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78.失業

 

 

 

 

 まぁ、色々と考えたが、あくまで予想だし悩んでも無駄か。

 第一まだ購入する資格がないから、気にすることもないだろう。情報を求めても「まだ知るべき刻ではない(キリッ」とか言われて追い払われるだろうし。


 そんなことを考えながら荷物を纏めていた。

 収納道具ストレージに入らないような大きいものは、契約上一度配置したら持ち去ることはできない。だから支度は手早くできる。

 これは特に不満はない。既にわかっていた事なので無駄な買い物などしていないのだから……


 それが終わるとこの和風造りの内装の家と別れを告げた。

 そこそこ長い時間この部屋を借りていたが、ほとんど外に出ていたので綺麗なままだ。

 まあ、汚れたからといっても掃除する気もないけどな!


 そして俺は名残惜しげな様子のレイリアを引っ張ってギルドへと向かった。




 先にギルドへと足を向けたのは固定パーティチームの申請をするためだ。

 固定パーティチームのメンバーをカードに記載する。その手続きをしないと、大人数用の借家を手配してくれない――という訳ではなく、割引されるらしいからだ。

 レイリアの親が固定パーティチームを組んでいたので、その情報を知っていた。

 割引という言葉に俺は弱い。だからこそ、それを利用するためにギルドに用があったのだ。


 金持ちになると、ちょっとした面倒なら『別にいいじゃないか、そんな端金』と考えがちだ。いや、ものすごい面倒ごとなら金で解決できるならと考える人もいる。俺も若干そんな風に思ったこともある。

 だが、金は有限だ。貯まったと思っても直ぐ出て行きやがる。あいつらカネは俺が嫌いなのだろうか?


 以前もしばらくは大丈夫と思った矢先に、装備をそろえたらほぼ一文無しになってしまった。

 だからこそ、出費は極力抑えるべきなのだ。割引は歓迎こそすれ、利用しないという手はない。


 そもそも、レイリアに言い聞かされてしまっている。


『無駄なお金などありません。控えられるところはとことん控えるべきです!』


 なんだか既に尻に敷かれつつある様な気がするが、言っていることは事実なので強くは出られない。

 そもそも、何か迫力が出てきて「No」とは簡単に口に出せるような雰囲気ではないのだ。







固定パーティチームの申請を頼む」


 俺は総合窓口にアーシャを見かけたので、その列に並び、彼女に任せることにした。

 他の受付嬢カーチャンだと誤魔化される可能性が感じたからだ。

 隣にレイリアがいるから、前みたいにあしらわれる心配はなかったが、一応念のためだ。


 ――君子危うきに近寄らず


 ともいうからな。無理に危険を冒すような者は愚か者としか言いようがない。

 それに世話になってる訳だし、帰国の挨拶をしておくべきだろう。

 そう思い軽く挨拶をしたあと、本題に入った。

 土産も本当はあったのだが、この場で渡すのは適さないだろうし……



「え……と、固定パーティチームの申請ですね。それでは代表となる方のカードをお願いします」


 俺は待っていましたとばかり、迷いなくアーシャにそれを手渡した。

 少し手が触れてしまったが、セクハラじゃない。偶然だ。このような事でセクハラと言われてしまうのは、ギャグか好感度が低すぎる証拠だろう。

 俺は騒がれなかったことに胸をなで下ろし、アーシャから嫌われていないことを実感した。


 アーシャはそれを受け取ると、カウンターの奥にある専用の魔導具にカードを入れ、何やら作業をし始める。

 毎回思うのだが。魔導具を使うだけだし、受付嬢カーチャンでなくともいいような気がする。丁稚にやらせた方が経費削減できるのではないだろうか?

 まあ、かわいい女の子に処理して貰った方が俺は嬉しいが、中にはかわいい少年の方を喜ぶ輩もいるだろう。



 それはともかくとして、アーシャも色っぽくなった様な気がするな! 後ろ姿から、大人っぽくなっているように感じた。

 かつては浅黄色の髪を、ただ一つに束ねていただけだった。

 それを今は結い上げ、うなじがちらりと見えて色気を醸し出している。化粧も上手くなったと思える。

 ただ化粧をしています、とった感じから、自分を引き立てるメイクに変わっていいる。経験を積んでコツを掴んだのだろう。


 それにこう――お尻の肉付きがよくなったように感じるな……ゴホンっ。


 いけないいけない。こういう視線は相手にわかってしまうものらしいからな。

 なんとなくだが、レイリアから感じるプレッシャーが増している気がする。やはり同姓にはそういうことがわかってしまうものなのだろう。



 取り繕うためにも、隣にいるレイリアとどんな家を借りようかと雑談をして待つことにした。

 だが、不具合があったのだろうか。困った表情をしてこちらに戻ってきた。


「コロナさん。あの……階級ランクアップできる貢献ポイントは溜まってますよね? ……しないのですか?」


 そう、現在俺は既に【ニート】になれるほどポイントが溜まっていた。

 具体的に言うと7,800/5,000だ。


 だが当然の如く、俺は【ニート】を回避するつもりだった。

 秘技1段飛ばし……なんちゃって(笑)


C-1-シーワン・【ダウト】まで飛ばそうと思ってね。だから今回は見送るつもりだよ」


 俺は今たぶんドヤ顔をしてるな、とわかったが止めることはできなかった。



 【ニート】など回避してやるぜ!

 (元締め)ザマァという気持ちに嘘はつけないからだ。





 だが、この罠を配置したものは、そのような俺の浅はかな心情など読んでいたのであろうか……

 結果からいうと、回避することはできなかった。実に狡猾だった。


 嵌まってしまった俺がいうのも何だが――

 これはちょっと余裕が出てきた者だからこそ、嵌まるものだったのだろうと言い訳をしたい。

 分不相応にも、D級で固定パーティチームを持ちたいなどと思ってしまったのがいけないのだろうか……。

 けれど、レイリアのような存在を前に、組まない・・・・という選択肢は思い浮かばなかっただろう。





「あの……ですねぇ。その――」

「なんだ? 何か言いづらいことあるのか?

 それとも頼みたいことでもなるのかな?」


 言いづらそうにしているアーシャに向かって、そうゆとりのある態度で答えた。



 過去を振り返ってみる度に、このときの俺を正直、ぶん殴ってやりたい。

 「止めろこれ以上醜態をさらすな!」、「その口を閉じろぉおおお!」と。

 だが覆水盆に返らず。未来で感じたことを、今現在に適用することなどできないのだ。


「俺にできることなら何でも言ってくれよ」


 端から見ると俺は道化であっただろう。

 このまま俺にそれを演じさせておくわけにはいかない、とばかりにアーシャは決意を固めていたことだろう。

 悲痛な顔を浮かべ、これ以上聞いていられない。これ以上言わせてはならない、という使命に燃えているかのように。


 そして無情ともいえるその言葉を吐き出した。

 


「――ッ。固定パーティチームの代表はっ! 【ニート】以上でないとっ、申請できませんっ!!」



 できませんできませんできませんできませんできませんできませんできませんできませんできませんできませんできませんできませんできませんできません………………できませんできませんできませんできませんできませんできません……


 その言葉が俺の頭の中で繰り返し反響していた。

 このとき俺はしばらく固まっていたと思う。

 レイリアに揺さぶられるまで、息すらしていなかっただろう。


 ドヤッとした顔で自慢したが、それが実は張りぼてだったと思って貰っていい。

 この後どのようにして、新居の手続きをしたかは記憶にない。


 ただ一ついえることは、ポイントの足りないレイリアでは代表になれるわけがない。

 結局の所、俺は――――




 ――――【ニート】になってしまったということだけだ。

 

 

 

 

 

夕方、番外編を投稿します。

それと登場人物でこの章は終わりです。

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