67.宝箱の中にはなんと……
知恵の輪でもよくあることだろう。
どうしても解けないのは、その人の思考の埒外にある動作が必要になっている。ゆえに不可能。
けれどほんのちょっととした作業を加えることで、解錠できる状態だったというものが多いのだ。
最近の知恵の輪は工夫されて、様々ものが出ているのでこの限りではないのだが……。基本は変わらない。
……そうして宝箱はついに開く。
宝箱は開けたら中身が飛び出てくる、という結果が待っている。
鍵付きの場合は、解錠した瞬間に蓋が勢いよく開く仕様をしている。
開けてびっくり、飛び出てびっくり。
もし、レイリアが開けた宝箱と同様に槍が入っていたならば、のぞき込んでいたら突き刺さってしまうかもしれない。
だから注意が必要なのだが、あいにくと二人は宝箱から離れていた。
びっくりしたときに尻餅をついてしまったからだ。
コロナが心臓が弱かったら大変な事となっていただろう。
が、特にそのようなことはないために、情けない声をあげるだけで済んだともいえる。
だが腰を抜かして、驚愕している様は実に滑稽にみえる。
「あっ、何か出てきますね」
その様子をレイリアは気付かない――いや、気付かないのではなくこっそり堪能した……。
もしここにカメラがあったとしたら、こっそり撮っていたことだろう。
彼女はあれから度々レイニーに会っており、地味に洗脳されつつあったのだ。
『コロちゃんは情けない姿が一番』
そのレイニーの至言を思い出し、深くもっともだと頷いた。
宝箱の中身よりも、それを堪能する新たな嗜虐思考の少女が誕生したのだった。
「そ、そうだな。良い物が出てくれるといいな!」
コロナはレイリアがまったく気にしていない様子であると気付き、とっさに取り繕う。
見ぬ振りをではなく、堪能していたというのは彼にはわからないことだろう。
だがそれも、実際にアイテムが出てくるまでだった。
既に2人の意識は宝箱に寄せられていた。
箱から飛び出したるは強烈な光。
その光たるや、先ほどレイリアが見た槍が出てくるときの光以上だった。
彼女は内心、これは凄い物が出たのではないかと期待していた。
やがて光が収まり、見えてきたその姿は四角い物体。
宝箱を開けたコロナの手に向かって飛び出してきた。それが手に収まると完全に光を失った。
それによりコロナはようやく中身を直視することができるようになり、どういう物かを確認する。
その四角い物――大きさは手のひらサイズだ。
(材質は……石だろうか?)
いつまで経っても、『あの○○を手に入れた』という表示が出てこない。
それに疑問を感じながらも、それをさらに物体をよく調べる。
すると、何やら文字らしき物が刻まれていた。
『ハ ズ レ』
「ハズレかよ!?」
コロナは思わず声にだして突っ込んでしまった。
期待させておいてこれは流石にない。この彼の叫びは正当なものだろう。
鍵、強烈な光。
それだけでも期待感があるが、証や自己能力に介入するかの様に、の脳内に響く声もない。
それによる期待感は、いったいどれほどの物かと――
だが現実は無残。
アイテムでないから響かなかった。そしてそれは強烈な光は誤魔化しの証でもあった。
ようするに、『しかし宝箱はからっぽであった』という代わりの演出であった。
この場合ハズレクジならぬ、ハズレ石を生み出すために強烈な光りは生じたのだ。
そもそもランダム宝箱は、この光りによってアイテムを生み出す。そのことを探索者たちは知るよしもない。
……期待をしては、その現実に打ちひしがれることとなる。光が強いほど、碌なものがないことに。
しかし、人によってはそれがもの凄いいい物ということもあるので、その実体は知られていない。
その光景を端から見ていたレイリアは、反応のないコロナに訝しむ。
どんな凄いアイテムなのだろうか……コロナが硬直するほどに素晴らしい物であったとやはり期待に膨らむ。
一向に反応のないコロナに焦れたのか、ついに行動に出ることにした。
「コロナさん。それはいったい……どれほどのものだったのですか?」
だがしかし、レイリアの声に反応する様子がない。
――――その気力もなかった。
レイリアにはコロナがつぶやいた『ハズレ』なる意味が、よく理解できなかったのだ。
反応のない彼に焦れたのか、仕方なくコロナの手元をのぞき込む。
それは一見ただの石にみえる。
だが、形は整っており……実に美しい色つやをしていた。
「こ、コロナ……さん、そ、それは幻の……」
それを見てレイリアは驚愕した。
コロナが所有していた石は、噂でしか確認されていなかった『幻の秘宝』だったからだ。
どのような材質か一切不明だが、『ハズレ』という絵らしき物が掘られた美しい玉石は、現存する国では国宝に類するものとされていたからだ。
このような物をみてしまっては、コロナが興奮のあまり叫んでしまうのも……無理はないと彼女は納得をする。
「それは玉石ですね――
コロナさんも知っているとは思いますが、王のための物とされているので各国では国宝として扱われています」
「この……ハズレ石って国宝なのか?」
コロナの的外れな答えに、レイリアはきょとんとする。
「知らなかったのですか?
あれほど驚いていたのでその価値に気付いていたものとばかり……」
「いや、この石に彫られている物はハズレと読めるんだけど……もしかしてレイリアは読めない?」
そういってレイリアにその『玉石』なるものを手渡す。
大事な物を受け取るように、両手でしっかりと掴みそれを確認する。
「……私には読めませんが――これはハズレと読むのですか?」
「あぁ、俺が居たところではそのように読んでいた」
「そうなのですか。ハズレとは素晴らしい物という意味なのでしょうね……」
(意味が伝わらないということは幸せなことなのだろうな)
レイリアのその喜び方からして、それがゴミ同然なものとは……口が裂けても言えないコロナであった。
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この日、コロナたちが持ち帰った『ハズレ』は世間を騒がせた。
長い歴史から見ても、この『ハズレ』はこれで5つ目の存在であった。
所持する者は『領土なき王』といっても過言でない、とされるほどの秘宝なのだ。
だが彼らはこれを所持することなく、迷わずギルドに持ち込み売却したのだ。
現在所持しているのは――
フロンティア民国が一つ。
オリアコン森国が一つ。
トリキア王国が二つ。
トリキア王国が多いのは興国の英雄《永 遠 の1 7 歳》が、ダンジョンから持ち帰ったものがあるからだ。
それ以外は全て国が支援している有能な探索者たちが持ち込んだものである。
フロンティア民国にある一つの玉石は、コロナたちと同じようにフリーの冒険者が売ったものだ。
そして今回彼らが売り払ったもので二つめとなる。
どこかの国に支援を受けている探索者ならば、その国に売ることが義務づけられている。
だが、彼らは束縛などされていないフリーの探索者だ。
普通ならば、売り払うようなことはせずに懐にしまい込む。
だが、権威だけあっても権力や利がない王族モドキなどコロナには興味もない。
そのためギルドに売り払い、フロンティア民国がこの新たな玉石を所有することとなった。
レイリアに「使う?」と一応聞いたのだが、「自分は槍を貰ったから、それはコロナさんが決めていいですよ」と返されたので迷わず売ることに決めた。
その金額は¥5,000,000,000であり、折半しても十分過ぎるほどの稼ぎだった。
彼らからしてみれば、もの凄い大金であり一夜でお金持ちになってしまったのだ。
一攫千金とはまさにこのことだ。
ちなみに、この玉石のギルドの売却マージンは……というと――
――――――まったくない。
この『ハズレ』は直接ギルドが所持するということで発生していなかった。
珍しいこともあるものである。
ギルドにしては真っ当だなと、このとき初めてコロナは感じたのであった。




