聖典
「おーい! 千佳!」
すると、家の奥から扉が開く音がする。そして、足音を立てて千佳がやってきた。
「なんだ、慎治」
「荷物。イルマが持ってきたぞ」
「おお。そうか」
そういうと、千佳はいきなりスーツケースを開いた。
「おお、さすがイルマ。私の聖典を持ってきてくれたな」
「……え? 聖典?」
「ああ。これだ」
そう言って嬉しそうに俺に一冊の本を見せる千佳。
「……『放課後のギルティ・ハンター』?」
「ああ。そうだ。これこそ、私の聖典だ」
「……え? ちょ、ちょっと待って。このライトノベルが、千佳の聖典なの?」
千佳はコクリとうなずいた。俺は少しそのライトノベルが少し気になった。
何よりその表紙には、ナイフを手にした少女が描かれている。
これってどう考えても……
「あー……千佳。ちょっと読んでもいいかな、それ」
「ん? ああ。構わないぞ」
俺はその「放課後のギルティ・ハンター」を千佳から受け取って、ページを開き、何ページかを読んでみた。
「……あ、あのさ」
「ん? なんだ?」
「この……土岐宮千佳ってのは、このラノベのヒロインなの?」
何ページか読んでわかって事実に気になり、俺がそう尋ねると、千佳は俺のことをじっと見た。そして、にっこりと俺に微笑みかけた。
「ああ。ヒロインにして主人公。それが、土岐宮千佳だ」
「あ、あはは……まさかとは思うけど、千佳の名前って……」
すると、千佳はなぜか得意げな顔になって俺を見る。
「うむ。もちろん、私はその聖典に惹かれたから、名前のなかった私自身に、その名前を与えたのだ」
そして、こう言ったのだ。
もちろん、俺は思わず頭を抱えてしまった。
さすがに、限界だった。どうにもこれは、いい加減にしてほしかった。
「あー……ごめん。ちょっと俺、眠ってくるわ」
「何? どうした? 魔女の呪いか?」
「あ、いや……ごめん」
心配そうにそう尋ねてくる千佳を放っておいて、俺はそのまま二階へと駆け上がった。そして、部屋のドアを開け、ベッドにそのまま倒れこんだのだった。




