倒すべき相手
「はぁ……まったく。隣町の公園までやってきて何をやっているのかと思えば……自分の影なんかと戦うなんていい加減にしなさいな」
呆れ顔で現れた少女はそう言った。ナイフ少女の方は何も言わず、ただ、睨みつけるように目の前の少女を睨みつけている。
どうにもこの口ぶりから見ると、ナイフ少女のお姉さんか何かのようである。
「あ、あの……」
「え? 何……って、あ……アナタ……」
今になって気付いたのか、ドレスの少女は俺を見て驚いたようだった。
それにしては、どうにも驚きすぎなくらいに目を丸くしているが……今はこのお姉さんにこのナイフを持った危険な女の子を連れて帰ってもらう必要がある。
「あ、あはは。すいません。その……この子のお姐さんですか?」
俺はそういってナイフ少女を指差す。
「おい! ラインハルト! コイツが姉だと!? ふざけたことを言うな!」
「え? ち、違うの?」
そういうとナイフ少女は、またナイフを手に握ると、ドレス少女に向かって構える。
「コイツは私達の……敵だ!」
少女はそういってそのままいきなり走り出し、ドレス少女に向かっていった。
「え、ちょ……お、おい!」
俺の制止も聞かず、そのまま少女はナイフを構え、ドレス少女に突進していく。
「喰らえェェェ!」
公園に響き渡る大声で少女はナイフを振りかぶると、そのままナイフ少女はドレス少女に対して切りかかった……かに見えた。
しかし、それは一瞬のことだった。
ナイフで切りさかれたドレス少女の体は真っ二つに裂けたかと思うと、そのまま樹里のように消えてしまったのである。
「……はぁ。だから、そんなんじゃ私を殺せるわけないでしょ」
そして、俺の背後からまた聞こえてくる声。ふりかえると、そこにはドレス少女が何事もなかったかのように立っていた。
「くっ……ラインハルト! 私は一旦態勢を立て直してくる! 後は頼むぞ!」
「え、ちょ……はぁ?」
そういうとナイフ少女はそのまま走り出し、あっという間に姿が見えなくなってしまった。
そして、俺はただ一人、その場に取り残されてしまったのだった。
「……はぁ」
いや、違う。正確には、一人ではない。
俺は振り返る。
「まったく……とんでもないことをしてくれたものね」
俺が顔を向けた先には、先ほどのドレス少女が不機嫌そうな顔でこちらを見ていたのだった。