58.バカは高いところがお好き?
あの暴露のあと、笑いと共に「それじゃ……せっかくだから」言ってデートのような演出をしてくれた。
少女達のその目は、しょうがないなぁもうと言わんばかりではあった。
しかしそれも今は昔のこと。
コロナは穴があったら入りたい気分だった。
そのため少女と別れた後、穴ならぬダンジョンに潜っていった。
その成果によって、ついにギルド貢献ポイントの返済を終え……ついに0が動き出したのだ。
(あと一度、ダンジョンに籠もれば階級アップするな……)
だが、コロナはふと冷静になって考えてみた。
次の階級は確か――
――【ニート】
そうニートなのである。
いかにこの世界では意味が違うとはいえ、ニートになってしまうのである。
それは考え物だ。
なりたくないものはなりたくない。
コロナはそう考え、階級アップせずに一段飛ばしで【ダウト】になろうと決意した。
武器・防具の整備を買った店に頼み、預けると、その日は特に何かをするということもなく、掃除をしてみた。
それが終わると暇になり、風呂に入りながら今の自分を振り返ってみた。
今の自分――
探索者。
天職はあれ以来増えていない。パラメータが変動することでバージョンアップするという話だが……そのような兆候は現れていない。
【???】のverは最初の未踏破ダンジョン・アタック以来あがっていない。
またもう一つの【???】が覚醒するだけのスキル数にもなっていない。
さらにver9.9の進化方法がみつからない。
スキルも増えていない。《ポコポーン》と戯れていたときには、スキルを手に入れたというのに。
スキル【手加減】と【浸透】
――これは《ポコポーン》の内臓破裂させてしまったときに覚えたスキルだ。
だが、今回のダンジョン・アタックでは一切増えなかった。
【好奇心旺盛】が働いていないということは考えられない。
なら他に原因があるのだろう。
それらとは関係ないが、レイリア達が広めたのか、プリンを作ってくれと女性に言われるようになった。
その事はとても嬉しいことだが……
(この世界の女性は、どれだけプリンが好きなんだよ)
コロナはプリンでナンパができるんじゃないかと思ったほどだ。
だが、それもしない。
レイニーやレイリアで目が肥えてしまった為か、その女性たちを魅力的に思えなくなってからだ。
そもそもその事は蛇足であり、今一番重要だと思うことは他にある。
それは――【???】の目覚めだ! それとver9を進化させるためにスキル数を増やすこととだろう。
今回何故スキルが増えなかったのか……も、考えなければいけないことだ。
では何故増えなかったか……おそらくは同じような行動しか取っていないことが原因だろう。
ただ潜って、気配を感じ避けて倒すの繰り返しに過ぎない。
脳内で完成しているマッピングを辿っているだけ。これをするようになったらもう一つの【???】ver9.7もあがらなくなっている。
これはマッピングすることによって成長すると考えてもいいだろう。
今あるスキルを成長させるためなら現状の行動でもいいだろう。
だが、ある程度蓄えもできた。ならば他の行動をして、スキル数を増やすことも視野に入れてもいいのではないか?
この前の臨時パーティのときも、普段とは変わった行動を取ったことでスキルを手に入れたように思える。
――余談だが、レイリア達に固定パーティの意味もあのとき教えて貰っている。
コロナは普段から【好奇心旺盛】で、自分より強そうな人を観察している。
取得の為の素養がない――というのは考えられない。
ならば……と、コロナは普段やったこともない事をすることに決めた。
まずは――
いろんな魔獣の料理を食べてみようと思う。
それは捕食能力を手に入れるためだ。
食べる事で相手の能力を身につける素晴らしいチート能力。
コロナはそれに憧れるししびれると素直に思う。
楽して力を手に入れることこそ『マイジャスティス』と言わんばかりだ。
だが、冷静に考えてみたところ、コロナが見てきたような者達はそこまでチートな存在だろうか?
――当然そういう存在などいない。いたとしても見たことはない。
つまり捕食能力など手に入れることなどできないのだ。
美食をしたいという欲求だけだった。
むしろ捕食能力の入手など、言い訳だったのだ。
理論武装――実に良い言葉だとコロナは思っている。
また、【美的感】が上がったことで、無駄にはならなかったのだから――。
(美味い、実に美味い。ディ・モールト グラッツェだ!)
コロナは食事を堪能した。
やはり、本職の人が作る食事は美味しい。
いかに【料理】が高いとはいえ、所詮素人。スキルの高い本職に勝てるわけもないのだ。
1夜にしてグラインコート並の出費――今回の稼ぎの大半――をしてしまったが後悔はしていない。
ちなみにギルド系列の高級レストランではあったが、高いかどうかは正直気にしていない。
それだけ美味しかったのだから、野暮というものだろう。
富めるものは、奉仕すべきだろう。金は巡らせるためにある。
精神的な余裕を持つと、このように些細なことは気にしなくなる。
それはいいことなのかはわからない。しかし、お金で買えるものなのだから利用しない手はない。
昨日は失敗したと深く反省をするコロナ。
――彼は失敗を糧にする男なのだ!
ただし、必ずしも身に付くという訳ではないのだが……。
次にコロナは違う武器を使ってみようと思った。
買うわけではない。素振りをするだけだ!
スキルが手には入ったら儲けもの、という考えだった。
サブウェッポンも使えるに越したことはない。たが、メインはスキル取得。
彼は預けていた装備を受け取り、身につける。
それを終えると、店員の男に注文をした。
「いろんな種類の武器も見てみたい」
「どのような種類ですか?」
「色々だ……兎に角色々だ。全部持ってきても良いぞ?」
「――全部は流石に多いですので……。
そうですね。適当に見繕ってきます」
それから少しずつ、店員の男は武器を運んで来た。
一つ運んで来るなり、それを取り、素振りをする。
軽い素振り……といっても、それぞれ2分ずつ。それを幾度と繰り替えした。
その成果がこれだ。
【斧の心得】【鞭の心得】【槍の心得】【鎌の心得】【剣の心得】
これらを身につけることに成功をする。
実に効率的だ。店にとっては迷惑この上ないだろうが、そんなことはコロナに関係ない。
これらは使う予定がない。
スキルも増えてきてわかり難くなってきている。そこで自己能力の表示画面を弄ることにした。
『使わない』という項目を作りだし、そこに移す。
また、これら以外にも【両手持ち】【二刀流】という使えそうなものも習得できた。
これらは――
【両手持ち】
両手で武器を使うと威力があがる。
【二刀流】
左右それぞれ利き手じゃない方も上手く扱えるようになる。
といったスキルであり、スキル強度もない。ただ所持しているだけで効果があるという優秀なものだった。
結局サブウェッポンにするほどしっくりくるものはなかった。
後日、他の武器のスキルとそれを見繕う時間が必要だと感じた。
もちろんスキルを入手することがメインだが……。
(しばらくここには、お世話になろう。客が入ってるだけでもサクラになるしな。うん)
そう、心の中で言い訳をする。
買う気などなかったのだが、買わないぞという雰囲気を出して店に入り浸るのも悪い。
「また来るぞ」
そう言って、店を後にした。
しかし今回分かったことがある。いや確信したことというべきだろう。
やはり素養があるスキルは簡単に習得できるということだ。
先ほど、それなりに真面目に素振りはした。しかし、ロナルドとの訓練ほど真面目にはやっていない。
苦労して手に入れた【刺突剣の心得】――今は【刺突剣の極意】だが――と同等に値する【武器の心得】が、こうもあっさりと手に入れられたことからもわかる。
【好奇心旺盛】で手に入れた素養はまだあるはずだ。
しかしながら、どのような素養があるのかは一切わからない。
これは普段とは違うことを是非ともせねばなるまいと、コロナは思う。
(まずは戦闘以外の依頼から見てみるべきだな)
そしてコロナはギルドへと向かうことにした。
ギルドの雰囲気はコロナが来たところで、もはや変わるものではなくなっていた。
受付嬢の態度も次第に軟化していたからだ。
悪意を持って貶めたということではない――という意見が主流になったためだ。
もちろん、プリンをお裾分け――賄賂ともいう――したということも理由の一つだろう。
いや、それが全ての様な気もするが、コロナの精神的安定のため、一つだと考えている。
そのためコロナが持っていた《ポコポーン》の卵の在庫は0に近かった。
その際に作り出した生クリームを使ったプリンは、レイリア・カメリア・カミナ・ナンシーを再び感動の渦に巻き込んだのだが、今は関係ない。
その結果、コロナが来たからといってギスギスするようなことはなくなっていた――1人の受付嬢を除いて。
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D-4ーサル(探索者限定)
・魔獣○○の素材○○の収集
・魔獣××の素材××の収集
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・□□山への採掘護衛
・△△△の採取
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コロナはざっと依頼を見回した。
随分と量が多いが、魔獣のはぎ取り素材や、特産品以外の素材の採取ばかりであった。
ちなみに討伐系は傭兵が主だ。
報酬については興味がないので見なかったが、特に問題はないだろうとコロナは思っている。
(金は未踏破ダンジョンで稼げばいいしな)
じっくりと、依頼板を眺めていると二つのものに注目していた。
採取依頼と鉱山採掘護衛だ。どちらにするか決めかねた。
結局の何だところ、時間はあるのだ。
(順番で両方やればいいじゃないか)
ということで落ち着いた。
まずは、締め切りまでの期限がある護衛依頼を受付嬢に手続きして貰う。
その依頼は決行日まで時間ある。そのため先に、採取の依頼をこなすことにした。
普段とは違う環境で、気配を探るのは少々困難だ。
けど、これではやっていることは普段と大差がない。
その森――採取依頼で入ることになった森の木々、はツタで覆われていた。
(ならばやることは一つだ)
コロナはそう思い、真っ先に木登りを始めた。
特に何か理由があってしたことではない。童心に戻ったということでもない。
普段やらないことが重要だったからだ。
登り終えた後、コロナは少し緊張をしていた。
高いところから飛び降りることは、勇気が要ることなのだから。
いくら蔦をしっかり掴んでいても怖いものは怖い。
まるでバンジージャンプをするかのようにコロナは感じた。
やったことはないが、似たようなものだろう……と思う。
確かにあれと比べるのは烏滸がましいとかもしれない。しかし、バンジーには命綱がある。
命綱などないのだから必ずしも劣化バンジーなどではない。
方向性が違うのだ。
飛び降りるまでにしばし時間を有した。
彼は少し前まで【チキン】だったのだから、それは仕方がないことなのだ。
この場において元の階級がどうのこうのというのは関係ない。
しかし、こうして躊躇している時点でチキンハートなのは間違いない。
やがて彼は決心し、ついには木の枝から飛び立つ。
童心に帰ることでその恐怖に打ち勝ったコロナは、思わずターザンの如く片手を口の横に立て叫ぶ。
怖かったのに片手を離すなど、どういうことだと問われるかもしれない。
だが、童心の前にそのようなものは関係ないのだ。
現実逃避なのだからだ。
「ア~アア~~~~~(ぷちっ)あ、あぁあああああっ!!」
その声は途中から悲鳴へと変わった。
無残にも途中で蔦は切れ、コロナは地面へと落下する。
幸いと言っていいことかは分からないが、【衝撃耐性】のおかげで対した痛みもない。
それと片手を離したことが落下した原因ではない。それは精神的に救いがあったことだろう。
それでも恥ずかしい気持ちがあるのは変わりない。
コロナは思わず周囲を見回してしまう。これは恥ずかしいことをしてしまった者特有の動作だろう。
そして誰にも見られなかったから安心する。
これは――――ある種の自己満足ともいえることだ。
事実はなくならない。世界という観測者は常に全てのモノを見ているのだから。
コロナは『綱渡り』もしくは『空中動作』のようなスキル獲得を狙っていた。
しかしそれは叶わなかった。今回取得できたのは、落ちただけに【落下耐性】というオチだった。
恥ずかしさと、ままならなさにコロナは当たり散らした。
切れた蔦を手に取り木に打ち付けた。すでに【鞭の心得】はある。そういう狙いではないのだ。
――ただの八つ当たり。
コロナの怒りは止まることをしらない。しかし、蔦の鞭は木に絡まってしまう。
――コロナを馬鹿にするように。
その時【捕縛】を手に入れたが、この日はこれで終わってしまった。




