79.脱ニート宣言
「コロナさん、こんな感じでどうでしょうか」
「え? あぁ、うん……いいんじゃないかな」
無職、いや【ニート】になって惚けていたコロナを誘導し、レイリアは好みの家を借りることに成功していた。
条件は広い台所と、調理家具が揃っていること。それと大部屋ではなく、個室が揃っていることだ。
いくら惚れた腫れたからといって羞恥がなくなったわけでも、女を捨てているわけでないのだ。寝顔を見せるなどとんでもないことだ。
前に一度見られてしまったことを棚上げにし、レイリアは自分の望みを叶えようとした。過去よりも未来が重要なのだから……
そんな程度の条件は意外と多い。
なら今後増える仲間とのふれ合いを考えると、リビングとダイニングが広いものがいい。お風呂が広いものがいい。と次々に条件を追加していくことで、選択肢を狭めていき、ようやく決めることができた。
外観はどれも同じ。拘ることが内装にしかないことが不満を覚えるところだろう。
だが、それはいずれ建てる(2人の)新居で拘ればいいかな、とレイリアは妄想を繰り広げていた……
コロナが今まで住んでいた和風造りの家とは異なり、その賃料は6倍。
固定パーティで借りるという手続きを取らなければ、さらに3倍の18倍。1日で¥90,000という値段であった。
これが¥30,000で一部屋借りることができるということは、ツイていると言わざるを得ない。
そもそも固定パーティ向けの家を個人で借りることはあるのだろうか、と思うかもしれない。しかし実家がお金持ちで、使用人を連れてくるという者は稀にいるらしい。
まあ、大商人の勉強代とすれば安いものだろう。
元々親としても、跡取りを死なせるような事はしたくない。けれどギルドに一度も所属しないのは体裁が悪い。
肝心の本人だが、少年らしく一国の主を夢見てギルドに所属するのだが、一人で生活を送れる訳がない。当然使用人が一緒についてくる。
そのような舐めた精神で、探索者および傭兵などやっていけるはずはない。途中で挫け、出戻りして家業を継ぐというケースが大半だ。
だが本来の用途は違う。
このタイプの借家は所帯持ち用の家として提供されているのだ。
とはいっても、若い夫婦が借りるという訳ではない。計画性のある者たちは資金もなしに籍を入れるようなことはしない。
では、所帯持ちで計画性のない者といえば――
ついつい良い雰囲気になり、図らずも子供ができてしまう場合が当然この界隈にはある。
殺伐した業種故に、癒やしを求めつい……といった感じだろうか。
こうなってしまっては結婚をせざるを得ない訳だが、当然計算外の出来事。それ故に新居用の貯蓄などありはしない。
しかしいつまで経っても、独身用の借家にいるというのも体裁が悪い。
恋人を連れ込む、もしくは友人が泊まりに来るということとは次元が違うのだから。
そういう者たちが、割引価格ならぬ通常の値段で――いや通常の3倍の値段で借りると言った方がいいだろう。
間取りや魔導具の質などを考えても、独身用の家の6倍がせいぜいといったところなのだから。
ならば何故、さらに3倍を課されるのかというと、『計画は大事に!』と反省を促している可能性がある。
ただ、断れないことを良いことに、荒稼ぎをしているということもありうるのだが……
それはさておき、
その家賃6倍に移り住むことにしたコロナたちだが、決めたのはレイリアであり6倍になったことにコロナは気付いていない。
認知症患者の如く、次はこっち、その次はあっちだよ。と手を握りしめられて誘導されて来ただけに過ぎないのだから。
それだけ先走ったドヤ顔をキメたことのダメージが大きいのだ。
コロナが調子者で機能しなくなったことは、当然レイリアにはわかっていた。
ならばとその状況を利用して、密着し、かつ『コロちゃん』を堪能していた。敢えて正気に返すつもりもなかった。
あ~~~ん、などの嬉し恥ずかし行為をさりげなくされてしまったコロナであったが、記憶に残っていないのは幸いだっただろう。
黒歴史ノートに追記せずに済んだのだから……
――後日
正気に返ったコロナであったが、見覚えのなかった部屋にいることに気が付いた。その事に困惑していると、ドアがノックされた。
まるで見計らったようなタイミングであったが、おそらく気のせいだろう、とコロナは思った。
「コロナさん起きていますか? 食事を作りましたので一緒に食べましょう」
コロナは促されるまま食卓についた。
やはり知らない場所だ。ここがいったい何処なのか気になるところだったが、目の前の食事も興味をひかれた。
何せ、レイリアが自分のために作ってくれた食事だ。嬉しくないはずがない。そして冷ますという粗末にする行為をするわけにもいかない。
何もせずとも少しずつ運ばれてくる温かい食事。まさに至れり尽くせりである。
だが、それでもここが何処だかわからないということが、しっくりこなくて落ち着かない。
せっかくレイリアが作ってくれた食事でも、味を楽しむということがどうにもできない。
コロナはそれを楽しむためにも、その疑問を解消することを優先した。
「レイリア……ここはどこなんだ?」
「コロナさん、ここは私たちの新しい家ですよ」
「新しい家? ……あぁ、確か家を借りる予定だったな。
そのために固定パーティの手続きをしに、ギルドに行ったんだったな」
「ええ、そうですよ」
「それで………………うっ!」
順に昨日の出来事を追っていくと、目の前が暗くなったような感覚を味わう。
――――前日の失態に行き着いてしまったのだ。
それによりコロナは再び精神的ダメージを受けることになった。
だが、既に体験したことだったので、何とか耐えることができた。
いや、2度目の衝撃ですらこれほどの威力だったのだ。ならば、昨日受けたショックは茫然自失になって記憶がないのも当然のことだと思った。
(な、なるほど……【真 贋】の精神系耐性は、こういうのも範囲外ということなんだな)
しかし、それははなはだ勘違いである。
どのようなスキル耐性においても、自傷行為には対応できない。だからなるべくしてなったという形なのだ
もちろん、自分を傷つけるという意思がない限りは問題ない。それ故誤爆するということもないのだが……
「よくその後の事はよく覚えていないのだが……説明を頼む」
「ええ、後でちゃんと説明しますよ。それより冷める前に食べましょう」
そう言われてしまっては、従うほかはない。
せっかく作ってくれた食事が冷めて美味しくなくなる――不味くなるということはない――ということは、作り手に対する冒涜だ。
ここが何処なのかという不安が解除されたため、味がわからないという状態ではなくなった。
そして真心の籠もった食事を堪能した後、先日の状況確認を始める。
「ふ~ん。じゃあ、確かにここが俺たちの拠点ってことなんだな?」
「ええ、そうですよ。ここが私たちの家です」
あの後はコロナの許可を得ずに、レイリアが【ニート】になることを申請してしまったという件を除けば、おおむね問題のないことであった。
だが、本人の承諾を得ず何故そのような暴挙ができたかというと――
(俺が固定パーティ申請をお願いしたから、問題ないと判断されたってことか……)
本来であるならば、勝手に他人の階級を上げるということなどできない。できるとすれば、強制依頼の時だけだろう。
またレイリアが固定パーティを組むために来たと、アーシャに返答をし2段昇級は最優先じゃないと言ったためでもあった。
何度証を見返しても、なくなることはない燦然と輝く【ニート】の文字。
―――― 階級:D-5-ニート(2,800/10,000) ――――
幾度見ても消えることがないその文字に、コロナはため息をつくしかない。
所持金の数値を見て、ニヤニヤとしていたのが遠い過去のように思える。
段々とやる気がなくなってくる。活力がわき上がってこないのだ。
お金もあるし……このまま引きこもってしまおうかという気分にさせる。
(まさか……これがニートの力なのか!? これこそ引きこもる原因だったのか!?)
もちろんそんなことはなく、どう考えても勘違いなのだが……思い込みの力というのは時に肉体をも凌駕する。
本来は暗示のようなもので、限界に挑戦するときに必要とする力なのだが、マイナス方面にも十分発動するのだ。
(働いたら負け‥いや、働かないと駄目になる!!)
だが、その怠惰な気持ちをなんとか排除しやる気を振り絞る。
「――さてと。それじゃ、今後の目標だが……」
「はい!」
「特にない。仕事を探そう!」
レイリアからしてみれば、依頼を受けようという意味に聞こえた。
だが、コロナが言った意味はそういうことではない。
――――『脱ニート宣言』だったのだ!
コロナがチラチラ見ていた証
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開拓共同体認定書
名前:コロナ・パディーフィールド
存在強度:90
種族:渡界人
職業:探索者
階級:D-5-ニート(2,800/10,000)
パラメータ
攻撃力:65
肉体強度:163
魔力:73
器用:70
操作:108
速度:36-55
依頼履歴>
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所持金 ¥3,550,458,053
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