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75.鬼喰らい

 

 

 

 

「俺は生きる喜びを失ったよ……

 レイリアじゃないけど、知りたくはなかった」


 恥ずかしさと喪失感が一度に襲い掛かり、コロナは息も絶え耐えになりつつあった。

 とはいっても表面的にだが……


「凄いことには変わりないのですから、いいじゃないですか!

 もう、私を弄って楽しいのですか!?」


 そう、別にコロナは本気で沈んでいるという訳ではなかった。

 時々様子がおかしくなるレイリアを心配していたのだ。まだ立ち直っていないと。

 そこで、気持ちを楽にさせようと、おちゃらけているに過ぎない。


「楽しいといえば、楽しい」


 ころころと変わるレイリアの表情を見るのは確かに楽しかった。

 それ以上に、生き生きとした表情を見せてくれた事はコロナを嬉しくさせた。


「もう、しょうがない人ですね……」

「それはさておき、真面目な話に戻ろうか」


 ふざけたのはコロナだと言いたかったレイリアだったが、話が進まないのでぐっと耐える。

 これまでの経験上、突っ込んだらさらに話が脱線するのが目にみえてるからだ。



「それで結局どのパラメータを上げるのが良策だと思う?

 120にしてみる必要もあるけど、まず方向性を決めたいと思う」

「ん~。コロナさんの現状のパラメータはいくつなのですか」


 それを聞かれ、待ってましたとばかりにカードをとりだす……が、これは装備も認識した数値が出てしまう。

 これでは正確なパラメータがわからない。

 『120だと言われている』であって、『120で変わる』と明確ではないのはおそらくこれが原因なのだろう。


 コロナは正しい数値を口頭で説明していく。


 《攻撃力》30 《肉体強化》80 《魔力》73 《器用》35 《操作》108 《速度》50


 《速度》は強化するときは最大値のみ関係があるため、最低値は除外している。



 その数値を聞くなりレイリアはため息をつく。


「その数値で……refinePointどのくらい残っているんですか?」

「154」


 レイリアは驚くことに飽きていた。

 《選ばれし者》という次元を越えている。

 いくら『35』まで使わずに取っておいたとはいえ、ここまでの数値はあり得ない。


「まず自然にパラメータが上昇するというのは、大変なことなんですよ? どのくらい無茶やってきたんですか!!」

「ん~ダンジョンに二月近く籠もるとか? 軍曹殿によるしごきとか?」


 淡々と呟くコロナに再び嘆息するしかない。

 もはや、適当に聞き流していくのが正解なのかな……などと考え始めていた。


「やっぱりコロナさんは普通じゃないですよ」

「普通っていいことなの? 違うでしょ? 俺はそんな面白みのない人生など送りたくなどない!」


 キリッと顔を締めレイリアの言葉を切り捨てた。

 その表情は『俺は間違ってなどいない』と自己主張をしているのは間違いないだろう。



 コロナは普通なことは埋没するということだと考えていた。そんな人生は面白くない。

 かつては名前でバカにされるような事はない普通に憧れたものだが……

 もはやタヌキでもキツネでもないのだから、憧憬する必要もないのだ。



「たしかに……面白い方が良いですけど、命知らずなのは問題外です!」


 コロナと行動するため、考えなしによって自分にも被害が出るのも問題であった。それ以上に無理をしてコロナが死んでしまうことを恐れた。

 その感情は涙に変わる。瞳から零れる滴は哀愁を秘めていた。



 それを見たコロナは慌てる。

 涙が出る理由など少ない。あくびを我慢した時か、感情が揺り動いたときくらいなものだろう。

 話の流れからして、自分のことを心配してくれているのは間違いない。

 そもそも彼女があくびをしたようにはとても見えなかった。


「泣かなくても……大丈夫。無理だと思ったことは俺はしないよ。

 例外が――死にそうだと思ったのは軍曹殿に強制的に扱かれたことだけだよ。

 ………………あれだけは死ぬかと思った」


 ダンジョンよりも『グンソー』殿という方を問題にしているコロナに、レイリアは呆れ果てる。

 その言葉を口に出した途端とたん、彼はぶるぶると震えだしたではないか。どんな意味が込められているのか理解ができないが、よほど恐ろしい目に遭ったのか想像ができる。

 仕舞いには頭を抱え込んでうずくまってしまった。


 その様子を見ていると、悲しんでいたのかわからなくなってしまった。


 だが、ふと思い出したことがある。


 『グンソー』


 それは何時だったか父親オヤジが語ったことはなかったであろうか……




 《鬼喰らいのグンソー》――ロナルド・オニグンソー


 かの人物は父親オヤジ世代において禁句である……と。

 詳しいことは忘れたが、あの雄々しい父親オヤジが半べそをかき、泣く泣く語っていたことを覚えている。

 何故そのような話になったのかは正直なところ覚えてはいない。

 とはいえ、後にも先にも、遭難するまであのような情けない父親オヤジの姿を見たのはあれだけだ。




 つまり、そのような人物にコロナはしごきを受けたと言うことを意味している。


「コロナさん……『グンソー』殿というのは、もしかして――ロナルドという名前ではありませんか?」


 ピクリッ


 レイリアがそう訪ねると、コロナは震えるのを止め、ゆっくりと顔を上げ彼女を見る。

 その瞳は涙でにじんでいた。

 まるで彼女のそれがコロナに移ったかのようだった。


「し、知っているのか? 関係のないレイリアが知っているとなると……やはりただ者じゃなかったんだな!

 恐怖の鬼軍曹だったぜ……正直、思い出したくもねぇ!

 あれに比べれば、俺が籠もっていたダンジョンとか赤子の手をひねるようなものだったぜ」


 やはり、恐怖のオニグンソーのことだったらしい。

 めそめそとした顔が父親オヤジのそれを彷彿させる。間違いなく同じ人物だろう。


 大胆不敵なコロナと父親オヤジをこのような情けない姿にさせてしまう、ロナルド・オニグンソーとはいったい……

 レイリアはかの人物のことに思いをはせる。

 しかし、恐ろしい人物という以外には情報がなく、いまいち想像がつかない。

 ならば考えたところで無駄だろう。覚えていたら、後で調べればいいだけのことだ。



 それはさておき、


 そして怯える様子があることから、恐怖に疎いということはないはずだ。

 より壮絶な体験をしたからこそ、レイリアとは感覚が違うのだろう。

 今日まで潜っていたところはコロナにとってはたいしたことない、という可能性が十分に考えられることだった。

 

「ええ、父親オヤジがちょっと……涙目になって語ったことがありましたから。よく覚えています」

「確かに軍曹殿は血も涙もない教官だった……うんうん。わかるぜ、その気持ち。

 けど、あれは一種の愛の鞭だからなぁ。悪い人じゃないことは確かだよ」



 恩師とも言えるロナルドにコロナは義理を通すかの如く、イメージ向上を図る。

 だが……いかに素晴らしいかと語るコロナの顔は引きつっており、その説得力は皆無であった。

 どうみても、悪口を言うわけにはいかない、と取り繕っているのが目に見えてわかった。


(この怯え方はレイニーちゃんの時と同じ? いえ……それ以上に感じますね)


 それを見たレイリアは、コロナも危険の判断はできるとようやく認めることができた。



 ――そもそもの誤解の原因は、コロナが罠に突っ込んでいたことにある。

 これを見たレイリアは恐怖心が欠如しているのでは……と思ってしまうのも無理のないことであった。






 それから二人は話を元に戻し、コロナの成長の方向性を相談する。


 まだ限界を迎えていない――35になっていない――《攻撃力》は除外とした。

 そもそも《攻撃力》は武器で補えばいい。装備できる最低限の数値があれば問題はないのだ。

 強力な武器を装備すれば、稼げる数値でもあったので重要度は低い。


 ハズレあたりくじに当たったのだから、金銭的には困ってないので良い武器に変えることもできる。

 なので他のパラメータを優先する意見は2人とも一致していた。



「私は無駄にならない《操作》を120にすることを提案します」

「《肉体強化》でもいいんじゃないか?

 正直、《魔力》と《操作》は今のままで十分に感じているんだよな。

 かといって《速度》による反射動作も他のスキルの影響であまり実感できないし」

「他のスキルの影響? まぁ、それはいいです。私が上げた理由はそういうことではないですから」


 それではどういうことかと尋ねるコロナ。


「それは120に一番近いのが《操作》だからですよ。

 ……無駄にならずに実感できるまでに一番近い。それが《操作》だっただけです」


 レイリアは堅実な性格をしているのだろう。無駄を極力減らすという方向で物事を判断するようだ。

 だが――


「だけど、《操作》は自然成長できるんだよ。100でまでは振ったけど、それから8ほど自然に上がっているし」

「え? ……そういえばそうでしたね」

「あと言い忘れていたけど、別の《天職》の影響で、《魔力》と《操作》は自然成長しやすくなっている」

「…………」


 レイリアは色々とあったせいで、そのことをすっかり忘れてしまっていた。


(その事が今の私がある理由なのにね)



 彼女はコロナの言葉の意味を深く考える。

 その効果はコロナが自慢した【好奇心旺盛みようみまね】ではないだろう。

 つまり、別の固有能力ユニークスキルの影響による《天職》だろう。

 そちらの方がよほど自慢できるような固有能力ユニークスキルである。

 それをコロナはいまいち理解していないようではあったが……


 秘密にしている固有能力ユニークスキルこそ摂理を曲げるものだ。

 同じ人間なのかと疑問を生じさせるスキル。

 どんなに努力をしたとしても超えられない壁を越えてしまっている。

 限界がなくなった上で、さらに成長が促進される。

 地味な効果故に、実感が薄いのだろう。しかし、どんな先人をも超えうる可能性を秘めている。


 ならば成長が遅くなるまで振るのは無駄になる。

 そう感じたレイリアは結論を出した。

 

 

 

 

 

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