59.夢の無い話
1章まで改訂作業を終了しました。
内容に差異はありません。
――採掘護衛の日
護衛対象はむさ苦しいおっさん――ではなく、研究畑が似合いそうなひょろひょろのもやし男だった。
コロナはいかにもドワーフといった感じの男を想像していたから、肩すかし感を味わってしまった。
「ギルドを通さないで、鉱石を手に入れることができるのか?」
「自分で使う分は国に採掘税を払えば問題ないよ」
「マジ? 採掘税とかあんのか……」
「そりゃそうだよ。資源は国のものなんだからね」
「まぁ……そりゃそうだな。
何処にでもギルドが関与してるって事……は流石にないよな」
「いや、使わない鉱物を売るときは――ギルドを通さないとダメだよ?
だから関係ないという訳ではないよ。あっ、もちろん製品を売る時もだね」
どうやら油断してしまったらしい。やはりギルドに死角はないのだった。
適当に挨拶を済ませた後、コロナは本日の予定――詳細な護衛内容を聞いてみた。
それは盗賊や追いはぎなどからの護衛などではなかった。
採掘中の岩が落下。それを防ぐ――という内容であった。
何も岩を抑えろということではない。落ちて来たら、もしくは気配がしたら、強引に外に連れ出して欲しい――ということだった。
そもそも盗賊などは小規模な商隊を主に狙う。このような個人を狙うようなものなどいないらしい。
(なるほど、もっともだ)
とコロナは盗賊の効率廚ぶりに深く関心をした。
――数撃てば当たるというわけにもいかない。無駄が多すぎる。
金にならない相手を襲うのは体力の浪費だ。しかも国に情報を与え、官憲に気取られる可能性が高くなる。
ローリスクローリターンだけはやってはいけない。
だが、それは一つの事を諦めなければいけないことだった。
(――『献身』っぽいスキル……さようなら)
そして鉱山に着くと、男は早速つるはしを構え――掘り起こす……様なことはしなかった。
ここでもスキルだ。恐らく【採掘】を使ったのだろう。
採掘地点に押し当てると……岩が突如前触れもなく砕け散った。
(あぁ、スキルがあるから筋力はいらないのか)
それがもやしでも炭鉱夫として十分やっていける理由であった。
コロナは謎がわかり、据わりが悪かったものがなくなった。
【採掘】とは掘り起こす動作を短縮するスキルである。
一度に掘れる量はスキルの強化度合、自身のパラメータ、そして掘り起こす物質とのせめぎ合いで決まる。
つまり、このスキルさえ習得していれば……マッシブな筋肉など必要ない。
この世界はパラメータが外見に現れるわけではない。マッチョだから力強い、ガリガリだからひ弱、ということはない。
それ故に戦う相手には注意が必要なのだが……、今は関係ないだろう。
それはさておき、今は依頼主が一心不乱に掘り進めている。
崖のようなところから掘り進め、既に洞窟のようになっている。
次第に依頼者は掘る事に集中しすぎて、注意散漫になっているようにみえた。
頭上からぽつり、ぽつりと、少しずつ石が落ち始めていることに、依頼主は気付いていない。
(確かにこれでは護衛が必要だろうな)
とコロナが思っていると、
――突如【直感】の警鐘が鳴り響いた。
コロナは急ぎ依頼主を抱き抱え、外に向かって駆けだした。
なにやら依頼主が叫んでいる様子だが、コロナはそれを無視をする。
スキルを全開で使用し、急いで洞窟のようになってしまった所から離脱した。
外に出ると同時に、
ズドォオオオオン
と崩れ落ちるような音がした。
(もし少しでも遅くなっていたら……)
コロナはその事を考え、冷たい汗が流れ落ちる。
「危なかったな」
コロナは依頼主に語りかける。しかし反応は返ってこない。恐怖で気を失っているようだ。
「ま、漏らされなかっただけでも……よしとするか」
コロナはそう呟き、今手に入れたスキルのことを考えた。
――【荷重移動】と【運搬】
恐らく、依頼主を抱えて脱出するときに習得したのだろう。
あのときは人の重みで身体を振り回されないようにと気を付けていた。また人を運んだこと。
これら二つの事で手に入れたのだろう。
【荷重移動】は本来ハンマーや斧などを扱う者に有効なスキルだと思われる。
これがあれば重い武器に振り回されずに済むからだ。
【運搬】は文字通りのものだろう。特に有用性は感じられない。
スキルを考察していると、次第に落ち着いてきた。
危機一髪というのは初めてではあったが、終わってしまえばあっさりとしたものである。
だがこれからどうしたらいいのかわからず、依頼人を起こすことにした。
「おい、起きろ」
肩を揺さぶり、覚醒を促す。それにより男は気を取り戻した。
そして男は落ち着き状況を整理した後、
「不味いな……。まだ崩れる可能性がある」
「このままだと不味いのか? 誰も近くにいないなら崩れても良いと思うが……」
「防げるならそれにこしたことはないよ。それに僕が今日ここで採掘していることは知れちゃってるから、言い訳もできないし」
確かに責任を追及されるならば、崩れないように補強しておく必要がある。
「それじゃ、サクサクと整地するからちょっと待っててね」
「いや、俺も手伝うよ。二人でやった方が早いだろ?」
「そう? じゃあお願いしようかな」
「あーちょっと待ってくれ。やり方を教えて欲しい。俺はスキルを持っていないんでな」
「そういえばそうだね。わかった。見てて。――こうやるんだよ」
依頼主はスキルを使わない見本を見せた。
こうしてコロナは【採掘】を手に入れたのだった。
もちろんこれが狙いであり、善意などは一切なかった。
ちなみに採掘して手に入れた鉱石は、収納道具にその都度依頼主が入れていた。
だから崩れた洞窟の中に置き忘れるということはなかった。
後日、もやし男に頼んで鍛冶を手伝わせて貰うことになった。
もちろんこれも善意ではない。熱意などもコロナにはありはしない。全てはスキルゲットのためだ。
彼はスキル製造マシーン故に、血も涙もない男である――かどうかはさておき、絶好の機会を逃すことなどあり得ないことだった。
「ここで鉱石を製錬する。スキル【鍛冶】を使って……ほいっ」
(ほいっ……じゃねーよ。まさか鍛冶もスキルで一発とか……何ソレキモイ)
「……その段階では手伝えるようなことはないみたいだ。スキルを持っていないし」
「あーそうかぁ。普通はスキルなんて持ってないよね。普段仕事を人に見せたりしないから、そういうことに気が向かなかったよ」
男は懇切丁寧にコロナを指導した。
それはあたかも……職業体験にやってきた中学生に気を使う指導員のごとく。
だが、この場には炉などありはしない。
そこで何を教えたかというと、それは――
ドボッドボッドボ……
鋳型に流し込む作業である。
他にすることなどなかった。できなかったのだから……。
鋳型を作るなど、これは装備を依頼された男しか望むものなど作れなかったし、お呼びでは無かった。
ならば鍛造のハンマーを……と思ったが、ここは鍛造(笑)の世界だったのだ。
――――誰が鋳造が鍛造に劣ると決めつけた?
とコロナを嘲笑うようであった。
スキルで作り出す鋳造のモノは、鍛造で作る以上のモノができてしまう。
――――ならばスキルを使って鍛造をすればいい?
コロナもそう思った。だから男にそう告げた。
すると男は――
「昔、そう主張する人がいたらしいんだよね。だけどそれはもはや武器なんかじゃなかった」
「武器じゃないなら何だ? 仮にも刃物だぞ!」
「あれは武器じゃなく玩具だよ」
曰く、それは実用とはかけ離れていた
確かにそれは鋭く、切れ味もいい。
だが、致命的な欠陥を抱えていたのだ。
それは――――魔力を通さない。
これが全てだった。
つまり【魔刃】が使えない。
【魔刃】を使えること。これこそ魔物と戦う為の武器に求められている最低限のモノなのだ。
この世界は盗賊などを除いて人同士では争わない。
戦争もないのだ。
戦争をするなら未踏破ダンジョンの攻略に力を注ぐべきなのだから。
だから国も優秀な探索者を支援する。
そして支援を受けたモノが踏破したら、その新たな領土は開拓したモノを貴族として領主に任命する。
勿論支援を受けなかったモノは独立した貴族――公王とも言えるものになるのだが……。
何はともあれ、鍛造製の武器などこの世界ではお呼びではないのだ。
そのことを聞いてコロナは日本刀の夢が絶たれた。
サーベルとか、青竜刀とかなら見かけたが、日本刀のように美しい刃を欲していたのだ。
たとえ自分が《刺突剣》で扱えないとしても……。コレクションに過ぎなくとも……。
意気消沈したコロナは言われたとおりに、流し込む作業に集中するしかなかった。
流し込んだ鋳型は男に教える。それを男はスキルで固めそして粘土製の鋳型を壊す。
それだけでできてしまうのだからスキルとは恐ろしいものである。
そしてスキルを封じ込めるという元締めはいかなる存在なのだろうか――。
コロナは恐ろしくてたまらない。
最後にスキルを使って研磨をし、余分なモノを取り除く。それで刀身が完成する。広刃の剣だ。
特に何のひねりもなく、平べったい刀身が無骨だ。
結局、スキルを使っていないのは鋳型を作るときだけだった。あとは全てスキルによる力業だ。
(これじゃ職人じゃない……スキルを使っているだけじゃないか)
コロナにしてみればそれはスキル使用人だった。
このようにしてコロナは流し込み作業を終日続けた。
その日の仕事を終えた男は、コロナに一つの提案をした。
「鉱石が余ったから何か作ってみたらどうかな?」
これはコロナに鋳型を作ってみたらどうか、ということだった。そのことを仄めかしている。
当然ハンマーで打つことを意味していない。
そもそも男が精錬し、溶かした鉱石を流し込むという作業をするだけなのだ。何かを作ると表現したくない。
だがコロナは考え直した。
(気分転換になるかな)
そう思い、提案された様に鋳型を作ることにした。
(せっかく作るなら、何か面白いものを作るべきだな)
コロナは作るものを決め、まずは木を削る。
そしてできたモノを粘土に押し当て形を作る。
この段階では【鍛冶】は役に立たない。
ここでは生活魔法に類する【エクセプト(水)】を使い乾燥させる。
聞く話によるとこの魔法はver5で脱水、ver9で乾燥。そのことから鍛冶職は【鍛冶】・【エクセプト(水)】ともにver9以上が望ましいのだろう。
【採掘】は資金源のない者のみが、上げる形になると予想できる。
あとは【美的感】が個人的に重要だとコロナは思う。
――格好いい武器はロマンなのだから………。
乾燥した鋳型――粘土型を丁寧に分ける。そして木型を除き、金属の液体の通り道を掘る。
それを重ね合わせ、外れないように固定をして流し込む。
ここまでがコロナの作業だ。
後はもやし男の作業となる。しかし――
「待った」
「ん? どうしたんだい?」
「どうせなら俺の手で残りは全てをやり遂げたい。溶かすのは流石に無理だが……、固まらせるのは問題なくできるだろう?」
「それじゃ……時間が掛かりすぎるよ」
「それでも――頼む」
コロナは下げたくもない頭を下げた。
これもすべては【鍛冶】を得るためだ。ここで台無しにされてはたまったものではない。
「――わかったよ……。それじゃ僕は休憩してるね」
そう言って男は鍛冶場から出て行った。
(作戦通り)
コロナは頭を下げたことが上手くいったとばかりに、口をにやりとつり上げたのだった。
コロナが作ろうとしているモノは、小型の鋳物――クナイ。
早く冷めて固まりそうなものを敢えて選んだのだ。
もちろん一つだけというのは勿体ない。だから一度に4つほどできるように型を作った。
やがて充分固まったかと思うと、コロナは型を壊し【クリエイト(水)】で水を生み出し冷却する。
【鍛冶】の場合は水を掛ける必要はない。そのため劣化しないらしいが、コロナは持っていないので仕方がない。
やがて戻ってきたもやし男が、
『脆くなっただのこれじゃ売り物にならない』『あぁ~~もったいない……』
――などと男が横でうるさい。しかしコロナは全て無視した。
やってしまえばこちらのものなのである。
そして出てきたクナイらしきものを手に取り、余計なものを削り取るべく表面を磨いた。
すると【鍛冶】を取得したと自己能力が告げているではないか。
いい加減な作業だったが、これでもいいらしい。
狙い通りスキルを得たコロナは、ここで男の方へと振り返りクナイを見せた。
「これじゃ売り物にはならないよ~もったいないなぁ」
男はやはり売り物にはならないと嘆く。
これはコロナにお土産感覚で『作ったら?』と勧めたわけではない。
――アイディアの盗作。その可能性が非常に高い。それをコロナは気付く。
自分にはない発想を期待し、あわよくばソレを売る――そんなことを考えていたのだろう。
だが、コロナが最後に水を掛けてしまったことにより、1本以外は壊れてしまった。
当然コロナが見せたのはそれ以外のもの……壊れた物だ。
何も最初からコロナは失敗作を見せるつもりだったわけではない。
お土産として気持ちよく持って帰れるなら、アイディアをパクられようが構わなかった。
――――だが、それすらできないそうにない。
ならば誤魔化し、現物を手に入れる。かつそれがどういうモノなのかも教える筋合いがない。
確かに【鍛冶】取得の手助けをして貰った。だからといってそれとこれは話が別だ。
棚上げに近いものがあるが、あくまでこれは場所を借りたに過ぎない。
コロナはそう思い、決断した。
そもそもコロナはこの状況を作り出すにあたって、昨日ギルドから渡された報酬を男に返却していた。
意外にがめつい男だと、コロナはこのときから感じていた。だから男に対して、あまり良い感情はもっていなかった。
依頼としてギルドに通しても良かった。でも縁があったのでこの男に頼むことにしたのだが……。失敗だったと言わざるを得ない。
(やはり縁故採用はよくないな)
縁故採用それは――
例外もあるが縁を重視して、能力に関与していない。その時点で、あまり期待してはいけない。これが前提なのだ。
「あ~ぁ、これじゃゴミだなぁ。残念だけど捨てるしかないな」
「溶かして、再利用すればいいんじゃないか?」
コロナはそう勧める。しかし、
「スキルで作ってないから、もう無理なんだよ。だからスキルを取得する前は赤字覚悟なんだよね」
「そういうものか?」
「そういうものなんだよ。あぁ~ぁ、だから僕がスキルで完成させようとしたのになぁ……」
男はまだブツクサと呟いている。コロナはそんな男にもう付き合っている気になれなくなっていた。
「それじゃ……ゴミなら貰ってもいいか?」
「うん? あぁ、いいよ。ゴミだし、ギルドに通す必要もないしね」
「ん? 作ったのが俺なのにギルドに通す必要あるのか?」
「だってそれは、僕が手に入れた鉱石だよ? それの販売手続きが必要になるじゃないか」
確かにそのようなことを聞いた覚えがある。全て自分で用意しないと面倒臭いことこの上ない。
「でもゴミだから、そんな必要もないわけさ。それよりそんなの持ち帰ってどうするつもり?
「ああ、記念に……と思ってな。今日は楽しめたし、想い出の品ってやつさ」
「ふぅ~ん。そういうものかね……。別に問題ないから良いよ」
「ありがとう。今日は良い経験になった」
「うん、どういたしまして。それじゃ気を付けて帰ってね」
言質を取ったコロナは、無事な1本を含め全てを収納道具にいれた。
そして軽くなった足取りで意気揚々と帰るのだった。




