84.無職やめました。
コロナが今の居を移してから3ヶ月ほど経っていた。
その間レイニーが遊びに来ること6回。そのうちコロナが居たこと3回。
一月に一度は会っている計算だ。
半分しか会えなかったのは、やはりコロナは仕事に集中していた結果といえる。
悪いかなという気持ちはあったものの、コロナの中では【ニート】を脱却してからでもいいのではないか……という想いの方が強かった。
だから、無理に時間を取るという選択をしなかった。
もちろん、『会いたい』という気持ちはあった。
レイニーは美人だ。眺めているだけでも幸せな気分に浸れる。
ちょっとお茶目な一面はあるものの、それも一種のスパイスとなるだろう。
けれど、そこで【ニート】であることが、気後れさせた。
『こんな美人のそばに俺がいて良いのだろうか』と感じさせ、惨めな気持ちになってしまうのだ。
普段ならばこんな想いは抱かない。これもひとえに全てギルドのせいだ。
このような階級を作ったことが悪い、コロナはそう悪態をついていた。
結果的に6回中の3回。
それを多いとみるか、少ないとみるかは人それぞれだろう。
しかし、これほど近場にも関わらずその程度……と思う者の方が多いかもしれない。
そして、この程度の頻度では近況報告などしかできない。
話すことは多いのだ。雑談も多少はあるが、たいした時間はとれない。
それゆえ、特段変わったことなど起こりようはずもなかった。
けれど、劇的に変わったことがある。
それは何かというと――念願の階級アップしたことだ。
コロナはいつの間にか【ダウト】になっていた。
C級の最低位ではあるが、晴れて【ニート】を卒業することができたのだ。
これも全て、無心となってギルドに滅私奉公した結果だ。
彼の人生でこれほど真面目に――自主的にだが――やったことなどなかった。
――崖っぷち
その想いがコロナを本気にさせたのだろう。
自分のキャラではないと思いつつもせざるを得なかった。
精神・肉体的に苦痛を生じたものの、その苦労の甲斐もあって、ようやく階級アップすることに成功したのだった。
(まともに戻ることができた……こんなに嬉しいことはない!)
その後夜一人になったとき、思わず涙したとか……
これが常人ならば、ここで階級アップなどしない。
最低でも次の、【うましか】になる付近までは粘るものだ。
けれど、そんなことは関係ないとばかり、コロナは条件を満たすなり直ぐさま手続きを申請した。
一方、レイリア。
彼女も当然貢献ポイントは稼いでおり、既に【ニート】の条件を満たしていた。
コロナの階級アップよりも先に、だ。
常識からして、彼女は階級アップしようとした。
だが、コロナはそれを止めた。次の【ダウト】まで1段飛びで行くことを奨励した。
固定パーティを組んでいるのだ。【ニート】では一緒に行動ができないということもあって、彼女はこれを素直に受け入れた。
だからレイリアはコロナが【ダウト】になるまで辛抱強く待つことにした。
この3ヶ月間、固定パーティを組んでいる意味が一切なかったとも言っていいだろう。
個別に活動をしていたのだから、固定パーティなどととても言えない。
あのときコロナにはっきりした意識があったならば、そのことを指摘し臨時パーティで済ませていただろう。
そして一気に【ダウト】までの貢献ポイントを稼ぐという手段に出たはずだ。
その方が効率がいいのだから、無駄な時間を過ごしたと考えていいだろう。
だが、それも今は昔。
こうして階級アップすることができたのだ。
この後は順風満帆といこうではないか……とコロナは気楽に考えていた。
「おめでとうございます。これでコロナさんは次の階級、【ダウト】になりました」
「あぁ、ありがとうアーシャ。それで、この階級の特徴を教えてくれないか?」
階級アップすると同時に今までの権利や義務が変わる。
むしろ、無くなって新しくなると言った方がいいだろうか。
そのことを確認するのは、ギルドに所属するものにとっては一種の決まりとなっていた。
聞いていない、忘れましたといったところでギルドは勘弁などしてくれないのだから。
ブラック企業なのだから、自分の身は自分で守らなければならない。
当然コロナも、自分の身は可愛い。
ならば自己防衛と危機管理はしっかりとしなければと、忘れずに確認をした。
「はい。【ダウト】はですね……まずD級の依頼が受けられなくなります。
個別階級は当然ですが、共通依頼も不可能になります」
「ああ、そこは大丈夫だ。そもそも共通依頼などほとんど受けていなかったしな」
コロナはそう言って続きを促した。
彼にとっても、その程度のことは後陣に譲るべきだと思っていた。
第一しょぼい金額の依頼など誰が好んでやるのだろうか。
上級階級の者が依頼を独占する、ということも考えられる。だから全面禁止は悪くない決まりだった。
(狩り場荒しはいかんよ、狩り場荒らしは……)
「それと指定ダンジョンの1層の立ち入りが緊急依頼以外で禁止されます。以後、入れないのでお気を付けください」
「ん? 1層から以外にも下層にいける手段があるのか?」
1層に入れないということは、下る階段を利用できないと言うこと。
まさか、入場料でもせしめるのだろうかと、コロナは思わず身構える。
「え? あっ、はい。――それは説明してませんでしたね。
踏破済みのダンジョンは入り口がもう一つ増えるのですよ」
(また、聞いたこともないのが増えたぞ?)
まだまだ、この世界には不思議が残っているのだろう。
やはり異世界なのだ。常識に縛られてはいけない、とコロナは気を引き締める。
「……いや、そんなもの見かけなかったぞ」
「それはダンジョンに直接向かったからですよね? でしたら、気が付かなくても無理はありません。
踏破されたダンジョンは国の資源の1つです。アイテムを生み出すということもありますが、管理できるのが国だから――なのです」
「ギルドが管理しているのではないのか?」
「委託――という形でギルドが全ての踏破済みダンジョンを管理してますが、権利はその国の物です。
そもそも踏破したのが、その国の王族なのですからね。当然国の物と主張しますよ」
確かにそういう考え方をすれば、納得できる物がある。
世界共通遺産のような考えも沸くが、未踏破ダンジョンはまだまだあるのだ。いちいち奪い合いをするよりは健全とも言えるだろう。
(それで戦争が起きないのだから、その価値観はそう悪いことでもないな)
「そういうものか……」
「ギルドが管理しているのは、税によるところが大きいですね。
コロナさんたち探索者が集めてきたアイテム。
それが国の所有している未踏破ダンジョンだった場合ですけど……ギルドが買い取った後、それを卸したときの金額の一部が税になるんですよね。
それを後で纏めて国に配分する。数が膨大ですからね。それでこういう形態になったと聞いています」
つまり、こういうことだろう。
探索者からアイテムを買い取る。ここでギルドがマージンを取る。
ここでは国に払うものはない。
それから、商人や職人に品を卸すときに生じた金額の一部が税ということになる、という話だ。
買い取りはもちろん定価以下だろう。買い取り価格からマージンを差し引いた金額が探索者に支払われる報酬。
そして販売価格と買い取り価格の差額、さらにその一部が国へと渡る。
全額出ないところがミソだろう。
明らかに所有しているはずの国よりもギルドが儲けている。
だが、そんなことはないかもしれない。
一部というと少なく感じるが、大部分を国に納めている可能性もある。
こんな考えを抱くのはひとえに、コロナのギルドに対する不信感ゆえだろう……
また、コロナはあることを思い出していた。
ギルドに関わりのない者は踏破されたダンジョンには入れないということを。
所属していない彼らは未踏破ダンジョンにしか潜れない。
それはギルド以外で踏破済みダンジョンのアイテムを売ってしまうことに問題があったらしい。
つまり、税金の行方が不明瞭になってしまうことが大きな要因であったようだ。
だが、そんなことはどうでもいい。少なくとも今は、だ。
ダンジョンのもう一つの出入り口。そちらの方が遙かに肝心な問題だ。
「つまり、どういうことだ? どこに入り口があるんだ?」
「王城です。王城と言っても敷地内の一区画にですね。
それで、それぞれのダンジョンで踏み入れた事のあるところまで行けますよ」
「……2階層に行ったことない場合は、行けないということじゃないのか?」
「それは……そうですね。その場合はどうなるのでしょうか?
済みません。わからないので聞いてきます」
そう言ってアーシャは、ベテランの受付嬢に聞きに行く。
その間コロナは得られた情報から【予測】を使い、色々なことを考えた。
まず王城に入るときには通行税が掛かるのかどうか。
その場合は、ギルドにダンジョン進入料を取られるのと大差ないことだろう。相手が変わっただけだ。
次に、離れた場所にダンジョンがあった場合、移動費の節約になるのではないかということ。
これは費用はともかく、時間の節約になるだろう。敢えて気にする必要もない。
問題は出るときだ。
ダンジョンを利用すればワープができるのではないか……ということ。
実質、城からダンジョンに直通ということはワープをしていることだろう。
ならば出るときに、正規の出入り口から外に出れば移動に便利ではないだろうか。
少なくとも、他の国や、そこのダンジョンに行く場合時間の短縮につながる。
ワープに関する魔法やスキルの類いがなかったら、利用しない手はないだろう……




