71.父の教えと、コロナの教えと
「そ、それは……!!」
私は今とんでもないことを聞いてしまったのかもしれない。
そのような固有能力は聞いたことがない。
いくらなんでもそのようなこと……。
いや、だけどコロナさんは私の害になるようなことは一切したことは――――ない。
だから、嘘なんて事は考えられない!
――見栄は張るのですけど……。
臨時パーティの途中で、彼が私にrefinePointを使うのを止めるように強く訴えていた。
それはこのスキルによって判明した、パラメータの自然上昇限界というのが鍵となっているのだろう。
限界があるということは、それまでは自然に上がるということ。
もしそう……いやそうなのだろう。
つまり私は成長限界に達する前にrefinePointを使ってしまい、無駄にしてしまったことになるのだろう。
私がその事に気が付いていないから、コロナさんはそれを止めようとした。それだけのことだろう。
少し……いや、かなり悔しいし、やってしまったという気持ちでいっぱいになってしまう。
「俺はこれがあったため、一切refinePointを使わないでパラメータを伸ばしてきた。そこであることに気付いた」
「あること?」
この上まだ何かあるのだろうか?
私は聞きたくないような、聞きたいようなという不思議な気持ちに苛まれていた。
だが私の気持ちを汲み取ってくれたのだろうか、少し言いづらそうにしながら彼はこういった。
「その……だな。――凄く言いづらいのだが。
パラメータは『35』で自然成長限界を迎えるみたいなんだ……。
だからその…レイリアのしてたことは……すごく勿体ないことだったんだ」
「え?」
私は何を言われたのか正直理解ができなかった。
今『35』までは自然に上がるとコロナさんは言わなかっただろうか?
『パラメータは『35』で自然成長限界を迎えるみたいなんだ……』
うん、思い返してみても『35』が境目と言っているね。
あれ? でも『35』って聞き覚えがあるなぁ……。
あぁ、そっか。私が目指していた数値だね……あははは。
あれ? 私どうして『35』目指していたんだっけ?
何か理由があったはずなんだけどなぁ……。
――――――あっ、そっか。父親に言われて目指してたんだっけ。
『レイリア、お前も探索者を目指すんだってな』
『はい。私も父親と同じように探索者の職に就きたいと思っています!』
『ならば、お前にいい事を教えてあげよう! みんなには内緒だよ?』
『いい事って何?』
『実はだな……お前もパラメータは知っているだろ?』
『はい。自己能力にあるあれですよね?』
『そうだ。そのパラメータだがな……35を過ぎると格段に効果があがる。
これは長い探索者人生の中で見つけたことなんだ』
『そうなんですか~。それでどのくらい変わるのですか?
格段と言われても、程度がわからない事には……』
『そうだな……身体能力が2倍……とは行かないまでも1.5倍くらいにはあがるぞ』
『それはすごいです!』
『だからお前も探索者になったら、35を目指せ!
一つずつ35にしていった方が明らかに良いぞ。これは間違いないからな!』
こんな感じだったかしら……?
多少の記憶の差異はあっても、大まかな違いはなかったと思いますね。
父親の言葉を信じてこれまで精進してきたつもりです。
間違いないと太鼓判を押して貰ったその言葉を信じて――
だから当然早く『35』にするべく、refinePointを調整しながら振り分けてきた。
確かにそれなら、35になるのは早いでしょう。
――――だけど、さらに上を目指すとなると、どうなのかしら?
自分は有限あるボーナスポイントを無駄にしてきたのではないかな?
知りたくなかった。知りたくなどなかった! このようなこと知りたくもなかった!!
「その…ごめん……、でもまだ間に合うと思ったから……ね」
コロナさんは私のことで気を揉んでくれているみたい。
凄く心配そうな顔でこちらを見ている。
でも今の私には、コロナさんを気にしているゆとりなどなかった。
どうしてもっと早く、このことがわからなかったのだろうか。
どうして父親に『35』まで上げると強くなると聞いてしまったのだろうか。
どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どう――――
考えても考えても、同じよう状況になってしまうことが私にはわかってしまった。
コロナさんと出会ってからも、多少存在強度が上がってそれを使ってしまっている。
だけど、よく知りもしない私にこのような情報を渡すとは思えない。
私が自己能力を教えた代わりに、その情報を教えてくれたのだろう……。
いえ、もしかすると固定パーティを組もうとコロナさんが言った時点、で教えてくれるつもりだったのでしょうね。
その時点でrefinePointを使うことは止められていたのだから。
どうしてもっと早くにコロナさんは現れてくれなかったのかな……。
もしそうなら、こんなことにはならなかったのに――
どんなに心を静めても、暗い感情が蘇ってしまう。
このままではいけない、このままではコロナさんを怨んでしまう!
――そんなときだった。
「辛いなら泣いた方が良い。心が壊れてしまうよ」
そう言って、コロナさんは腕を広げ私を抱きしめた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
あの後レイリアはコロナの胸で一晩中泣いた。
そして泣き疲れて眠った頃には既に日が昇り始めていた。
(これは……今日はこの宿でもう一泊かな)
彼女を起こさないように、宿の女将にもう一泊止まることを告げて追加料金を払った。
ここはジルオール商国。
ダンジョン巡りの最後に立ち寄った国だ。
コロナたちは深層まで行かずに、立ち入れるダンジョンの浅層をたらい回しにしていた。
階級の許す踏破済みダンジョンだけでなく、既定のない未踏破ダンジョンの関係なく。
つい先日それも終えた。
そこで休息も兼ねて、このジルオール商国に数日滞在していたのだ。
滞在中は観光紛いのことをした。
紛いであるのは、観光施設などなかったからである。
地域の特産品――とんでも施設産のもの――を使った料理を食べ回ったり、レイリアの希望でプリン巡りなど。
主に食事だけだったともいえる。
特産品とはいえ、特産施設産なのでコロナは風土を楽しんだ気分にはなれなかった。
それはレイリアも同じだったらしい。
旅行甲斐のない街々に少しがっかりしてしまったコロナたちは、自分が領主ならば――などと言い合ったりした。
しかし、プリンを喜んで食べるレイリアの顔を見たら、そんな事はどうでもよくなってしまった。
見方を返れば、これはカップル旅行だったからだ。
そんな恋人同士で行く旅行気分を味わうことにしたのだから……。
だが、昨日の出来事で、そんな気分はすっかりなくなってしまっていた。
確かにレイリアに宣告することは、必要不可欠だったと言っていいだろう。
他に言い様はあったのではないかと思うが、【究明】によるとあれは最適解だったと告げている。
都合のいい存在である【予測】もレイリアは問題ないと主張している。
だがコロナにとって、彼女はまだ幼いところがある少女にすぎないのだ。
つらければ泣けばいい。すがれば良い。
そうすれば優しく包み込んであげられる。
彼女の柔らかい身体と仄かに匂う体臭を思い出し、思わず顔が赤くなっていく。
つらい思いをしている者に対して、なんと不純な気持ちを抱いているのだろうと、軽く自己嫌悪してしまう。
だけど彼もまた年頃の男なのだ。
2人で旅をしていたために、彼は自分の性欲を処理する暇がなかった。
はっきりと言ってしまえば溜まっていたである。
「これが性欲をもてあます……ってやつか」
思わず呟いたコロナであったが、周りに誰も居ないことは確認済みだ。
――――【気配察知】は伊達ではない!
今までは慣れていなかったために、思わず周囲を見回してしまったりしていた。
が、それも段々と慣れ、癖は修正済みであった。
やましい気持ちは……多少あるかもしれない。
しかも挙動不審な動作があるだけで怪しさ爆発だ。
だから気を付けなければいけない。
その後、気持ちを落ち着けて、女将にお湯を貰うと部屋に戻っていった。
ただし、戻る前にトイレに入って、何やらやっていたことをここに記して置く。




