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66.だいじなもの

 


 

 

 宝箱のを手に取り、ふたを開けようとした。




 ――――しかし開かなかった。


 ――なんと宝箱には鍵が掛かっていた。



 そう、宝箱には鍵が掛かっていたのだ!





 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆





 『大事な物には鍵を掛けましょう』

 これは幼いときに、親や教師からくどいほど言われる注意である。

 最初は『名前を書きましょう』だったが、段々と道徳が欠如してくると『鍵を掛けるように』と言われるようになった。


 コロナは鍵を掛けたことはなかった。とはいっても学校でだが。

 だからといって盗まれるようなことはなかった。

 教科書しか置いていないロッカーなど漁る者などいない。それが大事な物かはわからないが……。

 もし、いたとしても悪戯をする程度だろう。もちろんコロナもされた。

 とはいっても、名前欄に『たぬき』と『きつね』のスタンプを押されたくらいだが――

 田貫狐太郎たぬきこたろうの名は業が深いのである。





 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆





 それは今はどうでもいいことだろう。

 今重要なのは、宝箱に鍵が掛かっていたことだ。

 つまり、この『宝箱も大事な物』だからこそ鍵が掛かっているのだろう。


 コロナはそう自分を納得させるように言い聞かせた。


 ――――恥ずかしかったからでは決してない。


 顔が赤面しているが、そういうことではない。ないのだ。



「レイリア、こっちの宝箱は鍵が掛かっているな」


 顔のほてりが収まると同時に、コロナはレイリアへと話しかけた。

 それを聞いた彼女は彼の元へと駆け寄ってくる。


「鍵……ですか? そんなこともあるんですね。

 ――ちなみにこちらの宝箱には、ダンジョン産の槍が入ってました」

「槍か……今使っているのと比べて性能はどうだ?」


 その言葉にレイリアは槍の具合を確かめる。


 突く。払う。

 突く、突く、突く。

 払い、そして切り返す。

 最後に旋回をして、その動きを止める。


 レイリアは少し反芻する。

 一つ一つの動きを現在装備しているものを比較して。

 そして――結論を出す。


「どうやらこの槍の方が良い物の様に感じます」

「なら、それはレイリアが使うといい。それで今持っているのは予備に回せばいいんじゃないか?」

「えっ? いいんですか? 折半なのですからこれは売却でも構わないのですけど、それにまだまだこの槍は使えますし」



 親から貰った物だから大事に使いたい。

 ――という訳ではなく、コロナに悪いからというのが理由が強いようだ。


 その様子を見て取ったコロナは決断する。

 その槍はレイリアが使うべきだと。

 レイリアの言うとおり、本来ならば折半するのが普通だろう。

 だが、そのようなことコロナは気にしない。


 これが男だったなら、「冗談じゃない折半だ」と主張したことだろう。

 見てくれが悪い女性でも「No」と言ったことだろう。


 だが、相手はレイリアだ。

 多少若すぎるとはいえ、十分に美人――つまり可愛いのだ。

 そんな彼女が相手では多少の金銭など、どうでもよくなってしまう。つい遠慮してしまうのも、無理はないことだろう。

 第一コロナは現在懐が温かいので余裕がある。

 それらの思惑が合わさり、槍を進呈する気になっていた。



「これ……結構良い物ですよ?」


 遠慮するレイリアにコロナはひたすら首を振って答える。

 その様子にレイリアの方が根負けしてしまった。


「それならせめて今回の報酬はこれだけってことに――」

「いや、ダメだ。装備品は例外として今、認定する。

 使える物は必要経費という判断だ。異論は認めない、キリッ」


 思わず最後に『キリッ』と付け、格好をつける。

 ――顔ではなく、口に出してしまっては台無しなのだが……。

 そしてそのことに気付き、後ろを向いて誤魔化した。


「……わかりました。有り難く頂戴しますね。ありがとうございます」


 背中で語っているコロナに頭を下げ、礼を言う。

 だが、その心には一つの決意を抱いていた。


(いつかコロナさんが使う装備が出たときは、快く譲らなくちゃ……)





 一方コロナは、そんなレイリアの様子など気にもしていなかった。

 もはやそれは既に済んだこと、今は鍵付きの宝箱に思いを馳せ気持ちはいっぱいだった。


 鍵は物理的な物なのか、魔法的なものなのか、それともギミックによるものなのか。


 ギミックはいいとしてもミミックなのは頂けない――


 ……が、【直感】もそれはないと断言している。


 そこでコロナは『こんなこともあろうかと』という台詞を脳内で呟き、針金を収納道具ストレージから取り出した。




 ――――ピッキングである。


 そう、彼が解錠として選んだ手段はピッキングだった。



 ガチャ ガチャガチャ ガチャ


 鍵穴に針金を差し込み適当にいじくり回す。

 鍵開けを経験したことなどない。これは初めての試みだ。上手くことが運ばないのも仕方がないことなのだ。


 ――――いや、一度だけあった。


 それをコロナは思い出す。あのときの感覚を思い出せ……と。




 かつて自転車の鍵をなくしてしまったことがあった。

 いまと同じように、このようにして鍵を開けようとしたことがあったのだ。


 だが、鍵は開かなかった。針金を用意したのは無駄に終わってしまったのだ。

 結局、鍵をハンマーでぶち壊すことで解除したのだ。

 それを解錠といっていのかはわからない。


 しかし、下手に思い出してしまったことで、このようにしてても無駄な様に思えてしまった。

 いまもカチャカチャとやっているが、開く様子はない。


 ――――壊してやろうか……。


 ふとそのようなことを考えてしまう。その思考は思わずコロナを操ってしまう。


「だ、駄目ですよ! コロナさんそれだけは駄目です! やめてくださいっ!!」


 コロナが宝箱を破壊する――と気が付いたレイリアは彼を制止する。


「は、離せレイリア! 中身が、中身が俺を、俺を呼んでいるぅぅうううう!」


 コロナはレイリアに抱き留められるものの、それに抵抗する。

 彼女の肉付きがよくない……ということもあるだろうが、何より早く宝箱の中身を調べたかった。

 だが、スキルを使わなくてはその制止を振り切ることはできない。

 パラメータに差はあったとしても、スキルを使わなければ結局は効果はないのだから……。



 一方レイリアは必死で抱きしめていた。

 絶対にさせるわけにはいかない。その手段は諦めさせなければいけないと。


 これには当然理由があった。それは――


「コロナさん駄目です! それだけは駄目なんです!

 宝箱は壊すとどんなに丈夫な中身でも、箱と一緒に壊れてしまうんですよ!」


 ――――壊れる。


 その一言でコロナは動くのを止めた。

 レイリアが止めるために嘘をついているという可能性もあったが、必要性がない。

 ならば本当のことだろうと受け止めた。



 そしてコロナはランダムBOXを開けたときのことを思い出していた。

 あのとき鏡は箱の中から、ピョコっと飛び出て来ていたではないか。

 さきほどの槍をみても、とても宝箱に入る大きさではない。


 ならば中身は最初から箱の中にはない――ということにならないだろうか。

 もしそうならば、箱は出口であり、それを媒介としてどこからか飛び出してくるだけなのではないか……。


 その媒介が壊れたらば、中身は当然ながら取り出すことはできない。

 それを思い、コロナは再び針金を手にした。



「仕方ない。少し時間が掛かるかもしれないから休んでいてくれ」


 レイリアにそう促すと、再びガチャガチャとピッキングを再開することにした。



 カチャカチャカチャ……


 針金と鍵穴が奏でる音が響き渡る。


 カチャ カチャカチャ カチャ…ガキィ


 レイリアはコロナの指示に従い身体を休めている。

 ときどき鈍い音がするものの、彼女はそれを特に気にする様子もない。


 ――――彼女は寝ていた。


 反応のしようもないだけなのだが……。

 だからといって、気遣うように音を鳴らさないというわけにもいかない。

 レイリアはいびきもかいていないため、音を響き渡らせるようなものは何もなく、ただその音だけが空間を占めていた。



 うんともすんとも反応のない鍵に、コロナは再び『破壊』という二文字が脳裏に浮かんだ。

 その度に、レイリアに釘を刺されてた事を思い出す。


(チッ、いつになったら開くんだよ……)


 ままならないことにストレスが溜まっていく。

 しかし、ここで経験をしていくことは悪いことではない。

 今後もこのような鍵付き宝箱がある可能性が高いのだから。


 だからといって、いつまでも我慢ができるというわけではない。そろそろ限界に来ていたのだ。


「仕方ねぇ……、『我は全てを求め、全てを手に入れる』 ――――【ブースト】」


 コロナは感覚を強化することにした。

 魔法【ブースト】の効果を手先だけに集中させる。そして他にも関係のありそうなスキルを発動、または促し使用する。


 ガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャ


 速度を増した動きは、もはや騒音ともいえる音をだしていた。

 それにコロナは気付かない。感覚は全て手先に集中させているのだから。


 しかし、これはある意味失敗ともいえる。


 なぜなら――――


「コロナさん……代わりましょうか?」


 そう、レイリアのことすら意識から除外し、集中していたために彼女の接近に気付かなかったのである。


 あまりの五月蠅さに、疲れて眠りこけていたレイリアも起きざるをえなかった。

 でも、彼女はそれに文句はない。

 疲れもとれ、充分に睡眠がとれたからだ。

 ……もちろんダンジョン内の話だが。


 これがレイリアだったから良かったものの、もし魔物だったならば……コロナの命は脅かされていたことだろう。

 また、庇護すべきレイリアを、意識から外してしまうのは問題外でもあった。



 しかし、声を掛けてもコロナは気付く様子がない。

 レイリアは彼の耳元に顔を寄せ、再び声を掛ける。


「コロナさん、代わりましょうか?」

「ひゃっ!!」


 レイリアの息がコロナの耳に吹きかかり、驚いてしまった。

 彼女に悪気があったわけではない。

 ここはダンジョン。何が起こるかわからない場所。

 だから、疲れているであろうコロナに休憩をさせるために、交代を申し出ただけにすぎない。


 しかし、それが変化をあたえることになる。


 ――――カチッ


 耳に息を掛けたことが切っ掛けで、宝の鍵が開くことにつながった。

 

 

 

 

 

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