番外編 平和なひととき
私は働くことが生き甲斐である。
若くして伴侶を失い、他にやることがない。
周囲には「再婚したらどうだ?」と勧められてはいるけど、正直パッとしない相手ばかりだ。
いくら初婚ではないからといって、残り物を押しつけるのは止めて欲しいものがある。
勧めるなら、それなりの粒をそろえるべきだと問い詰めたい。
――やらないけどね。そんな事を言ってしまったが最後、再婚する気があると思われてしまうのだから……
「ヒルダさん、今夜一杯どうですか?」
今日も脂ぎった同僚が声を掛けてくる。
正直な話、一緒の空間にいるのも勘弁願いたいのに……
もっと、自分の事を見つめ直した方がいいと思う。
「ごめんなさい。今日も用事があるわ」
彼と過ごす様な時間などありはしない。
つまり、彼と過ごさないという用があるので嘘は言っていない。
「そ、そうなんだ~。じゃあ何時なら開いているのかな?」
鼻息を荒くして、聞いてくる。
おかしい……いつになくしつこい。
普段以上に視線を強くしたつもりだったのに、今日に限ってしぶとく追いすがる。
「無理よ。あなたがあなたであるかぎり……ね」
私はこの際だからはっきり告げることにした。
現実を教えないといけないわ! はっきりとね。
そしてさらに目に力を込め、見下す。
すると、男はさらに息を荒くする。
い、一体何なのかしら、こいつ……
気持ち悪くなりその場から退去することにした。
休憩時間なのに逆に疲れるというのはどういうことなのよ……
仕事が終わると、他にやることは――特にはない。独り身だし、自由気ままなのだから。
そして、わざわざ探す必要もない。
なぜなら、かつて可愛がっていた後輩が、私を慕って毎日誘いにやってくるのだから。
私に付き合うよりも、男性のお誘いを一つでも受けて、将来の相手を見つけた方がいい歳に差し迫っている。
若い内の方が、選び放題だと何度も言っているのに聞きやしない。
しょうのない娘だと考えていると――
「先輩お待たせしました」
そう言いながら走りながらやってきた。
まったく……落ち着きがない。何度注意しても聞かないのだから……
「待っていないわ。時間が過ぎるようなら帰るだけだもの」
「先輩、つれないな~。でもそこがかっこいいんですよね!!」
正直、毎日同じような遣り取りをしている。
いい加減違う遣り取りをしたいけど、これはこれでいいのかもしれない。
生前の伴侶とも同じようなルーチンがあったし、それは心安らぐものであったのだから。
そう思うと、この歳の割に子供っぽい娘が可愛く思えてしまう。
娘が居たならこんな感じだったのかな、と考えてしまうのは仕方のないことだろうか?
もっとも、この歳でこんな大きい娘は願い下げだけど……
「それで今日はどうするのかしら?」
普段なら食堂で夕食を済ませるか、贅沢をして高級店に行くことも考えられる。けれど、まだ給料日は先だし、私はともかくミリアではお金がないはずだ。
私の家に来て、夕食をたかるというのもありうるわね。
これまでの経験上その可能性が高いと思っていた。
「今日はですねぇ……実は私の手料理を食べて欲しいのです!」
手料理ですって!
確かに、料理くらい作れないとダメよ、いい男は捕まえられても逃げられてしまうわ、と言い聞かせていることではある。
だけど……正直食べられるものなのかしら?
変わる事はあれど、このようにおおむね平穏な生活を送っていた。
だが、それももはや昨日までの話。なぜなら――――
「先輩っ! 先輩っ!」
ほら、またミリアが職場まで押しかけてきた。
今日、コロナ・パディーフィールドが『玉石』を未踏破ダンジョンで手に入れたという情報が入ってきた。
「ふぅ、忙しくなりそうね」
だけど忙しいことは悪いことじゃない。そんな風に感じ始めていた。




