9.ナマポをはじめよう
「それでは説明しますね。
まず誰も言ってくれないのですが、ここ本来の正式名称は公共機関『開拓共同体』と言います。通称として使われているのは『ギルド』なんですが、誰が言い始めたんでしょうね。名残が一切ないので7不思議の1つとして数えられていますね。
そしてその役割は『探索者』、『傭兵』の仕事を斡旋し、階級によって仕事を振り分けます。」
ハキハキとテンポよくしゃべる姿がかわいらしい。
(こんな娘がエロ爺に……)
「ここまで大丈夫ですか?」
「正式名称と役割と階級の説明だったよな。分かりやすかったよ」
「そうですか? それでは続けますね。
正直な話……探索者や傭兵は、別に開拓共同体に所属しなくてもいいのですよ。
その場合、個人で依頼を探したり買取を直接店と交渉しなければいけないのですけどね。
それと所属した場合は、階級に応じてボーナスが与えられます。
最初はここの食堂の利用と買取窓口が利用できます。後は階級が上がり次第、私共でその都度お知らせしています」
「う~ん、――所属しない場合の利点とかって言える?
実はすっごいお得な事があって言うわけにはいかないとか?」
狐太郎は深いところまで聞いてみた。
自分のものになる可能性がない女性に対し、優しくする主義ではないのだ。
「――そうですね。所属しない場合はまず交渉次第では、窓口より高く素材を買い取って貰えると思います。
交渉次第と言いましたが、よほど嫌われていない限りは高くなるはずですよ。
あぁ、言い忘れてました。素材の買取はマージンが発生します。素材によってそれぞれ決められた額を開拓共同体がいただいてます」
「マージンの額とかって今わかる?」
「申し訳ないのですが、その額は内緒になっております。
その情報は最高のA階級にクラスになれば、情報の公開をすることができます」
「そうなのか……。どのくらい差があるのかわからないと、それだけじゃ判断がつかないな」
「ん~、そうですね。――こんなのはどうでしょう。
実はですね、所属していない人は脱退させられた人が大半なんですよ。
だからですね……所属していない人は無法者とかで、白い目で見られたりするんですよ。
あとは個人で依頼とか、よほど親しくないとしてくれないですよね~」
可愛い顔してもとんでもない脅しをしてくる。
(――これだから女は油断できない)
狐太郎はかつての苦い思いを思い出してしまう。
今はそんなことをしている暇はない。それを振り払い、必要なことを聞いていく。
「親しくなったら所属してても、直接の依頼は受けることができるのか?」
「残念ながらできないのですよ。
その場合は指名依頼としてこちらを通して、それをお伝えして受けて貰う形になりますね。
でも金銭が絡まないお願い――の形なら別に問題ないですよ」
(お願い――なんて嫌な響きだろう)
かつてこれ聞いて何度身を削られたことか……。
「でも食堂の料理は美味しいですし、なにより階級に応じてダンジョンに籠もった日数で、少ないですけどお給料が貰えるんですよ? あ、これは傭兵ですけどね。
探索者はまずお金に困ることはありませんよ」
「ん~、マージンは他のあまり稼ぎのない探索者とかに分け与えている形なのか?」
「そうですよ~。私たちのおきゅーりょーにもなりますが~、階級の低い人や、ケガをしている人たちの為に使われているんですよぉ」
(なんか軽くなってきたな。地が出始めたのか……?)
「なら最初の内は所属したほうが、確実に良さそうだな」
「最初より上の階級の方がお得なんですけどね。残念ですけど情報規制されてるので秘密です。
とりあえず手続きをする前に話せることはこのくらいのですが、どーしますか?」
別にお金が掛かるわけではなさそうだから、とりあえず入ってみても言い訳だが。
「その前に、俺は正直戦うことができない。
頼れる者が居なくてな。戦う訓練をしたことがないから、さっきいたライナーに訓練所を勧められたんだが――」
「あっ、そうなのですね。それなら別の手続きが必要になります。
まずこちらの書類を読んでサインしてくださいね。なんか色々と書いてあるけど、訓練が終了したら開拓共同体に所属しますよってだけですから。
後こちらは2枚書いてくださいね。こちらで処理する用と、宿舎の方に出すやつですからね」
渡された書類を見ると、やはり謎文字である。
とても冷やし中華に使われ居る日本語とはなにも関連がない。
そんなことを考えて居ると、字が汚いと、彼女に書類をあっさりと奪われてしまった。
そして書類を記入するために、狐太郎は彼女の指示に従い、質問に答えていく。
「コタローさんって、あれ? コタロウ? 言いにくいですね。コタローさんでいいですか? いいですよね?
それじゃコタローさんって呼びますね。それにしてもコタローさんは意地が悪いですね~。
所属するしかないのに、あんな意地悪なこと聞いてきて~。そんなんじゃ女の子に嫌われますよぉ」
許可していないのに、既にコタロー呼ばわり。たくましい限りである。
そして全ての質問に答える終わる。彼女も書類を書き終わったようだ。
「それじゃ処理しますね。宿舎の方にも回しておきますので、この証を宿舎にいる管理人さんにみせてくださいね」
てきぱきと処理をしていくアーシャ。
その姿に狐太郎はやはりある事を聞きたくなり、ついには言ってしまった。
「アーシャさん」
「はい? どうかしましたか?」
「結構若そうに見えますが、一体いつ頃ライナーの父親と結婚したんですか?」
「ふぇ? ふぇぇぇぇ!?」
「アーシャさんならそんな年上狙わなくても、もっとえり好みできたはずですよ!!」
狐太郎は次第に興奮してアーシャの手を握ってしまう。
アーシャは混乱した――何故そのようなことを聞かれたのかわからなくて。
そんな様子も気にせずひたすら問いかける狐太郎。その様子は端から見ていると強引にナンパして困らせている男そのものだった。
そしてなんとかアーシャは答える。
「ふぇ、ふぇぇえん。あたしそんな歳じゃないですぅ。結婚なんてしてませんよぉ~。
どーしてそんな……そんなこというんですかぁ」
アーシャが鳴き始めたことにより周囲が殺気立つ。その雰囲気に気付き、狐太郎は慌ててアーシャを慰める。
「あの……かーちゃんって、もしかして母親って意味じゃないんですか?
俺の居たところだとそういう意味なんですが――」
思わず敬語になってしまうのも無理はない。凄まじいプレッシャーが次々と狐太郎を襲っているのだ。
「俺が居たところだとかーちゃんはそういう意味だし。君は若くて、とても可愛くて綺麗だから……あのおっさんの父親がロリコンなクソ野郎だとおもったんだよ」
ひどい言いぐさである。思ってても言って良いことと悪いことがある。それが冤罪ならなおさらなのだ。
そして騒ぎを聞きつけてやって来ていたおっさんことライナーは、
「おい! 父親がクソ野郎ってどういうことだよ!!
受付嬢っていうのは受付の業務をしている人たちの総称だ!!
たしかにこんな若い娘を父親が貰ったら、犯罪に近いが……それとこれとは話が別だ! 言いがかりにしてもひどいものがある!」
慌ててライナーにも言い訳をする。
「ま、まて! 仮定の話だ!
確かに悪かったと思うが、冤罪だったんだし勘弁してくれよ」
と頭を下げる。
「ふん、おもしろくねーが、頭を下げたことだし許してやるが、次はねーぞ? おぼえとけ」
せっかくあげた好感度もさがってしまったようだ。だが狐太郎は既にライナーには用がない。
だから好感度が下がろうが問題は無かった。外道である。
若干気分悪くしながらも納得したライナーは納得する。その様子にひと安心してると、また雰囲気が変わっていた。
(あれ? 俺空気読んだよな……)
と狐太郎は首をかしげる。
周りを見渡すとイラっとしてる人が変わったような気がする。
プレッシャーを感じてたところが若干弱くなっただけな気もする。だが――
(強さではなく数がさらに増えているというのはどういうことだ!)
狐太郎はそれを無視しようとし、再びアーシャをみる。
「そんなぁ~綺麗だなんてぇ~うふふふふふふふふ。かわぁいぃしぃ綺麗だなんてぇ~」
すると、なんかクネクネしてラリっていた。
(うん、なんていうかチョロイ娘だな。なんか心配になってきたよ。ここは強引に終わらせるか)
「アーシャさん(ガシッと手を掴む、よし)。先ほどは勘違いして済みませんでした(頭をさげるっと)。
俺の住んでいたところでは、この辺りと言葉の意味が違うのもあるんです。今後も迷惑をかけてしまいますがよろしくお願いします(ここで上目使いだ!)。
さっそくこの後はどうしたらいいのでしょうか(キリッ」
ちょっとそわそわしながら説明するアーシャ。
狐太郎はうなずきながら確認する。
宿舎の部屋の鍵とナマポ専用の証を受け取ったあと、礼を行って立ち去るときにニコポを狙って見る。
――蛇足だが、ナマポとは生活保護であり生保。つまり生ポのことである。そしてニコポはニコッ……ポッを差している。
(――他人のものじゃないなら、好感度はあげておくべきだ)
狐太郎はニヤリと笑い、その場を立ち去る。そしてその後をライナーはついて行く。
「何かあったとき相談しろ。可能なら手を貸してやる」
そういい去って行くライナー。実に渋い。
依頼を受けに行くのだろうか……。
しかし別の受付嬢のところに向かう姿は犯罪的に見えたのだが……。
「おれも宿舎の方の職員に手続きをしてもらって、訓練に向かうか――」
こうして狐太郎は、この世界で新しい一歩を踏み出したのだった。