8.恐怖! ロリコン爺の存在
食後の団らんの後、狐太郎は寝室に案内して貰った。
寛ごうとする矢先にアシモッフがやってきた。恐らく食事中に約束したことだろう。
(チッ。覚えていやがったか)
面倒だから適当に済ませたい狐太郎は、さらに事実をねつ造することにした。
それにクソガキ相手は舐められたら終わるという鉄則がある。
ここは格好つけて語ってやろうと思うのであった。
「アシモッフとやら、宇宙人の住まう場所はこの地の常識とはかけ離れているぞ。
それでも真実を望むか?」
「もちろんだ! 逃げるやつは腰抜けだって父親がいつも言ってるしな!」
「そこまで決意が固いなら話してやろう……。そう――深遠の知識を、な」
「――ゴクリ」
「《船》、《車》、《飛行機》、《TV》、《PC》はライナーに聞いて知っているな? ならば――」
狐太郎は補修、入試、追試そしてなまはげとはなさかじいさんを騙ろうとした。
それは――
《補修》
決められたことをやり終えるまで閉じ込める殺戮マシーン。逆らうと問答無用で殺される。閉じ込められた空間において捕らわれた者は、無力になってどうすることもできない。
《入試》
才能のないものを調べる脅威の生物。こいつに負けた者は周囲の目からアイツは無能。生きてる価値がない社会のゴミとして周知されてしまう。
《追試》
こいつはなかなかレアな生き物で、《入試》に負けた者がこいつを倒すことによって、負けたことを帳消しにできる。しかし、こいつはとてつもなく強い。まず倒せないと思った方が良い。
《なまはげ》
この存在は、できれば口にしたくはなかった。その存在この世の悪の化身である。――親のいうことを聞かないというだけで子供を食べてしまう。とくに食わず嫌いをする子供が大好物らしい。はらわたを生きたまま喰らう。また討伐しようにも邪神ゆえに人は倒せなく、数多くの親が涙した。
――はなさかじいさんの話をする前に、泣いてアシモッフは出て行った。
(ふっ、たわいもない)
狐太郎はアシモッフを追い出すことに成功し、ベッドへとその疲れた身体を横たえた。
そして振り返る、今日の出来事を。
この身に起こった異世界転移………………などではなく、
そう、あの天使――風俗嬢のことを。
(すごく――気持ちよかったな……)
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
――明くる翌日
狐太郎は目を覚まし食卓に着いていた。
アシモッフは食事が終わるなり、遊びに行ったようだが……少し元気がなかった。
おそらく余り眠れなかったのだろう。
それを心配したタチアナに軽くあやまった後、昨夜のことを話した。
そうしたら二人とも、これで食わず嫌いが直ればいいと最後には笑っていた。
そして――
「コタロー、お前これからどうする?
俺は依頼を済ませにギルドに行くんだが――ついてくるか?
行けば生活できるだけの仕事に関われるぞ?」
「う~ん、そのギルドってやつは資格とか特別な技術がなくても問題ないのか?」
「ああ、昨日ちょろっと話した訓練施設があるのはギルドだ。訓練期間中の生活はすべて面倒を見てくれる」
何時までもライナーの所に世話になるのも悪い。
(なによりアシモッフがウザイ)
そう結論をだすと、ライナーについていくと告げる。
「それじゃあ、ついて行くことにするよ。」
そしてタチアナに礼をいい、別れた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
集落から張る程度歩くと、ギルドのある街へと続く道はちゃんと舗装されていた。
ちなみに靴もライナーのものを貰った。かなり大きいがないものは仕方がない。
服にしろ靴にしろ、早くなんとかしないといけない。
しばらく進むと、大きな建物が見えてきた。どこかで見かけたことのあるような町並みだ。
そして、街にたどり着く。
(異世界ファンタジー定番の門番とかいるかな)
と思ったがそんな存在はいないかった。
「あの一番デカい建物がギルドだ。
詳しくはギルドで聞けるのだが、……そうだな軽くギルドについて説明しておくぞ。
探索者や傭兵が所属している。正式名称は忘れたが、別に覚えておく必要はないからな。
それでいまお前が必要としている情報は、訓練と生活保護だな。
訓練は戦闘技術を教えてくれるぞ。俺も昔世話になった。
生活保護は、訓練である程度実力がついたと判断されるまではなんとかしてくれる。
これは本来は親が死んで、生活が成り立たないものが成人まで養ってくれる制度なんだが……。
成人しても職が見つからない。そんな輩も助けてくれる制度だ。
ギルドに所属することを契約することによって、訓練期間中は面倒を見てくれる。ま、ようするにお前さんは後者のやつだな。ガハハハッハ」
ライナーの言葉を右から左に受け流し街の様子を見ていた。
石造りの建物が並んでいる。かつて発掘のバイトで立ち寄ったヨーロッパの古都を歩いている気分だった。もちろん近代化していない区画のことだが。
見る限り、あからさまに『道具屋』『武器屋』とわかるようなものはない。
ライナーの家みたいに不思議空間があるなら、建物大きさとか問題とならない。どれも同じような大きさで判断のつきようがない。暖簾とか看板とかないのだろうか……。
そしてギルドの建物に着いたが、そこは入り口が開いていた。
またあの呪文を唱えるのかと思ていたので拍子抜けした。
蛇足だが、ライナーの家の施錠の呪文は『モウイイヨ』だった。
『なんじゃそれ』――と思ったのは仕方のないことだと思う。
そして建物の中にはいる。
こんな朝っぱらから賑わっている。
(これぞ荒くれ者どもの巣って感じだな)
ライナーのような厳ついやつがごろごろしている。
格好いい鎧を着けている者も居れば、上半身裸でKIAIの入っているやつも居る。
見渡すがビキニアーマーは居ないようだ。
(――残念だ。それだけが楽しみだったというのに!)
どうやら食堂も兼ねているらしい。食事を食べているものも居れば、酒を飲んでるやつも居る。
(朝っぱらからギルドで酒を飲むとか定番だな~)
と周囲を見回していると、ふと違和感を感じた。
ライナーの家にはなかったものがあった。
それは――窓だ。
窓がある。
(この世界でも窓があるのか……)
ならば何故窓のついた家を作らない? 高いのか?
いやそもそもギルドはデカい建物だった。
もしかしてそこが窓をつけることのできる理由なのだろうか。
一通り推測し落ち着くと、ライナーの方を向いた。
だが、そこで思いもよらぬものを見たのだ。
――――冷やし中華はじめました――――
「なん…だと……」
狐太郎は驚愕してしまった。
それを見かねたライナーは狐太郎に話しかける。
「なんか顔色悪いが、大丈夫なのか?」
「大丈夫だ、問題ない」
「それならいいんだが、……それなら手続きしちまおーぜ」
「あ、あぁ」
余りのことに生返事を返してしまう。
昨夜の内に、この世界の文字が日本語ではないことは確かめた。意味不明で謎な文字だった。
そしてそれを狐太郎は読めた。むしろ感じたといってもいい。自然と頭の中で変換されたのだ。
伝える意思を込めた文字は相手に分かるのだ。
ただしその単語や名称が相手に分かればなのだが……。
だがライナーもタチアナも日本語は読めなかった。
つまりこの世界には日本語では相手に伝わらないはずがないのである。狐太郎は伝える必要性を感じていなかったのだろうか。
しかし、適当に書き殴った文字は読み取ることができたという。日本語だけが伝えられない。
何か他に原因があるかのどちらかだろう。
やはり日本人が関与している可能性は高くなったとみていい。
それにしてもなんで冷やし中華なのだろうかと問い詰めたい。
確かに昨日タチアナに聞いた限りでは、麺は存在し、卵も燻製も存在すると聞いていた。キュウリっぽいのもあるらしい。
だがよりによって最初に見かけるのが冷やし中華とは……。
そんな事を考えてると、ライナーがとんでもないことを言った。
「さぁ、受付嬢に説明して貰うぞ」
そういって窓口らしきところに向かった。
ライナーが向かった先には若く、それなりに容姿の整った女性がいた。
再び驚愕する狐太郎。
(かーちゃん、ってことは実母……それはないか。どうみてもおっさんより若い。――となるとライナーの父親の再婚相手なのだろう)
とんだエロ爺である。
性犯罪者いやロリコン――再婚してどんだけ若い娘を貰ったのかと問い詰めたい。
そんな後をついてこない狐太郎に、再びライナーは呼びかける。
さっきフラグたててしまったが故に、全然大丈夫ではなかったのだが、なんとか取り繕うことに成功する。
「本当に大丈夫なのか? さっきより顔が青ざめて居るぞ」
「あぁ……、さっきより気分が悪くなってきたが、平気だと思う」
心配そうに見つめてくるライナーに対し、
(おっさんのドアップなんて誰得――いやオジ専ならありなのか?)
などと失礼なことを考える始末。
「大丈夫なら説明して貰うぞ。受付嬢あとは頼んだぜ!」
「はい、お任せください。私、担当のアーシャと申します。分からないことがありましたら、遠慮なくおっしゃってくださいね」
「ああ、よろしく頼む」
なんとか返した狐太郎に対し、笑顔で返す。仕事やってるとしても品のいい笑顔だ。
こんな娘がエロ爺の毒牙にあってると思うと、気が萎えてくる。