もないからどうでもいい」
「はぁ? おいおい、何かねぇのかよ。可愛い彼女ができたらいいとか、そういうの」
「いや、だから、別に彼女とかほしくないって。できる当てもないし」
「あのなぁ……高校生なんだぞ? 彼女くらい居た方が絶対いいって」
そういうお前はどうなんだ、と俺は康人に言ってやりたかった。俺達の通っている高校は共学なのだから、お前だって彼女の一人や二人作ってみろという話である。
無論、常に俺と共に行動を共にしている康人にも俺にも彼女などできるわけもないのだが。
「そりゃあ、まぁ……そうかもな」
適当に俺はそう返事する。
「だろ? はぁ……彼女、できねぇかなぁ。なんなら空から降ってきてもいいんだけどなぁ」
「……おいおい。空から人間が降ってきたら困るだろうが。それこそ自殺か何かだろ」
「ちげぇよ! そういう意味じゃなくてだな……あー! ったく。どうして慎治はどこかひねくれてんだろうなぁ?」
ひねくれているというか……やはり、退屈なのだと思う。
中学のときはこんなことはなかった。というか、気付いてなかった気がする。毎日を生きることは当たり前のことで、そこに何かあるとか何もないとかはあまり気になっていなかった。
高校生になってからだ。しかも、ここ数週間。俺は決定的に気付いてしまったのかもしれない。この世界には空から女の子が降ってくることもない、あまりにも平凡な世界なのだと。
俺はそんな世界に絶望しているのかもしれない……なんていうのはあまりにも中二病の男子みたいで恥ずかしいが。
「まぁ、いいや。夏休み中もさ、どこか遊びに行こうぜ?」
「ん。別にいいぜ」
「よし! まぁ、彼女はできるかわかんねぇけど、楽しい夏休みにしような」
丁度、俺と康人が別れる交差点だった。康人は手を振りながら道の向こうに消えていった。
俺はその後姿を見ながら空を見上げる。夏の始まり特有の、綺麗なオレンジ色の空だった。綺麗過ぎて思わず溜息をつくくらいに。
「帰るか……」
俺はそのまま肩を落として、自分の家に向かったのであった。