プロローグ
「ご主人様ー。万事、終わりましたよー」
昼下がり。豪荘な作りの家の居間で、優雅に紅茶を嗜む黒いドレス姿の少女の元へ、メイド服姿の少女がやってきてそう言った。
「お疲れ。で、ホントに大丈夫なの?」
「はい。まぁ、なんとかなるんじゃないですかね? 一応住む家と学校には通えるようにしたんだし」
心配そうな顔のドレス少女と対照的にメイド服の少女は呑気にそう言った。
「だといいんだけれど……これで、よかったのよね?」
「え? いや、私に言われても……でも、こうした方がいいって言ったのはご主人様ですよ」
「それは……そうだけど……」
溜息をつくドレス姿の少女。メイド少女は呆れ顔で自分の主人を見る。
「ご主人様。もっと前向きに考えましょうよ。これで、あの子は我々とも無縁。普通の高校生として暮らして行けるはずですよ」
「まぁ……そうね」
「さぁ、ほら。私達は私達の仕事をしないと。で、お嬢さまはどこです?」
メイド少女がそう言うと、渋い顔をしてドレス少女は彼女を見る。
「いないわ。また、どっかに行っちゃったわよ」
「えぇ!? ちょっと……自分の娘でしょう? ちゃんと監視しておいてくださいよ」
「娘……ねぇ」
そういって渋い顔のままで、ドレス少女は紅茶を飲んだ。
「……わかったわよ。ちゃんと、『お母さん』らしくすればいいんでしょ」
「そうですよー。万が一、お嬢さまとあの子が出会ったら不味いでしょ?」
「そうならないように、アナタが手配したんじゃないの?」
「え? まぁ、そうですけど……でも、万が一ってことが……」
メイド少女の話が終わらない内に、ドレス少女は立ちあがってしまった。
「アナタ、探してきてよ。私はもう疲れたから」
「はぁ!? え、ちょ……私、この後、バイトが……」
メイド少女の話も聞かず、ドレス少女はそのまま背中を向けて扉から出て行ってしまった。
残されたメイド少女は大きく溜息をつく。
「はぁ……やっぱり、就職先、間違えたかなぁ?」