74.自意識過剰
「ゴホン、ゴホンッ」
わざとらしい咳払いが部屋に響き渡る。
軌道修正する意味合いもあっただろう。
でもなんとなく可愛らしく思える。レイニーちゃんに影響されちゃったのかな?
「それはともかくとして、固有能力の説明だったな。
【好奇心旺盛】は人のマネをすれば、その人が持っているスキルを簡単に身につけることができるんだ。たとえ自分に才能がない系等でも」
「えっ……?」
「――たとえばだな……レイリアが小さい頃から槍を振り回して手に入れた【心得】も、この固有能力があれば――」
ゴクリ
私はいつの間にか唾を飲み込んでいた。
随分と集中して聞いていたようです。
そうしたら唇が乾いていることに気が付きました。
私は唇を舐めていく……。
そのことがきっかけで、思わずコロナさんの唇に目がいってしまいました。
いけない……今は真面目な話をしているんだから!
そんな私の様子に気が付かず、コロナさんは淡々と話し続けていました。
「槍の才能がなく身につけるのに本来なら常人の3倍時間が掛かるとしよう。
だけど……そのスキルを持っているレイリアを見る。
これだけで既にスキルを身につける一歩手前の状態になる。
そして後は槍を振るだけでその日のうちには【槍の心得】を習得できてしまうんだ」
たしかにそれはずるい。
努力する必要がないのだからずるいと言われても仕方ない。
だけど、それは――
「スキルを手に入れたからといって、それが終わりではありません。
スキル強度を超え、その人と同じ技量には達するのですか?」
「いや、俺は熟練度と呼んでいるが、スキルをその人と同じ程度強化しても、熟練度になるまでには同じだけの時間が掛かる」
「確かに凄いです。もの凄い便利といっていい固有能力ですが……常識の内だと思います」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
コロナはレイリアが驚いていないことに気が付いた。
それは彼女の発言からしても明らかだ。
先の話で、自分の成長限界が2つ解除されている、という話をした時は驚愕していたというのに……。
(何故だ!? 成長チートじゃないか!?)
コロナの考えでは、自分の固有能力はこれが一番素晴らしいものだと考えていた。
――努力がいらない。
これほど素晴らしい事はないと思っていた。
ロナルドに訓練されて、「ヒィヒィ」言いながら手に入れたスキル。
あれほどの地獄を見ても、あの程度しか手に入らなかったのだ。
もし、【好奇心旺盛】がなければ、今自分が所有しているスキルを手に入れるのにどれほど時間がかかるだろうか……。
確かに、【解放されし魔力】は凄いだろう。
しかし、コロナは成長限界があるのを睨んでいたし、気付かせる切っ掛けでも何でもなかった。
効果も凄い物がある。《天職》と合わせればさらに効果は倍増だ。
だが、その成長は凄すぎるというものではない。【好奇心旺盛】のように「あっ」という間に効果が出るわけではない。
自分の固有能力に文句をつけるようで、微妙な気分になるが……もっとスキル効果があってしかるべきではないか――と思っていた。
そもそもこの世界は、スキルがないと何もできないのだから、スキルは多ければ多いほどいい。
たとえ強化をしていなくとも、それは変わらない。
しかし、どうやらレイリアの考えは違うようだ。
もしかしたら、この世界の常識からしたら違う事なのだろうか……。
(やっぺぇ……ドヤ顔したのが恥ずかしいぜ)
どのように素晴らしい物でも、気が付いて貰えないほど悲しいものはない。
所謂、『お前がそう思うならそうなんだろ? お前ん中ではな』というやつだ。
そんな納得をしている様子のないコロナに、レイリアは説明するかのように語り出す。
「かつて《聖女》の天職を持つ方が居ました。
その方が持っていた【清らかなる光】という固有能力は、どんな容態の者でも死者以外は完治させてしまうというものでした。魔法など一切使えなかったのにもかかわらず。
むしろ《魔力》もほとんど強化していなかったそうです」
(確かに凄いことだな……。だが、魔法を進化させていけば同じ事ができるんじゃないか?
固有能力って言うほどユニークぽさは感じられないな)
「むっ! その顔は『俺の固有能力の方が凄い』などと考えていますね」
「ハハッ、レイリアの方が心を読めるんじゃないか?」
「茶化さないでくださいよもう……。
よく理解していないみたいなので説明しますね」
「そうだな、その辺りを俺にもわかるように頼むぜ」
コロナにとっては回復魔法は充分凄いものであった。
かつて世話になった救護室で掛けて貰った魔法ですら、骨折・裂傷・内臓破裂、これらを復元してみせたのだ。
回復魔法に命を救われたと言ってもいい。
それは彼女の言っている内容と大差がないように感じられた。
「【清らかなる光】の凄いところはですね……。
手足が千切れ跳んでいても、復元できちゃうのですよ! たとえなくなっていたとしても」
「む……」
確かに、それは魔法では無理なことだ。
しかし、戦場でそのような状態だったら、無事帰還できず死んでしまう。
「まだ納得してませんね……。まぁ、それは当然ですね。
【清らかなる光】の本当の凄さはこれからなんですから!」
「何っ!? まだあるのか!?」
「当然です! そうでなければ伝説として語り継がれていませんよ。
なんとこの固有能力は生きた屍状態でも、瞬時に蘇生してしまうことができたのです!
後数秒で息絶えてしまうような状態だとしても!
この状態ならば、どんなに《魔力》が高くとも、回復魔法が最大に強化されていても不可能なことなんですよ!
もちろん魔法でも回復できないわけではありません」
「むぅ……、それだと矛盾していないか? できないんだろ?」
「そう、できないんです。
魔法は瞬時に回復してくれませんから、間に合わないんです!」
コロナはそこでレイリアの言いたい事が理解できた。
回復魔法では、じわりじわりとしか修復していかない。
コロナは自分の腹に穴が空いた事を思い出して納得する事ができた。
「言うなれば、【清らかなる光】は神の御技に限りなく近いものなんです!」
「むぅ」
聞き手に回ったコロナは『ムームー星人』となっていた。
一々言われる事が尤もで、唸ることしかできなかった。
レイリアが説明した【清らかなる光】の効果とは、つまり結果なのだ。それも過程を飛ばした。
心臓さえ動いていれば、至るための条件――パラメータの数値や対象の状態は一切関係がないということだろう。
もしそのような事が地球で出来たら、神の子として崇められてもおかしくはない。
いや、だからこそこの異世界でも伝説として残る――つまり教会で祭られているのだろう。
(なんつーか、もう新興宗教みたいな煽りだよな……)
「だからコロナさんのその固有能力は『便利だね!』とか『羨ましい!』といった感じで終わってしまうのですよ。
確かにその『ちーと』でしたっけ? その状態かもしれませんが、人知を越えるという程ではありませんよ」
「むぅ」
「もし相手を見ただけで完全に同じ状態に持って行けるならば話は別ですけど、そう驚くべき範囲ではないと思います」
ここまで聞いてしまったら流石のコロナにもわかることがある。
それは――――『自意識過剰!』だったという訳だ……。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
俺は驚愕の事実に驚きを隠せなかった。
ドヤ顔をした→大したことは無かった→恥をかいた
なんということだあああ!
心なしかレイリアの俺を見つめる瞳には、何処か蔑みの感情が交ざっているような気がする。
折角ここまで上げてきた好感度は、もしかして昨日と今日で台無しになってしまったのか!?
いやいや、まてまて。
かつてあのような瞳で見られたことはあったか?
――――いいや、ない!
つまり…………マイナスになってしまった?
【直感】:『それはないから安心しろ!』
【予測】:『そうですよ。勘違いですから気にする必要はありません』
何!? 本当か!?
流石、相棒に先生だ……ならば大丈夫だな!
勘違いなんだ、きっと……。
つまり、あれだな。
俺のネガティブ思考がそのように勘違いさせたということなんだろう。
ならばレイリアのことはひとまず置いておこう。
そもそも、固定パーティを承諾してくれたのだから、マイナス値は流石にないだろうしな!
しかし、言い聞かされてみると【好奇心旺盛】……実は大した事がなかったんだぁ……。
やはり『見よう見まね』というだけあって、猿まねに過ぎないのだろう。
これまで世話になっておきながら、こんな事を思うのも何だが――上を知ってしまうと物足りなく感じてしまう。
比較したら天才と神の子か……格が違うな。
しかも言い訳がましく、あれから【好奇心旺盛】の詳しい効果まで話してしまった。
もちろん、『飽きっぽいと認識される』というマイナス効果もだ!
そしたら、
「そんな効果が付属しているということは、上位の物ではありませんね。
コロナさんには残念なことかもしれませんが……」
などと言われてしまった。
――――そうか、上位の固有能力ではないのか……。




