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68.都合のいい先生

 

 

 

 

 あの日――――


 ハズレが当たりという珍妙の出来事からしばらく経っていた。

 騒ぎにはなったかもしれないが、それは所詮外野の話。

 売り払った後の俺たちには何の関係もない。だから悠々自適な生活を続けていられた。

 他のダンジョンにも足を運び、なかなかに刺激のある毎日だったといえる。


 女のと二人きりの旅だ。色んな意味で刺激的だったぜ――いや、言ってみただけだ。特に期待するようなことはなかった……。



 もちろん、目的であったスキル獲得も順調に進んでいる。


 【鍵解錠】【稀薄】【観察】【地属性耐性】【火属性耐性】【風属性耐性】


 は普通に……といったら変だが、簡単に手に入れることができた。

 【水属性耐性】だけは手に入らなかったが、水に関係するダンジョンを探索しなかったのでしょうがないともいえる。



 しかし、俺の理性ともいえる【分 析アナライズ】が【予測】という派生スキルを生み出した。

 【予測】なのに予想外とはとんちが効いているぜ。

 だが、これによって俺のインテリ度が増したことは間違いないだろう。

 ――自分で言ってて何だが、インテリ度数なんてあるのかしらんが……。


 【分 析アナライズ】はパッシブスキルとして常に俺の為に働いてくれているが、【予測】はアクティブスキルだ。

 説明が難しいのだがパソコンで表すとしてみるか……。

 前者をフォルダ整理とデータベース化による最適化タスクだとすれば、後者は演算処理だろうか?

 多少違うかもしれないが、まぁ、似たようなものだろう。

 けど【予測】を使わなければ、俺の脳の働きは今まで通りなんだけどな。……ちくしょう!


 どちらが優秀かと聞かれれば、「どちらもだ!」と答えるしかない。性能の方向性が違うからな。

 正直な話、今の自分では使えこなせないだろう。



 また、派生元である【分 析アナライズ】も進化してくれた。


 ――――その名も【究明】。


 このスキルは【分 析アナライズ】の性能が向上しただけだ。大きな違いは一つだけ。

 ただ、今までの経験からでしか、状況証拠として導き出せなかったものが、できるようになったというくらいだろうか?

 まるでパズルのピースが足りない状況でも、それとなく類推してしまうというスキルなのだ。


 正直これがあれば、【予測】いらねーんじゃないかと思ったが――そんなことは無かった。


 【予測】さんマジ神。マジリスペクト。



 は逆演算ができるほどハイスペックだったのだ。

 先ほどのパズルの例で表してみると、【究明は】完成仕掛けを埋める程度だった。【分 析アナライズ】は完成したパズルの隠したところを見つけ出すだけ。

 しかし、は全体像を先に予測して、何が足りないのかというのを把握できるのだ。

 つまり、今の行動は何がダメだったかを判断してくれるのだ。


 【究明】では結果失敗に終わるというだけしかわからない。


『うるっせーよ。そんなことは俺にもわかっているんだ!』


 と言いたい。あくまでサブ知能みたいなものだ。


 だが、【予測】は師匠や先生といった感じだろう。流石に神は言い過ぎだった。

 やってはいけないことと、直した方がいいところを懇切丁寧に教えてくれるのだから。


 ――――何よりも、俺に強制しないところが……都合のいい理想の教師ともいえるのだから!!




 ごほんっ。

 それはさておき、習得と派生、進化を含めなかなかの数を手に入れたと思う。

 これ以上は違う場所での人間観察を必要だと、【予測】はもとより【直感】もさりげなくアピールしてきている。

 彼らに対する俺の信頼は揺るぎない。ダメ出ししかできない【究明】さんとは格が違った。


 もちろん、手に入れた素養の全てを身につけたわけではないだろう。が、今の行動パターンからでは現状では厳しいということだろう。


 それを感じた俺は、早速レイリアに切り出した。


「そろそろ戻ろうか。いい加減、プロンティアの部屋も気になるしな。

 余り空けすぎると掃除も大変だろう?」

「え? ――そう…、ですね……。確かにそろそろ戻らないといけませんね」


 それを聞いたレイリアは『もう?』みたいな顔をしていたので、親交が深まったと断言していいと思っている。

 ここまで一緒にいて、まったく好感度が変わらないなんていうことはないだろう。

 ――上がるか下がるかは別として。

 まぁ、順調にいっているのは間違いない。『だからどうした?』って話なんだけどな。


「多少の時間は残ってるが、住民課に手続きしておいた日数も考えればそろそろ限界だろ?」


 そう、実際問題それが問題でもあった。

 手続きしていた日数の二倍を過ぎてしまえば、俺は罪人となってしまうのだ!

 ギルド全体を敵に回す実力などない俺は、泣く泣く受け入れるしかない。

 だから帰らないといけない。


 これでも手続きでできる最大日数を頼んではいた。

 しかし、興が乗ってしまい、また二人の旅が楽しいこともあって既に超過している。

 復路も考えれば多少無理すれば、もう一つくらい回れるだろう。何もなければ――の話だが……。

 それに目的は既に達している。敢えて無理をする必要もないだろう。安全第一だ。


「確かにそれもありました。名残惜しいですけど、帰りましょうか」

「あぁ、帰ろう。俺たち・・の家に!」




 それともう一つ報告することがあった。


 この前、さりげなく固定パーティチームを組まないかと打診してみたが、良い返事を貰えそうな雰囲気である。


 何も彼女が可愛いからという理由ではな……だけではない。

 『俺たちの家』とか言ったところに欲が入っているような気もするが、断じてない!


 ――――彼女はとても優秀な人材だからだ!


 いくら可愛いというだけで、戦力として当てにならない者を危険地帯に連れて行くべきではない。

 そのようなものは愛でるだけでいいのだから。

 もちろんすぐ近くに癒し的存在は必要だろう。だが、命の危険に晒してまで付き合わせることではない。

 そんなやつは大概滅びてるし、碌な目に遭わない。


 だが、レイリアはそのような存在ではない。

 小さい頃から鍛えていただけはあり、スキルだけの俺よりも頼りになる存在だ。

 言ってて悲しくなるが、事実だからしょうがない。現実を見つめなければ成長できないからな、うん。

 成長チートの俺は現実を見つめなければいけないのだ!





 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆





 今回俺たちが手に入れたアイテムは数あれど、破格だったものは最初の二つだけ。

 『ハズレ』は俺としてはアウトだったけど、実際いい値段で売れたから文句のつけようがない。首をかしげる思いだが……。

 そしてもう一つの方。つまりレイリアが使っている槍こそ、今回手に入れたお宝で一番の物だと俺は思う。



 ――――《槍》迷宮槍ドングリーヌ。


 ふざけた名前とは裏腹に、なかなかに素晴らしい槍である。この槍は《スキル付き》と呼ばれるものだった。


 《スキル付き》

 名前の通り、武器にスキルが組み込まれている。

 ランダムBOXやダンジョンの宝箱に入っている装備にのみあり、人の手で作り出した武器はスキルを有することはない。


 といったものだ。

 俺も聞いてみて初めて知ったのだが、『やはりあったのか』という思いだった。

 伝説の武器とかそういうものには、隠し効果がある武器と相場が決まっている。

 伝説級とは言わなくとも、その類いの武器はきっとあるはずだ――と思っていた。


 ドングリーヌもスキルは付いているが、伝説級とは口が裂けても言えない。

 元々レイリアが使っていた槍より少し良い程度で、スキルが付いているだけに過ぎない。



 それと先ほどは、人の手でスキル付き武器を作れないと言ったが、厳密な意味でなければ実はできる。

 特殊素材を組み込む事で、限定的な疑似スキルを付けることはできるのだ。

 しかし、使い捨てになってしまう。比べるまでもないだろう。


 そもそも武器がスキルを持つのではなく、特殊素材に付加しているだけだ。



 使い捨ての割に、作るとなると莫大なお金がかかる。

 あまりに割が合わないため、大物狩りのときに専用で作られるくらいだろうか?

 ――他の使用法は、見栄を張るときくらいだろう。つまり貴族様の自己顕示にすぎない。




 当然ながら、ドラゴンなどという生きた伝説には必須とも言えるが、正直なところ火力不足が否めない。

 そもそも伝説級の聖剣とかが必要であり、疑似スキル付きの武器などほとんど意味を成さない。

 ここで云う大物とは、ダンジョンの階層ボスのことを指す。


 階層ボスは部屋の移動をする度、現れることになっている。謎の現象ではあるが今は関係がない。

 使い捨てとはいっても、一度や二度程度の使用で駄目になるほど耐久がないわけでもない。

 しかし、一度起動してしまえば、発動を止めることはできない。そのまま朽ちるまでが耐久寿命なのだ。


 ならば、『何度もボスを狩ればいいじゃないか』という発想の元、疑似スキル武器は生き残ったともいえる。

 素材を全て自分で揃えれば、ボス狩りで充分に元が取れる。運が良ければ一攫千金も夢ではないのだから。





 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆





 かつて、疑似スキル付きの武器を大量に用意して、未踏破ダンジョンをクリアしようとした者がいた。

 そして、その者はその方法で見事に最奥のボスを倒すことに成功した。

 だが、早々に先祖代々蓄えていた財産を、全て使い尽くしてしまった。


 確かにボス狩りはできる。それはどんなボスでもという訳ではない。


 ――――中層。


 一般的にボスと言えば、その層のボスたちの事を指している。

 この世界の者にとって上層が門番であり、中層がボス、下層が倒すこともできない大ボス。そして最奥の間にいるダンジョンの守護者こそ裏ボスなのだ。



 その者が当初用意した武器は36本。

 金額にしてみれば、優に800億を超える……。

 これだけあれば、国に献上すれば貴族として封じられるだろう。

 しかし、その者は一貴族ではなく、国王になりたかった。そしてそれは一族の悲願でもあった。


 その大望を抱き、ダンジョンへと挑戦をした。高階級ランク探索者サーチャー傭兵ソルジャーを雇い、その火力を以て踏破した。


 ボスに1本。

 大ボスまでに5本。

 最奥の間までに3本

 そして裏ボスに残り全て。


 中層以降は中ボスとも言われる魔物が徘徊しており、運悪く遭遇してしまえばその消費も激しくなる。

 彼らは索敵をして極力避けてはいたが、接敵数は『0』という訳にはいかなかった。


 それでも36本でギリギリだった。仮に節約できたとしても、全部裏ボスで投入していた可能性もある。

 それも確認されている中で、難易度が低いとされているダンジョンで、だ。


 結局、一つのダンジョンしか踏破することはできずに、一貴族になるだけで終わってしまった。

 ――3つのダンジョンを攻略して国を興すつもりだったが、それも叶わぬこととなってしまった。


 結果的に同じ事なのかもしれないが、死を通してやった結果だと思うと哀れなのかもしれない。

 しかし、献金では一領主にも慣れなかった可能性の方が高い。

 世間からみれば、一大領主になれた事は充分成功したといえるだろう。

 ――悲願が叶わなくとも……。




 やがて、彼の一族は政争に負け滅亡することになるが、それはまた別の話だろう。

 

 

 

 

 

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