60.我が計略……見破れるか!?
【鍛冶】を習得した後、自宅に戻り日記をつけることにした。
これは何も日課というわけではない。今日から始めるのだから。
――全てはスキルのためなのだ。
どのような場合で、またどのような状況で習得したかをこまめに書き記す。
途中までは書き殴っていた。しかし、ふとあることを思いついたので、丁寧に丁寧に書いていく。
すると……予想通りに、【記述】を得ることができた。
このスキルは字が綺麗になるとか書けるというスキルではない。
人が読むときに綺麗にみえるかどうかというスキルだ。
現にコロナが書いているのは日本語だ。今までは誰も読むことはできなかった。
認識できなかったと言ってもいい。
いままでは問答しながら書類を書いてた訳だが……。
しかし、これでこの世界の住人も読むことができるようになっただろう。
もっともスキルを強化していないので『きたねぇ字』と言われるのは間違いないのだが。
相手に伝えることのない文字はこの世界においては、もはや絵だ。
冷やし中華――というギルドのあの文字は日本人以外には読めないだろう。そしてその意味を伝える気もないのだろう。
現にコロナは『冷やし中華』を食堂で頼んでみたが、そんなものはないと言われてしまった。
だが、【記述】があるからといって、必ずしも相手に意味が伝えられる訳ではない。
【記述】は劣化するのだ。文字が劣化するように。
そのスキルのverによって制限時間があるというべきだろうか。
時間と共にその文字を読める人がいなくなる。
なにせ、この世界には決まった文字など存在しないのだから。
そしてずっと残しておきたいのならば、その上位スキルである【書記】が必要になってしまう。
【記述】は得た。次は受付嬢必須スキルである残りの二つを獲得だろう。
そこで早口言葉や発声練習で【口述】。帳簿を付けて【事務】のスキルをねらってみたのだが――
「【口述】は手にはいったんだけど、【事務】は……条件が違うのか?」
【口述】は相手にはっきりとした発音で伝えるスキルなので、これでよかった。
しかし【事務】は事務作業に使う魔導具の使用するためのスキルだ。つまりこの方法では取得できない。
(メインで使うものではないのだから……時間を掛けるだけ無駄だな)
コロナはそれを取得できないものと諦め、深く考え込むようなことはしなかった。
割り切ったあと、次の作業へと移る。
収納道具からクナイと、壊れたものを取り出した。
そしてクナイの持ち手に布を巻く作業だ。
それが終わると、クナイを逆手に持ち、手ぬぐいを顔に巻きつける。
「OH、Japanese NINJA HAHAHA」
――その姿はパチモン臭を漂わせていた。
コロナもそれを自覚しており、雰囲気を出す為の言葉が口から飛び出ている。
その姿はとても忍者などはない。むしろこそ泥一歩手前――いや、凶器を持っている時点で強盗モドキだった。
彼の家には鏡がある。ランダムBOXから手に入れた物だ。
だがその部屋でポーズを取っていたわけではない。なりきって遊んで――いや、スキル取得の為に励んでいただけだった。
だからその滑稽さに彼は気付きはしない。
手に持ったクナイを短刀の如く振り回すことで【短剣の心得】を。
またこのとき手に入れた【心得】系等のスキルは自己能力の別枠へと移動させた。
庭先でシャベル代わりに穴を掘ったら【土木】を。
そして出てきた粘土を体験教室で習ったように捏ねて、茶碗を作っていたら【陶芸】を取得できた。
なぜ土を捏ねたかというと、忍者=隠れ里=陶芸と連想したことからである。深い意味はない。別に土いじりがしたかったわけではない。わけでないのだ!
最期の忍者の代名詞でもある隠れる=【隠形】も、壁を使い隠れながら大通りをチラチラとしてたら手に入れる事ができたのだった。
(誰かをつけ回したら、『尾行』とか手にはいりそうで怖いな)
コロナはふと危険なことを思ってしまった。
それが手にはいるということは、誰かが持っている可能性がある。それを考え、ブルリと肩をふるわすのだった。
蛇足だが、忍者にとって穴掘りは必須技能と言ってもいい。
罠のため、隠れるためとその用途はいくらでもある。勿論密書などを隠す為ということもあるだろう。
本来は『罠』系スキルを狙った落とし穴だったが、期待とは違うものになってしまった。
茶碗の形にした粘土を安置して終わったところで、そのことを振り返る。
だが、冷静になってみるとそれは落とし穴などではない。
―――ただの穴だ。
やはり落とし穴は、穴があると気付くようではいけないのだ。
ロープを張ったり、中に竹槍を挿したりするのは面倒だった。そのため、コロナはそこそこの大きさの板を買ってきて、それに土を被せて終わりにした。
すると――【陥穽】というスキルを習得できた。
その結果に彼は満足をする。ついでに買ってきた立て看板に『ここを通りし者、歴史に名を刻まれる』と書き込んだ。
格式美は必要なのである。
そのときに【扇動】という胡乱なスキルを手に入れたが、気にしないでおくことにした。
だが、気にしないなんてことも言ってられなくなってしまった。
天職|《策士》というものが自己能力に表示されてしまったからだ。
《策士》
【扇動】+【口述】+【直感】を持つ者
AbilityPoint-1 SkillPoint+2
固有能力を持つ元としては、この天職効果は少しいただけない。
十二分にAbilityPointは余っているのだが、未だ【???】として不明なものが二つも存在している。
そう考えると、やはり微妙に感じてしまう。
本来ならば非常に強力な天職なのだろう。固有能力を持っていない者ならばと注釈がつくが。
AbilityPointを使ってスキルを強化する。つまりポイントが1つ増える事となる。それは十二分な効果だろう。
だが、この効果からして自分を高めず小手先でなんとかしていると、言われているような気がする。
扇動と口述は策を弄する上で必要だから納得できるものではある。だが、分析やらまだ見ぬ『カリスマ』系ではなく――直感というところが『この策士大丈夫か?』と不安にさせられる。
「軍師殿、この様な策で本当に大丈夫なのですか?」
「火刑は完璧です」
「しかし……本当にやつらはこの道を通るものなのですか?」
「たぶん間違いない」
「「「「「(たぶんって……それなのに間違いないって……)」」」」」
「我は軍師なのですよ? 逆らったら軍紀に背きますぞ」
こんな感じだろうか――……酷いにもほどがある。
これが【分 析】なら
「我は敵将の心情を完璧に把握している。あやつは勝ち急いでいる為、この道を必ず通る。
だがもしもの為、別の道には伏兵がいると見せかける――偽兵を配置させてある。既に指示も出している。心配召されるな」
このようになるだろう。
説得力もだが、信頼性が段違いだ。
カリスマならそもそも、味方の将軍に疑問を抱かれないだろう。
むしろ疑問を挟むようなものがいたら、他の者に諫められてしまうはずだ。
いや、そもそも『軍師』ではなく《策士》といった所が小物臭を漂わせている。
ゴロツキの知恵袋とでも言ったところだろうか。
しかし、手に入れてしまったスキルは消すことはできない。諦めるしかないだろう。
コロナは固有能力【好奇心旺盛】の弊害を、飽きっぽいやつと思われる以外にも実感できた。
それは狙った以外のスキルを手に入れてしまうということだ。
またそれと同時に、今まで見てきた者に【扇動】を所持しているということがいることだ。
(これはマジで気を付ければいけない。『尾行』の有無よりも明らかにまずい)
可能性として考えられるのはギルド職員だ。だが、それなら命の危機の心配はないだろう。
もし身近の探索者にいた場合こそ問題なのだ。
臨時パーティなどで一緒になった場合、気付かぬ内に捨て駒にされるという可能性もあるのだから……。
しかし、危険なスキルは【扇動】だけではない。
今後もこのようなスキル類を手に入れた場合は、周囲に気を張らなければいけなくなってしまった。
これに対抗スキルを自力で習得する必要が出てきてしまった。たとえ【好奇心旺盛】で素養を手に入れていなくても。
問題の【扇動】についてコロナは少し考えてみる。
まず『Active!!』ということはスキルはこれが最大値であることの証明だ。持っているだけで最大効果を発揮するだろう。
――――これは強力極まりないスキルだ。
何より、嘘を付いて誤魔化すスキルではないところが問題だ。
嘘を付いているなら【敵意感知】などで、簡単に察知できると思われる。他にも対抗手段はあるはずだ。
しかし【扇動】は嘘を付かない。
相手の言っていることが、正しいと認識してしまうことが問題だ。
かといって疑心暗鬼になるのは不味い。信頼すべき相手も信じられなくなってしまうからだ。
なら【分 析】だろうか……。
冷静に分析していれば、自分にとっての不利益が見えてくる……いや、それですら無理だろう。
なにせ分 析は自分の経験を元に判断するスキルだからだ。
つまり一度は体験しないと役に立たない。
(ふぅ~ならばアレしかないな)
コロナが出した結論とは――――
――――自分がリーダーになれば同業者には扇動されることはない、というものだった。
ライナーのようにソロ狩り専門という手もあるのだろうが、それは寂しいので論外だ。
ならば、自分が主催をすれば問題はないはずだ。人脈がないのはこの際置いておくが――
さらにコロナはこのスキルを封印――つかわないことを決意した。
それはとても脆く、すぐ破れそうな鎖で封鎖されただけの封印だった。いざとなったらその封を破り、あっさりと使うだろう。
むやみやたらに使うようなことはしないだろうが……。
余談だが後日、1人の男が穴にはまって動けないでいるところを救助された。
そんな彼は歴史に名を刻まれることはなく、問診票に名前を刻まれるのであった。
横山氏の三国志(原作は三国志演義)の
「待て! これは孔明の罠だ!!」
これは明らかに直感であり、結局仲達は手玉に取られます。
経験則からトラウマになってしまったとも言えますが、勘というものはそのようなものです。
考える暇がないときは直感に従ってしまうものですよね。
後に彼は孔明の策の根幹を分析して孔明の裏をかきますが、それでもまだ手の内にあったようです。
主人公補正って凄いねーーという話。
だけど結局天地人――時、場所、人材全てが揃ったときは負けるわけがないという内容で、孔明には天も人も無かった為、最終的に仲達を討ち取ることはできなかった。
孔明「俺有能だけど、まわりがボンクラだからなぁ」
仲達「俺年下、お前死ぬまで待つ」




