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64.正しい罠の解除法

本日2話目。

明日の分が長くなったので分割しました。

 

 

 

 

 《ルァーフツ大迷宮》

 この迷宮には魔物は通常存在しない。

 魔物部屋と呼ばれる罠と、ボス部屋といわれる数カ所の番人以外は迷宮の罠こそが探索者サーチャーたちにとっての敵である。


 にもかかわらず、罠に掛かった者の屍はいつの間にか消えてなくってしまう。

 魔物がいるわけでもないので食べられた……というわけではないだろう。

 もしかしたら迷宮が食べているのかもしれない。

 だがそれは、迷宮を攻略する上で気にすることもないことだろう。

 死んだ者は気にすることなどできないのだから――




 このことから人海戦術で罠を潰すという――漢探知で進むことは不可能なのだ。

 もちろん実証済みだ。これをやってしまったの領主がかつていた。

 そして無駄な結果に終わった…………というわけだ。

 当時王政だった頃、国力を損なわせたという事で処分されてしまう。


 これ以来、罠はきちんと解除するか、回り道をするべきという概念が生まれることになる。

 命知らずなものはいても、命を捨てる……というのは別物なのである。





 そして今、そんな危険な迷宮のダンジョンに、コロナたちは潜っていた。



 彼らは【地図作成マッピング】のスキルを手に入れようとしていた。

 なるべく入り口に近い所で、地図を書きながら慎重に進んでいった。


 コロナは【???】(verありの方)の影響か、もしくは転職《発掘調査》の影響か、脳内マッピングがあるので本来この作業は必要としていなかった。

 しかし、それをレイリアにそのことを告げる訳にもいかず、また他に上手い理由も考えつかなかった。

 『完全記憶能力を持っている』などと、かつての醜態から考えるととても理由にできない。

 そのため彼女と共にスキル取得に励んでいた。


 もちろんスキル獲得のチャンスであったため、無理に言い繕う必要もなかったのだが――それはそれ、これはこれである。



 この大迷宮にくるまでに、彼は2つのスキルを手に入れていた。


 それは【騎乗】と【野営】だ。


 この二つは国家間を移動するときに、借りた馬に乗っている間に覚えたのと、テントを張っている時にいつのまにか覚えたものだ。

 ともにスキルがなくとも困る事はないため、使わないリストに入れておいたが……。


 それはともかくとして、

 コロナは早速【地図作成マッピング】を手に入れることに成功していた。


 このスキルはマップを作成するときに、ダンジョンを正確な縮図に表せるというものだった。

 一度通った道を書くと、次第にその大きさが用紙のサイズに沿って縮小されてしまう。

 だからどんなに詳細に書いたところで、次第に区画が縮小していきどのような罠があったかも、小さくなりすぎてわからなくなってしまうのだ。


 【地図作成マッピング】とはあくまで道順のみを把握するスキルといってもいい。

 それも同じパーティでしか、作成された地図を読むことができないというおまけ付きだ。


 地図を売って一儲けとは行かないものである。



 だがコロナは【分 析アナライズ】と転職のおかげか、どこにどういった罠があるのか何となく理解できた。

 もちろん100%正解というわけにはいかないが、それでも回を重ねるとともにその精度は増していった。


 その経験は【罠探知】・【迷宮の心得】というスキルを手に入れることにつながった。


(このようなものにまで心得があるとは……)



 【迷宮の心得】

 歩いている大体の方向がわかるというものだ。


 クネクネ曲がっている間に方向が分からなくなることを防ぐ。

 とても優秀なスキルといっていいだろう。


 もう一つのはそのまま罠を見つけるスキルだ。

 コロナは自分にとっては必要ないスキルに感じたが、普通の探索者サーチャーにとっては、二つとも生命線ともいえる必須スキルではないのかと感じた。

 少なくとも迷宮タイプは間違いなくそうだろう。頭でマッピングできる方が異常なのだから――



 SkillPoint的に、恐らく斥候を主とする者のみがこれを取得し強化するのだろう。

 強化せずとも、あるだけで多少なりとも勘が刺激されるため十分効果がある。あった方がいいだろう。


 コロナはその事を感じ、レイリアが取得するまでは無理をせず、慎重に進む必要があると思った。




 人気ひとけと魔物の気配のない通路を二人は進む。

 入り口付近ということもあり、同業者たちもいない。


 しかし――コロナの【直感】が危険を感知した。


「レイリア! 止まれっ!!」

「(!?)」


 レイリアはその声に反応し立ち止まる。

 いきなり声を掛けたコロナにびっくりして、思わず止まった……などということではない。

 罠を見破るスキルを持っていると彼女に告げておいたからだ。

 命にかかわるため、そのことまでは隠したりはしない。

 だから合図したときは、すぐ行動に移れるようにと指示しておいた。


 今回それに従い、レイリアは静止することができただけのこと。


「これは――おそらく……」

「おそらく?」

「レイリア……左右を見ろ。壁だ!

 少し切れ目が入っているのがみえるか?」


 コロナにそう言われ、注意深く罠があるとされる壁を眺める。


 すると――壁には切れ目らしき物がいくつかあるではないか。


 この切れ目から刃が飛び出る仕組みになっているのだろう。

 気付かずここを通過すると、その刃によって首や手足が切断されてしまった可能性は高い。


 その罠に気付かなかったレイリアは、背中から汗が流れ落ちる。

 コロナが居なかった場合、自分はどうなっていたか……と簡単に想像できてしまった。


 だがコロナがいなければ、このような場所に立ち入ることはありえなかった。

 だからそんな可能性など微塵みじんもなかったのだが――

 冷静ではないため、レイリアはそのことには気が付かない。



「この罠は、正直解除できない……訳ではないけど、時間の無駄だろう。

 別の道がない場合にのみ解除するタイプだ」


 コロナはその罠を観察し、レイリアに講釈した。


「そうなのですか?」

「あぁ。殺傷力が高い上に、隙間を埋めたところで切断系ならば意味がない」

「ならばどうすれば解除できるのですか?」

「単純だ。壁を破壊して刃を取り除けばいい。

 ダンジョンだからいずれは修復され元の形に戻るだろうが、壊せないという事はない。

 ここで問題なのは――

 どのくらいの強度があるのかわからないという点と、壊すには結構なMPを使うことを覚悟しなければいけない……という点だな」

「な、なるほど……」


 ここでコロナが解除と言っているのは、当然壁破壊のことだ。

 彼のなかでそれは、れっきとした罠の解除法であった。


 コロナが提示した解除法は当然力業だ。

 もちろんちゃんとした解除法もある。

 それは別の箇所にある罠解除スイッチと、【罠解除】の上位スキルである【罠削除】を使うことだ。

 だが前者はこの場になければ結局回り道をすることになり、後者は持っていないので選択肢にはあがらない。


 ここで【罠解除】で解除できるのではないか……と思うかもしれない。

 それは当然だろう。しかしこのスキルは既に発動済みの罠を解除するためものだ。


 時限爆弾の解除、毒ガスの噴出を止める。常に発動状態にある転移罠を止めるなどだ。


 それに比べ【罠削除】は、『罠があるな……』と感じたところに使うことによって罠を破壊できる。

 当然ながらスキルの強度次第ではあるが、致死性の高い罠を排除できるのだ。

 迷宮専門の探索者サーチャーには必須スキルともいってもいいだろう。

 もっとも迷宮が自然修復するため、永久にそれをなくすことはできないのだが……。



 他に力業がもう二つ存在する。

 床を掘って低姿勢で進めば刃が当たらないという方法と、そして刃が飛び出る以上の速さで渡りきってしまう方法だ。



 しかし今回は、そのどれをも選ばない。

 その判断の理由は、彼ら二人では突破が不可能だということ。

 コロナは既に【罠解除】を取得していて、それでは無理だと気が付いたからに他ならない。

 それを無理して、万一があったら冗談では済まない。



 レイリアはコロナの意見に従い、回り道をすることを選んだ。

 【地図作成マッピング】で確認しながら、来た道を引き返し別の道へと進む。

 それは結果的に、先ほどの罠のあった区画の向こう側へと出ることに成功する。


「ほら。正解だろ? 無理に罠は解除しなくてもいいんだよ」

「……そうですね。ですが――

 魔物がいるダンジョンの場合は消耗に繋がりませんか?」

「そのときは、そのとき。臨機応変が探索者サーチャーってもんだろ?

 だけど罠を背後に魔物と戦う方が怖い。

 解除中に襲い掛かられたら、下手したら罠にそのまま突っ込むことになる」

「それは……確かに……」

「まぁ、どっちもどっちだよ。

 だから探知に優れている人の言葉は無視しちゃいけないよ」

「はいっ! わかりました!」



 コロナは斥候職の意見を無視して、罠に突っ込んだことを思い出していた。


 それは苦く、そしてつらい過去であった。

 役立たずとハブられ、パーティ被害の損額を保証されたこともあった。

 しかし、めげずに、斥候職に転職してそのダンジョンをクリアした。

 ――もちろん全てゲームのことである。


 だが、その経験が今ここで役に立っている。

 ならばいいじゃないか。あの苦い想い出もこのときのためにあったのだ。


 コロナはその記憶をレイリアの笑顔で塗りつぶしていく。

 彼女の返事に頷き周囲を見回していく。

 すると――あるものに気が付いた。


 ――――そう、ボタンだ。



 おそらく、先ほどの罠を解除するためのボタンなのだろう。

 誰かが強引に罠を突破し、このボタンを押すことで仲間が無事に進めるというタイプなのだろう。


 床を掘って進むということでも、壁を壊すという方法でもなく、速く動き突破する。

 これがこの罠を解除するための正攻法ということになる。


「見ろ、レイリア!」

「何をですか?」


 コロナはそのボタンに指を向ける。


「あれですか?」

「そうだ。あれこそ、そこの罠を解除するためのボタンだろう」

「えっ!? でも罠の先にあるじゃないですか!」

「そうだな。ま、つまりだな……罠は解除して進めないってことだな」

「解除できないって……」

「ああ、解除できない。突っ込むしかないんだ」

「……突っ込む…………」


 レイリアはそれを想像し、身を震わせた。

 額から汗がだらだらと流れ出ているのがわかる。

 思わずコロナの腕を掴んでしまう。


「大丈夫だよ。そんなことはしないし、させないから」

「あっ、はい」


 その言葉で自分がどのような事をしているのかレイリアはようやく気付き、思わず顔を赤く染めた。

 手を離し、深呼吸をすることでようやくいつもの自分に戻ったような気がした。


「解除法としては、誰かが突っ込んであのボタンを押す。

 そして解除された罠をみんなで渡るって寸法さ」

「そ、そうなんですか」

「でも正解は俺たちの方法だよ。

 解除することが常に正しいって訳じゃない証明ができただろ?

 罠の先に繋がる道がなく、宝や下層に下りる階段がある場合を除いて、道は繋がってるんだから回り道をしてもいいんだ」

「(コクコク)」

「だから、レイリア」

「は、はい」

「命の掛け処は間違えちゃいけないよ?」

「はいっ!」

「それと――」


 締めの言葉に話は終わっていたと思ったレイリアは首をかしげる。


 ――――もしかすると重要なことかもしれない。


 そう思い真剣な面差しでコロナを見つめる。

 そして――


「怖かったら手を繋いでもいいんだよ。ここには魔物は出ないんだから」


 そういって微笑みながらレイリアに手を差しのばす。

 それを見てレイリアは顔を再び赤く染めるのだった。





 ――偉そうにしたり顔で話しているが、結局のところゲームの話であった。 

 

 

 

 

 

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