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【休載中】この異世界ギルドは何処かおかしい! -開拓王コロナの軌跡-【再開未定】  作者: 川尼望衣
10章 コロナの就職活動 ~はやくランクを変えたい~
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83.破滅した男

 

 

 

 

「おはよう、アーシャ」

「おはようございます」


 いつものように朝の挨拶から始める。

 今日もアーシャの笑顔は爽やかだ。今日も一日頑張ろうという気持ちにさせる。


 しかし、それは罠だ。アーシャには罪はないが、これもギルドのマニュアルなのである。

 もしかすると、自発的に素敵な笑顔を見せている受付嬢カーチャンもいるかもしれない。

 だからといって、油断はいけない。可愛い顔をして無理難題を押しつけてくる可能性があるのだから。


 こんな穿った考え方をしてしまうのも、ニート故に世を斜めに見てしまうことが原因だろうか……


(彼女たちに罪はない……あるとすれば、その美貌こそが罪だろう!)


 そう、可愛いということは自体が罪なのだ。それだけで男を惑わせる。

 だからそれを利用しようとする者は出てくる。

 日本に及ばず、この世界にしてもそうだ。


 ――その象徴が受付嬢カーチャン


 けれど、彼女たちは美人局つつもたせのような役割を与えられているに過ぎない。

 そんな彼女たちを恨むのは筋違いだろう。少なくともコロナに敵対処置をとらなかったアーシャをそのような目で見るわけにはいかない。


(目が合うたびに、ニコッと微笑んでくれるアーシャが腹黒い……なんて考えたくもない)


 他の受付嬢カーチャンにしても、既に敵対はしていない――一名を除いて。

 プリンによる買収なかなおりは功を奏していた。それ故、どちらかというと好意的だ。

 この世界のプリンは袖の下よりも、もしかすると効果的かもしれない。

 今も、定期的に彼女たちに捧げている。――もちろん普通の材料でだが。

 万が一を考えてのことだ。保険とも言えるだろう。運良ければ、コロナに対する策謀をリークしてくれるかもしれない。そんな考えのもとだ。


 汚い手段の様に思えるが、誰も損をしていないのでWINーWINの関係といえるだろう。

 しかし、恩に着ず、搾取されているだけの可能性も――


 頭を振って、今浮かび上がった疑問を打ち消した。

 コロナは余計なことを考えている暇はないのだから……




 依頼板の元へ向かうと、コロナはまず、魔力充填の依頼がないかと探す。

 それがない場合は、仕方なく特産施設見回りの依頼……といったルーチンが決まりつつある。

 こちらの依頼は常に余っており、何処を回るかは受付で指定される。


 彼は依頼書を手に取り、総合窓口に向かうわけだが……

 最近かなりの頻度で、アーシャがそこに詰めているような気がした。これも以前はなかったことだ。

 おそらく出世したのだろう。心の中でコロナは祝福する。


 口に出さないのは、違ったときに恥をかくからだ。

 現在の精神状態でそんなことになってしまえば、自分がどうなってしまうかコロナにはわからない。

 つまり保身に走ったのだ。小心者と笑いたければ笑え、そんなやさぐれた心情だった。


 もちろん、アーシャがいつもそこにいるというわけではない。

 その時は大体は夜勤――朝上がりでお休みだ。

 いくらブラック企業とはいえ、それは探索者サーチャー傭兵ソルジャーに限定されているのだろう。

 なので、内勤の者にはちゃんとしたケアがなされているのだろう。


(まあ、そもそも俺らは何時休んでもいいんだけどな……)




「あれ? 今日は見回りじゃないんですね」


 依頼を選んだコロナはそれを手に取り、アーシャの待つ窓口へと戻った。


「あぁ、魔力充填の依頼があったからな。

 そっちの方が早く終わるし、未だ周辺地理を把握できていないからなぁ。

 それで問題にもなってしまったし……」

「あ、あは、あははは……」


 つい前日の出来事だ。当時、そこにアーシャいなかった。

 けれど、噂は伝わる物だ。その時のいざこざを伝え聞いたのであろう。


(それでなくとも、女の子は噂話が好きだからな)


 アーシャはそのことを聞くと、苦笑いしかできない。


 笑い話――には到底なり得ない。ドロドロとした結末を迎えてしまったからだ。

 あの依頼主のペナルティはそう大したことではなかった。契約不備に対する違約金だけだ。


 違約金とはいっても、損害を被ったコロナに払うわけではない。当然の如くギルドの手元にはいるわけだが……それに文句はない。

 今のコロナにとっては、「同情するならポイントをくれ!」なのだから。


 だがそれだけで終わらなかったのが問題だった。





 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆





 そもそも特産施設は個人のものではない。国から委託され、管理しているだけに過ぎない。

 時に、長く管理人を勤めていると、ついつい自分の物のように感じてしまうことがある。

 けれど、それは勘違いなのだ。欲に駆られたものは壮絶な最期が待っていることだろう……


 そして、管理人というのは職業であり、国に選ばれた人物が勤めることになる。

 適したスキルの有無も関係があるが、主に縁故採用されることが基本だ。

 前任者は現職の親ということは良くある話だ。

 そもそも、採用試験をするのは親なのだから、当たり前といえば当たり前の結果なのだろう。



 そんなわけで、本来は謙虚にしていなければならない立場の存在である。

 管理に携わる内容ではないことに、口を出す権利もない。

 それに管理といっても、誰が使用したか、何時誰が入ったか、といったものを記述するだけの職務だ。

 【書記】を持っているのが望ましいが、【記述】でも十分に役割を果たせる。

 彼らが書いた書類は、上――国で政務をしている者が清書するのだから……


給料も当然国から支給されている。

 つまりは税金から捻出されていることになるのだ。だから公務員とも言えるだろう。



 今回問題となった男は、典型的に縁故採用で管理人になっていた。

 その前は何をしていたかというと、ギルドに所属していた。

 大多数が所属しているのだから、それは特に威張れるようなことでもない。


 さらに彼は自慢できない理由があった。親が退職するまでは【ニート】で居続けたのだ。

 つまり、ろくでなしの部類なのだ。

 もともと親の仕事を次ぐまでの間に合わせとして、ギルドで仕事をしていたようなものだった。当然向上心などありはしない。


 コロナのように理由あって遅刻する訳ではないが、彼も遅刻の常習犯であった。

 当時はそれで、苦情を言われるようなことはなかったが、相手にどう思われていたかは理解していた。


 そんな彼は遅刻したコロナが昔の自分とかぶって見えた。

 それでイライラしてしまう。ついついコロナにあたってしまったのもろくでなしが故だろう。



 だが、それが間違いの始まりだった。

 時々このようにして憂さ晴らしをしていたこともあって、今回も問題なかろうという気持ちがあった。

 強気で掛かれば、大体このことは上手くいく。そのことがあって味を占めていたともいえる。


 しかしコロナはそのような泣き寝入りをするタイプではない。

 ギルドにすら反抗するほどの反骨精神の持ち主なのだ。


 けれど、彼は既にギルドとかかわりがない。それ故そのようなことを知るよしもなく、いつものようにやってしまった。


 ――その結果が契約違反である。


 契約外のことを強制するということがギルドに咎められ、契約違反の罰金となってしまった。

 もちろん、注意しただけで強制した訳ではない。コロナがそう主張し、こっそり【扇動】を使っていたのだ。その結果がこれである。

 大人げない行為であるが、彼に精神的余裕はない。追い詰められた手負いの獣なのだ。

 ついうっかり手を出して、反撃にあっても仕方が無いことだろう。



 男も、ここで真摯に受け止めていれば破滅には繋がらなかっただろう。

 しかし、彼は独身であり、宵越(よいご)しの(ぜに)は持たない性質たちであった。

 なので、当然違約金など払える額を持っていなかった。

 仮に持っていたとしても、払う気などなかっただろう。


 そもそも、その依頼は国――フロンティア民国がすべき物なのである。

 母体であるギルド、その代理で手続きしたものであって、彼の懐から報酬を出しているわけではない。

 だから身に降りかかることなどないと思い、契約書や規約といったものを軽視していた。


 "契約違反だろうがなんだろうが、払うのは俺じゃない。国が払うんだ"


 これが彼の考えであった。



 しかし、そんなことはない。

 管理は代理であるが、契約書は管理人の責任だ。署名した書類は彼の名前が記載されているのだから。


 そのことに気付かなかった彼は、この罰金のことを堂々と無視をした。

 「俺は代理人だしギルドが払うべきだ」と。


 だが、ギルドにしてみれば冗談ではないだろう。

 この男のミスが契約違反に繋がったのだ。それはギルドの信頼を損なう行為だ。許せるわけがない。

 なんとしてでも払わせようと、何度も男に告知した。しかし、それは裏切られた。



 よって、ギルドは決意した。

 再三にわたる通達を無視した男に対し、強制的な徴収を行った。


 それは給料カットという手段で、だが……


 全額カットでは流石に生きてはいけない、という仏心などでは当然ない。

 消費などによる税の差し引きもギルドの資金源の一つだ。

 返済まで全額カットなどしていたら、最終的に入る金銭が減ってしまう。

 これらの理由により給料カットという手段にしたのだ。


 当然男は苦情を言う。だが、この世界に労働組合などはない。いくら言ったところでたらい回しにされて、終わってしまうのだ。

 あげくに職務放棄というレッテルまで貼られてしまった。


 この先、返済が終わった後には免職という結末が待っているだけだった。

 コロナを怨んだ男であったが、どうすることもできない。

 無職かつ、スキル封印処置を受けたために仕事をすることもできない。

 そして誰も助けてはくれない。ギルドに反抗して、【ニート】であった彼に優しさなど向けられないのだ。

 加えて、親も他界していた。そうなっては仕事のない彼は飢えるしかない……


 この後、男は孤独死を迎えることになる。


 それはまだ先のこと――





 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




 

 アーシャはその時のことを思い出し、しみじみと呟いた。

 

「コロナさんも大変ですね」


 次々と災難に襲われるコロナに、本心から同情し、そう声をかけたのであった。

 

 

 

 

 

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